外殻大地編
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がちゃん。
こうじゃね?とルークが適当に玉を嵌め込むと、扉は呆気なく開いた。開けた本人を先頭にして、扉の奥、地下へと続く階段を下っていく。そして。
「なんだぁ!?なんでこんな機械がうちの別荘にあるんだ!?」
辿り着いたそこにあったのは巨大な機械。これからルークたちの"物語"に大きく関わってくる、フォミクリーの機械だった。
「これは……!」
「大佐、何か知ってるんですか?」
「……いえ……確信が持てないと……。いや、確信ができたとしても……」
ジェイドさんが戸惑いを隠しきれない様子で口籠る。ただの予想だけど、ジェイドさんもこんな大きさのフォミクリーを見るのは久しぶりなんじゃないだろうか。こんな大きな……、人間を作れるくらいの大きさのフォミクリーは。
いつも飄々とした態度で、それでいて冷静な判断を下すジェイドさんが珍しく狼狽えているのを見るとぐっと心が詰まる。冷静でいられるわけがない。生物レプリカは、ジェイドさんの最大の罪になってしまったものなのだから。
「珍しいな。あんたがうろたえるなんて…。……俺も気になってることがあるんだ。もしあんたが気にしてることがルークの誘拐と関係あるなら……」
いつもと違うジェイドさんの様子に、ガイが一歩前に出て言う。しかし言い切る前に、わたしたちの足元を一匹のネズミが通り過ぎる。「きゃーっ!!」と驚いて悲鳴を上げたアニスが、一番近くにいたガイの背中に飛びついてしまう。それを見たわたしたちがあっ、と思った瞬間、酷く怯えた顔をしたガイがアニスを乱暴に振り払った。
「……う、うわぁっ!!やめろぉっ!!」
「きゃっ」
「あ、アニス!」
思いきり振り払われたアニスを支えようとしてとっさに前に出てキャッチするも、「ふぎゃ」と支えきれず一緒になって尻もちをついてしまった。な、情けない……。けれど頭を抱えて蹲るガイもへたりこんだアニスも呆然としていて、みんなも異常なガイの怯え様に驚いたのかわたしの情けない様を気にされることはなかった。
「な、何…?」
「…あ……俺……」
「……今の驚き方は尋常ではありませんね。どうしたんです」
いくら女性恐怖症とはいえどもあまりの怯え方にジェイドさんが指摘をする。我に返ったガイも立ち上がり、座り込むアニスに手を差し伸べることはできないものの、謝罪をしたあと怪我がないか気遣った。
ただの女嫌いとは思えない挙動にイオンが質問するも、ガイ自身もこうなったきっかけの記憶がすっぽり抜けていてわからないのだと言う。
「おまえも記憶障害だったのか?」
「違う……と思う。一瞬だけなんだ…抜けてんのは。…………俺の家族が死んだときの記憶だけだからな。
俺の話はもういいよ。それよりジェイド、あんたの話を…」
「あなたが自分の過去について語りたがらないように、私にも語りたくないことはあるんですよ」
ジェイドさんがきっぱりとそう言うなり、シン…と場が静まり返ってしまう。き、気まずい……!!
