外殻大地編
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「はー怖かった…」
「怖かったじゃねえだろ」
「本当に危ないことをしていたのよ」
「まったく予想できないことをしますね」
「いつ頭から食われちまうかとハラハラしたよこっちは」
「無事でよかったです」
ふう〜と額の汗をぬぐいながらみんなの元へ戻ると一斉にみんなから言葉を浴びせられてしまった。う。まあ確かにみんなからすれば意味のわからない行動だっただろうな。「ミュウまで使って、ライガと何を話していたんですか」「な、なんでも……」。嘘をついてもどうせすぐバレてしまうような嘘しかつけないので「なんでもない」でごり押しをした。ちなみにミュウは油断するとすぐ口を滑らせるとわかっているのでわたしがしっかりと両手で抱いたままである。
「ま、まーまー、何もなかったんだしわたしのことはもういいからさ…、それより!すごかったね、ティアの譜歌!」
「……………」
「……………」
「…まあ、いいでしょう。ティアの譜歌の件も、前々からおかしいとは思っていたんです。彼女の譜歌は私の知っている譜歌とは違う。しかもイオン様によれば、これはユリアの譜歌だというではありませんか」
「はあ?だから?」
「ユリアの譜歌ってのは特別なんだよ。そもそも譜歌ってのは、譜術における詠唱部分だけを使って旋律と組み合わせた術なんだ。ぶっちゃけ譜術ほどの力はない」
「ところがユリアの譜歌は違います。彼女が遺した譜歌は、譜術と同等の力を持つそうです」
わたしの強引な話題そらしにジェイドさんはいつもの人を茶化す微笑みを仕舞い込んで真顔になったが(こわい!)、話題をそらした先が良かったのか流れに乗ってくれた。ティアの譜歌について、みんなが次々と意見を交わす。
「…私の譜歌は、確かにユリアの譜歌です」
「ユリアの譜歌は、譜と旋律だけでは意味をなさないのではありませんか?」
「そうなのか?ただ詠えばいいんじゃねぇのか?」
「譜に込められた意味と象徴を正しく理解し、旋律に乗せるときに隠された英知の地図を作る」
「ほぁ」
「…はあ?意味わかんね」
「…という話さ。一子相伝の技術みたいなものらしいな」
「え…ええ。その通りよ。よく知っているのね」
「昔、聞いたことがあってね」
ガイがいきなり難しいことを言い出すので、認めたくはないがメンバーの中で比較的頭が足りていない方のルークとわたしはふーん……と適当なリアクションしかできない。
「…あなたは何故、ユリアの譜歌を詠うことができるのですか。誰から学んだのですか?」
「…それは私の一族がユリアの血を引いているから…だという話です。本当かどうかは知りません」
「ユリアの子孫…なるほど…」
「ってことは、師匠もユリアの子孫かっ!?」
「…まあ、そうだな」
「お兄さんだもんね」
「すっげぇっ!さっすが俺の師匠!カッコイイぜ!」
「……」
ルークがヴァンさんにまた一つ属性がついたことにはしゃいでいると、ティアは少し俯くような仕草をした。みんなで質問攻めにしたから気を悪くしちゃったかな。お兄さんのヴァンさんのことも、まだあんまり話したくないことだろうし。ちょっと止めたほうがよかったのかもしれない。
「ありがとうございます。いずれ機会があれば、譜歌のことを詳しく伺いたいですね。特に『大譜歌』について」
「『大譜歌』?なんだそれ」
「ユリアがローレライと契約した証であり、その力を振るうために使ったという譜歌のことです」
「…そろそろ行きましょう。もう疑問にはお答えできたと思いますから」
✱✱✱
「…あっ。あれアニスじゃないかな」
フーブラス川からまた街道を進み、しばらく歩くと国境を分ける大きな白い壁が見えてきた。あの壁を通る門になっているのが、国境の街カイツールだ。
検問所となっている巨大な扉の前で、アニスらしき少女がマルクトの番兵となにやらもめていた。
「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通して下さい。お願いしますぅ」
「残念ですが、お通しできません」
「……ふみゅぅ〜」
どうやら、旅券がないので通りたくても街を通れないみたいだ。番兵の説得に失敗したアニスはとぼとぼとその場を離れて逆戻り、そしてぼそっと一言。
「……月夜ばかりと思うなよ」
「わぁお………」
「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ」
「! きゃわ〜ん♡アニスの王子様♡」
想像以上にアニスの呟きの迫力がすごくて思わず一歩下がってしまった。地の底から這い上がるような声だった。13歳の女の子のどこからあんな声が…。
