外殻大地編
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※譜術の使用についての描写がありますが、公式の設定に加えて不明な部分を管理人の捏造で補っています。この話に限ったことではなく、この作品はけして全てが公式の設定であるわけではありません。ご容赦、ご注意ください。
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翌朝。
これからのことをジェイドさんに告げられ、わたしは次のカイツールまでみんなについていくことになった。
というのも、ディストさんの部下は街の入り口で検問こそしないものの『黒髪の女の子』について街の人に聞き回っているらしく、なんとなく今朝から街の人の視線が突き刺さるのだ。師団長に似たのか、ディストさんの部下には粘着質な人も多いらしい。街の人も最近の神託の盾の行動にストレスを感じているみたいだから、さっさとどこかへ去ってもらうために告げ口でもされたら軍基地に匿ってもらっても何かの隙にまた攫われてしまうかもしれない、とのこと。最悪、キムラスカに匿ってもらえばいんじゃね?叔父上は国王だから頼めばマルクト人でもへーきへーきとルークはさも簡単そうに言った。
守ってもらうのだからわたしが何か文句を言えるはずもなく、かといって戦力として役立てないわたしは街を出る前の買い出しに気合を入れまくった。
「生ものは買いだめできないけど、ここはエンゲーブが近いから食材安いですよ、他所で買うより買えるものはここでできるだけ買っときましょう。お芋とお豆腐は便利です。腹持ちいいし栄養あるし何してもおいしい、何よりお豆腐は高いお肉の代わりにも化けるしお芋は単価が安い!グミとかみんなの装備とかは大丈夫ですか?川を渡るし、アップルグミは多めに用意しといたほうがいいんですかね。フーブラス川にはそんなに強い魔物もいないって聞いたことがあるから譜術控えめに物理で応戦できるならばオレンジグミとかは節約できますし、ひーふーみー……だいたいこのくらいの値段まで抑えられます」
「いいんじゃないでしょうか」
「わかりましたお会計してきます」
「……ジェイド、適当に答えただろ」
「嫌ですねぇ、ちゃんと聞いていましたよ」
「今まででこの上ないくらい喋ってたわね…」
「ケチケチしないで全部買っちまえばいいじゃねーか」
「なに言ってるのルーク!」
「うおっ!戻ってくるの早ぇ」
両手に袋を抱えて戻れば何やらルークが聞き捨てならないことを言っていた。全部買ってしまえ?何を言う。
「全部買えたらそりゃいいけど、旅はなにかとお金がかかるよ。グミとかボトルとか、宿代とか、人数が多いからばかにならないし、もし強い敵と対峙するならそれなりの装備が要るでしょ。武器とか防具とかって高いんだよ!この先なにがあるかわからないんだから、節約しないと。ただでさえわたしっていう穀潰しがいるんだから」
「おいおい、穀潰しって…」
「節約はまかせて」
ピロリン、花は節約家の称号を手に入れた!思い出されるのは元の世界での日々。家が貧乏で、それなのに夢が諦められなくて専門学校に進んじゃったから、学費とひとり暮らしの生活費を賄うために奨学金を借りて、寝る間も削って勉強しながらバイトを掛け持ちして、安売りの豆腐やもやしを買いだめして一週間同じ食材をあの手この手でアレンジして食べる……おかげでわたしの料理のレパートリーはそれなりに多い。節約術はもっと多い。ああ、あんなに頑張ってたのにこっちの世界に来ちゃって、あっちは今どうなっているんだろうーーー
「ハナ?」
「はっ!と、とにかく、お財布の紐は固めでいきましょう」
それに知ってるんだぞ、ルークとティアがまだ二人で行動してたとき、辻馬車の料金をティアの大事なペンダントで支払ったこと。君にはあれを是非買い戻してもらわなきゃならない。お金貯めてね、あれたしか高かったから。
