外殻大地編
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「アニス、無事だといいのだけど……」
「結構な高さから落ちたみたいだけどな……」
「大丈夫だと思いますよ。アニスですからね」
「ええ。アニスですから、きっと無事でいてくれます」
「なんだか凄い言われようだな〜。そのアニスって子」
セントビナーまであと少しというところ。わたしたちの話題は走行中のタルタロスから落下してしまったというアニスのことになった。メンバーで唯一アニスと面識のないガイがアニスの人物像を想像して首を傾げると、アニスをよく知るジェイドさんとイオンが話に乗る。
「ははは。元気いっぱいの可愛い子ですよ」
「とても頼りになります」
「そうなのか?頼りになるようには見えなかったけど……」
「人は見かけによらないものですよ」
「……なんか引っかかる言い方しやがるなあ」
「気にしすぎですよ。ルーク。まあ、おしゃべりはこれぐらいにして行きましょうか」
「そうですね」
「それでアニスって子が大丈夫な根拠はどこよ…?」
「アニスはとってもしっかりした子だから、一人でもきっとしっかりやれてると思うよ。怪我してないかが心配だね…」
わたしがそう言うと、みんなの視線がこっちに向けられる。えっなに。
「ハナはアニスと面識があるのか?」
「うん。前にダアトに行ったことがあって、そのときにいろいろあって仲良くなったの」
「そういえば、リグレット教官とも面識があるようだったわね…」
「あ、リグレットさんもダアト行ったときにね、」
「ダアトで出会いすぎだろ!」
「ハナ、魔弾のリグレットとの関係は?」
「関係…、えーと、ひったくりからかばん取り返してもらって、一緒にケーキ食べてお話して、新しいかばんをプレゼントしてもらって……えへ、お姉さん、みたいな……みんななにその顔」
「教官がケーキ……」
「仲がいいんですね」
「お前スパイなんじゃねーの」
「ちっ!ちがうよ〜〜!!!」
驚いた顔をされたりジト目をされたりで何かと思えば内通を疑われたらしい。ちがう!
やいのやいのと言い合いながら歩いていれば、セントビナーの街は目前に近づいてきていた。
✱✱✱
「なんで神託の盾がここに…」
「タルタロスから一番近い街はこのセントビナーだからな。休憩に立ち寄ると思ったんだろ」
「おや、ガイはキムラスカ人の割に、マルクトに土地勘があるようですね」
「卓上旅行が趣味なんだ」
「これはこれは、そうでしたか」
セントビナーに辿り着いたものの、街の入り口には大勢の神託の盾兵士がいた。街を出入りする人間を一人一人検問しているようで、とてもすんなり通れそうにはない。どうしようかと頭を悩ませていると、ティアが何かに気づいたように「大佐、あれを」と入り口に停車した馬車を指差した。食材の村、エンゲーブの業者がセントビナーへ食材を運び込むための馬車らしく、十人くらいは余裕で乗れそうな大きな荷台がある。「ご苦労」とすんなり入り口を通された馬車の御者は、「後からもう一台参ります」と兵士に伝えて街に入っていった。
「なるほど。これは使えますね」
「もう一台を待ち伏せて、乗せてもらうんだな」
みんなが賛成し、後から来るというもう一台の馬車に会うため、エンゲーブへの街道を遡ることになった。ルークは「俺をおいて話を進めるな!」と怒っていたけれど。
道を遡り始めてそう間もなくしないうちに馬車は見つけることができた。御者はエンゲーブでルークたちと面識のあったローズ夫人で、ルークとガイが事情を話して匿ってほしいと頼むと気前よく了承してくれた。しかし、大きな馬車とはいえ他にも沢山食材が積まれているから、人間6人+チーグル1匹が乗ると些か……だいぶ、せまい。おまけに荷台の中が多少見える形状の馬車なため、外から姿が見えないように屈みこまなければならなかった。万が一ガイが暴れださないようにわたしとティアはガイから一番遠くを位置取り、さらにわたしはジェイドさんにしっかりと頭を抑え込まれた。うっかり飛び出すとでも思われているんだろうか。わたしはそこまでドジじゃありません。
「エンゲーブの者です。先に馬車が着いていると思いますが…」
「話は聞いている。入れ」
「ありがとうございます」
そして、なんともあっさり潜入は成功。お世話になりましたと頭を下げてローズさんと別れる。アニスとはこの街のマルクト軍の基地で落ち合うことになっているそうなので、早速向かおうとすると「…隠れて!」とティアが鋭い声を上げる。言われたとおりに咄嗟に物陰に身を隠すジェイドさんとガイの身のこなしは流石のもので、出遅れたわたし、ルーク、イオンももたもたと身を隠す。ティアが隠れろと言ったのは、街の入り口に神託の盾騎士団、それも最高戦力の六神将の面々が現れたからだった。
「(ラルゴ大きい…トトロみたい…いやシンクも大きい……アリエッタはちっちゃい、かわいい)」
