序章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いらっしゃいませー!2名様ですね、空いてるお席にどうぞ!」
「ハナちゃん、こっち注文頼むよ!」
「はーいただいま〜!」
「ハナちゃん、キリのいいとこで休憩入っていいからね〜」
「了解です!」
ダアトからグランコクマに戻って早くも2週間。わたしは相変わらず、お店のお手伝いに勤しむ毎日を送っている。
今日はレムデーカン・レム・20の日。あと3日もすれば、"物語"のはじまりの日がやって来る。
"物語"のとおりになんてならず、ルークたちやたくさんの人々が苦しむようなことが起こらないでくれるのが一番良い。けれどこの世界が"物語"どおりに進んだとき、わたしたち一般の人間にも降りかかる苦難に少しでも対処できるようにとこつこつ作り上げてきたノートは数日前に完成した。肌身離さず持ち歩いて、ノートの鍵は無くさないよう紐を通して服の下から首にかけている。
「モリーさんロシーさん、休憩ついでに晩ごはんのお買い物行ってきちゃいますね」
「いつもありがとうね、休憩なんだから気にしなくていいのに。ゆっくり行ってきていいよ。行ってらっしゃい」
「ん、行ってらっしゃい」
「はーい、行ってきます」
もしかしたらわたしが突然この世界にやって来た理由は、ルークたちの旅に何か関係するのではないかと考えたこともあった。なんだか都合良く時期が被っているようにも思えたから。「各国の要人と軍人が和平のために集まった旅一行にわたしが混ざる理由がなさすぎる…」と一瞬で却下したけど。わたしのなけなしの頭を絞っていろいろ可能性を考えてみても、やっぱり間違ってもわたしが"物語"に介入することはないような気がする。思っていたより登場人物の知り合いも増えたから、その繋がりで文字通り友情出演するくらいは可能性があるかもしれない。最初はフリングスさん、次にはジェイドさん、リグレットさんにアニス、オリバーさんとパメラさん。
「まさかヴァンさんとあんなに話すことになるなんて思わなかったもんなあ」
あの日、オリバーさんをお見舞いしたあと。リグレットさんにちゃんとお別れの挨拶していきたかったなあとしょんぼりしながら教会の出口に行くと、ヴァンがそこに待機していたのだ。
えっなに。なんであんなところに立ってるんだろう。さっと会釈だけして通り過ぎようとするとやあ、と話しかけられて、そのままなんだか話の流れで港まで送ってもらうことになった。この人港まで送りたがりすぎじゃない?と思いつつも、街道の魔物を難なく一瞬で斬り伏せてしまうヴァンさんがとんでもなくかっこよかったのでなんだかんだ楽しんでいた。だってわりとあっちこっちから魔物が現れるのに、わたしには泥の一滴も飛んでこないんだもの!好きになってしまうかと思った。ならないけれど。
あとはやっぱりジェイドさんのときのように道中いろいろ聞かれたりして、前みたいにメモ見せたりやらかしてないのになぜ?こわい、と思いながら警戒は怠らなかった。なんてったって〜、ラ〜スボス。キョンキョンはかわいい。名前とグランコクマに帰ること以外はほとんど何も明かさなかったわたし、よくやったと思う。
港に着いてからは普通に別れた。ヴァンさんはこれから連絡船でキムラスカ方面に行くらしかった。ああこれからルークのところに行くのか。運がいいのか悪いのか、どちらかといえば悪い寄りでちょうどダアトで鉢合わせしちゃうタイミングだったんだなあと思った。
「あーあ、みんながちょっとでも傷つきませんように、モリーさんとロシーさんが怪我しませんように」
あと3日。あと3日だ。
「……はやく帰れますように」
「どこに帰るんですか?」
「どわ!?!?!?」
思いきりひとり言を言いながら歩いていたら、突然ぬっと出てきたジェイドさん。心臓止まるかと思った。
「色気がありませんねえ」
「どこから出てきたんですか今…」
「普通に角を曲がってきただけです」
