短編
「つかさくん……付き合って下さい!!」
その日、私は隣のクラスのつかさくんに告白をした。
だってすごくカッコよくて運動神経も頭も良いし……前から気になってたの。
「……いいよ」
「ホント!?」
返事はまさかのOK。
ダメ元だったが、思いきって言ってみるものだ。
憧れのイケメン彼氏ゲットに、私の心は浮き立った。
「ただし」
「?」
「この先、何があってもずっと俺のことを好きでいれられるか?」
「もちろんだよ!!」
こんなカッコいい彼氏を嫌いになるわけない。
そう思って私は即答した。
つかさくんの質問に、一切疑問を抱くことなく。
「……そっか。それならよかった」
そう言って、笑ったつかさくんの顔はとても綺麗だった。
それから私とつかさくんとは恋人同士になった。
つかさくんはカッコ良くて優しくて気前が良くて……付き合ってて文句の言いようがなかった。
色んな人から羨ましがられた。
みんなからの羨望の眼差しと声が、とても気持ちよくて毎日が気分良かった。
………ただ。
一つだけ、変な噂を聞いたことがあった。
それは、つかさくんと付き合った人は全員行方不明になっているという噂。
友達から聞いた話だが、私は特に何とも思わなかった。
こんな優しい人が何かをするとは思えないし、どうせつかさくんを妬んだ誰かが意地悪で流した噂だろう。
とにかく今が幸せな私にとっては、そんな噂はどうでも良かった。
***
その一週間後。
「あっ」
私はたまたま中庭を歩いているつかさくんらしき後ろ姿を見つけて、近くに駆け寄った。
「つーかさくんっ。!?」
つかさくんの名前を呼びながら前に回った瞬間、私は目を大きくして固まった。
何故なら……彼の顔が包帯で覆い尽くされていたからだ。
昨日までは何もなかったのに。
「ど……どうしたの?それ……」
私が震える声で尋ねると、彼は静かに答えた。
彼は生まれつき肌が弱いらしく、朝と夜の二回顔や体に薬を塗るらしい。
だから昨夜もいつもどおり医者からもらった薬を塗ったのだが、どうやら医者が誤って違う薬を渡してしまったらしく、悲惨なことになってしまったらしい。
つまりは、この包帯の下にはとても公には出来ないくらい薬で爛れた顔があるってことだ。
「そ、そうだったんだ…」
「……俺のことが好きじゃなくなったか?」
「そ、そんなことはないよ!あはは……じゃ、私これから授業あるから!!」
首から上がミイラみたいになったつかさくんがなんだか不気味で。
包帯の隙間から覗く目になんだかゾッとして、私は思わず走り去って行った。
それからだった。
周りからの自分達を見る目が変わったのは。
以前の羨ましがる言葉はなく、ただ可哀想とかの哀れみの言葉だけがあり
彼と一緒に歩くと周りから以前とは違う注目をされ、私は恥ずかしかった。
次第に彼と会う時間はなくなっていった…。
***
そんなある日。
「おい」
「?」
廊下を歩いていると突然声をかけられ、後ろを振り向く。
すると、そこには同じクラスのれいやくんがいた。
「これ忘れてたぞ」
そう言って、れいやくんはプリント渡してくれた。
「あ、ありがとう」
「次から気をつけろ」
さらっとした感じにそれだけ言って、れいやくんは去って行った。
単に忘れ物を届けに来ただけとはわかっていたが、それでもあのクールで一匹狼なれいやくんに声をかけられるなんて正直驚いた。
驚いたし、れいやくんを初めて近くで見た。
つかさくんとは系統が違えど、れいやくんもかなり整った顔立ちをしていた。
(……カッコいい……)
私はぼんやりとれいやくんの後ろ姿を見続けた。
それかられいやくんは、何かと私に声をかけてきた。
れいやくんはつかさくんと違ってあまり笑わないし冷たい感じはしたが、さりげなく優しいところもあった。
いつの間にか、私はつかさくんと一緒にいる時間よりれいやくんと一緒にいる時間が多くなっていた……。
そんなある日。
「なぁ……」
「?」
放課後。
