外殻大地編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……くっ、逃がしたか」
「ハーッハッハッハッ!ドジを踏みましたね、シンク?」
「アンタか。……あの女、ケセドニアにいたよ。奴らと一緒に船に乗った」
「なんですって?…そうですか、後はこの私に任せなさい。超ウルトラスーパーハイグレードな私の譜業で、あの陰湿なロン毛メガネをぎったぎたの………待てーっ!待て待ちなさい!私の話がまだ終わっていない、」
「あのガイとか言う奴はカースロットで穢してやった。いつでも傀儡にできる。アンタはフォミクリー計画の書類を確実に始末してよね」
「ムキーーーー!!偉そうに!!覚えていなさい!!復讐日記につけておきますからね!!」
✱✱✱
「なんとか逃げ切れたな」
「なんとか逃げ切れたなじゃないよ!わたしまで乗せちゃってどうするの!」
ふうと一息ついたルークに思わずつっこんでしまう。
シンクの追跡からぎりぎりのところで逃れて息を整えていたみんなは、ようやくわたしまで船に乗り込んでしまっていることに気づいた。
「ハナ!ついてきてしまったの?」
「ついてきたっていうか…連れてこられたっていうか…」
「まいったな。もう船は出ちまったぞ」
「わ、悪かったよ!あのシンクとかいう奴の攻撃が当たりそうだったからつい…」
ルークはばつが悪そうに頭を掻く。…そっか、助けようとしてくれたのか。確かにあのときはちょっと危なかったもんな。
「…わたしを助けようとしてくれたんだもんね。ありがとう。怒ってごめんね」
「…べ、別に…」
「怒っていいと思いますがねぇ」
せっかくルークがちょっと照れてかわいいんだから余計なことは言わなくていいんですよ。
「ここから先は完全にキムラスカですもんね。バチカルからグランコクマに戻るとなると検問とかめんどくさいよぅ」
「仕方ないね…。バチカルに着いたら帰りの船を調べないと…ケセドニアの宿代無駄にしちゃったなあ、もったいな………ハッ!!わたし今無銭乗船してる!!」
頭の中でぱちぱちと算盤を弾いて帰りの費用を計算していたら、この船の乗船料を払っていないことに気づいてしまった。引っ捕らえられたらどうしよう、とわたわたしていると、「そんくらい父上と伯父上の名前出せばなんとかなる」とルーク。ああ、身内の権力を振りかざすのもどうかと思うけど今はそれがありがたい。前科者になるのは嫌だ。
「ルーク様々だあ」
「よかったな、ハナ。……くそ、烈風のシンクに襲われたとき、書類の一部を無くしたみたいだな」
ガイが分厚い書類の束をぺらぺらと確認して渋い顔をする。コーラル城で取られたルークのデータやフォミクリーのデータが入ったディスクを奪って解析したやつだ。
「見せて下さい。……同位体の研究のようですね。3.14159265358979323846……これはローレライの音素振動数か」
「(円周率なんだな…)」
「ローレライ?同位体?音素振動数ぅ?訳わからねー」
うげぇという顔をしたルークに苦笑したガイとみんなが説明を加える。
音素は一定以上集まると視覚化され、それよりもさらに多く集まると自我を持つとされている。それを音素の意識集合体と総称し、ローレライというのは第七音素の意識集合体のことを指す。
第一から第六の音素と違ってローレライは未だ観測されておらず、存在自体が仮説とされている。
音素振動数とは全ての物質が発しているもので、同じ振動数を持つ個体は自然には一つとして存在しない万物の指紋のようなもの。人為的に同位体を作る研究は兵器に転用できるため、軍部からは注目を浴びているらしい。その研究データがあのフォミクリーに保存されていたのか。
「昔研究されてたっていうフォミクリーって技術なら、同位体が作れるんですよね?」というアニスの何気ない質問に、ジェイドさんとイオンは沈黙する。
「フォミクリーって複写機みたいなもんだろ?」
「いえ、フォミクリーで作られるレプリカは、所詮ただの模造品です。見た目はそっくりですが音素振動数は変わってしまいます。同位体はできませんよ」
意識集合体や同位体について、みんながすらすらと言葉を交わす。みんな詳しいなあ。これが常識なのだとガイは言っていたけれど。みんなにとっては常識でもそうでないルークには難しい話らしく、その後も続く研究資料についての会話にはついていけなかったのかついに聞くのを諦めた顔をしている。
「難しい話だね」
「ホントだぜ、みんなよくあんなつまんねー話ずっとしてられるよなぁ…」
あまり置いてけぼりにされるとルークは拗ねるので、すすすと横に寄って話しかけた。