「わたしたちそんなのばっかりですねぇ」
あなたの注意力が足りていないんですよ、とわたしの頭よりも高い位置から溜め息が降ってくる。ずいぶん軽口を叩き合えるようになったものだ。動揺したり焦ったりすることもだいぶ減ったもの。「それで、」
「あなたはどこに帰りたいんですか?」
「え!!?なななななななんなん何のことですか」
「もはやわざとかと思うくらい隠し事が下手ですね、先程の独り言のことです。はやく帰れますように、と」
ずいぶん慣れた〜と思ったらこれだ!しかもあんまり聞かれたくなかった部分をばっちり聞かれてしまっていて、自分でもちょっと引くくらい吃ってしまう。
「あー…いやその…今おつかい中なんで…早く帰ってお店の手伝いしなきゃなって…」
「下手ですねえ」
「うっ」
最早このやりとりも恒例のようになってしまっている。隠し事ばかりのわたしの痛いところをいつも突っついてくるジェイドさんは、わたしの誤魔化しなんて一発で見抜けるはずなのに、何故かいつも深くはつっこんでこない。きっとわたしを疑ってはいるはずだけど、なんだかよくわからないな。
「じ、ジェイドさんが昼間にこの辺りにいるの珍しいですね。買い物ですか?」
「いえ、あなたのところのお店に行こうかと」
「え!逆方向じゃないですか!わたし普通に食材屋さんの方歩いてましたよ」
「いいですよ、からかい甲斐のあるおもちゃに会えたことですし」
「おもちゃ扱い」
ジェイドさん日に日にわたしの扱い雑になっていきますよね。最初の頃はもっと……女の子扱いしてくれていたような……………気がする……?気のせいかもしれない。だいたい最初からこんな感じだった。
「今夜からまた暫くここを離れますから。あまり食にこだわりがある方ではありませんが、あそこの料理は出る前に一度食べておきたいと思いまして」
「……。それロシーさんに直接言ってあげてください。たぶんすっごく喜びますよ」
そっか、もう出発するんだ。きっとジェイドさんはこれからアニスと一緒に導師イオンを連れて和平条約締結のためにキムラスカへ向かうんだろう。やっぱり、世界は"物語"どおりに進んでいっているんだ。
「それなら早く行かないと、お店混んじゃいますよ!もうちょっとしたらまたピークの時間が来ますから。わたしもぱぱっと買い物済ませてすぐ戻りますし」
「…ええ、そうします。時間もそうありませんから。では、また」
「はい、またあとで!」
軽く手を降って、お互い背を向けて歩き出す。買い物が終わってまだジェイドさんがお店にいたら、お豆腐で一品作ってあげようかな。最近気づいたけど、たぶんジェイドさんはお豆腐が好きだから。
✱✱✱
「たまご無くなりそうだったから安くなっててよかった〜、お豆腐買ったし、卵とじにしよう」
ジェイドさん、お店にまだいるかな。さっきは流れで別れちゃったから、ちゃんと行ってらっしゃいを言いたいし。早く戻らなきゃとつい気持ちが逸って、わたしの足は大通りから外れた裏道を行く。最近覚えた近道だ。
そして人通りのないその裏道に入ってしばらく、わたしはようやく気づく。自分以外の足音がずっとついてきていることと、それがすぐ近くまで迫っていることに。ひやり、と冷たい汗が背中をつたう。ぐっと拳を握りしめて、歩くスピードを速めようと足に力を入れたとき。
がつん、と嫌な音がして、目の前にちかちかと火花が散った。
「っ〜〜〜〜!!!痛あ〜〜〜〜〜!!!!!」
「おい下手くそ!一発で済ませろって言ったろ!」
「し、しょうがないだろ!ピンポイントで殴るの難しいんだよ!」
「ああもう私がやる!どいて!」
「な、なん……っぐ、うぁ」
後頭部にものすごい痛みが走って悶絶していたら、背後でなにやら賑やかな言い争いが聞こえたあとに今度は首裏に衝撃があり、わたしの意識は落ちていった。
ブラックアウト寸前に思ったのは、ああ、たまごの袋落っことした、ということと、この人たちすごい手際悪いなということだった。我ながら呑気すぎる。
序章 fin
10/10ページ