崩落編
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「うわっ!アッシュ、髪切った?…あ、違った。ルークだ。……えええ?なんでおぼっちゃまがこんなところにいるの!?てか後ろにいるのは大佐たち?わっは♡これってローレライの思し召し?」
「……けたたましいな」
ダアトの街に到着してすぐ合流することのできたアニスは、ルークの姿を目に入れるなりその口を目一杯に動かしてぺらぺらと捲し立てた。ティアとルークは久し振りに再開してもいつも通りなアニスに苦笑を漏らし、アニスに突進されかけて慌ててルークの背中に隠れたガイはおまけに溜息も溢す。
「アニス、とりあえずイオン様奪回のための戦力は揃えました。お二人はどうされています?」
「イオン様とナタリアは、教会の地下にある神託の盾本部に連れていかれましたっ!」
ジェイドさんに指示されたとおり、アニスは二人の居場所をしっかりと特定してくれたようだ。ついでに「そういえばハナ、お腹の調子もういいの?」とわたしのことも気遣ってくれるアニスは本当にしっかりしていてすごい。もう大丈夫だよ。
神託の盾本部となれば、一般開放されている教会内と違ってわたしたち部外者が許可なしに出入りすることはできない。そこでティアの立場と任務を利用して本部に入り込めないかというジェイドさんの案が採用されて、そのために権力者である詠師トリトハイムさんとやらに会うべくわたしたちは教会を目指した。
「あらあらあら!アニスちゃん、久しぶりねぇ。あら?そっちの子は…」
「パメラさん!」
教会へ入ってすぐ、おっとりとした雰囲気の女性がアニスの姿を見てこちらに歩み寄ってきた。どこか見覚えのあるその人はそう、アニスのお母さんでオリバーさんの奥さん、パメラさんだ。彼女もすぐわたしのことを思い出してくれたみたいで、「まあまあ、ハナさんもお久しぶりだわぁ。アニスちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」とにっこり微笑む。
「あのときはお世話になりました」
「まあ!もう気にしなくてもいいのに。ふふ、後でオリバーにも会ってあげてね。きっと喜ぶわあ」
「はい!」
「ママ。ちゃんと貯金してる?」
のほほんと談笑していれば、腰に手を当てたアニスがずずいとパメラさんに詰め寄る。
「あらあらあら。大丈夫よ。ちゃんと月のお給金はローレライに捧げているわよ」
「まーだそんなことしてんのっ!?それじゃあ老後はどうするのよっ!」
「大丈夫。預言通り生きていれば、お金なんていらないのよ」
「……あー、やっぱあたしが玉の輿狙わなきゃ……」
えええ。パメラさんのその返答にはわたしもちょっとびっくりする。ローレライに捧げるって、教団に寄付してるってことかなあ。貯金しないで、お給金ほとんど全部?それはなんか、すごいなあ…。アニスの言うとおり老後の蓄えも大切だし、この先何かあったときに貯金がないと困ると思うのだけど、敬虔な信者の人はああいう考え方をするが当たり前なんだろうか。きょろ、と辺りを見回すと、人はたくさんいるけれどその誰もが質素な身なりをしていた。初めてダアトを訪れたときに抱いた「グランコクマみたいな派手さがない落ち着いている街」という印象は、今も変わらない。
「なんだか、人がやたらと多いようだが、ここに住んでいる人間は一体どうやって生計を立てているんだ?」
似たようなことが気になったのか、パメラさんと別れてからガイがそう疑問を口にした。
「ローレライ教団は、信者からの寄付金が主な財源なの。だから、私やアニスのように神託の盾に属する者は、生活費を教団から支給されるわ。一般的な信者の人たちは、自給自足で暮らしているのよ」
「自給自足?商売しちゃいけないのか?」
「いけないわけじゃないけど、ダアトで暮らしている人たちはその必要性を感じていないわ。私たちが通ってきた、第一自治区には宿があったけど、あれは特別に許可されたケセドニアの人たちなの」
「あっ、わたしあそこ泊まったことあるよ。へ〜そうだったんだ…」
ティアの詳しい解説に、「預言に守られて最低限の暮らしができればいいってわけだな」、そう呟くガイは、理解できるけど共感はできないなあ、そう言いたげな表情で首を捻っていた。