他のメンバーも若干引いた顔をしている中、イオンは天然なのか慣れているのか、気にもしていない様子でのほほんとアニスに指摘する。そこで初めてわたしたちが……ルークがこの場にいることに気づいたアニスは、瞬時に態度を豹変させてかわいらしく体をくねらせながらルークに擦り寄った。器用。ガイは「女ってこえー」と辟易としているので、まあ今のは怖いよなあと思いつつ「偏見はだめだよ」とよくわからないフォローをしておく。
「ルーク様♡ご無事で何よりでした〜!もう心配してました〜!」
「こっちも心配してたぜ。魔物と戦ってタルタロスから墜落したって?」
「そうなんです…。アニス、ちょっと怖かった…。…てへへ」
「そうですよね。『ヤローてめーぶっ殺す』って、悲鳴あげてましたものね」
「導師がぶっ殺すとか言っちゃだめだよイオン」
「ハナもつっこみどころがずれてるんだよなあ」
心配してた、なんてルークが珍しくかっこいいことを言っているので褒めようかと思ったら、イオンがにこにことアニスのものまねをするのでそっちに意識が行ってしまった。やっぱりこの子天然なんだな。それとガイ、わたしはずれてるんじゃなくて敢えて触れなかっただけです。余計なことを言うとアニスがこわいので。
「イオン様は黙ってて下さい!……あれぇ?ハナだ!なーんでこんなところにいるの?」
「ひさしぶり、アニス。ちょっといろいろあって。あとで落ち着いたら話すね」
「ふーん。まいっか。で、ちゃんと親書だけは守りましたよ!ルーク様♡褒めて褒めて♡」
「ん、ああ、偉いな」
「きゃわん♡」
「みた?アニスの頭なでなでした!女子がきゅんとするやつだよあれ。ガイが教えたの?」
「アーーッ!!!近づくな!!!教えたわけないだろ!!」
ガイに耳打ちしようとして近づいたらばびゅんと飛び退かれた。あっごめん。忘れてた。
「無事で何よりです」
「はわー♡大佐も私のこと心配してくれたんですか?」
「ええ。親書がなくては話になりませんから」
「大佐って意地悪ですぅ…」
「ところで、どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」
各々茶番をしていると(茶番だなんて言ったらアニスに怒られそうだ)、いつもいつでも冷静なティアが本題に切り込んでくれた。そんなティアが好き。そこに痺れる憧れる。
「ここで死ぬ奴にそんなものはいらねぇよ!」
「あっ!!ルーク!!」
みんなが会話に気を取られ、ルークが孤立した一瞬におそらくは門の上から飛び降りてきた赤髪の青年が重みのある攻撃でルークを吹き飛ばした。それは結構な衝撃で、ルークは地面に倒れ込んだまま呻き声を上げる。あれはアッシュだ!ここで一度接触するタイミングなのをすっかり忘れて、ルークに注意喚起をすることができなかった。アッシュはわたしたちに背を向けた状態で立っていて、その素顔は伺えない。そのまま倒れたルークにぎらりと鈍く輝く剣を振り下ろした。「ま、まって!」わたしが手を伸ばすよりも、ガイが剣を抜くよりも、みんなが武器を構えるよりも先に現れた人影がアッシュの一撃を剣で受け止めた。
「退け、アッシュ!」
「……ヴァン、どけ!」
「どういうつもりだ。私はおまえに、こんな命令をくだした覚えはない。退け!」
現れたのはヴァンさんだった。ダアトで会ったときと変わらない、凛々しい顔つきと威厳ある佇まいは、今は怒りに染まってアッシュに向けられている。鍔迫り合いは素人のわたしが見てもアッシュが力負けしているのは明らかで、ぎりぎりと数秒続いたあとアッシュは渋々と剣を引いた。そのまま何も言わず、どこかへ去っていってしまう。
「師匠!」
「ルーク。今の避け方は不様だったな」
「…ちぇっ。会っていきなりそれかよ…」
「……ヴァン!」
ようやく体を起こし、地面にお尻をつけたまま顔を綻ばせてヴァンさんに話しかけるルーク。ヴァンさんも少し笑うように返すが、今度はティアがナイフを構えてヴァンを睨みつけていた。その顔には怒りと、躊躇いが浮かんでいるような気がする。
「ティア、武器を収めなさい。おまえは誤解をしているのだ」
「誤解……?」
「頭を冷やせ。私の話を落ち着いて聞く気になったら宿まで来るがいい」
「ヴァン師匠!助けてくれて…ありがとう」
「苦労したようだな、ルーク。しかし、よく頑張った。さすがは我が弟子だ」
ヴァンさんはルークにそう言うとわたしたちの間を通り、わたしたちが今通ってきた道を戻って行った。当たり前だが、宿というのは国境を超えた先のキムラスカ側ではなくマルクト側にある宿のことらしい。すれ違うとき、なんとなくヴァンさんと目が合ったような気がした。
大好きな師匠に褒められて嬉しそうにはにかむルークを横目に、イオンは立ちすくむティアに語りかける。
「ティア。ここはヴァンの話を聞きましょう。分かり合える機会を無視して戦うのは愚かなことだと、僕は思いますよ」
「そうだよ。いちいち武器抜いて、おっかねー女だな」
「……イオン様のお心のままに」
イオンに諌められるとティアも観念したようにナイフをしまう。場が落ち着いたのを見計らい、ガイが空気を変えるように口を開いた。
「じゃ、ヴァン謠将を追っかけるか」