外殻大地編
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「う……!ぐ、また……か…!」
「ルーク!?」
ケセドニアに到着してすぐ、ルークが痛みを堪えるように頭を抱えこんだ。
「ルーク!またか?頻繁になってきたな…」
「…大丈夫。治まってきた」
「いや、念のため少し休んだほうがいい」
「そしたら宿に行こうよ。イオン様とハナのこともどうするか考えないと…」
ガイの進言ととアニスの提案で、わたしたちは宿へ向かう。ルークの頭痛は心配だけど、あれは体調のせいではなくてアッシュやローレライがルークに干渉しようとして起こる頭痛のはずだ。休んでちゃんと気分が回復すればいいのだけど。
「う……!」
宿屋の手前で、再びルークが呻きだす。そしてあろうことか、心配して近づこうとしたティアに剣を突きつけた。アッシュに体を操られているんだ…!
「ルーク!どうしたの!?」
「ち……ちが…う!体が勝手に……!や、やめろっ!」
「ルーク!」
ルークは藻掻くように苦しんで、意識を失ってしまった。地面に倒れかけた彼をガイが受け止める。目を伏せたルークの表情は苦しげに歪められていた。
わたしたちは急いでルークを宿屋に運び込み、彼が目覚めるのを待った。
勝手に体を乗っ取られて操られる恐怖はどれだけだろう。生まれてから本当はたったの七年しか経っていなくて、箱庭で育った故にわけのわからないことだらけの苦しみは。もうすぐ彼が背負うことになる罪と命の重さは。
「(わたしには想像もつかない)」
もうすぐルークは望まず多くの人の命を奪ってしまうことになる。たくさんの人が不幸になる。凄惨な未来が来ることをわかっているのなら、避けたほうがいいに決まっている。
でも、わたしの知る"物語"では、アクゼリュスの崩落はルークの成長に必要不可欠。そしてこの世界をヴァンさんの計画から守るためにはルークの成長が必要不可欠だ。もし今からでもアクゼリュスの崩落を阻止できたとして、ルークの成長の機会を逃してしまえば、本当に全世界の人々が皆死んでしまうこともありえなくはない。
「(……わたしはどうしたら……)」
「…大佐。ルークのこと、何か思い当たる節があるんじゃないですか」
「……そうですねぇ」
「アッシュというあのルークにそっくりの男に関係あるのでは?」
「…今は言及を避けましょう」
「ジェイド!もったいぶるな」
「もったいぶってなどいませんよ。ルークのことはルークが一番に知るべきだと思っているだけです」
みんなもルークのことを心配して、事情を知っていそうなジェイドさんに問う。今までの状況でもジェイドさんは驚かず冷静でいたから、みんな何か知ってると思ったのかな。実際それは間違ってないし、ジェイドさんの『ルークが一番に知るべき』というのも間違ってないと思う。ただ、そのルークにだって今のジェイドさんは真実を告げないのだろう。告げたところでどうすることもできない、本人も周りも苦しめるだけの残酷な真実だから。
「……俺がどうしたって?」
「ご主人様が目を覚ましたですの!」
わたしたちが話している間に意識を取り戻したルークが身を起こす。あっ、という顔をするみんなを横に、しれっとした様子でジェイドさんは先程の話をはぐらかす。
「いえ、何でもありません。どうです?まだ誰か操られている感じはありますか?」
「いや……今は別に……」
「多分、コーラル城でディストが何かしたのでしょう。あの馬鹿者を捕まえたら術を解かせます。それまで辛抱して下さい」
「……頼むぜ、全く。ところでイオンとハナのことはどうするんだ?」
やはりジェイドさんはアッシュのことには触れず、ルークの体に起きていることについても深く言及することを避けた。そのまま話はわたしとイオンの今後について移る。どうするか、というルークの発言に続いて、ティアたちが今の自分たちの行動の目的について簡単に話してくれる。
それはわたしが"物語"で見た内容と相違なかった。
わたしたちが攫われた日、ルークは障気に脅かされるマルクトの街アクゼリュスへ派遣するキムラスカの救援隊の長として親善大使に任命されたらしい。ルークは預言に詠まれた『ローレライの力を継ぐ者』として、アクゼリュスを救うことで英雄になるのだと。