ラルゴがでかいのは当然わかっていたが、シンクも思いの外大きい。彼と背丈が同じはずのイオンと初めて対面したとき、儚くて華奢な男の子のイメージだったのにわたしよりも目線がかなり高いところにあって地味にショックだったのは内緒の話だ。ティアもわたしより三つも年下なのにかなりスタイルが良いので、ティアと同い年のアリエッタが小柄なことに内心ほっとした。よしよし。かわいがりたい。
「(…………リグレットさん………)」
「導師イオンは見つかったか?」
「セントビナーには訪れていないようです」
「イオン様の周りにいる人たち、ママの仇…。この仔たちが教えてくれたの。アリエッタはあの人たちのことを絶対許さない…」
「導師守護役がうろついてたってのはどうなったのさ」
「マルクト軍と接触していたようです。もっともマルクトの奴らめ、機密事項と称して情報開示に消極的でして」
「俺があの死霊使いに遅れをとられなければ、アニスを取り逃がすこともなかった。面目ない」
六神将のリグレットさん、桃色髪で魔物を連れた少女アリエッタ、仮面をつけた緑髪の少年シンク、大柄な黒ずくめの男ラルゴは番兵からの報告を受けて各々言葉を交わす。ラルゴはタルタロスでジェイドさんの槍にお腹を刺されていた筈だけど、それを感じさせないしっかりとした佇まいでいた。いくらなんでもそんなすぐに塞がる傷じゃないだろうに、すごすぎる。そしてそろそろか…?と思っていると案の定、仰々しい空飛ぶ椅子に腰掛けた痩せ型の男、ディストがどこからか飛んできた。
「(わたしより脚が細い)」
「ハーッハッハッハッハッ!だーかーらー言ったのです!あの性悪ジェイドを倒せるのは、この華麗なる神の使者、神託の盾六神将、薔薇のディスト様だけだと!」
「薔薇じゃなくて死神でしょ」
「この美し〜い私がどうして、薔薇でなく死神なんですかっ!」
「過ぎたことを言っても始まらない。どうするシンク?」
「エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ」
「しかし!」
騒ぐディストさんを無視して進められる会話。兵を退かせると言うシンクにラルゴが食い下がる。
「アンタはまだ怪我が癒えていない。死霊使いに殺されかけたんだ。しばらく大人しくしてたら?それに奴らはカイツールから国境を越えるしかないんだ。このまま駐留してマルクト軍を刺激すると、外交問題に発展する」
「おい!無視するな!それに兵を全て退かせるのは困りますよ。タルタロスから逃げ出した黒髪の少女もジェイドたちと行動していたのでしょう?リグレット。私は彼女に用があります」
「…ああ。その話は後で詳しく聞かせてもらうぞ、ディスト」
「アンタの用事はアンタの部下に任せればいいだろ。くれぐれも街のやつらを刺激しないでよね。…ラルゴ、指示」
「承知した。伝令だ!第一師団!撤退!」
「「了解!」」
ラルゴの指示で番兵たちは撤退していき、リグレットさんたちも街の外へ移動していった。おざなりな対応をされ、一人置いてけぼりにされたディストさんはわなわなと震えていきり立つ。「きぃぃぃっ!私が美と英知に優れているから嫉妬しているんですねーーーっ!!」
「しまった……ラルゴを殺り損ねましたか」
「あれが六神将…初めて見た」
「六神将ってなんなんだ」
しまったと顔を顰めたジェイドさんと、六神将を見て感心したような声を漏らすガイ。六神将を知らないルークに、神託の盾の幹部六人のことだとイオンが説明する。黒獅子ラルゴに死神ディスト、烈風のシンク、妖獣のアリエッタ、魔弾のリグレット。鮮血のアッシュだけはこの場にいなかったと付け加えるガイ。
「彼らはヴァン直属の部下よ」
「ヴァン師匠(せんせい)の!?」
「六神将が動いているなら、戦争を起こそうとしているのはヴァンだわ……」
「六神将は大詠師派です。モースがヴァンに命じているのでしょう」
「大詠師閣下がそのようなことをなさるはずがありません。極秘任務のため、詳しいことを話す訳にはいきませんが、あの方は平和のための任務を私にお任せ下さいました」
ティアがヴァンの名前を出すとルークが食いつく。ルークはお屋敷でヴァンに剣を習っていたから、いっとう彼に懐いているのだ。対してティアはヴァンの実の妹でありながらヴァンを討つためルークのお屋敷に侵入しており、加えて教団では中立派とはいえ大詠師モースの部下でもあるから、ヴァン大好きなルークと導師であるイオンと軽い言い争いが起きてしまった。争っているのは主にルークとティアだけど。兄ならやりかねない、と言い放ったティアに激昂したルークが「お前こそモースとかいう奴の回し者じゃねえのか!?」と言い出したところで、「二人とも、落ち着いてください」とジェイドさんの仲裁が入る。
「そうだぜ。モースもヴァン謡将もどうでもいい。今は六神将の目をかいくぐって戦争をくい止めるのが一番大事なことだろ」
