外殻大地編
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「マルクト帝国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です。グレン・マクガヴァン将軍にお取り次ぎ願えますか?」
「ご苦労様です。マクガヴァン将軍は来客中ですので、中でお待ちください」
セントビナーのマルクト軍基地。ジェイドさんを先頭に訪れたわたしたちは、すんなりと将軍の部屋に通してもらうことができた。わたしたちが入室すると、白い長髪をぴしりと纏めたグレンさんらしき男性と、その父親である小柄な体躯で立派な白ひげの老マクガヴァンさんであろうおじいさんが話をしているところだった。
「ですから、父上。神託の盾騎士団は建前上、預言士(スコアラー)なのです。彼らの行動を制限するには、皇帝陛下の勅命が…」
「黙らんか!奴らの介入によってホド戦争がどれほど悲惨な戦争になったか、お前も知っとろうが!」
「お取り込み中、失礼します」
「(躊躇しないなあ……)」
結構すごい言い争いだったのに、ジェイドさんは気にもせず会話に割り込んだ。
「死霊使いジェイド……」
「おお!ジェイド坊やか!」
「(ジェイド坊や)」
「ご無沙汰しています。マクガヴァン元帥」
「わしはもう退役したんじゃ。そんな風に呼んでくれるな。おまえさんこそ、そろそろ昇進を受け入れたらどうかね。本当ならその若さで大将にまでなっているだろうに」
「どうでしょう。大佐で十分身に余ると思っていますが」
ほんとに坊やって呼ばれてる……35歳が……。そんな風に呼ぶなはこっちのセリフだ!とか言わないあたりまんざらでもないのかな。ジェイドさんが軍に入ったときから呼ばれてたんだとしたら、20?10代後半とか?にしたって坊やか……。ジェイドさんが呼ばれてると思うと異様だけど、ちょっとかわいいな。
一国の軍の元元帥に実力を評価されているジェイドさんを見て、「ジェイドって偉かったのか?」「そうみたいだな」と顔を寄せ合ってルークとガイがひそひそしている。
「そうだ、おまえさんは陛下の幼なじみだったな。陛下に頼んで神託の盾騎士団を何とかしてくれんか」
「彼らの狙いは私たちです。私たちが街を離れれば、今残っている彼らも立ち去るでしょう」
「どういうことじゃ?」
「陛下の勅命ですので、詳しいことはお話できないのですよ。すみません」
「ごほん、カーティス大佐。御用向きは?」
「ああ、失礼。神託の盾の導師守護役から手紙が届いていませんか?」
「あれですか?…失礼ながら念のため開封して、中を確認させてもらいましたよ」
「結構ですよ。見られて困ることは書いていないはずですから」
そう言ってジェイドさんは導師守護役 ーーーアニスからの手紙をグレンさんから受け取り、さっと目を通す。すごい速さで読み終えると、背中越しにルークに手紙を差し出した。
「どうやら半分はあなた宛のようです。どうぞ」
「アニスの手紙だろ?イオンならともかくなんで俺宛なんだよ」
ーーー 親愛なるジェイド大佐へ♡
すっごく怖い思いをしたけど何とかたどり着きました☆
例の大事なものはちゃんと持っていま〜す。褒めて褒めて♪
もうすぐ神託の盾がセントビナーを封鎖するそうなので先に第二地点へ向かいますね♡
アニスの大好きな(恥ずかしい〜☆告っちゃったよぅ♡)ルーク様♡はご無事ですか?