礼拝堂の近くにはアニスのお父さんであるオリバーさんがいて、オリバーさんもわたしのことを覚えてくれていた。「また会えて嬉しい」と握手を交わしてくれるオリバーさんはもうすっかり元気そうで、わたしはうれしいのと同時にほっとしたけれど、その近況を聞いてすぐにぎょっとすることになる。見え見えの詐欺に引っかかって、なんと10000ガルドもお金を払ってしまったのだそう。オリバーさん自身は騙されたことにすら気づいていなくて流石にルークたちも呆れ顔をしたけれど、アニス曰くこうして騙されるのはそう珍しいことじゃないらしい。
「もし騙されたのだとしてもね、きっと人を騙してまで、あのお金が必要だったってことさ。私たちの元にあるよりいいと思うんだよ」
憤慨するアニスを窘めるようなオリバーさんの言葉には、正直あんまり共感できなかった。オリバーさんたちの優しいところは大好きだけど、その優しさのせいで自分や自分の娘が苦労していたんじゃ意味がないんじゃないのかな。
「アニスがお金大好きな理由がわかった気がしたよ」
「でしょ〜。私が玉の輿に乗んないと、いつまで経っても私もパパたちも贅沢なんてできないっ!」
「そういえば、さっきティアが教団のお金の話をしてくれたけど、あれってつまりパメラさんが寄付してるお金を、アニスが生活費として受け取ってるってこと?それって……」
「そう。意味ゼロとまでは言わないけど…あんなことしたってほとんど意味なんてないのにさ。ほんと超お人好し」
まあ、そんなママとパパが大好きなんだけどね。内緒話をするように教えてくれたアニスは、笑っているけれど疲れたような表情を浮かべていた。苦労しているんだなあ。
そう感じたのと同時に、わたしははっと重要な記憶を思い起こす。オリバーさんたち、借金をモースに肩代わりしてもらってるんじゃなかったっけ。それを理由にアニスはモースに利用されていて、お父さんもお母さんも大好きなアニスは逆らえなくて。ずっと仲間を騙すスパイみたいなことをさせられて、最後にはイオンを……。そうだ。わたしが変えたいと願う未来のひとつに大きく関わることだというのに、どうして今まで頭から抜けていたんだろう。
完全に記憶がなくなっていたわけじゃない、わたしのノートには、このことだってちゃんと書いてあったはずだ。それなのについ最近まで"物語"に関わる気なんてなかったわたしは、アニスの裏の事情をしっかり考えようとしていなかっただけ。
「…アニス、わたし、何でも力になるからね」
「何?急に」
「アニスが困ったり辛かったりするときは、どんなときでもわたしはアニスの味方する!」
「ちょっと、ほんとにどうしたの〜?…さっきの気にしてくれてるなら、全然心配いらないし!」
考え足らずだった自分が情けないなあと思う。未来を変えたいと思うのならばどこか一箇所だけ見ているのではだめで、視野を広く、いろんなことを考えなければいけない。でも、未来を変えるためだとか関係なく、この子の力になりたいと思った。小さくてもしっかりしていて、でも年相応なところもあって、わたしにとって大切な、
「…あは、たしかにちょっと急だったかな。でも言ったことは全部本気だからね、覚えておいてね」
「…うん」
"オトモダチ"だからね、と両手のワンドを軽く掲げて言えば、アニスは眉を下げて笑った。
✱✱✱
「ここからどこへ行けばいいんだ?」
「わかんないよ。しらみつぶしに捜さないと…」
礼拝堂にいた詠師のトリトハイムさんにティアがうまいことを言って本部への通行許可証を手に入れたわたしたちは、地下の神託の盾本部へと足を踏み入れていた。だだ広い本部にある部屋を一つ一つ調べて回るのは骨が折れるし、そんなことをして誰かに見つかって騒ぎにでもなったら戦闘は避けられない。敵に見つかったら新手を呼ばれる前に息の根を止めなければ、というジェイドさんの言葉に、ルークは気が重いと溜息をつく。
「(この場所はちょっと覚えがあるなあ)」
確か、ドラを鳴らして敵を誘い出したりしながら進むところだった。タルタロスでノートを開いたとき本部についてのメモも読んだから、なんとなくだけど二人がいる場所もわかる。ドラを鳴らして敵を倒さなきゃ進めないのは所謂ゲームだからであって、そんなことしなくても最短距離を行くことができれば戦闘も犠牲も最小限に抑えられるんじゃないだろうか。
「ね、あそこ見て。あそこだけ見張りの人が多いと思わない?他のところは見張りすらいないのに」
「確かに、ちょっと妙だな。アニス、あの先には何があるんだ?」
「そんな大したものはないはずだよ。訓練場とか、休憩室とか」