私とれいやくんは教室で話をしていた。
「お前……つかさと付き合ってるらしいな」
れいやくんの言葉を聞いて、私はギクッとした。
「あ……うん。そうだよ」
私は気まずそうに笑いながら返事をした。
「じゃあ俺と一緒にいたらまずいんじゃないか?」
「え……」
「お前はつかさの彼女だろ?それなら俺よりつかさの側にいないといけないだろ」
れいやくんの言葉に私は言葉を詰まらせた。
確かに、本来私はつかさくんの側にいないといけない……。
わかっている。
わかっているけど……、でも……正直言って今はつかさくんといるよりれいやくんといる方が楽しい……。
(どうしよう……)
そう悩んでいると。
「……もし」
「?」
れいやくんの声に反応して、私は顔を上げる。
すると、
「もしお前がつかさと別れるつもりなら……俺と付き合ってくれないか?」
「え……!?」
突然の告白に私は目を大きくした。
「返事はいつでもいい……。待ってる」
一方的にそれだけ言うと、れいやくんは席を立ち上がって教室を出ていった。
私は教室で呆然としていた……。
***
次の日の放課後。
「久しぶりだな。話ってなんだ?」
私はつかさくんを屋上に呼び出した。
つかさくんの顔には、相変わらず包帯が巻かれていた。
「あ、あのね……つかさくん……」
「?」
今から何を言われるのか知らずに微笑んで私を見るつかさくん。
私は少し良心が痛んだが、思い切って言った。
「私と……別れて下さい」
その場に沈黙が流れる。
私はとてもじゃないけどつかさくんの顔を見れなかった。
すると、
「そうか……」
頭上から彼の残念そうな声。
私はゆっくりと顔を上げる。
その時のつかさくんの顔は……まるで軽蔑するような、哀れむような笑顔だった。
「まぁ仕方ないな…俺もこんな状態だし、この顔じゃ好きになれないよな」
「………」
「結構長く続きそうかと思ったが…案外短かったな………お前と過ごした時間楽しかったよ…」
そう言ってつかさくんは私の横を通り過ぎようとする。
その瞬間。
「じゃあな」
ドスッ
「え……」
お腹に熱い感触がし、それが激痛に変わる。
私はその場にドサッと倒れ込んだ。
(な……に……?)
状況が理解出来ず私は顔を上げる。
その時、はらりと目の前に長い長い包帯が落ちていく。
そして、
「!!?」
自分の目を疑う。
そう、何故なら、
包帯を外したつかさくんの顔には……傷一つもなかった。
「う……そ……」
つかさくんは悲しそうに私を見下す。
「やっぱりお前も……他の女と一緒だったんだな……」
「え……」
「俺はな、外見だけじゃなくて本当に俺自身を想って欲しかったんだ……。例え外見が変わっても俺のこと好きだって……」
「つか……さ、く……」
「だけど……、お前は結局……」
つかさくんはうつ向く。
そして、再び顔を上げて私を見ると、
「………もうお前に話すことはない」
今までに聞いたことのない冷たい声で、彼はそう言い放ってきた。
彼の手にある血塗れのナイフが、勢いよく迫り来る。
私は咄嗟に彼に許してもらおうと弁解を口にしようとする。
だが、声が出る前に、私の視界は真っ赤に染まった……。
辺りに血の臭いが漂う。
早くこれを片付けないと、と……つかさは恋人だった肉塊を見下ろして思う。
そんなつかさの背後に一つの影が近づく。
「つかさ」
「……れいやか」
後ろから聞こえた声に、つかさは振り向かずに応じる。
「悪いな。いつも協力してもらって」
「それは別にいいが……お前、これからもこれを続ける気か?」
「当たり前だ」
即答してきたつかさに、れいやは若干呆れたような目つきをする。
だけど、咎めるつもりなんて更々なく、れいやは踵を返すと、
「………そうか。いつか手に入るといいな。『真実の愛』」
それだけ言って、れいやはその場を去って行った。
つかさが『真実の愛』を手に入れるまで、あと何人の女が犠牲になるのだろう。
他人事のように、そう思いながら……。
おわり