外殻大地編
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「な、なあ…あれ、煙上がってないか?」
カイツールの街から南に、軍港までの道を辿っていたわたしたち。ヴァンさんに言われた通りに海沿いに歩いていくと間もなく見えてきた港、そこから煙が上がっていることに最初に気づいたのは、先頭を歩いているルークだった。
「っ…!」
「あ、ちょっとハナ!?」
あの真っ黒な煙は普通じゃない。やっぱりアリエッタが港を襲ってしまったんだ…!それはそれで"物語"通りであるはずなのに、悲しくてたまらなくなってしまったのは中途半端に関わってしまったせいだろうか。気がついたら、いてもたってもいられなくて港に向かって駆け出していた。
✱✱✱
「っ、はあ、はあ……っ、アリエッタ……!」
カイツールの軍港に入ってすぐ、まず目に入ったのは地面や空を徘徊する魔物たちだった。ギャアギャアと響く鳴き声はタルタロスのときより随分少ないとはいえ、あのときの記憶をフラッシュバックさせられる。震えそうになる両足には気づかないふりをして港の入り口からそのまま奥に進むと、そこにいたのは傷を負って倒れているたくさんのキムラスカ兵と船の整備士さんたち。その中心に、この騒ぎを起こした張本人であろうアリエッタと、彼女を抑えようと剣を向けるヴァンさんが対峙していた。
「…………うぅ………」
「…………!!生きてる…!?」
アリエッタたちのことも気になったが、耳に響いたううう、という微かな呻き声にすぐさま意識をそちらに向ける。よくよく見れば、倒れている人たちは皆、腕や脚を深く切り裂かれて立ち上がれないようではあるが致命傷は避けられているように見えた。すぐに止血すれば、まだ助かる!
「いたわ!ハナ!」
「み、みんな!」
「やっぱり根暗ッタ!人にメイワクかけちゃ駄目なんだよ!」
「アリエッタ、根暗じゃないモン!アニスのイジワルゥ〜!!」
止血といっても何をどうすればいいのかわからず、とりあえず意味はないかもしれないけれど持っていた清潔なハンカチで一人の整備士さんの傷口を抑えていると、おいてきてしまっていたみんなが到着した。「おまえたちか」とヴァンさんもこちらに顔を向ける。
「何があったの」
「アリエッタが魔物に船を襲わせていた」
「総長…ごめんなさい…アッシュに頼まれて…」
「アッシュだと…」
アッシュ、という名にヴァンさんが一瞬隙を見せ、そこをついてアリエッタが大きな鳥の魔物の足を掴んで空に逃げる。
「船を修理できる整備士さんは、アリエッタがつれていきます。返して欲しければ、ルークとイオン様、それと…ハナがコーラル城へこい…です。三人がこないと……あの人たち……殺す…です」
そう告げてアリエッタは飛び去って行った。
「…ヴァン謡将、船は?」
「…!そうだ!ティア、ジェイドさん、みんな…!この人たちまだ生きてるの、わかんないけど多分全員、殺されてないよ…!お願い、治癒術をかけて、止血のやり方を教えて!わたしじゃ何も…!」
「落ち着いてハナ。わかった、直ぐに治癒をかけるわ」
「確認はまだだが、彼女の言うとおりおそらく死人は出ていないだろう。全員、敢えて殺さないような攻撃の仕方をしている……しかし、船の機関部はやられてしまったようだ」
港につけてある連絡船を見上げるヴァンさん。街道から見えた煙は、船から立ち上るものだったようだ。
「機関部の修理には専門家が必要だが、連れ去られた整備士以外となると訓練船の帰還を待つしかない」
「アリエッタが言っていたコーラル城というのは?」
「確かファブレ公爵の別荘だよ。前の戦争で戦線が迫ってきて放棄したとかいう…」
「へ?そうなのか?」
