怪し火
人間と妖怪。
二つの種族が棲むこの世には、善と悪がある。
だかしかし、それは善が人間。悪が妖怪とは限らない。
悪意を持つ人間もいれば、善意を持つ妖怪もいる。
式神をを使い、占いや妖魔祓いとして活躍する陰陽師。
そして妖魔を従え人を呪い時には災厄を起こす妖魔使い。
現世はこの二つの大きな勢力により、混沌の日々を繰り返していた。
妖孤として生を受けた七瀬陸は、現世に降り立った瞬間、重く苦しい物に押し潰されそうな感覚に陥りながらも、心は晴れやかだった。
ついに現世に来た。
何も言わず自分の側から消えた最愛の兄、天の行方を探す為、現世に降り立ったのだが。
「やっぱり、ちょっと苦しいや・・・。」
長い時間、魔界で過ごしてきた。
陸に物心が付いてから暫く経った頃に家族皆で魔界へと移り住んだ。
その時は寂しさでいっぱいだった。
近くに住んでいた紺色の髪をした面倒見の良い男の子やオレンジ色の髪の毛の元気な男の子。可愛いくてふわふわとした女の子には恋心のような気持ちを抱いていた。その子達とはもう遊ぶことが出来ない。そう思うと寂しくて、離れたくなくて、現世にいたい!と泣いて両親を困らせたりもしたが、願いは叶わず。
それからずっと魔界で暮らしてきたせいで、現世の空気がまだ体に馴染まないのだ。
息苦しく、足が重い。
「でも、でもこれでやっと天にぃを探せる!絶対に探し出して、どうして急に居なくなったのか、理由が聞きたい!それに・・・、帰って来て欲しい・・・。また皆で一緒に過ごしたいよ・・・。天にぃ」
そんな独り言を呟きながら、行く宛も無く歩いていたせいか、自分がどのあたりに降りたのか、どこまで歩いたのか・・・そして何処に向かっているのか・・・。
もはや見当もつかないほど、周りは森ばかり。
見渡しても暗闇が森を包み、何処からか聞こえてくる梟の鳴き声や虫の羽音。それらが不気味に響き渡り、陸の行く先を阻むようだった。
つまり、迷子だ。
「あ、あれっ・・・?えっとぉー。」
たしか、父親には現世に降りたらまず北へ進めと言われた。そうすれば麓の小さな集落に着くと。
そこで小鳥遊さんという男性を探せと言われたのだが・・・。
今現在、全くもってどちらが北でどちらが南なのか皆目見当もつかない。
いや、ぼーっとしていた自分が悪いのだが、そもそも北とか言われてもどっちだし!と半ば逆ギレをしながらも歩き続けるが、集落に着きそうも無く。
「お腹すいたし・・・。」
寒くもなってきた。眠いし、疲れたし・・・
「困ったなぁ・・・。天にぃ見つける所か、このままじゃ俺が餓死しちゃうよ・・・。」
寂しさと、心細さ、そして寒さとお腹の減りも相まって、目にじわりと暖かいものが出てくる。
こんなんじゃ天にぃに怒られちゃうな。
もぅ、陸はすぐに泣くんだから。と、優しく涙を拭ってくれる双子の兄はもういない。
もしかしたら、こんな弱い自分が嫌になって、邪魔になって、兄は自分の前から消えてしまったんじゃないか・・・。
そんな暗い方向へと思考が傾いていたせいか、何かの気配が近付いていた事に、気付くのが遅れた。
パキッ
自分の後ろで枝を踏みしめられる音を聞いた時には、既に体は動くことが出来なかった。
「無闇に動こうとしないで下さい。」
青年とまでは行かない、でも、少年というにはとても落ち着いた、凛とした声が響いた。
その瞬間、体がピリッと痺れたようになり、言うことを効いてくれない状態になった。
この感覚は記憶に残っている。
子供の頃に、何度も体験したことがある痛みだ。
あぁ、母親にも、人間には十分気を付けるようにと言われていたのに。
どうしようか。どうすれば抜け出せるのか。
慌てる陸とは逆に、青年は少しも同様したりしない、落ち着いた声で問いかけてくる。
「急にとんでもなく大きな妖気が現れたので何事かと思い、確認のつもりで来てみましたがやはり兄さんでなく私が来て正解でしたね。兄さんの霊力ではこの怪(あやかし)の妖気は強すぎて捕獲すら出来なかったかもしれません。
あなた、そんな莫大な妖力を抑えもせずにうちの敷地内をウロウロして、一体どういうつもりですか。」
敷地内??莫大な妖力??