すごーく心配しています。
早くルーク様♡に逢いたいです☆
ついでにイオン様のこともよろしく。
それではまた☆
アニスより
追伸!神託の盾が『黒髪の女の子』を探し回ってるみたいで、アニスちゃんも街の人に声をかけられそうになりました。これって黒髪女子のモテ期!?きゃわ〜☆
ーーー
「……目が滑る……」
「おいおいルークさんよ。モテモテじゃねぇか。でも程々にしとけよ。お前にはナタリア姫っていう婚約者がいるんだからな」
わざわざルークが音読したので手紙の内容は全員に筒抜けだった。呆れた顔をするルークは揶揄うガイに「あんなウザい女冗談じゃねー」と返す。ナタリアにすごい失礼。でも、本当に一から十まであざとさが散りばめられた手紙だ…。アニスは将来玉の輿を狙っているから、公爵息子のルークに猛烈アタックをかけている。ジェイドさんへの報告を兼ねた手紙の中でもそれは抜かりなく、というかジェイドさんの言うとおり半分はそれが占めていた。
ティアも若干冷めた目をしていたが、すぐにジェイドさんに向き直って「第二地点というのは?」と訊ねる。
「カイツールのことですよ。ここから南西にある街で、フーブラス川を渡った先にあります」
「カイツールまで行けばヴァン謡将と合流できるな」
「兄さんが…」
「おっと。何があったか知らないが、ヴァン謡将と兄妹なんだろ。バチカルの時みたいにいきなり斬り合うのは勘弁してくれよ」
「…わかってるわ」
ガイがティアを諌めたあと、マクガヴァン親子に別れの挨拶をし、基地を後にすることになった。マクガヴァンさんは事情を知らないにも関わらず困ったときはジェイドさんを手助けすると言ってくれた。信頼されているんだなあ。
基地を出たあとは、宿を取って一泊することになった。というのも、顔を青くしたイオンが少し休みたいと言ったのを見たルークが「宿を取ろう」と言い出したのだ。自分本意なルークはヴァンに会うためにいち早くカイツールに行きたがるとジェイドさんも思っていたのか、「おや、案外優しいところがあるのですね」と意外な様子だ。
「それがルークのいいところって奴さ。使用人にもお偉いさんにも、分け隔てなく横暴だしな」とニヤニヤしながらガイが言った。茶化すような言い方だけど、ルークのいいところがみんなに伝わるのが嬉しいんだろうな。どんなときもずっと、ルークを支えてきた彼だから。
✱✱✱
「そういえばイオン様。タルタロスから連れ出されていましたが、どちらへ?」
「セフィロトです…」
「セフィロトって…」
セントビナーの宿屋の一室。みんなで集まって、攫われていた間のイオンの行方について話を聞く。イオンはゆっくり話し出した。セフィロトに行っていた、と。
「大地のフォンスロットの中で、もっとも強力な十箇所のことよ」
「星のツボだな。記憶粒子(セルパーティクル)っていう惑星燃料が集中してて、音素が集まりやすい場所だ」
「……し、知ってるよ。もの知らずと思って立て続けに説明するな」
ルークがぶすっとする横でわたしは頭の中で思考をぐるぐると巡らせていた。フォンスロット、記憶粒子、えーと。
フォンスロットっていうのが…すべての物質にある、音素の要点で、そこを刺激すると音素の働きが活発になったりする、ツボみたいなもの。ジェイドさんはそのフォンスロットを閉じる封印術というものを六神将のラルゴにかけられて、譜術や身体能力を制限されてしまっている。星のフォンスロットの中でも特に大きくて強力なのが、十箇所のセフィロト。記憶粒子は星の地殻からこのセフィロトを通って湧き出てるエネルギーで、これを利用して世界に音素を供給し続ける仕組みがプラネットストーム。
うん、なんとかわかる。この世界の仕組みや用語についてはまだまだ難しくて、質問されたらぱっと答えられる気がしない。最近見ていなかったから、今日はこっそり"物語"のノートを見返しておこう。
「セフィロトで何を?」
「…言えません。教団の機密事項です」
「そればっかだな。むかつくっつーの」
「すみません」
つまらなそうな顔をしたルークが、今度は気づいたようにジェイドさんに向く。
「そうだ。ジェイド、おまえは?封印術って体に影響ないのか」
「多少は身体能力も低下します。体内のフォンスロットを閉じられた訳ですから」
「ご主人様優しいですの」
「ち、ちげーよ!このおっさんにぶっ倒れられると迷惑だから…」
「照れるな照れるな」
「照れてねー!」
「全解除は難しいですか?」
「封印術は、一定時間で暗号が切り替わる鍵のようなものなんです。少しずつ解除はしていますが、もう少しかかりそうですね。まあ元の能力が違うので多少の低下なら、戦闘力はみなさんと遜色ないかと」
