外殻大地編
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※捏造を多分に含みます
血液検査、血圧検査、眼底検査、心電図、レントゲン。よくわからない機械、よくわからない機械、よくわからない機械。
「ディストさーん、次は?」
「音素振動数測定と身体の音素量測定です」
「またよくわからない機械だ」
ダアトのディストさんの研究室に連れて行かれてから、ディストさんの言っていた言葉通りいろいろな検査をさせられた。実験台に縛り付けられてメスとか取り出されたら全力で抵抗しようと思っていたけど、そんな風でもなかったので大人しく指示に従っている。何をしてるかわたしにはよくわからないものもあるが、気分は学校の健康診断だった。
「誘拐までして何されるんだろうって思ってたのに、こんな簡単だったら普通に言ってくれれば協力しましたよ」
「あなた肝が座りすぎじゃないんですか?」
「うーん」
確かに初対面の年上の男の人にいきなり連れ去られていろいろ体を調べられたら怖いかもしれない。けどまあ、わたしはこの人が鼻を垂らしていた過去を知っているしなあ。どうにも本気の警戒をしきれないというか。いや、本気を出したら危険な人物ではあるのだろうけど。
「ディストさんが優しいから警戒する気にならないのかもしれないですね〜。どっちかって言うと椅子のほうが怖かったです。あ、これつけてじっとしてたらいいんですか?」
「ええ、5分ほど。…あなたが私の何を知っているっていうんです」
「アニスにトクナガを作ってあげたんでしょう。ジェイドさんともお友達だし。ジェイドさんは意地悪だけどなんだかんだいい人だから、そのお友達のディストさんもいい人ですよきっと」
「何故それを!」
「ジェイドさんとかアニスとか六神将の人たちとのお友達エピソードないんですか?聞きたい」
検査の待ち時間が暇だったのでそう訊いてみる。ディストさんの話が聞きたいな〜、と強請ってみると、「聞きたいですか!!この美しい私と天才ジェイドの麗しき青春時代を!!!」と嬉嬉として語りだしてくれた。話を振られるのを待っていたのか?と思うくらいスラスラハキハキと喋るディストさんの話は到底5分に収まらない。愛がすごいなあ……。でも話の登場人物が(一方的に)知ってる人ばかりだから聞いていて面白い。これがシンクとかだったら、話をしてと強請っても「うるさいよ」と一蹴されるか無視の二択だっただろうな。
「へー、スケート行ったんですか。いいなあ。わたしやったことないんです」
「この私の美しい滑りにはジェイドも賞賛の声を送っていたものですよ!」
「いいな〜。トリプルアクセルとかできます?」
「勿論!!」
子供の頃ジェイドと何をしたとかどこに行ったとか今のジェイドはどうだとか、アニスとの出会いとか六神将は自分に嫉妬しているとか。8割ジェイドさんの話題で埋め尽くされているディストさんの話は終わる気配がない。お喋り好きなんだな。わたしもグランコクマにいたときにこっそり観察していたジェイドさんのお気に入りのメニューなんかを教えてあげたりして盛り上がってしまい、ディストさんの部下の人(ライナーと呼ばれていた)が夕食をどうするか声掛けにくるまで、検査そっちのけで話し込んでしまった。
食堂に食事をとりに行こうとさも当然のようにわたしの手を引くディストさんに、えっ神託の盾の食堂にわたしも連れてっちゃっていいのかな?だめなんだろうな…と思う。しかし、「まだまだ聞かせる話はありますよ」と心なしか、いやだいぶ嬉しそうな彼にそれを言うのは憚られた。話し相手、普段から少なめなのかもしれない。
✱✱✱
翌朝。昨日の夜はライナーさんが用意してくれたかわいい毛布に包まって、ディストさんの研究室のソファーで眠った。朝ごはんを食べてから昨日やりきれなかった検査を終わらせて、今はディストさんが総合的な結果を出しているところ、らしい。
「これが終わったら帰れますか?」
「………まあ、結果次第です」
微妙な返事。帰れない場合もあるんだろうか。
「結局何を調べてたんですか?」
「あなたは知らなくてもいいことですよ」