「じゃあ、あそこにナタリアたちがいるかもしれない!」
「可能性はありますね」
よ、よし!うまく誘導できた!見渡しやすい本部の構造と、わかりやすいくらい厳重な警備なのが逆に助かった。
目的地さえわかっちゃえば闇雲に歩き回らなくていいし、あとはできるだけ敵に出くわさなければいい。そのあたりは気配に敏感なガイやティア、ジェイドさんが敵の気配を察知して即座に合図をしてくれるので、そのたびに物陰に隠れてやり過ごしながら進むことができた。
目指していた場所の手前まで来たら、物陰からティアに譜歌を歌ってもらう。むにゃ、と呆気なく眠りについた見張りの人たちを周囲から見えづらそうなところにまとめて重ねたのは巨大化したトクナガで、それを動かすアニスは拍子抜けしたように呟いた。
「なーんかびっくりするくらい順調だね」。それに「苦労するのよりずっといいよ」と返せば、横でルークがうんうんと大きく頷いてくれるのがなんだか面白かった。
「うわあ、この辺の人も全部寝てる。ティアすごい」
「そう長くは保たないわ。術の範囲内にいなかった敵もいるかもしれないし、彼らが起きる前に他の敵に見つかるかもしれない。急いでイオン様とナタリアを捜さないと」
「捜すまでもないかもしれませんね」
そこから先に進んだ廊下にも何人かの兵士が倒れ伏していて、その全員がスースーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。譜歌って本当に不思議だなあと感心していれば、ジェイドさんが「おそらくあそこでしょう」と奥の扉を指差す。そこだけ、扉の両脇に兵士が座り込んで眠っていた。あの部屋の見張りをしていたのだろう。「じゃあ、開けるぞ」とルークが兵士を起こさないように慎重に扉を引けば、やはり部屋には捜していた二人がいた。
「イオン!ナタリア!無事か?」
「…ルーク…ですわよね?」
「アッシュじゃなくて悪かったな」
「誰もそんなこと言ってませんわ!」
少し戸惑うような声色だけど、ナタリアはしっかり彼のことをルークと呼んだ。…よかった。アニスもイオンに駆け寄って無事を確認する。二人とも、怪我や不調はないようだった。
無事がわかればあとの説明は置いておいてすぐにでもここを離れなければ危険、ということで来た道を戻ろうとすれば、扉の奥からがしゃがしゃと鎧の足音がする。神託の盾兵だ!まっすぐこちらに向かってくる足音、せっかくここまで犠牲を出さないで来れたのに、やっぱり殺さないといけないんだろうか。今回あの人たちはただ警備をしているだけで直接なにか悪いことをしたわけではないのに。駆けつけた兵士が驚いた声を上げて、扉の前の二人を起こそうとしているのが聞こえる。
「ティア、もう一回譜歌は?」
「連続して使うと効果が薄れて上手く作用しないかもしれない…もう戦うしか…」
「そんな…眠らせるのがだめなら、他に何か……あ!わかった!ティア、アニス、」
「「?」」
あのね、と思いついた案を出せば、二人ともちょっとびっくりした顔をする。上手くいくかしら、とティアが唸った瞬間、部屋の扉が開く。
「侵入者を取り押さえろ!」
「うわ!と、とにかく一回やってみよう!」
「おっけー!いくよ、せーの!」
「「「ピコハン!」」」
ぴこぴこぴこっ!
空中に現れた三つの真っ赤なハンマーがなんとも間抜けで可愛らしい音を立てて兵士の頭に落ちて、ばたんと倒れた三人はそのまま動かなくなった。ほ、
「ほんとに気絶するんだ……」
「いややろうって言ったのハナじゃん!」
「ピコハン、なんて…。訓練生時代に習得したけど、実戦で初めて使ったわ…」
ハナ、よく思いついたわね。というかよく知ってたね?ティアとアニスから向けられる視線に「え?まあ、たまたま、あはは」と笑って誤魔化した。
当たった敵を気絶させる譜術、ピコハン。戦ってる最中に飛び出すピコピコハンマーがシュールで面白くてゲームをしていた頃にはお気に入りの術だったけど、二人の言葉を聞くに現実ではあんまり活用される術じゃないらしい。普通に便利だと思うんだけどなあ。でも咄嗟に思いついた策が成功したから良かったものの、わたしにとっては初めて使う術だし、ピコピコハンマーで相手を気絶させるなんてイメージしづらすぎて成功するかどうかはかなり賭けだったとはとても言えない。
「やれやれ、甘いのか、機転が利くのか」
「なんでもいいから早く行こう!また敵が来ちまう」
まあ何にせよ、戦闘が避けられてよかった。