大詠師派の妨害を避けるため、ルーク誘拐の罪を着せられていたヴァンさんが海路をとって囮となり、陸路から行くルークに世話役のガイ、各勢力からジェイドさんとティア、イオンを探すためにアニスが同行し、愛国心と責任感の強いナタリアがそれにこっそりついてきてしまった、という流れ。
「とりあえず六神将の目的がわからない以上、彼らにイオン様を奪われるのは避けたいわね」
「もしご迷惑でなければ、僕も連れて行ってもらえませんか?」
「イオン様!モース様が怒りますよぅ!」
「僕はピオニー陛下から親書を託されました。ですから陛下にらアクゼリュスの救出についてもお伝えしたいと思います」
「よろしいのではないですか。アクゼリュスでの活動が終わりましたら、私と首都へ向かいましょう……ああっと。決めるのはルークでしたね」
「……勝手にしろ!」
「またしばらくよろしくお願いします」
イオンはしっかりとした自分の意見を持っている。誠意ある態度でそれを伝えられるから、アニスの反対もそっと退けて、ジェイドさんを納得させた。いまのルークとはまるで反対みたい。
「じゃあ、ハナは?ここからグランコクマに帰る?」
「………わたしは……」
「何か迷っていることでもあるの?」
「…えっと」
「迷いがあるなら、今すぐ決めなくても一晩考えたらどうだ?今日は宿を取ったし、俺たちの出発は明日になる」
ちょっと前のわたしなら、少し迷ってもすぐに帰ると頷けただろう。でもここにきて、とても迷ってしまっている。六神将全員と接して彼らの生と死を実感してしまったことや、アクゼリュスの崩落がすぐ手の届く目の前にあることで。わたしの持っているカードなら、望まず亡くなっていく人たちや、傷ついていくみんなも救うことができるのかもしれない。そう思うと、すんなり帰りますとは頷けなかった。
わたしの決断は後回しになって、ルークの意識も回復したので女子組は別に取った部屋へ去っていく。わたしもそれについて、もやもやした気分のままルークたちの部屋を出た。
✱✱✱
夜。みんなで食事をとって、お風呂も済ませた。服と靴を脱いだら小さな山ができるくらい砂が出てきて、ちょっとびっくりした。砂漠越えで疲れていたのだろうティアたちは既にベッドで眠りについている。わたしはベッドサイドのランプの小さな明かりをつけて、自分のノートを見つめていた。
「(……ねむれない、)」
ついて行くか、帰るか。決められない。ついて行くなら、未来改変のために行動する覚悟を決めなければならない。この先の未来を知りながら間近で見てみぬふりをするのは、きっともうわたしには耐えられないから。
場所を変えて、一旦考えをリセットしよう。そう思って部屋を出て下階に降りると、誰もいないと思っていたロビーの椅子には誰かが座っていた。
「……ジェイドさん?」
「おや、まだ起きていたんですか」
「ジェイドさんこそ」
そこにいたのはジェイドさんだった。もうみんな眠ったと思っていたのに。ジェイドさんはいつもの軍服の上着を脱いで、ゆったりと首元を緩めたシャツ一枚で何か書き物をしているようだった。
「陛下への報告を書いていたんですよ。バチカルを出発する時はバタバタしていてできませんでしたから」
「ああ、なるほど。もともと親書を届けたらそれで終わりのはずだったんでしたもんね。お邪魔しちゃってすみません」
「いえ、終わったところです。…あなたは、まだ悩んでいるんですか」
訊かれるかな、と思っていたことをやっぱり訊かれてどきりとした。…この際、相談してしまおうか。どうせジェイドさんには隠し事をしていることも中途半端に明かしているし、もうほんのちょっとだけ。一人で抱えて結論を出すには少し、苦しかった。
「……例えば。例えばですよ」
「またあなたの急な『もしも話』ですか?」
「はい。もしも……この先に起こる、とても悲しくて最悪な未来がわかっていたとして、それをどうにかしたいけど、自分が手を加えたらもっと悪いことが起こる可能性があるとしたら…どうしたらいいと思いますか」
…どこがほんのちょっとだろう。それなりに伏せるつもりが、例え話が下手すぎてほとんど正解を言ってしまった。
「それは預言のことですか?」
「預言……?」
預言。すこあ。言われてはたと気づいた。わたしの持つ"物語"の記憶とそのノートは、まるで星の記憶と預言そのものみたいじゃないか?