「おまえなー!七年前におまえが誘拐された時、発見されたのがコーラル城だろうが!」
「俺、その頃のことぜんっぜん覚えてねーんだってば。もしかして、行けば思い出すかな」
コーラル城のことを知らなかったルークにガイが呆れて説明する。呆れ顔にもどこ吹く風のルークだけど、コーラル城には少し興味が湧いたみたいだ。しかし、そんなルークにヴァンさんが釘を刺す。
「行く必要はなかろう。訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタのことは私が処理する」
「…ですが、アリエッタの要求を無視することになります」
「今は戦争を回避する方が重要なのでは?ルーク。イオン様をつれて国境へ戻ってくれ。ここには簡単な休息施設しかないのでな。私はここに残りアリエッタ討伐に向かう」
「は、はい、師匠」
ヴァンさんの言葉に、ルークは素直に頷く。討伐だなんて…。アリエッタはタルタロスでたくさんの人を殺してしまったし、ここでも大勢傷つけたけど、でも、今回は殺していないのに。16歳だけど、心はもっと幼い女の子なのに。そんなどう見たって甘い考えをしてしまうのは、わたしが"物語"を通してアリエッタという女の子のことや、本来ここで起こるはずだった惨劇を知ってしまっているからだろうか。アリエッタが殺さず留まってくれたことを、わたししか知らない。
ティアに教わりながら、怪我人の止血をする手に力が籠った。
✱✱✱
「……できるだけの処置は終えたわ。あとはちゃんとした治癒術師を待つしかないわね…」
「あ、あの、ジェイドさん。亡くなられた人は」
「今のところゼロです。出血量が多い重傷者もいましたが、ティアが優先的に治癒をかけてくれたお陰でなんとか失血死までいかず繋ぎ止められました。まだ油断はできませんが、あとは要請している救護隊が到着すればなんとかしてくれるでしょう」
「………!よ、よかった……」
ジェイドさんの言葉を聞いて、ほっとした途端力が抜けてしまった。しゃがみこんで、止血作業の際に血で真っ赤に染まってしまった両手を見つめる。さっきまでは必死で気づかなかった恐怖や吐き気がこみ上げてきた。こわかった。でも誰も死んでない。ライガは、お願いをちゃんと聞いてくれたんだ。
「よく頑張ったわね、ハナ。手伝ってくれてありがとう」
「ううん、ティアがいたからだよ…ほんとに、ティアがいてくれてよかった」
「終わったんなら、さっさと国境に戻ろうぜ。ヴァン師匠の言うとおりにしねーと」
応急処置の手伝いは一切しないで待ちぼうけていたルークが言い、「あなたね、」と怒りだしそうなティアをまぁまぁと諌める。怪我人を運び込んでいた建物からルークが出ていき、それにガイ、イオン、アニスというように全員続いた。
「お待ちください!導師イオン!」
「妖獣のアリエッタにさらわれたのは我らの隊長です!お願いします!どうか導師様のお力で隊長を助けてください!」
歩きながらアニスが用意してくれていたらしい蒸しタオルを差し出してくれ、お礼を言って手を拭いながら港の出口に向かっていると、比較的怪我の軽かった整備士さんたちが駆け寄ってきて、攫われた隊長を助けてほしいとイオンに懇願した。
「隊長は預言を忠実に守っている、敬虔なローレライ教の信者です。今年の生誕預言でも、大厄は取り除かれると詠まれたそうで安心しておられました」
「お願いします!どうか…!」
「…わかりました」
イオンは頷く。
「よろしいのですか?」
「アリエッタは私に来るように言っていたのです」
「私もイオン様の考えに賛同します。厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視したことになるわ。それではユリア様の教えに反してしまう」