「えー。わたし当人じゃないですか。…………わたしの譜術が大きくなるのと関係してることでしょ」
「っ、何故それを」
「えっ、当たっちゃった……」
そのことか、はたまた異世界から飛んじゃったことくらいしか心当たりがなかったので適当に言ってみたら当たってしまったらしい。わたしの反応を見てディストさんは「カマをかけましたね!?」とぷんぷんしている。
「こんなに調べたってことは、何か普通じゃないことがあるんでしょう。わたし知りたいです、わたし自身のこと。ね、お願いします。教えてください、結果、どうだったんですか」
「……………。…ハァ………。まあ、どうせいずれはわかることですからね…。
………あなたの体内からは、音素が発生しています。第一から第六、そして第七音素までの全ての属性の音素が、常時生まれ続けている」
「へ?」
仕方ない、という顔で話してくれたディストさんの言葉は、すぐには理解できなかった。な、なにそれ、どういうこと。
「あなたの一晩の間の血中音素や体を構成する音素、体の器官やフォンスロットなどを全て検査しました。結果、血中音素は常に増加の値を示し、体の音素量も常人とは桁違いの多さです。音素は腹部を中心に発生しているようですが、内臓器官は常人と同じ。発生源は不明でした。
……原因や仕組みはわかりません。ただ、人為的に誕生した第七音素が発生しているということは、あなたの体には記憶粒子か、それと同じ性質の別の何かも存在していることになる」
「…………?…それって普通は、」
「有り得ないことです。記憶粒子は本来地殻にあるもの。それに、音素を発生させる生物などこの世にはいない。ですが実際にあなたは体内から常に音素を生み出し、保有しきれなくなった音素がフォンスロットから漏れ出ている」
「なにそれ…、じゃあ、わたしの譜術が暴走したのは?」
「言った通り、あなたはその体質で音素のキャパシティが常人を遥かに上回っています。それが常時満たされていて、体外に逃がすためにフォンスロットを使い続けているためにその機能も発達している。譜術が強力になるのは当然だと思いますよ」
「…わたしに触れてたジェイドさんの譜術が大きくなったのは」
「……推測ですが、フォンスロットを通じてあなたがジェイドに音素を受け渡したのだと思います。普通、自分のキャパシティぎりぎりの量まで自力で音素を集められる人間は殆どいません。ですが、」
「……わたしがジェイドさんの集めた音素に上乗せして、最大量にした?」
「……おそらくは」
…なんだそれ。どうしてわたしにそんなこと。音素を出す?記憶粒子がある?生き物じゃ有り得ない?戦わない、譜術も使わない、そもそも音素や譜術なんて存在しない世界から来た、ただの普通の人間なのに。
――― それとも、異世界から来たから?
「…ディストさん」
「……なんです」
「それじゃあ、わたしはこの世界じゃ、人間じゃないんですか」
「………、その他の器官は全て普通の人間と変わりありません」
でも、はっきりとは否定してくれないのか。
やや間を置いて、「それ以外にも不可解な点がありました。あなたは―――」とディストさんが言いかけたとき、その続きを聞く前に、突然酷い頭痛が襲ってきてわたしはその場に蹲ってしまった。きぃん、と不快な耳鳴りがする。
「………っ痛ぅ…っ!」
「ハナ?どうしました!?」
「でぃ、ディストさ、」
――― めよ
「……なんか聞こえる…」
―――目覚めよ、早く……
フーブラス川で譜術を暴走させてしまったときのような、でもそれ以上の気持ち悪さが体全体に広がっていく。ざわざわ、びりびり。お腹の底から何かが湧き上がって、体全体が震える。頭が痛い。
これ、ルークが聴いている幻聴じゃないだろうか?ローレライがルークに語りかけているのを、わたしが盗み聞いているみたいだ。確か、ちょうど今頃はキャツベルトの……
「(でも、なんでわたしにまで)」
「ハナ、しっかりしなさい!聞こえますか、いきなりどうしたんです!」
「…っ、ディストさん、あたまが………っつぅ……っ!」
ディストさんの言葉に応える余裕もないくらい、どんどん頭痛が酷くなって、聴こえてくる『声』も次第にはっきりとしてくる。
――― 我が声に応えよ……我と同じ力を……!