「………そうですね。預言、そう、預言のことです。すごく悪い預言を知ってしまったとき、ジェイドさんならどうしますか?」
「預言は守られるべき、というのが世の常識ではありますがね。……個人的には正直、わかりません。本当にそんな最悪な状況であれば…預言に従えば必ず救われると信じ続けることは、難しいのかもしれませんね」
「そっか…そうですよね。ジェイドさんでもわからないことはあるんですよね」
「人間ですからね」
「…そうですよね」
頭のいいジェイドさんにだって、わからないことがある。すぐには決断できないこともある。人間だから、それはそうだ。
わたしはきっと、この世界の人たちとおんなじだったのだ。預言に従えば幸せになれるからと晩ご飯のメニューすらも預言に頼る人たちと、預言通りに世の中を進めるために意図的に戦争を起こそうとするモースと、同じ。預言に縋りすぎて、預言の奴隷のようになってしまっている彼らの姿を、わたしは否定していたはずなのに。
「…何か吹っ切れたみたいですね」
「……うん。決めました。ジェイドさん、わたしもアクゼリュスについて行きたいです」
「…アクゼリュスは現在、高濃度の障気が蔓延しています。大詠師派の妨害もなくなった訳ではない。今まで同様か、それ以上に危険が伴いますよ」
「それでも。わたしなんかでも、精一杯働けばアクゼリュスの人たちの力になれるはずです。決めたんです。怪我しても病気になっても、文句は言いません」
「……決定するのは親善大使殿ですよ。まあ、人手が必要なのは事実です」
「、じゃあ」
「私は正直反対ですが、止めても聞かなそうですから」
近頃ずっと何か考え込みがちだったのは、そのことではありませんか?と、ジェイドさんに図星を突かれる。本当に何でもお見通しなんだなあ。足手まといのわたしでも、それを踏まえて同行を許してくれると言っているのだ。わたしはずっと、ジェイドさんの優しさに感謝しっぱなし。
「ありがとうございます。ジェイドさんのお陰で…ちょっと気持ちが軽くなりました。明日も早いので、わたしお先に失礼しますね。付き合わせちゃったわたしが言うのもなんですけど、ジェイドさんも早く休んでください」
「それは良かった。私はこれを片付けたら戻りますよ」
「そっか。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
ジェイドさんに挨拶をして、足音を立てないように女子部屋に戻る。不安はまだあるけれど、決意を固めたお陰で嫌なもやもやはなくなった。これでベッドに入ってもきっと眠れそうだ。
「(ジェイドさんに相談してよかった)」
ジェイドさんと話をして、決めた。わたしはわたしのできる最大限で、未来を変えたい。わたしが関わってどうなるかなんて今考えてもわからないのだから、それならば救える人たちを救う努力をしたい。知っているのに何もせずじっとしていることも、この世界に来てからできた大切な人たちが傷つくのも嫌だから。
✱✱✱
「ルーク、みんな。わたしもアクゼリュスに連れて行ってほしい」
翌朝、みんなが集まったロビーで言った。みんなそれぞれ「危険だから」と反対してくれたけど、もう決めたから、力になりたいからと意思を伝える。
「それに、わたし治癒術を使えるようになったから、きっと役に立てるところもあると思う」
「……それは聞いていませんねぇ」
「あっ」
「えー!ハナいつの間に!」
「すごいですの!」
「ハナがそこまで言うんだったら、私は反対しないわ」
「ええ。人の助けになるために行動することは素晴らしいことですもの。私は反対できませんわ」
「そりゃあナタリアはな…。ルーク、どうなんだ?リーダーはお前なんだろ」