「確かに預言は守られるべきですがねぇ。…ハナも来るように呼ばれていましたね」
「……え?そんなこと言ってました?」
「言ってたよぅ!ハナ、あのとき必死で話聞いてなかったんでしょ。…でも、私もコーラル城に行ったほうがいいと思うな」
「コーラル城に行くなら、俺もちょっと調べたいことがある。ついていくわ」
「アリエッタも女性ですよ」
「お、思い出させるなっ!」
わたしも呼ばれていた?アリエッタに?何故。理由が……あ、ディストさんかもしれない。確かコーラル城では、アリエッタと魔物たちの他にディストさんとシンクとも会うはず。
「ご主人様も行くですの?」
「…行きたくねー。師匠だって行かなくていいって言ってたろ」
「隊長を見捨てないでください!隊長にはバチカルに残したご家族も…!」
「……わかったよ。行けばいいんだろ?あー、かったりー…」
「あ……ありがとうございます!」
ルークは整備士さんに懇願されて渋々と了承する。自分勝手だし子供っぽいけど、頼まれごとを断らないのはルークが本当はとてもやさしい証拠だ。頼まれたって、人の命が懸かっていたって、危険な魔物を連れたアリエッタと戦いに行くと決断できる勇気は、決して誰もが当たり前に持てるものじゃないのだから。
「ハナは待ってたほうがいいんじゃない?危ないよ」
「……わたしも、ついて行きたい。だってアリエッタ、わたしが来ることも条件って言ったんでしょう?わたしだけ逃げてて、もし整備士さんが殺されちゃったら嫌だよ。邪魔にならないように戦闘のときは離れてじっとしてるし、もし危なくなったらこれでできるだけ身を守ってみる。連れてってくれないかな」
これで、とアニスがくれたワンドを両手で胸の高さに持つ。足手まといなのはわかっている。けれど、わたしがライガに声をかけたことでここでの"物語"の展開は変化してしまったのだ。逆に、ここでわたしが行かなかったら悪い方向に変化する可能性も十分にあることが証明されてしまった。
「僕からもお願いです。どうかアリエッタの言うとおりにしてあげてください」
「イオン……」
「…わかりました。ハナ、武器を手にしたからといって、あなたは素人です。けして前に出ようとは思わないように。いつものようにイオン様と安全なところに控えていてください」
「わかりました」
「……………」
イオンが口添えしてくれ、ジェイドさんの許しを貰うことができた。ジェイドさんは最年長者で判断もいつも的確だから、ジェイドさんが頷けばみんなも自然と「ジェイドがそう言うのなら」という態度で頷いてくれる。よかった。絶対に足手まといにならないようにしなければ。
✱✱✱
「戦争を起こさせたいって話だけど、神託の盾の動き、全然掴めないな」
コーラル城への道すがら、ガイがぽつりと零した。その言葉に、神託の盾であるアニスとティアが反応する。
「神託の盾が戦争を起こさせたい訳じゃないですよ
ぅ」
「ええ。六神将がどこかから密命を受けて独自に動いているみたいね。アリエッタから何か情報が掴めるかもしれないけど…」
「根暗ッタは多分詳しい話、知らないんじゃないかなぁ。そもそも密命を受けてってのが似合ってないし」
「確かカイツールではアッシュに頼まれたって言ってたわね」
アニスの言うとおりだと思う。アリエッタはたぶん、六神将や……ヴァンさんに加担することで結果どうなるかはちゃんと理解していない。都合のいい部分だけ聞かされて、難しい話は理解できないから、思考判断力のある他人に行動を委ねてしまうのかもしれない。
「アッシュって…六神将、鮮血のアッシュの事だろ?……ま、どうせ俺たちじゃわからないことか」
「そうそう。それにイオン様と大佐が戦争が始まっちゃう前にバチカルに行ければ、六神将が何してても関係ないよ」