「とっとりあえず、ここにずっといてもしょうがないから整備士しゃんをたすっ……助けに……行こうよ……………」
「………………」
「………………」
「………………」
場の空気を切り替えようと必死に言葉を絞り出したのに、思いきり噛んでしまって言葉が尻すぼみになる。みんなの視線が痛い。かあああ、と顔が熱くなる。だ、だって、『整備士さん』ってやたらさ行が多いのがいけないのだ。わたしは滑舌の良い方ではない。
「………ふふっ。そうね。今は話より優先することがあるわね」
「お前いつまで座り込んでんだよ。アニスとっくに立ち上がってんぞ」
「たしかに……よいしょ。……ねえそんなしらけた目で見ないで!!」
ルークに思いきり馬鹿にした目で見られたが、ティアがくすっと笑ったのを皮切りに場の空気が少し和んだ。やっぱり美人の微笑みは人の心を豊かにするんだな……。
立ち上がりながら「ジェイドさんとガイももう大丈夫?」と訊くと「あなたは自分の舌の心配をしたほうがいいんじゃないですかねぇ」「ああ、もう大丈夫だよ、ありがとう」と随分対極的な返答が返ってきたので、二人とももういつも通り。よかった。
✱✱✱
「うーん」
「どうしたのアニス」
「とりあえずルークと結婚する為にはティアが邪魔だというので暗殺計画でも立てているんですか?」
地下から外通路(通路と言っていいのか)を通って屋上へ続く階段を上っている最中、アニスが唸っているのでどうしたのか聞いたら、ぬっとわたしの後ろから顔を出したジェイドさんが物騒な見解をぶつけた。
「ちっがいますよぅ!ガイのことです」
「ああ、女性恐怖症ですね」
「あれだけマジびびりされちゃうと、からかいにくくなっちゃうとゆーか」
「………マジびびりで悪かったな」
「はぅあ!」
わたしたちの会話が漏れ聞こえたのか、ガイがアニスにじとっとした目を向ける。やば、という顔をしたアニスにガイは苦笑して、「いいさ。そんなに気を遣うなよ。からかわれている内になにげに克服できるかもしれないしな」と言う。あっ、ガイ、そんなこと言っちゃったら……ほら、ジェイドさんが楽しそうな顔をしている。よくないことが起こる予兆だ。
「大げさな反応をしたのは背中からでしたね。それだけ気をつけて、あとはいじり倒したらいいんじゃないですか?」
「了解!からかいまくります!ぺたぺたぺたぺた」
「あーあ…」
言わんこっちゃない。
「ややや……やめろぉぉおおおぉぉぉぉ…………」
「「ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた」」
「ジェイドさんがはしゃいでる」
「……も、ものには限度があるんだよっ!!それとジェイドも悪のりするなっ!」
「かぷっ」
「え」
「エッ」
かぷ?今……いま何をしたんだ!?文面ではわからないかもしれないけど、かぷっとしたのはアニスではない。わたしでもない。もちろんガイでもない。エッ。
「じ……ジェイドさんなに……?何してんですか…?ていうか何したんですか今?流れおかしくなかったですか?」
「ん〜?ハナもやってほしいんですか?」
「はれんち!!なんでそうなるんですか!うわガイ白目剥いてる……アニス今ジェイドさんなにしてた…?」
「ノーコメントで」
「えええ〜〜」
「さっ!とっとと進みましょう。整備士しゃんを救出しないといけませんからね」
「いっ!!意地悪!!」
それを蒸し返さなくても!!明らかにおかしい流れにしたのはジェイドさんなのに。ガイは未だに魂抜けてるし。本当に何をしたの。わたしもよく見えなかったけど、ルークやティアやイオンが目撃してなくてよかった。教育に悪い。アニスは大丈夫。わたしより大人だから。
「おい、いたぞ!」、先を行くルークが叫ぶのが聞こえた。ばっと階段の上を見ると、アリエッタのライガが屋上に登っていく後ろ姿がちらりと見えた。
「追いかけるぞ!」
「あっ…!待って、だめだよルーク!みんなで行かないと…!」
「ハナの言うとおりよ!罠かもしれない…!」
「ルーク、アリエッタに乱暴なことはしないで下さい!」
「おやおや、行ってしまいましたね。気が早い」
「ハナも追いかけてっちゃった…」
「……アホだなー、あいつらっ!」
ルークが一人で駆け出してしまうので、引き留めようとわたしも追いかける。"物語"でアリエッタと戦うときはいつもライガや他の魔物が一緒なんだから、孤立しては危ない!