あぁ、現世に降り立ったばかりで体が慣れてないから、妖力を制御しきれてなかったんだ・・・
でも、あなたに危害を加えるつもりは無いのだと、分かって貰わないと!
「まぁ、とりあえずその妖力でこの辺りをうろつかれては困ります。面倒ですが、和泉神社まで着いてきて貰うしか無さそうですね。」
「・・・えっ?!和泉神社?!ダメだよ!俺、小鳥遊さんって言う人に会わなきゃいけないんだ!お願い!危害を加えるつもりは無いんだ!術を解いて!」
「・・・っ?!あなた?!その状態で話せるんですか?!」
綺麗で落ち着いていた声の主が、今までとは一転して動揺した声で質問する。
その声の主が見たくて、なんとか首を回そうとするのだが、ピリピリと痺れるだけで体は動かせそうにない。
「え?うん、えーっと、俺、他の妖怪よりも妖力が少し強いみたいなんだ、だから、体は動かせないけど、声は出せるよ!」
そんなまさか。
まだ陰陽師としての技量は一人前とまでは行かなくとも、昔から続く陰陽師の血筋であり、由緒ある和泉一族の中でも希に見る霊力と才能だと言われていた自分の術が。普通の妖怪なら、喋る所か呼吸すらままならない状態になる筈なのに、この怪は一体何者なんだ。
小鳥遊さんに会いにと言っていたが、どんな用事で。
ただ、単純に興味が沸いた。
後ろから術で封じ込めていたままだった怪を前から見てみようと回り込んだ瞬間、息を飲んだ。
こちらを見る、困ったような顔に、透き通るような、ビー玉のような
「・・・なっ、ななせ、さん・・・?」
「え?なんで俺の名前知って・・・
まさか、・・・一織??」
まるで自分の術にかかったんじゃないかと思うほど、一織は体を動かすことが出来なかった。
あの日から、焦がれて、いつか、いつかまた会いたいと願っていた、彼が。
ここに、目の前にいるのだ。
子供の頃、和泉神社の近くに住んでいた赤い髪の妖怪の男の子、いつも双子の兄と一緒で、あの頃はあまり体調が良くなかったらしく、たまにしか一緒に遊ぶことが出来なかったけど、くるくる変わる表情に、純粋な瞳、人を惹き付けるような笑顔で、いおり!いおり!と、懐いてくれていた。それが嬉しくて、甲斐甲斐しく面倒を見ていた。
その度に兄の方が凄い形相で自分を見ていたが、その時は弟の体調が心配なのかなぁと、それくらいに思っていたが、今思えばあれは嫉妬だ。
弟を取られまいと、必死に囲っていた。
そんな彼らが、ある日、急にいなくなってしまった。家を訪ねても、そこには最初から誰も住んで居なかったかのように、ガラリと空虚な空間が広がっていた。
最初は信じられなくて、悲しさよりも、怒りが先だった。
なぜ何も言わないまま行ってしまったのか。
一言くらい言ってくれても良かったんじゃないか。
友達と思っていたのは自分だけだったのか。
怒りが過ぎると、次は寂しさだった。
あんなに懐いてくれていたのに、どうして急に居なくなってしまったのか、会いたい。でも、会えない。
そんな毎日を過ごす中で、陰陽師としての修行を積み重ね、世の中の事を見るようになって、やっと、彼らが消えた理由を知ったのだ。
その頃は、妖魔使いが活発に活動しており、希少な怪や子供の怪、妖力の強い怪までもが無理やり従属させられてしまったり、妖怪だからという理由だけで、祓い殺されてしまったりと、妖怪狩りのような事が横行していた。
七瀬一家は、それから逃れるために、消えたのだ。
それを知ってからは、とにかく一織は修行に励んだ。
いつかまた、会えた時、自分が守ってあげられるように。
自分は陰陽師として、力を付けたから、ここにいて守ってあげるから、またここに戻っておいでと、言えるように。
それを夢見て、日々、陰陽師としてのスキルを磨いていたのだ。
そんな、思いを馳せていた彼が、今、目の前にいる。
「一織?!一織なの?!うわー!久しぶりだなぁ!俺、びっくりしたよ!元気だった?三月は?!今も三月と一緒?!」
「な、なせさん、何故、あなたがここに居るんですか?戻って来たのですか・・・?」
「うん!俺、現世に戻ってきたんだ!ていうか、いおりー、術解いてよー!痛いよ!」
「あ、あぁ、すみません。今解きます。」
現実に頭がついていけない。
本当に、あの陸がここにいるのか?