瞬間、ぶつんと意識が途切れた。
◇◇◇
連絡船キャツベルトの甲板。いつもと何やら態度の違うティアと話していたルークは、その後はヴァンに会うために船尾の方へと向かっていた。
ルークを呼び出したのはヴァンの方だが、ヴァンはまだそこにはいなかった。先程ティアに教わった第七譜術士についてのことを頭の中で反芻しながら、ぼんやりと海を眺めていると、突然経験したこともないような強烈な頭痛がルークを襲った。
「……ってぇ……いてぇ……っ!」
頭を揺さぶられるような強い頭痛にルークは堪らず頭を抱え込む。すると、ルークの体が光り輝き、ルークの意思に反して勝手に動き始めた。まるで、操り人形になってしまったかのように。
「か、体が勝手に……!?なんで勝手に動くんだよ……!」
ルークの脳内にいつもの幻聴が響き、それに合わせて、勝手に突き出された両手の先に強い光が集まっていく。体が疼く。まるで幻聴の声の主がルークの体を操っているようで、どんどん輝きを増して自由がきかなくなる体に怯えたルークが叫ぶ。
「おまえが俺を操ってるのか!?おまえ何なんだ!やっぱり幻聴じゃ……、な、なんなんだよこれ、イヤだ、やめろぉ!」
「!! ルーク!!落ち着け!」
光とともに体の奥底から湧き出す疼きに耐えるのも限界になってきたとき、甲板にヴァンが現れた。ルークの様子を目に入れると、すかさず駆け寄って背後から肩を掴む。
「落ち着いて深呼吸しろ。……そうだ。そのままゆっくり意識を両手の先に持っていけ。ルーク。私の声に耳を傾けろ。力を抜いてそのまま……」と、冷静にルークに声をかける。ルークは次第に落ち着きを取り戻していき、やがて体の光が収まり自由がきくようになると、へたりとその場に座り込んだ。
「ルーク、大丈夫か」
「俺………一体何が………」
「超振動が発動したのだろう」
超振動?聞き覚えのある言葉にルークは鸚鵡返しをした。超振動、それはルークとティアがバチカルの屋敷からタタル渓谷に飛ばされる原因となった、第七音素が関係している現象。この旅の発端。ルークはそう記憶している。
ヴァンは語った。超振動は第七音素が干渉しあって発生する、あらゆる物質を破壊し再構成する力であり、本来は特殊な条件下で第七譜術士が二人いて初めて発生するもの。しかし、それをルークは一人で発生させることができる。記憶喪失のルークを守るためではなく、世界でただ一人、単独で超振動を発生させられる彼を飼い殺しにするために、今までキムラスカは彼を軟禁してきたのだと。
「訓練すれば自在に使える。それは戦争に有利に働くだろう。お前の父も国王もそれを知っている。だからマルクトもおまえを欲した」
「じゃあ俺は兵器として軟禁されてたってのか!?…まさか一生このまま!?」
「ナタリア王女と婚約しているのだから、軟禁場所が城に変わるだけだろう」
突然語られた信じられないような話に、ルークはそんなこと受け入れられないと頭を振る。誰よりも信頼しているヴァンの言葉だからこそ、その事実はルークの心を深く傷つけた。
「落ち着きなさい、ルーク。まずは戦争を回避するのだ。そしてその功を内外に知らしめる。そうなれば平和を守った英雄として、お前の地位は確立される。少なくとも、理不尽な軟禁からは解放されよう」
「…そうかな。師匠、本当にそうなるかな」
「大丈夫だ。自身を持て。お前は選ばれたのだ。超振動という力がおまえを英雄にしてくれる」
「英雄……。俺が英雄……」
ルークはヴァンの言葉を反芻する。
「……元気を出せ。ルーク。未来の英雄が暗い顔をしていては様にならないぞ。船が港に着くまでは今暫くかかる。船内で休んでいるといい」
ヴァンはそう言ってルークを船内へ促した。甲板にはヴァン一人だけが残る。
その時だった。ヴァンの頭上に、突然"何か"が現れたのは。
◇◇◇
「……う…………ん〜………?」
「あっ起きた!イオン様、ハナが起きましたよぅ!」
「よかった!ハナ、体の具合はどうですか」
「私みんなを呼んできます!」
目を覚ますと知らない部屋にいた。わたしはこのパターンが多すぎると思う。どうやらベッドに寝かされていたらしく、横になったまま視線をずらすとこちらを覗き込むイオンとアニスが目に入った。アニスがぱたぱたと部屋を出ていったあと、よいしょと身を起こして直前の記憶を思い出す。わたし、ディストさんの部屋にいたはずなんだけど。
「ここはどこ…?」
「ケセドニアに向かう連絡船の中ですよ。ハナ、体はなんともないですか?」
「…たぶん大丈夫…。イオン、わたしさっきまでディストさんの部屋に、」
「イオン様、大佐たち呼んできました!」
言いかけて、戻ってきたアニスの声に言葉を遮られる。アニスに続いてみんながぞろぞろと部屋に入ってきた。
「ハナ、大丈夫?何があったの?」
「何があったって言われても……わたしも状況がよく……」
「あなたは甲板に倒れていたそうです。あなたを発見したヴァン謡将がここに運びました。ディストに攫われたあなたが何故航行中のこの船にいたのか、心当たりは?」
「……わからないです。ディストさんの研究室にいたはずなんですけど、意識がなくなって、起きたらここに…」
