序章
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頬を撫でる風と、微かに混じる磯の香りに、ゆっくりと意識が浮上した。
うっすらとしか思い出せないけれど、なにか夢を見ていたような気がする。まばたきを数回繰り返したあと、体を起こすために自分が横たわっていた地面に手をついた。
「……あれ?」
両手に伝わった感触はお気に入りのさらさらのシーツのそれではなくて、短い草と土のそれで、呆けた声が零れる。ぼんやりしていた頭が覚醒し始めて、ようやく辺りを見渡した。
辺り一帯に広がる草原。わたしが座り込んでいる傍らには草が生えていない道のようなものが一本通っていて、遠くの方には山も見える。反対側を見れば、少し先の方に海が見えた。目が覚めるときに感じた磯の香りはこれだったんだなとひとりごちる。その海に浮かぶように、うっすらと街のようなものがあった。
そこまで確認して、いや確認するまでもなく、ここはわたしの部屋じゃない。記憶が正しければこんな場所、来たことも見たことすらもない、はず。
「ここ………どこ………?」
わたしはまだ夢でも見ているんだろうか。にしては爪の間に入った土の感触とか潮風の香りとべたつく感じとか、やたらリアルだけど。
え、まさか現実?
そんなわけないと思いながらも、頭に浮かんだ可能性にぞわりと鳥肌が立ち、心臓がばくばくと早鐘を打つ。
夢遊病?こんな見たこともないような場所まで、たとえ起きていたって歩いてこれる気がしない。それとも誘拐?じゃあなんだってこんな場所に転がされていたのだろう。もちろん乱暴されたような形跡なんてない。
どうしたらいいのかわからなくなって、夢なら早く覚めてほしいと涙が滲んできたころ、何かがびゅんびゅんと風を切るような音がして、縋るような気持ちでその方向に目を向けた。なんでもいいから、この状況で一人は嫌だった。
「………ひっ!?」
目の前にいたのは、人間ではなかった。生き物…のようだけれど、少なくともわたしの知っているどの生き物にも当てはまらない。木がかたつむりの殻のようにくるんと渦巻いたような形の体から枯れ枝のような細長い腕を2本垂らして宙に浮くその姿は、とても現実とは思えなかった。
夢だ、ゆめだ、絶対夢だこんなの。
腕を振り回しながら近寄ってくる生き物からじりじり後ずさって距離を取りながら考える。見たこともない生き物だけど、わたしの中の本能のような何かがあれは危険だと頭の中で警報を鳴らしていた。覚めて、夢ならば早く!
「…痛っ」
右手にぴりっとした痛みが走った。お尻をついたまま後ずさったから、草で指を切ってしまったみたいだ。
って、あれ、痛い…?
「げ、現実……?」
さっと血の気が引く。まさかまさか。
受け入れたくない事実に気がついてしまったときにはもう、振りかぶられた異形の腕はすぐ目の前に迫っていた。
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