「何でもいいよ。俺はさっさと師匠のところに行きたい」
うっかり言い忘れていた治癒術のくだりはジェイドさんにジロッと見られたけど、無事みんなの了承も得られた。遺跡で治癒術を使ったことを簡単に話すと、「あの時そんなことが…」とイオン、「ハナがシンクを治さなければあのときあんなに苦戦しなかったのに〜」とアニス。そんなこと言われても。
わたしがこの先もついて行くとなって、改めてナタリアとも挨拶をした。「ここでの私は身分を捨てていますから、楽に話して頂いてかまいませんわ」とのことなので、遠慮なくそうさせてもらうことにして握手を交わす。
「じゃ、次に向かうのはマルクトの領事館だな。ヴァン謡将が待ってるはずだ」
ガイの言葉で、わたしたちはマルクト領事館に向かう。しかし、領事館にヴァンさんの姿はなかった。
海路でケセドニアまで来たヴァンさんは、領事さんにわたしたちへの言伝を残して先遣隊と共に一足先にアクゼリュスへと向かったという。
えー!?と不満を漏らすルーク。その横でいきなり、ガイが急に苦しそうに片膝をついた。腕を抑えて蹲る彼は、「ガイ!?」と駆け寄ったルークを片腕で振り払って、尻餅をつかせてしまう。いつものガイならば考えられない乱暴さだ。
「いてて…!お、おい。まさかおまえもアッシュに操られてるんじゃ」
「いや……別に幻聴は聞こえねぇけど…」
ジェイドさんが近づいて、ガイが抑え込んでいる腕を診る。
「おや。傷ができていますね。…この紋章のような形。まさか『カースロット』でしょうか」
「カースロット?」
「人間のフォンスロットへ施す、ダアト式譜術の一つです。脳細胞から情報を読みとり、そこに刻まれた記憶を利用して人を操るんですが…」
「俺は平気だ。さっさと船に乗って、早いトコ、ヴァン謡将に追いつこうぜ」
ルークはガイを心配したが、イオン曰くカースロットを受けた者は術者から離れたほうがいいらしい。発作が今起きたなら術者はこの近くにいるはず。ガイのためにも、わたしたちはすぐにカイツール行きの船に乗ってケセドニアを離れた。
「(………カースロット?)」
✱✱✱
カイツールに着いて、国境を越えてから北東に向かった先。わたしたちはデオ峠に到着した。ここを越えればすぐアクゼリュスだ。でも、確かここではリグレットさんと対峙することになるはず。嫌だなあ、と気持ちが沈む。
「ちぇっ。師匠には追いつけなさそうだな。砂漠で寄り道なんかしなけりゃよかった」
ルークが不満げに愚痴を漏らし、その言葉に反応したアニスが食ってかかった。
「寄り道ってどういう意味…!…ですか」
「寄り道は寄り道だろ。今はイオンがいなくても俺がいれば戦争は起きねーんだし、ハナだって別に危なくなかったんだろ」
「あんた……バカ……?」
「バ、バカだと……!?」
ルークの周りが見えていない発言に、今までルークに媚を売るようだったアニスの態度が剥がれる。当然だ、アニスはイオンを護る導師守護役なんだから。でも、
「ルーク、私も今のは思い上がった発言だと思うわ」
「この平和は、お父様とマルクトの皇帝が、導師に敬意を払っているから成り立っていますのよ。イオンがいなくなれば、調停役が存在しなくなりますわ」
「いえ、両国ともに僕に敬意を持っている訳じゃない。『ユリアの残した預言』が欲しいだけです。本当は僕なんて必要ないんですよ」
「そんな考え方には賛成できないな。イオンには抑止力があるんだ。それがユリアの預言のおかげでもね」
「なるほどなるほど。皆さん若いですね。じゃ、そろそろ行きましょう」
ルークの発言から険悪になりかけた雰囲気を、ジェイドさんがどう見ても強引に切り上げた。一人ですたすた歩いていく彼を見て、ガイも「食えないおっさんだ」と溜息を吐く。しかし、会話が終わっても、今ので仲間内の関係に確実に亀裂が入ってしまった。