都合のいい夢を見ているんじゃないか・・・。
でも、コロコロと変わる表情、純粋な瞳。
間違いなく、ずっと会いたかった彼だ。
「あー痛かった!ねぇ、三月は何処にいるの??」
「兄さんはこの先にある和泉神社にいます。七瀬さん、戻ってきたって、もしかして、今さっき現世に戻ってきたんですか?」
「うん!そうだよ。森の麓にある集落で、小鳥遊さんっていう人に会いに行きたかったんだけど、道に迷っちゃって!」
「迷っちゃってじゃありませんよ!あんな莫大な妖力でうろついて、見つけたのが私だったから良かったものの、妖魔使いだったらどうするつもりだったんですか!?」
「現世に戻ってきたばっかりだったから、妖力の制御がしずらくて・・・」
「はぁ。まあ、小鳥遊さんの件も詳しく聞きますから、とりあえず和泉神社に向かいましょう。」
「本当?!ありがとう!一織!」
ん"んっ!かわいい人、いや、かわいい妖怪?
「三月、元気かなぁー!早く会いたいなぁ!」
「心配しなくとも、あなたを封じ込める為の結界を作って待ってますよ。」
「えぇ?!おれ、閉じ込められるの?!」
「まさかあの莫大な妖力があなただとは思わなかったんですよ!私たちはてっきりタチの悪い妖怪か何かが現れたのかと・・・」
「そっかぁ、何かごめんね!」
「まぁいいです。とにかく、まずは兄さんの所に帰りましょう。」
最後に会ってから、もう十何年も会っていないのについ昨日まで一緒にいたような感覚に驚きながらも、この心の中に眠っていた、かつての暖かさを思い出して、一織は少し微笑んだ。
二つの種族が棲むこの世には、善と悪がある。
だかしかし、それは善が人間。悪が妖怪とは限らない。
悪意を持つ人間もいれば、善意を持つ妖怪もいる。
式神をを使い、占いや妖魔祓いとして活躍する陰陽師。
そして妖魔を従え人を呪い時には災厄を起こす妖魔使い。
現世はこの二つの大きな勢力により、混沌の日々を繰り返していた。
妖孤として生を受けた七瀬陸は、現世に降り立った瞬間、重く苦しい物に押し潰されそうな感覚に陥りながらも、心は晴れやかだった。
ついに現世に来た。
何も言わず自分の側から消えた最愛の兄、天の行方を探す為、現世に降り立ったのだが。
「やっぱり、ちょっと苦しいや・・・。」
長い時間、魔界で過ごしてきた。
陸に物心が付いてから暫く経った頃に家族皆で魔界へと移り住んだ。
その時は寂しさでいっぱいだった。
近くに住んでいた紺色の髪をした面倒見の良い男の子やオレンジ色の髪の毛の元気な男の子。可愛いくてふわふわとした女の子には恋心のような気持ちを抱いていた。その子達とはもう遊ぶことが出来ない。そう思うと寂しくて、離れたくなくて、現世にいたい!と泣いて両親を困らせたりもしたが、願いは叶わず。
それからずっと魔界で暮らしてきたせいで、現世の空気がまだ体に馴染まないのだ。
息苦しく、足が重い。
「でも、でもこれでやっと天にぃを探せる!絶対に探し出して、どうして急に居なくなったのか、理由が聞きたい!それに・・・、帰って来て欲しい・・・。また皆で一緒に過ごしたいよ・・・。天にぃ」
そんな独り言を呟きながら、行く宛も無く歩いていたせいか、自分がどのあたりに降りたのか、どこまで歩いたのか・・・そして何処に向かっているのか・・・。
もはや見当もつかないほど、周りは森ばかり。
見渡しても暗闇が森を包み、何処からか聞こえてくる梟の鳴き声や虫の羽音。それらが不気味に響き渡り、陸の行く先を阻むようだった。
つまり、迷子だ。
「あ、あれっ・・・?えっとぉー。」
たしか、父親には現世に降りたらまず北へ進めと言われた。そうすれば麓の小さな集落に着くと。
そこで小鳥遊さんという男性を探せと言われたのだが・・・。
今現在、全くもってどちらが北でどちらが南なのか皆目見当もつかない。