「けっ。どーでもいいけどよ。ビンボくせー」
「まあまあ。いいことだと思いますよ」
「ほら!ジェイド坊やもそう言ってくれて、あっ、あいだだだだ」
「だ、れ、が、坊やですか」
「いたいいたい、握力がつよい!ごめんなさい調子に乗りました、あたま離してください」
「ジェイドとハナは仲がいいですね」
ちょっと調子に乗ってジェイドさんを揶揄ってみたら、ぐわしと頭を掴まれてぎりぎりと締められた。よ、容赦がない!一応女の子なのに。イオンがなんだかいい感じに纏めたが、纏めるよりもやめてあげて〜とか言ってほしかったな。
「丁度今は街の出口に神託の盾がいないわ。移動するなら今よ」
「では、アニスと落ち合う予定のカイツールに向かいましょうか」
ティアの言うとおり、周囲に神託の盾兵士の姿はなく、わたしたちはあっさりと街を出ることができた。こそこそ隠れたりしなきゃならないかと思っていたから、なんだか拍子抜けだ。
セントビナーからフーブラス川を渡る橋までは大事もなく、ルークたちが魔物との戦闘をし、わたしとイオンとミュウは戦闘の邪魔にならないよう真ん中で大人しくしているというのを繰り返し、無事怪我もなく橋までは辿り着けた、のだけど。
「あれ?橋がねぇぞ?」
「街の人が橋が落ちていると言っているのを耳に挟みましたが、ここのことだったのですね」
「ここの流れはかなり急だわ。仕方ありません。迂回して流れの穏やかなところを渡りましょう」
「それしかありませんね。ところでハナ」
「はい?」
「あなたはここの橋が落ちていることを知っていましたね?」
「……………ん?」
「ひっかかっていたんですよ。橋を渡ればそれで済むはずだった川の横断を、どうも魔物との戦闘を見越したような発言と買い物の仕方をしていたので」
「……!ああっ、わたしも宿の女将さんに聞いたんですよ!橋が落ちてるって!それでてっきり川の中を歩くことになるかな〜って勘違いしてて!け、結果オーライでしたよね〜あははは」
「お前すげー目泳いでるぞ」
うっ!本日の墓穴のコーナー!昨日"物語"のノートを見返したのが仇になってしまった。ルークたちが辿る道程を最短で、しかも覚え書きで記録してあるから、橋が落ちてて迂回することになるなんて書いていなかったし、当然フーブラス川横断イコール川の中を通るという固定概念ができてしまっていた。「それはそれは」とおどけて言うジェイドさんの目が笑っていない。ルークにも指摘されちゃってるんだからジェイドさんにはバレバレの嘘だろう。自分の首をどんどん自分で締めてしまっている……。
最早わたしの墓穴はいつものことなのでジェイドさんもいちいち深く追求することはしなくなったけど、不信感は着々と募らせていることだろう。
「(いつか、話さなきゃいけないときが来るのかなあ)」
その時が先か、わたしが元の世界へ帰れるのが先か。斜め前を歩くジェイドさんの横顔をちらりと盗み見ながら、そんなことを考えた。
✱✱✱
「ここを越えればすぐキムラスカ領なんだよな」
「ああ。フーブラス川を渡って少し行くと、カイツールっていう街がある。あの辺りは非武装地帯なんだ」
「早く帰りてぇ…。もういろんなことがめんどくせー」
フーブラス川の入り口で、ルークはこの先のことを思ってうんざりした声を上げる。ルークはこの旅に参加することになったのも不本意だし、慣れない戦闘と徒歩旅をもう何日も続けているんだから、弱音を吐きたくなるのも当然だろう。わたしだって、こんなに何日も歩き続けたり野宿をしたりなんて経験は今までなくて、正直音を上げたいほどくたくただ。戦闘では後ろに隠れているだけとはいえ魔物もまだちょっと怖いし。助けてもらっている身で、そんなこと言えるはずもないけれど。