「…そうね。ごめんなさい」
「…ふん。師匠を悪く言う奴は認めねぇ」
「喧嘩は終わりましたか。それに彼らはもう一つ重要なことを言っていましたよ。……ハナ、ディストが言っていた『黒髪の少女』とはあなたのことでしょう」
「う、あ、やっぱり?わたしも薄々そうかと思ってました」
いきなり話題がわたしに移ってびくりとする。この世界、茶髪はいてもこげ茶や黒の髪色の人は実はわりと少ない。普通にいるにはいるが。"物語"にない会話だったからそうかもな〜とは思ったけど、ジェイドさんも言うんだから本当にわたしを狙って…いたのはディストさんらしい。となるとグランコクマで誘拐されたときの手際の悪さもわかるかも、と失礼なことを考えた。
「なんであのディストさん?がわたしを探すんだろ」
「それはわかりませんが、奴は自分の部下をこの街に残すようでした。ここの駐軍にあなたの身柄を預けようと思っていましたが、むしろ危険かもしれませんね」
「あっ!そうだ、ディストさんの軍の兵士が残っちゃった…!どうしよう、みんなの移動に差し支えちゃうかも」
「神託の盾の中でも特に統率が取れているラルゴの軍が退いただけでもだいぶ違うと思いますよ。ディストもマルクトとの対立を避けるためにそう多く兵を置くことはしないでしょうし、慎重に行けばきっと大丈夫です」
ここで敵は全員いなくなるはずがわたしのせいで"物語"と違う展開になってしまったと焦ると、イオンがそうフォローしてくれる。よ、よかった…。というか、わたしはここに預けられるはずだったのか。でもセントビナーには引き続きディストの部下が張るらしいし、ジェイドさんの言うとおりこの街に留まるのはむしろよくないのかもしれない。うーん、わたしはどこへ行ったらいいんだろう。「まあ、あなたのことは追々考えます。まずは基地に行きましょう。一人にしておくこともできませんから、すみませんがもう少し付き合ってください」とジェイドさんがわたしに謝るので、いやいや滅相もない、行きますと意味を込めてわたしは何度も頷いた。
✱✱✱
基地に向かっている途中、男の子が駆け寄ってきてジェイドさんに話しかけた。
「おじさん、死霊使いって軍人知ってるか?」
「……ああ、知ってますねぇ」
「オレのひい爺ちゃんが言ってた。死霊使いは死んだ人を生き返らせる実験をしてるって」
「え……?」
男の子の言葉を聞いたルークが驚いた顔をする。わたしは思わずぎゅっと自分の服の裾を握りしめた。
「今度死霊使いに会ったら頼んどいてよ。キムラスカの奴らに殺された、オレの父ちゃんを生き返らせてくれって」
「そうですね。……伝えますよ」
「頼んだぞ!男と男の約束だぞ」
それだけ言うと、男の子はたたた、と走り去っていく。
「大佐、すごいですの!」
「おいおい、勝手な噂に決まってるだろ」
「そうだよな。本当なら、俺が頼みたいくらいだ」
「誰か亡くしたの?」
「一族郎党…な。ま、こんなご時世だ。そんな奴は大勢いるよ。ティアだって両親がいないんだろ。ヴァン謡将から聞いてるぜ」
「え、ええ……」
「……火のないところに煙は立ちませんがね」
「……ジェイドさん、」
子供の言葉をそう気に留めることもなく歩き始めたみんな。わたしは思わず立ち止まってジェイドさんの手袋をつまむように引き止めてしまう。
「どうしました、ハナ」
どうしました?わからない。手が勝手に動いてしまったのだ。
今の会話で、もちろんガイやティアのことも気がかりだった。でも、それ以上にジェイドさんのことが。
これはわたしがこの世界にやって来る前、みんなとみんなの"物語"を画面越しに眺めていたときからずっと思っていたことだ。
ジェイドさんは"死者を蘇らせる" ―――レプリカの技術を生み出してしまったこと、それによって苦しむ人々を生んでしまったことの罪を、これまでも、これから先も一人で背負っている。ジェイドさんは大人だから、頭がいいから、一人でも背負えてしまうのだ。
でも、それってすごく辛い。かなしい。ジェイドさんの親友のピオニー陛下や妹のネフリーさんも、大人になってしまったからこそジェイドさんとの間に無意識に大人の線引きをしてしまっていたり、立場があってジェイドさん個人に踏み込みきれないでいるところがあった。
だからこそこの先の"物語"で彼らはジェイドさんのことをルークに任せたけれど、ジェイドさんもルークも、どれだけお互い対等な友になれたとしても、彼ら同士はお互いの持つ"痛み"は絶対に分かち合うことはできない……と思う。生んだ者と生み出された者の痛みはちがうから。
まだ子供のルークたちは、それぞれ愛する人がいる彼らは、お互いに心を許し合って、頼ることができる。支え合うことができる。
じゃあ、ジェイドさんは?
「……ううん。なんでもないです。行きましょ」
ジェイドさんが、誰かに寄りかかれることの楽さを知ることができたら。そんな存在をいつか見つけてくれたらいいなと、思った。