「むかつく……」
「すみません。根が正直なもので。それでハナ、あなたは今の話、ちゃんとわかりましたか?ルークはなんとか理解できたようですが」
「えっ、わたし?」
ルークの垣間見える優しさとそれをからかうみんなを微笑ましく見ていると、ジェイドさんが唐突にこちらに話題を振る。なんだなんだ。ち、ちゃんとわかってますとも。
「大佐、どういうことです?」
「彼女は記憶喪失だそうなので」
「えっ、やっぱりお前もなのか…?」
「おいおいどういうことだよ」
ジェイドさんそれ言っちゃうの〜!!あんまり嘘をつきたくないから言わなくていいなら言いたくないと思ってたのに。時すでに遅し、みんなが食いついてしまった。ええ〜……今ここで言う必要あったかな。
「は、話はちゃんとわかりましたよ!えと…そうだ、ごはん!ごはんにしよ!たくさん歩いてお腹空いてるでしょ、わたし作るよ!戦闘はずっとみんなに守ってもらっちゃったし!た、食べながら話そ、みんなここで待ってて!」
ジェイドさんに記憶喪失って最初に話したとき、自分で何を言ったか忘れた。思い出して話さないと絶対矛盾したことを話してしまう!ジェイドさんのことだからあれれ〜おかしいですね〜?と某小学生名探偵ばりにわざとらしく突っついてきそうだ、それは遠慮したい、かなり居心地が悪い。そう思ってごはんを言い訳に話を先送りにすることにし、逃げるように部屋を出る。どうせこの宿は食事付きではないからごはんはどうにかしなければならなかったし、ここのキッチンを借りて調理しながらしっかりジェイドさんに告げた内容を思い出しておこう。
✱✱✱
「じゃ〜ん、花特製余り物ナポリタン〜!と、サラダと、オニオンスープ。ミュウにはりんご買ってきたよ〜、召し上がれ!」
「すごい…おいしそうだわ」
「お野菜屋さんにね、売りに出さないお野菜を格安で譲ってもらったの。もちろんちゃんと食べても安全なやつだよ!あとはここの女将さんが晩のおかずの余りのチキンを分けてくれたから、チキンナポリタンにしてみました」
「買い物も大変だったでしょう。おいしいです。ありがとうございます、ハナ」
「おいしいよ。あったかいな、家庭の味って感じだ。ハナはやりくり上手なんだな」
「わたしのぶんの宿代もかかっちゃってるし、これくらいはね。ルークはどう?嫌いなものとか入ってない?」
「………まあ、うまいんじゃねーの」
「ふふふ、よかった。口の周りすごいよ」
「りんごも美味しいですの!」
「そ?流石エンゲーブ産だね、よかったね〜ミュウ」
6人分を作るなんて元の世界ではなかなかないことだったけど、ロシーさんのお手伝いで大人数のごはんを用意することにも慣れてきていたおかげでなかなか自信作ができた。みんな美味しいと言ってくれて安心だ。ジェイドさんは何も言わないけど食べる手は止まってないし、口に合わないってことはないはず。和気藹々としたこの雰囲気のままさっきの話も流れないかな〜と期待したが、口のまわりを拭ったルークは容赦なくさっきの話題を切り出した。
「それでハナ、お前も記憶喪失って」
「あ、あー……。2、3ヶ月くらい前、グランコクマの近くの街道にわたし倒れててね。魔物に襲われて、グランコクマの酒場のご夫婦に助けてもらってお世話になることになったんだけど、襲われるよりも前のことがわからなくって」
嘘は言っていない。この世界に来る前後のわたしの記憶は未だ曖昧だ。
「ルークみたいに何もかも失くしちゃったんじゃなくて、言葉とか自分の名前とか、ちゃんとわかることも結構あるよ。でも…文字とか、地理とか、社会のしくみとかはいろいろわかんなくて…。今勉強中。だいぶ覚えてきたし、読み書きももうできるよ」
「そうだったのか…」
「大変だったのね…」
「でも、ハナはすごいですよ。今は立派に買い物もできて、こんなに美味しい食事を作ってくれますから。努力したんですね」
嘘は、ついてない、けど、ティアとガイがしんみりするのでやめてー!心が痛い!と思っていたらイオンがなんとかしんみりムードを打ち切ってくれてほっとした。ありがとう。いきなり世界を飛び越えちゃったっていう実際のところもなかなか同情されることかもしれないけど、そうじゃなくて今はみんなを騙しちゃってるわけだし…。ルークは似た境遇の(全然違うんだけど)わたしに興味が湧いたのかあれやこれやと質問してきて、わたしは矛盾がないよう話すのに必死だった。なぜって?話している間ずっとじっと見てくるジェイドさんが怖かったからです。