「おまえもああいう話、わかるのか?」
「半々かな。丁寧に説明して貰えればなんとなくわかるけど、ぽんぽん言われるとわかんなくなっちゃうよ」
「…おまえも記憶障害なんだもんな……バチカルに着いたら、楽にマルクトに帰れるように伯父上に頼んでやるよ」
「え?でも…」
「おまえも散々だったんだろ。さっきはその…俺が巻き込んじまったし…俺が頼めばきっと旅費とかも融通してくれる」
「ルーク……」
「おまえビンボくせーからな」、ぷいっとそっぽを向きながらルークが言った。照れ隠しに吐いたであろう憎まれ口も気にならないくらい、わたしは感動してしまう。ルークは元々とても優しい人だけど、それを素直に表すのは珍しい。まさかそれを自分に向けて貰える日が来るとは。
「ありがとう。わたしルークと友達になれてよかったな」
「なんだよ急に…」
「お金持ちだからじゃないからね。ルークがルークだからだよ」
「……ふん」
思ったことをそのまま伝えたら、完全にそっぽを向かれてしまった。あらら、冗談と思われちゃったかな。でも、わたしが"物語"でルークのことを知っていなかったとしても、同じように思ったと思う。ちらりと覗く耳がちょっぴり赤いのでにやにやしていると、ジェイドさんたちの話も一段落ついたようだった。
丁度そのタイミングで、わたしたちのいる船室に一人のキムラスカ兵が駆け込んできた。
「た、大変です!ケセドニア方面から多数の魔物と…正体不明の譜業反応が!」
その直後、爆発音とともに船室に神託の盾の兵士がなだれ込んでくる。
「うわ…!」
「いけない!敵だわ!」
みんなは素早く戦闘態勢に入り、わたしはイオンとミュウを備え付けの二段ベッドの下段に引っ張り込む。巻き込まれないようにベッドのカーテンをしっかり閉めて縮こまった。
暫く武器のぶつかり合う音が響いた後、苦しげな呻き声と人が倒れる音が聞こえた。知らない男の人の声だった。ああ、死んでしまったんだ…。
人が死ぬことには未だ慣れるはずもないものの、人を殺さなければならない状況には少しずつ慣れてきてしまっている自分に複雑な気分になる。この世界では慣れなければならないことなのかもしれないが、できるならばこんなものに慣れたくはなかった。
音が止んだのを見計らってそっとカーテンを開けた。やはり倒れていたのは神託の盾の方で、その死体にはなるべく目を向けないように。
「やっぱりイオン様と親書をキムラスカに届けさせまいと…?」
「船ごと沈められたりするんじゃねぇか?」
「しかし水没させるつもりなら、突入してこないでしょう」
「じゃあ船を乗っ取るつもりだ!」
水没というワードを聞いて泳げないらしいミュウが震え上がったので大丈夫大丈夫と撫でて落ち着かせる。神託の盾の目的は船の強奪という結論に至ったみんなは敵より先に船橋を確保するために動くらしく、先程のようなことが起こるといけないので当然わたしとイオンもそれについていく。
なるべく敵と遭遇しないように気をつけながら船内を進む。船尾に来たところで「敵のボスはどこにいるんだよ!」とルークが言った。確かに敵を抑えるにはボスを倒してしまうのが一番手っ取り早いだろう。とっとと終わらせようぜ、とルークが言おうとしたちょうどそのとき、男性の濁った高笑いが辺りに響いた。
「ハーッハッハッハッ!ハーッハッハッハッ!野蛮な猿ども、とくと聞くがいい。美しき我が名を。我こそは神託の盾六神将、薔薇の…」
「おや、鼻垂れディストじゃないですか」
「薔薇!バ・ラ!薔薇のディスト様だ!」
「死神ディストでしょ」
高笑いの時点でわかりきっていたが、現れたのはディストさん。いつもの空飛ぶ椅子で上空から現れた彼は自分に酔いしれた顔で自己紹介を始めるものの、ジェイドさんに遮られてアニスにつっこまれている。ああ、漫才。これだから彼に対して警戒しきれない。
「黙らっしゃい!そんな二つ名、認めるかぁっ!薔薇だ、薔薇ぁっ!」
「なんだよ、知り合いなのか?」
「私は同じ神託の盾騎士団だから…。でも大佐は…?」
「そこの陰険ジェイドは、この天才ディスト様のかつての友」
「どこのジェイドですか?そんな物好きは」
「何ですって!?」
「ほらほら、怒るとまた鼻水が出ますよ」
「キィーーー!!出ませんよ!」
他のみんなをそっちのけでおちょくるジェイドさんとキレるディストさん。「あ、あほらし……」「こういうのを置いてけぼりって言うんだな…」と、この旅でジェイドさんの性格を散々理解したみんなは二人の関係性をなんとなく察知したようだった。
「…まあいいでしょう。さあ、音譜盤(フォンディスク)のデータを出しなさい!」
「これですか?」