どうしてわたしがキャツベルトに移動しているのか、わたし自身も全くわからない。変な頭痛で気絶して、起きたら船のベッドの上。寝てる間に何が起きたのか。
「そうですか。ではあなたは攫われている間に何を?」
「連れてかれた後は、ディストさんの研究室でいろんな検査をやって、それで……」
「それで?」
「…………なんでもない。それだけです」
つい嘘を吐いた。
『そんな生物はこの世にはいない』、ディストさんに言われたことが頭の中でリフレインして、言おうとした言葉が喉につっかえた。もしかしたら気持ち悪がられたりしてしまうかも。そうでなくとも、みんなの態度が悪い方に変わってしまったりしたら嫌だ。
それに、ディストさんの検査で明らかになったわたしの体質は、わたしが異世界から来たことと関わりがあるような気がしてならない。わたしがいろんな意味で異質であることを打ち明けるのは、まだ怖かった。
「攫われたと思ったハナをヴァン謡将が抱えてきたから驚いたぜ。大丈夫だったのか?」
「そうだ、おまえコーラル城で俺と一緒になんかされたんだろ?俺も何されたのか訳わかんねぇけどさ」
「港に着くまでまだ時間があるから、もう少し休んでいたら?落ち着いてから、これまでのことを話すわ」
「う、うん…ありがとう、そうする」
黙り込んだわたしを見てまだ調子が戻っていないと思ったのか、もう暫く休むようにとみんなが気遣ってくれた。ああ、ごめんね、体調が悪いわけじゃないんだけど。でもちょっと、考える時間は欲しいかもしれない。
また後でとみんなが部屋を出ていって、わたしとジェイドさんだけがこの場に残った。
「…ジェイドさん?」
「本当は何があったんです」
「え」
「なんでもない、という顔じゃありませんよ。ディストがわざわざあなたを連れ去ってまでして調べること……あなたの譜術のことと、関係がありますね」
うっ。バレてる。誤魔化したことはバレるだろうなと思っていたけど、その内容までズバリ言い当てられてしまった。しかも疑問系じゃない。
「……話さなきゃ駄目ですか」
「隠し事の多い人ですねぇ。あなたが戦えない一般人なのは挙動から見てもわかりきったことですが、こうも話してもらえないと本格的に疑わざるを得ませんよ」
「……」
「あなたは六神将のリグレットとも繋がりがある。アリエッタのライガにわざわざ近づいたことや、ディストに付け狙われていたこと。そもそも誘拐事件で私たちに合流したのも偶然ではなかったら?我々が今何のために動いているか考えれば、あなたの行動は十分不審です」
「そんな、和平を妨害しようだなんて思ってません!六神将ともそういう意味で繋がってなんてないし、本当です、でも………」
「でも、何です?」
ああ、ダメだ。いつもみたいにやれやれって溜息を吐いて、引き下がってはくれない。
「……ディストさんに、生き物じゃないかもって言われたんです」
「は?」
「あ、いや、そうは言われてないです!でもなんか、わたしの体は生き物では有り得ないらしくて」
「どういうことです」
「………実は……」
わたしはディストさんに言われたことをそのままジェイドさんに全て話した。こういう検査を受けて、こういう結果が出されたと。フーブラス川やコーラル城でのことも交えて話し終えると、ジェイドさんは「……そんなことが」と驚きを隠しきれていない様子で言った。
「……………」
「やっぱりわたし、変…なんですよね」
「…それで、私たちから気味悪がられると?」
「………だって」
それだけじゃないけど、そうも思っていたのは事実で。ばつが悪くて俯くと、ジェイドさんはやれやれと言うように首を振った。あ、いつもの『やれやれ』だ。
「確かにかなりの異例ではありますが、少なくとも今あなたはどこからどう見ても人間です。あなたは気にし過ぎなんですよ」
「ジェイドさん…」
「譜術は訓練すれば制御できるようになる。あとは検査と研究を重ねて、その体質との付き合い方を見つけていきましょう」
「…手伝ってくれるんですか?」
「その話が本当なら、興味がありますから」
…これは、励ましてくれてるのかな?いつもは事実だけずばっと言う印象だし、こういうのはなんだか珍しい気がする。自意識過剰かな。でも、
「…えへへ、ちょっと元気出ました。励ましてくれてありがとう、ジェイドさん」
「………どういたしまして」
「ジェイドさん、あのね。気づいてるかもしれないけど、わたし、まだジェイドさんに隠してることあります。今はまだ、言えないけど…みんなに迷惑かけることじゃないです。いつかわたしが言える勇気を持てたら、そのときは絶対にお話しします」
だからちょっとだけ待っててください。そう言って、右手の小指を立てて差し出す。「指切りです」「…子供ですか」「いいから!」、了承もされてないけれど、やや強引にジェイドさんの小指を取って絡めた。ゆっびきっりげーんまーん、数回振って離して、にっこり。自己満足。
「……はぁ、我ながら甘すぎますね。らしくない」
「甘いジェイドさんもわたしはすきですよ」
「すぐ調子に乗って」
いてっ。デコピン。