きつい峠道を登りながら、この雰囲気を憂う。狭い世界しか知らないルークは、自分を信じてくれるヴァンさんとその言葉を崇拝しきっていて今は周りが見えていないのだ。普段はもっと優しくできる人なのに、ヴァンさんの「英雄になれば開放される」という言葉だけを信じ込んで盲目になってしまった。ルークの事情とみんなの常識のギャップがコミュニケーション不足を招いて、大きなすれ違いを起こしてしまっている。
今のルークを頭ごなしに叱ってはだめだ。刺激しないように話しかけてわかってもらおうとしたとき、険しい峠道に疲弊したイオンが座り込んでしまった。
「はぁ……、はぁ、はぁ」
「イオン様!……みんな、ちょっと休憩!」
「休むぅ?何言ってんだよ!師匠が先に行ってんだぞ!」
「ルーク!よろしいではありませんか!」
「そうだぜ。キツイ山道だし仕方ないだろう?」
「親善大使は俺なんだぞ!俺が行くって言えば行くんだよ!」
「ア……アンタねぇ!」
大切な人を蔑ろにされて、ついにアニスの堪忍袋の緒が切れてしまった。激しい言い合いになりそうになった流れを、「少し休みましょう。イオン様、よろしいですね?」とまたもやジェイドさんが断ち切る。それに反発したルークだが、弱ったイオンの様子に渋々と引いた。……アニスとルークはこれで完全にばらけてしまった。一時休憩となって、ティアが一言二言何かを話しかけてからは、みんなルークの方には近づこうとしない。
「……ルーク、」
「…んだよ、お前も説教かよ」
「ううん。ルーク、ごめんね。これまでもルークは先を急ぎたいのに、わたしのために何度も遅れちゃったことがあったよね」
「………」
ゆっくりとルークに近づいて、彼に並び立つ。
「ルークとしては不本意だったり、イオンのついでだったりしたかもしれないけど、わたしはいつもルークに助けてもらえて嬉しかったよ」
「………」
「何もわからなくて心細い気持ち、優しくしてくれる人に頼りたい気持ち、わかるよ。でも、ルークの気持ちだけじゃなくて周りのみんなの気持ちも考えてみて。…ひとりぼっちになっちゃう前に」
「…うるさい。どっか行け!」
刺激しないようになんとか思いを伝えてみようとしたけれど、撥ね退けられてしまった。「人の気持ちを考えて」。アリエッタにも伝えたことだ。まだ幼い彼らに足りていないもの。
「(ここでルークからみんなに謝ってもらえたら、まだ雰囲気も良くなると思ったんだけどな…失敗)」
「ハナ、あんな奴に何話してたのか知らないけど、無駄だよ。自分のことしか見えてないバカだもん」
「アニス…」
「さっきのはかなりマズかったな。反省してもらうには、少し一人にしておいた方がいいんじゃないか」
「うん…さっきルークが言ったことは本当に良くないと思う。でもルークだってルークなりにアクゼリュスを救おうって思ってるんだよきっと。すごく不器用なだけで…それをわかってあげないと、叱ってもしょうがないんじゃないかと思って」
「その通りかもしれませんが、人が良いですねぇ」
みんなだいぶルークに不満を抱いてしまったみたいだ。イオンだけが申し訳なさそうな顔をしている。ルークが孤立してしまうこの状況をなんとかしたかったんだけど……せっかく行動するって決意しても、なかなかうまくいかない。難しいなあ。結局休憩が終わってまた進みを再開させるまで、ルークはみんなと一言も言葉を交わさなかった。
そして、峠道もいつの間にか下り坂へと変わり、もう少しで平坦な道に出るかというところ。先頭を行くルークの足元に、バシンと銃弾が撃ち込まれる。
「止まれ!」
鋭く響く声。崖の上から銃を構えてわたしたちを睨みつけていたのは、リグレットさんだった。