「だといいのですがね。……着きましたね。ここがコーラル城でしょう」
ジェイドさんの言葉通り、話しているうちにわたしたちはコーラル城の門の前に辿り着いていた。門も建物も立派で、ちゃんと使われていた頃は綺麗なお城だったんだろう。しかし今はその影もなく、海風で風化した外壁、伸びきった雑草と蔦、ひび割れた窓。外観からは不気味な雰囲気が漂っていた。
「ここが俺の発見された場所…?ボロボロじゃん。なんか出そうだぜ」
「どうだ?何か思い出さないか?誘拐されたときのこととか」
「うーん」とルークは首をひねる。「七年前にバチカルの屋敷に帰ったあたりからしか記憶がねーんだよな」と頭を掻くルーク。長く誰も住んでいないはずなのにところどころ人の手が入っているところを見るに、やはりここに六神将が出入りしていて、整備士さんが捕らわれているんだろう。
長く人が住んでいないコーラル城には、代わりに沢山の魔物が住みついていた。蝙蝠の魔物なんか、わたしがいた元の世界で見る蝙蝠なんかとは比べ物にならないくらい大きくてぞっとする。たびたび白い半透明のふわふわしたものが浮かんでいくのを見て、そういえばここにはお化けみたいな魔物もいるんだっけと思い出す。
階段が崩れていたりシャンデリアが落ちていたりする場所を避けながら、奥に進む方法を探して全員でうろうろと動き回る。一階フロアにあったいかにも怪しげな扉は仕掛け扉になっていて、どうにかしてそれを解かないと開かない仕組みになっていたのだ。確か、魔物から光る玉?を奪わなきゃいけないんだった気がするけど。
「仕掛け扉のヒント、見つからないですね〜」
疲れちゃった、と溜息を零すアニス。うーん、そろそろ光る玉を持っている魔物が出てきそうな頃なんだけど。二階の廊下で、わたしも魔物を探してきょろきょろと辺りを見回す。ちょうどみんなの最後尾を歩いているわたしの近くに、大きな銅像が置いてあるのが目に入った。
「(……ん?なんか見覚えが)」
あるぞ、と思った瞬間、丸々太ったような不思議なフォルムの銅像ががばっと腕を広げて動き出した。ああっ、そうだこれ、動き出す銅像の魔物だ!!
「っ、きゃあ……!!」
「! ハナ!!」
一番近くにいたわたしに襲い掛かってきた銅像の攻撃をなんとか間一髪ワンドで受け止め、体に直接重い一撃が入るのは防いだ。しかし力負けして弾き飛ばされてしまい、勢い良く後ろに飛んだのをジェイドさんが受け止めてくれる。
「ジェイドさ…」
「炸裂する力よ、エナジーブラスト!」
バァン!!!
「うわ…!!」
「!?」
「なんだ、どうしたんだ!?」
わたしが体勢を立て直す暇もなく魔物の追撃が降りかかり、ジェイドさんはわたしを右手で支えたまま詠唱の短い下級譜術で迎え撃った、のだけど。
「威力が…」
「ハナ、大佐!大丈夫ですか!」
「問題ありません、ただの魔物です。少し油断しましたね。ハナ、立てますか」
「あ、はい!ごめんなさいジェイドさん、迷惑かけて……ありがとうございます」
言われて自分がずっとジェイドさんに寄りかかっていたことに気づき、慌てて自分の足でしっかりと立つ。手が少し痺れているけど怪我はないし、ワンドも歪んだりしていない。すごい、丈夫だ。「弾かれちゃったけど、早速アニスがくれたのが役に立っちゃった」と言えば、心配してくれたみんなもほっとしたようで、止めていた歩みを再び進める。
「ジェイドさん、さっきの譜術って…」
「…ええ。威力が跳ね上がっていました。丁度フーブラス川のときのあなたのように」
「…………わたしがなにかしたの……?」
さっき蝙蝠の魔物と戦っていたとき、ジェイドさんの譜術は普通の威力だったはずだ。封印術をかけらられている今のジェイドさんが下級譜術の一撃であの銅像の魔物を倒せるなんて、今までの戦闘からするとちょっと考えにくい。いつもと違ったのは、わたしがジェイドさんに触れていたこと。