えーと、屋上に上ったらまずはどうなるんだっけ。ノートの内容を思い出そうとしたけれど、その前にルークは屋上に到着してしまう。
「おい!整備士はどこだ…うわあっ!?」
「わ、ルーク!……きゃあ!!」
ルークが屋上に出た瞬間、アリエッタの大きな鳥の魔物がルークを空中に連れ去ってしまった。あーっ、そうだ、一旦ルークは地下に連れ去られるんだった…!肝心なところを覚えていない自分の役立たずさに軽く絶望していると、ぐわっと大きく旋回した魔物がルークを掴んでいるのとは反対の足でわたしの腰のベルトを掴んだ。えっ。
「えっちょっまっ…………あ゙ーーーーーーー!!!!まっまっまっまっ待って待って待って!!!!高い!!!高い!!!こわい!!!」
そのままぐんっと上がる目線。なくなる地面。あろうことかこの魔物、わたしまで持ち上げて飛び上がった。これアニスのポジションなんじゃなかったか。わたしが考えなしにルークについてきちゃったからいけないのか……。
ちなみにわたしにはこれだけは絶対に無理というものが三つある。一つは虫。二つは散財。三つめは、
「たかいところダメなのーーーー!!!!無理!無理!ルッルッるるルーク!ルーク!………死んでる………」
死んではいない。ルークは魔物に掴みあげられた拍子に気を失っていた。気を失わないで!わたしの恐怖を紛らわせて!お願いだから。むしろわたしが意識を飛ばしてしまいたい。
「ルーク!ハナ!」
「もう……なにやってるの……!」
「なにすんの、アリエッタ!二人を離しなよ!」
「うるさい!アニスなんか、アニスなんか……アリエッタのイオン様を取っちゃったくせにぃ!」
「アリエッタ!違うんです。あなたを導師守護役から遠ざけたのは、そういうことではなくて……」
みんなが屋上に到着して、捕まったわたしたちを見上げて何やってんだと叫ぶ。ごめんなさい。でもそれどころじゃないんです。
イオンがアリエッタに何か伝えようとしたのを遮るように、空飛ぶ椅子に座るディストさんが飛んで現れる。ちょうど真下に来たタイミングを見計らうように、わたしたちを掴んでいる魔物がぱっと足を開いた。
「わーーー!!ぐえ、うわうわちょっとまって、三人!椅子に三人は無理がありますよ!おち、落ちちゃう落ちちゃう、まって!」
「何ですか、喧しい娘ですね!あなた方には用があるんですよ」
「やだディストさん!動かないで!!こわい!!」
「ちょっ…苦し…」
気を失ったルーク共々ぼすんとディストさんの椅子に落とされるも、無駄に派手で大きいとはいえどう見ても一人用のそれに三人も乗っかっているのでは当然ぎゅうぎゅうだ。他に掴まれそうなところもなく、ちょうどいい所にあるディストさんの首に両手で腕を回してひしっとしがみつく。ぐえっと聞こえた気がしたが今回ばかりは無視させてもらう。何度も言うけど、高い場所は本当に苦手なのだ。
アリエッタは鳥の魔物に掴まってその場を去ってしまい、ディストさんも椅子を操縦してわたしたちを乗せたままみんなから離れていってしまった。そんなぁ。
残されたみんなはアリエッタのライガに足止めをくらってしまっている。今日のわたしはみっともないところしか見せていない。一体連れて行かれて何をされるっていうんだろう。
「大変ですの!ご主人様とハナさん、つれてかれちゃったですの!」
「ディストまで絡んでいましたか。やれやれですねぇ」
「早く助けに行かないと!」
「落ち着いてください。あの様子なら、命を取るつもりはなさそうです。それに彼らが一番必要としているはずのイオン様は、まだこちらの手にあるのですからね」
✱✱✱
ディストさんにつれてこられたのは、まあ知っていたんだけど、さっきのフォミクリーがあった地下。さっきと違うのは、そこにシンクが待機していたことだった。「遅いよ」と言うシンクに、「この娘が騒ぐせいで手こずったんですよ」と返すディストさん。さっきまで空を飛んでいた余韻が体にふわふわと残っていていつまでもディストさんと椅子にしがみついたまま離れられないでいると、「さっさと降りなよ」とシンクに首根っこを掴まれてべりっと椅子から剥がされる。あああ。
「…………………」
「……待って!!殴るのはやめて!!大人しくしてるから、なにもしないから」