川のほとりを進んでいると、時折ミュウに八つ当たりをしながら歩くルークをジェイドさんが呼び止める。「…んだよ?大佐殿?」と皮肉っぽく反応するルークをティアが叱責した。
「今まであなたの戦い方を見てきましたが、あなたは音素を使いこなせていないようですねぇ」
「? 音素を使うのは譜術士(フォニマー)の仕事だろ?俺には関係ねーじゃん」
「やれやれ。あなたの師匠は、力押ししか教えなかった訳ですか」
「師匠を馬鹿にするな!俺には必要なかったから、教えて貰ってないだけだっ!!」
「どちらにしても音素の実戦での使い方については、知らないのですね。ならば、より効率的に戦うために、覚えておいて欲しいものです」
「そんなの知るかよっ!」
「ルーク。コチラさんは、戦いの専門家だ。生き残るためには、話を聞いておいた方がいい」
「…ふん。戦争屋だもんな」
「ええ、その通りです。おあつらえ向きに魔物もいることですし、実戦で教えて差し上げますよ。私も封印術で能力が低下しています。これ以上の足枷は欲しくありませんからね」
ジェイドさんがルークの戦いの粗さを指摘し、ジェイドさんの煽りに乗ってしまう短気なルークの怒りをガイが諌めたところで、ジェイドさんによるルークの戦術指導が始まった。
講義内容はFOF(フィールドオブフォニムス)について。
闇、土、風、水、火、光、それぞれの属性を持つ第一から第六の音素。ちなみに音の属性を持つ第七音素は使用するのに本人の素養の有無が影響するので今回は省くらしい。その属性を纏わせた攻撃で、同じ属性の音素を一箇所に集めることで、地面に薄っすらと各属性の色を纏った光る力場が発生する。それがFOF。そこで技を使うと、技をワンランク上のものに進化させることができる。例えば、ジェイドさんが第三音素の風の譜術を使って風のFOFを発生させれば、そこに集まった音素を纏ってルークの普通の斬撃が雷の斬撃になる、というふうに。
ふむふむ、とジェイドさんの話す内容を自分の日記帳にメモする。戦闘の専門的な知識は勉強を後回しにしていたし、きっと他の人に聞くよりも軍人であるジェイドさんの説明はわかりやすい。
「ハナは真面目で熱心ね。ルークも見習うべきよ」
「うっせーな!俺は実戦で覚えてるからいいんだよ!」
「うーん、この際だから、わたしも何か教わりたいな」
「ハナも戦いたいのか?」
「というか、自分の身くらい守りたいなって。戦うのはちょっと怖いけど、みんなの旅にお邪魔して着いていくからには完全なお荷物になりたくないもん。万が一敵が多かったりしても、わたしが自分で防御とかできたら、みんなの負担も減るでしょ」
「……そんなことを考えていたのね」
最初のうちは、まさかわたしが旅に参加して、こんなに長くついて歩くことになると思っていなかったから、戦う必要もないと思っていた。それに、この世界での最初の記憶、魔物に襲われたあの日の怖さだって忘れられたわけじゃない。
でも、ずっと思っていたのだ。わたしという守る対象が増えてしまって、特に前衛のルークやガイの消耗が激しい。みんなの攻撃を掻い潜って魔物が襲い掛かってきて、ぎりぎりのところを後衛のティアが庇ってくれて怪我をさせてしまったこともある。せめてわたしが応戦して、一瞬でも間を稼ぐことができるなら、みんなの負担も減るんじゃないか、と。
「とは言っても、今ここにはハナに持たせられる武器もないしなあ。ジェイド、ティア、譜術の素質があるかだけでも見てやったらどうだ?俺達前衛の身体の使い方なんかは教えてもすぐにできるようになれるものでもないしな」
「……仕方ありませんねぇ。弟子は取らない主義なのですが」
「私も構わないわ」
「ほんとですか!ありがとう!」