「ハナはこのことに何も心当たりはないんですね?」
「はい。……わたし、ジェイドさんに何かしちゃったんでしょうか」
「今のところ体に異常はありません。詳しく調べてみないと、今は何もわからないですね」
「おーい、何やってんだよ!とっとと先に進むぞ」
先を行くルークたちがわたしたちを急かす。どうやらみんなはさっきの術をちゃんとは目撃していなかったようだ。像がいきなり動き出したのは不意打ちだったし、ジェイドさんの対応が迅速だったのも、よかったのか悪かったのか。
「グランコクマに戻ってから一度検査する必要も出てくるかもしれませんが、今は置いておきましょう。あなたの体に異常は?」と言うジェイドさんに、ないと思う、と首を振る。強いて言えばフーブラス川のときざわざわとしたお腹の気持ち悪さはあったが、それ以来体には違和感も不調もなかった。「では、この話はまたいずれ」と背中をぽんと押されたので、そのまま小走りで少し離れた先のみんなに合流した。
「ごめんね、おまたせ」
「ハナ、怪我はなかったのか?」
「ジェイドさんが助けてくれたから。でも思いっきり吹っ飛ばされちゃった、みっともないね」
「手間のかかる子で困りますよ」
「ハナも僕と真ん中を歩きましょう。アニスが守ってくれますよ」
「しょ〜がないな〜。導師守護役アニスちゃんが特別にハナも守ってあげちゃおっかな〜♪」
「えへへ、ありがとう」
その後は何事もなく建物内を探索していると、それぞれ赤と青の光の玉を持った魔物がふよふよと浮かんでいるのをアニスが発見した。「あれ、仕掛け扉にあった窪みにちょうど嵌りそうなサイズじゃないですか?」とアニス。「ふむ、扉の鍵になっていたのを魔物が持ち出していたのかもしれませんね」とジェイドさんが言い、あの魔物から玉を奪ってみようということになった。しかし、人影を見ればすぐに襲い掛かってくる通常の魔物と違い、狙いの魔物は近づくと逃げていってしまう。なかなか捕まえられない。
「も〜、逃げ足早いなぁ!」
「逃げちゃう前に何かで追い込むとか、動きを止めるとかはどう?ミュウが火を噴くとか」
「そうか、火か!やってみる価値あるな」
さりげなく口を挟んだら、ガイがなるほど!と手を叩く。わたしは知ってたことをそのまま言っただけだけど。じゃあ早速とルークがミュウを振り回して火を噴かせ(可哀想だとティアが怒鳴った)、赤い玉を持つ魔物には命中して動きを止めることができた。しかし青い玉を持つ方は、上手く躱して逃げていってしまう。
「あっ、逃げちゃう」
追いかけようとしたとき、目の前につうう、と何かが降りてくる。薄暗い室内ではそれが何なのかよく見えず、じっと目を凝らした。
「?、 ………………!!!ヒッ、く、くくく蜘蛛〜〜〜〜〜〜!!!」
そこにいたのは、顔のつくりがしっかりと視認できるくらい巨大な…うう、見た目を形容するのもおぞましい、蜘蛛。
「やだやだやだやだいやだ!……あっ」
虫、むし、虫は本当に駄目。娯楽も食事も我慢して高い殺虫剤を買うのを選ぶくらい駄目。どっか行け!!ワンドをぶんぶん振り回して追い払おうとすると、手からワンドがすっぽ抜けた。あっ。
「うわ、当たった」
「ハナナイス〜!」
「………………」
結構な勢いで振られたワンドはその勢いのままガイの顔の横をヒュッと掠める。ぴしっと固まるガイを通り越し、逃げた魔物にごつんと命中した。魔物は目を回して倒れ、ルークが冷静に実況し、アニスが拍手を送る。うん、なんていうか……
「……ごめんねガイ………」
「………き、気をつけてくれよ…………」
ジェイドさん、面白そうにニヤニヤしないで。