そのままシンクがスッ…と手刀の構えをとったので慌てて止める。殴られると後々ずっと痛いので嫌だ。なにもしないというか、六神将相手にわたしではなにもできないし。なんとかやめてもらおうとわたわたしていると、シンクはなんだコイツと言いたげな雰囲気を醸したがややあって手刀を収めてくれた。
「なんなのコイツ」
「(あっ口に出して言うんだ)」
「別件で調べたいことがあるんですよ。ここではとりあえずすぐ終わりますから、レプリカは置いておいて先にやってしまいます」
そう言うなりフォミクリーの台の上にどんと突き飛ばされる。相変わらず受け身も取れずにべちゃりと倒れ込むと、「そのまま大人しくしてなよ」とシンクに言われ、ディストさんがフォミクリーを起動する。自分で大人しくしますと言った手前従うしかなく、いそいそと正座する。
「ほ〜う、やはりですか。…………ふむ、………、………………ん?これは……」
ディストさんは何やら難しそうな操作盤を動かしながらぶつぶつと言っている。何をしているんだろう。レプリカ情報とか抜かれてたら嫌だな。あれ、そこそこの確率で情報抜かれたあと数日後に死んじゃうんじゃなかったっけ……。えっうそ、怖くなってきた。
「あのぉ……」
「………ここでわかることは全て調べました。他は後に回します。次はそこのレプリカを」
「今なに調べてたんですか?」
「アンタはまだ知る必要ないよ」
「ぐぇ」
台上に座り込んだままでいると、邪魔だと言わんばかりに再びシンクに首根っこを掴まれてフォミクリーの外にぽいっとされた。いたい。乱暴だ。退かしたわたしの代わりに今度は眠っているルークをフォミクリーに乗せて、再びディストさんが操作盤を操る。
「な〜るほど。やはり音素振動数まで同じとはねぇ。これは完璧な存在ですよ」
「そんなことはどうでもいいよ。奴らがここに戻ってくる前に、情報を消さなくちゃいけないんだ。ただでさえこんな間抜けなオマケもいて時間を食ってる」
間抜けってわたしのことだろうか。
「そんなにここの情報が大事なら、アッシュにこのコーラル城を使わせなければよかったんですよ」
「あの馬鹿が無断で使ったんだ。後で閣下にお仕置きしてもらわないとね。……ほら、こっちの馬鹿もお目覚めみたいだよ」
「いいんですよ。もうこいつの同調フォンスロットは開きましたから。それでは私は失礼します。早くこの情報を解析して、こっちの検査も進めたいのでね」
操作盤から手を離しフォミクリーを停止させたディストさんは、横で突っ立っていたわたしを再びヒョイッと椅子の上に引っ張り上げる。うわあ、ひょろひょろなのにそこそこ力強い。じゃなくて。
「え、あの、これで終わりじゃないんですか?」
「これで終わりではありません。まだ調べることがあるので、あなたには私の研究室まで来てもらいます」
「ええ〜〜………!?」
そんなことがある?ルークはここでみんなと合流できるのに。「わたしアリエッタに呼ばれてたんですけど…」「アリエッタに呼ぶよう頼んだのは私です」 そんな。話しながらも椅子は既に床を離れて浮き上がっている。あああああ。もうあれは嫌だ。
フォミクリーの方に目を向けると、追いついてきたみんながルークを救出していて、ガイがシンクと対峙していた。「み、みんなぁ…!」、こちらに気づいたティアやアニス、ジェイドさんが目を見開く。情けなく出した呼び声虚しく、愛しい地面とみんなの顔はどんどん遠ざかっていった。うっ、もう下見れない。
「やだあああああ……せめてどこか掴まらせて………」
「思いっきり抱きついてるじゃないですか!!苦しいんですよ!!」
「せめて…せめてシートベルトとかなんでつけなかったんですか…」
ジェットコースターの安全バーみたいなやつとか。高いところが怖くてジェットコースターなんて一度も乗ったことないけれど。地上に降りたいわたしの願いは叶うことなく、乗用車なんかよりも余程速い豪速のディストさんの椅子によってわたしはダアトまでノンストップで運ばれた。五回くらい限界がきてその度もう死んだと思った。髪も服もぐちゃぐちゃなんだけれど、なんでこの速度と無防備な椅子のフォルムを両方採用してしまったんだろう。明らかに設計ミスです。