ジェイドさんが手に持っていた書類の束を掲げる。瞬間、目にも止まらぬスピードでディストさんがそれを奪い取った。
しかし忘れないでほしいのだけど、ディストさんはどでかい椅子に座ったまま飛んで移動しているのだ。当然今の動きも椅子に座ったまま、ジェイドさんの間近まで飛びかかって書類を奪った。そしてわたしはジェイドさんの近くにぼけっと突っ立っていた。わかるだろうか。すごく危ないのだ。
ゴスッ、と頭が鈍い音を立てた。
「いっった!!!!!!!!」
「ハナ、大丈夫!?」
「すごい音したな…」
「何をしているんですかあなたは」
「だって…!だって…!」
脳が揺れそうな衝撃とさして心配していないジェイドさんの声に涙が出た。椅子込みでの自分の大きさをわかっていないディストさんが悪いのだ。どうしてわたしはいつもこう締まらないのか。
「アーッ、すみませんハナ!!キーッ、あなたが油断してこんな簡単に書類をぶら下げたりするからハナにぶつかってしまったじゃありませんか!可哀想に!」
「盛大な責任転嫁はやめてください。書類なら差し上げますよ、内容は全て覚えましたから」
「!! ムキーーーーー!!!猿がどこまでも私を小馬鹿にして!この私のスーパーウルトラゴージャスな技を食らって後悔するがいい!!」
ずしん、重たい音とともに船が大きく揺れる。うっ、酔いそう。痛みに悶えて目を離しているうちに、いったいどこから出してきたのかと言いたくなる巨大なロボットが甲板に現れていた。
「この私のかわいいカイザーディストRの強さの前に!跪きなさい!」
「うわ、なんだこれ、でけぇっ!」
「来ます!構えて!」
ジェイドさんの号令に全員が構えを取り、戦闘が始まった。「双牙斬!」「孤月閃!」「流影打!」ルークとガイが果敢に切りかかり、カイザーディストが気を取られたところをアニスが巨大化させたトクナガで殴りかかった。前衛組がカイザーディストの動きを止めているところに、ジェイドさんとティアの譜術をぶつける。うまく連携の取れた攻撃だけど、普段戦う魔物と違ってなかなか攻撃が通りにくい。
「くそっ、硬いな…!」
「ハーッハッハッハ!そんな攻撃が私の譜業に効くわけがないでしょう!」
「ぐぅっ…!」
魔物と違って譜業であるカイザーディストには物理攻撃が効きにくいのだ。ドリルと鋏のついたリーチの長い両腕が振り回され、まともに食らった前衛組に大ダメージが入ってしまう。
「命を照らす光よ、ここに来たれ!ハートレスサークル!」
ティアがすかさず回復術をかけるも、このまま続けていたらすぐにルークたちが消耗してしまいそうだ。何かわたしにも手助けできることはないか。ええと、確か、カイザーディストは機械だから…!
「ジェイドさん、ティア!水!水!」
「…なるほど、ティア!」
「わかりました。アピアース・アクア!」
「荒れ狂う流れよ…スプラッシュ!」
わたしの言わんとすることをすぐに理解してくれたジェイドさんがティアに指示を出し、ティアもすぐに頷いてカイザーディストの足元に第四音素を集めた。そこに重ねるように、ジェイドさんが水属性の譜術を放つ。激しい水流をぶつけられたカイザーディストが初めて仰け反り、ティアのサポートとジェイドさんの術によってその場に青色のFOFが浮かんだ。
「これが弱点…!ガイ!」
「ああ!雪月花…ってな!氷月翔閃!」
仰け反って防御を緩めた隙に、浮かんだFOFでガイが剣撃に氷を纏わせてカイザーディストの心臓部を斬りつける。弱点属性の重い攻撃をを連続して受けたカイザーディストの機体は砕け、黒煙を上げた。
「あぁーーーっ!!私のかわいいカイザーディストRが……!」
「おらぁっ!吹っ飛べ!」
「ぎゃあ!!」
とどめにルークが音素で強化した掌底打ちを食らわせ、吹き飛んだカイザーディストの爆発はディストさんを巻き込んではるか上空まで消えていく。
「うわ……」
「殺して死ぬような男ではありませんよ。ゴキブリ並の生命力ですから。それより船橋を見てきます」
「俺も行く。女の子たちはルークとイオンとハナのお守りを頼む」
「あれ?ガイってば、もしかして私たちが怖いのかな?」
「……ち、違うぞ。違うからなっ!」
児童向けアニメのばいきんみたいにキラーンと飛んでいったんだけど、そんなこと気にする様子もないジェイドさんはガイと一緒に船橋の確認に行ってしまう。
「俺たちは…」
「怪我をしている人がいないか確認しましょう」
「そうですね」
「平和の使者も大変ですよねぇ……」
「…ホントだよ」
残ったみんなも船内の人たちの無事を確認しに散っていく。ディストさんはまあほんとに無事だけど、みんな清々しいくらい気にしないんだな……。