いや、ぼーっとしていた自分が悪いのだが、そもそも北とか言われてもどっちだし!と半ば逆ギレをしながらも歩き続けるが、集落に着きそうも無く。
「お腹すいたし・・・。」
寒くもなってきた。眠いし、疲れたし・・・
「困ったなぁ・・・。天にぃ見つける所か、このままじゃ俺が餓死しちゃうよ・・・。」
寂しさと、心細さ、そして寒さとお腹の減りも相まって、目にじわりと暖かいものが出てくる。
こんなんじゃ天にぃに怒られちゃうな。
もぅ、陸はすぐに泣くんだから。と、優しく涙を拭ってくれる双子の兄はもういない。
もしかしたら、こんな弱い自分が嫌になって、邪魔になって、兄は自分の前から消えてしまったんじゃないか・・・。
そんな暗い方向へと思考が傾いていたせいか、何かの気配が近付いていた事に、気付くのが遅れた。
パキッ
自分の後ろで枝を踏みしめられる音を聞いた時には、既に体は動くことが出来なかった。
「無闇に動こうとしないで下さい。」
青年とまでは行かない、でも、少年というにはとても落ち着いた、凛とした声が響いた。
その瞬間、体がピリッと痺れたようになり、言うことを効いてくれない状態になった。
この感覚は記憶に残っている。
子供の頃に、何度も体験したことがある痛みだ。
あぁ、母親にも、人間には十分気を付けるようにと言われていたのに。
どうしようか。どうすれば抜け出せるのか。
慌てる陸とは逆に、青年は少しも同様したりしない、落ち着いた声で問いかけてくる。
「急にとんでもなく大きな妖気が現れたので何事かと思い、確認のつもりで来てみましたがやはり兄さんでなく私が来て正解でしたね。兄さんの霊力ではこの怪(あやかし)の妖気は強すぎて捕獲すら出来なかったかもしれません。
あなた、そんな莫大な妖力を抑えもせずにうちの敷地内をウロウロして、一体どういうつもりですか。」
敷地内??莫大な妖力??
あぁ、現世に降り立ったばかりで体が慣れてないから、妖力を制御しきれてなかったんだ・・・
でも、あなたに危害を加えるつもりは無いのだと、分かって貰わないと!
「まぁ、とりあえずその妖力でこの辺りをうろつかれては困ります。面倒ですが、和泉神社まで着いてきて貰うしか無さそうですね。」
「・・・えっ?!和泉神社?!ダメだよ!俺、小鳥遊さんって言う人に会わなきゃいけないんだ!お願い!危害を加えるつもりは無いんだ!術を解いて!」
「・・・っ?!あなた?!その状態で話せるんですか?!」
綺麗で落ち着いていた声の主が、今までとは一転して動揺した声で質問する。
その声の主が見たくて、なんとか首を回そうとするのだが、ピリピリと痺れるだけで体は動かせそうにない。
「え?うん、えーっと、俺、他の妖怪よりも妖力が少し強いみたいなんだ、だから、体は動かせないけど、声は出せるよ!」
そんなまさか。
まだ陰陽師としての技量は一人前とまでは行かなくとも、昔から続く陰陽師の血筋であり、由緒ある和泉一族の中でも希に見る霊力と才能だと言われていた自分の術が。普通の妖怪なら、喋る所か呼吸すらままならない状態になる筈なのに、この怪は一体何者なんだ。
小鳥遊さんに会いにと言っていたが、どんな用事で。
ただ、単純に興味が沸いた。
後ろから術で封じ込めていたままだった怪を前から見てみようと回り込んだ瞬間、息を飲んだ。
こちらを見る、困ったような顔に、透き通るような、ビー玉のような
「・・・なっ、ななせ、さん・・・?」
「え?なんで俺の名前知って・・・
まさか、・・・一織??」
まるで自分の術にかかったんじゃないかと思うほど、一織は体を動かすことが出来なかった。
あの日から、焦がれて、いつか、いつかまた会いたいと願っていた、彼が。
ここに、目の前にいるのだ。
子供の頃、和泉神社の近くに住んでいた赤い髪の妖怪の男の子、いつも双子の兄と一緒で、あの頃はあまり体調が良くなかったらしく、たまにしか一緒に遊ぶことが出来なかったけど、くるくる変わる表情に、純粋な瞳、人を惹き付けるような笑顔で、いおり!いおり!と、懐いてくれていた。それが嬉しくて、甲斐甲斐しく面倒を見ていた。