ガイが口添えをしてくれて、とりあえず今は譜術の初歩の初歩、大気の音素を感じ取って集め、体内のフォンスロットに音素を取り込むところまでを教わってみることになった。それだけでもだいぶ難しそうに聞こえるけど、これさえできてしまえば下級譜術やサポート技などの習得は比較的容易らしい。よ、よし。がんばろう。
「では、最初は集中しやすいように目を閉じて。体内のフォンスロットを……と言っても最初のうちはわからないでしょうが、目、脳、胸、腹、手、足。身体の要所にあるエネルギーの出入り口を開き、そこから音素を取り込むイメージをします」
「(いきなりめちゃくちゃ難しい)」
「大気中にはそれぞれの属性の音素が含まれています。それを自分の周囲に集め、開放したフォンスロットから体内に取り込んで」
むむむ。体内のフォンスロット……そもそもオールドラントの人間じゃないわたしにフォンスロットってあるのかな?いまいちイメージがしづらい。イメージ、イメージ……。
「…落ち着いて、ハナ。集中を切らしてはだめよ。大気の音素がゆっくりと入り込んで、自分の中心に蓄積していくイメージをするの」
大気の、音素……。わかる…ような、わからないような。お腹の奥がざわざわする。赤、青、緑、黄色、目には見えない小さな光のイメージを、集めて、集めて。
「…いいでしょう。そのまま集中を続けて。目を開けてごらんなさい」
「はい、……うぇ、わ、大きい」
言われたとおりに目を開けてみると、わたしの足元には無色の光る陣が浮かんでいた。す、すごい。ジェイドさんやティアが術を使うときに浮かぶやつと同じ。だが、なんだかすごく大きい。お腹のざわつきが強くなって、体がぴりぴりする。
「これが、譜術を使う前段階です。この状態で詠唱をすることで術のイメージを固定化し、体内に溜めた音素を放出することで譜術として使うことができます。一属性のみを集めるにはコツと慣れが要りますが、無属性の下級譜術や補助技なら練習を積めばすぐできるようになるでしょう。…まさか一発でできるとはね」
「初めてでこれだけ沢山の音素を集められるなんて…。ハナ、すごいわ。きっと譜術士としての才能があるのね」
「う、うん…うれしいんだけど、その、ちょっとやばいかも…。お、抑えが、」
ざわざわ、ざわざわ。お腹の奥底から湧き上がる何かがどんどん強くなって抑えられない。なんだかまずい。本能的にそう感じて、わたしは集中をやめてみんなから距離を取った。このままじゃ体がはじけてしまいそうな気がして、その感覚を逃したくて両手を前に出す。
瞬間、わたしは頭の中に"爆発"をイメージしてしまった。
バァンッ!!
「………ひぇ…………………」
「ハナ!?」
「ば、爆発!?今の、ジェイドのと同じ技か!?」
「威力が桁違いです。ハナ!怪我は」
「い、いや、それよりあれ………」
ぎゅっと目をつぶった瞬間、大きな爆発音が響いた。恐る恐る目を開けば、ぷすぷすと上がる煙。砕けた大岩。えっ……………………あれわたしが………………??自分が何をしたのか、どうしたらいいのかわからずぽかんとしていると、気づいてしまう。砕けた岩があったすぐ下には大きめの穴が空いていて、岩ごと地面も少し崩れていたことと、……その陰から覗く沢山のぎらぎらとした蛙の目に。
「いけない!魔物の巣だわ!」
「完全に興奮していますね。数が多すぎる!ここは退散しますよ!」
「ひ、ひ〜〜〜!!!ごめんなさ〜い!!!!」
穴から次々と顔を出すオタオタ、ゲコゲコの群れ。見るからに怒っている。しかもかなりの数だ。いち早く状況を把握したジェイドさんの声に、ルークはミュウを道具袋に押し込み、ジェイドさんはイオンの手を引き、わたしはティアに手を引かれてその場を逃げ出す。「何やってんだよお前は!」「そんなこと言ってる場合じゃないわ!」とルークとティアの怒号が飛び交う。と、とんでもないことをしてしまった!!流れる水も滑りやすい足場もおかまいなしに、わたしたちは一目散に駆けた。