その度に兄の方が凄い形相で自分を見ていたが、その時は弟の体調が心配なのかなぁと、それくらいに思っていたが、今思えばあれは嫉妬だ。
弟を取られまいと、必死に囲っていた。
そんな彼らが、ある日、急にいなくなってしまった。家を訪ねても、そこには最初から誰も住んで居なかったかのように、ガラリと空虚な空間が広がっていた。
最初は信じられなくて、悲しさよりも、怒りが先だった。
なぜ何も言わないまま行ってしまったのか。
一言くらい言ってくれても良かったんじゃないか。
友達と思っていたのは自分だけだったのか。
怒りが過ぎると、次は寂しさだった。
あんなに懐いてくれていたのに、どうして急に居なくなってしまったのか、会いたい。でも、会えない。
そんな毎日を過ごす中で、陰陽師としての修行を積み重ね、世の中の事を見るようになって、やっと、彼らが消えた理由を知ったのだ。
その頃は、妖魔使いが活発に活動しており、希少な怪や子供の怪、妖力の強い怪までもが無理やり従属させられてしまったり、妖怪だからという理由だけで、祓い殺されてしまったりと、妖怪狩りのような事が横行していた。
七瀬一家は、それから逃れるために、消えたのだ。
それを知ってからは、とにかく一織は修行に励んだ。
いつかまた、会えた時、自分が守ってあげられるように。
自分は陰陽師として、力を付けたから、ここにいて守ってあげるから、またここに戻っておいでと、言えるように。
それを夢見て、日々、陰陽師としてのスキルを磨いていたのだ。
そんな、思いを馳せていた彼が、今、目の前にいる。
「一織?!一織なの?!うわー!久しぶりだなぁ!俺、びっくりしたよ!元気だった?三月は?!今も三月と一緒?!」
「な、なせさん、何故、あなたがここに居るんですか?戻って来たのですか・・・?」
「うん!俺、現世に戻ってきたんだ!ていうか、いおりー、術解いてよー!痛いよ!」
「あ、あぁ、すみません。今解きます。」
現実に頭がついていけない。
本当に、あの陸がここにいるのか?
都合のいい夢を見ているんじゃないか・・・。
でも、コロコロと変わる表情、純粋な瞳。
間違いなく、ずっと会いたかった彼だ。
「あー痛かった!ねぇ、三月は何処にいるの??」
「兄さんはこの先にある和泉神社にいます。七瀬さん、戻ってきたって、もしかして、今さっき現世に戻ってきたんですか?」
「うん!そうだよ。森の麓にある集落で、小鳥遊さんっていう人に会いに行きたかったんだけど、道に迷っちゃって!」
「迷っちゃってじゃありませんよ!あんな莫大な妖力でうろついて、見つけたのが私だったから良かったものの、妖魔使いだったらどうするつもりだったんですか!?」
「現世に戻ってきたばっかりだったから、妖力の制御がしずらくて・・・」
「はぁ。まあ、小鳥遊さんの件も詳しく聞きますから、とりあえず和泉神社に向かいましょう。」
「本当?!ありがとう!一織!」
ん"んっ!かわいい人、いや、かわいい妖怪?
「三月、元気かなぁー!早く会いたいなぁ!」
「心配しなくとも、あなたを封じ込める為の結界を作って待ってますよ。」
「えぇ?!おれ、閉じ込められるの?!」
「まさかあの莫大な妖力があなただとは思わなかったんですよ!私たちはてっきりタチの悪い妖怪か何かが現れたのかと・・・」
「そっかぁ、何かごめんね!」
「まぁいいです。とにかく、まずは兄さんの所に帰りましょう。」
最後に会ってから、もう十何年も会っていないのについ昨日まで一緒にいたような感覚に驚きながらも、この心の中に眠っていた、かつての暖かさを思い出して、一織は少し微笑んだ。
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