アストライア・ノヴァ
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「美香さん。本当に同級生だった!」
次の日のお昼休みに秋元くんはやって来た。
友達と食堂へ行こうと教室を出た所で彼が声をかけて来たのだ。
「秋元くん…」
「一組の人だったんだね。どうりで…」
「なに〜?美香ってば。浮気?」
と、友達がニヤニヤと茶化してきた。
「そっそんなんじゃ無いわよ!
先行ってて。すぐ行くから」
「分かった!」
先行く友人に手を振って見送る。
「浮気?」
キョトンとする秋元くんにあたしは慌てて振り返り
「あっ…気にしないで!
茶化してるだけなの」
「そうなんだ。
…でも、彼氏がいるってことかい?」
「え…まぁ…うん」
義弟とはいえ弟としてツナを紹介している以上
「昨日会ったツナが彼氏です」とは言えない。
「そっか。まぁ高校生だしみんな恋人くらいいるよね。
僕は彼女いた事ないんだけど」
秋元くんはにこやかにそう言った。
「でも、その」
「ん?」
「……上手くいってないの…
そう思ってるのはあたしだけなのかもしれないけど。
でも…なんだか、思ってたのと違うっていうか…」
「…………」
「あたしの気のせいかも…しれないけど…」
「…僕で良ければ話聞くよ?」
「え…」
「放課後一緒に帰ろうよ。
その帰り道にでも良かったら。
本当はカフェとかに入ってゆっくり聞きたいけど
彼氏さんがデートと勘違いしたら大変だからね」
「いいの…?」
「もちろんだよ。美香さんさえ良ければ」
にっこりと人懐っこく笑うその姿はあたしが知る結友そのままだ。
特に目立つような人では無かった。
飛び抜けて顔が良いという人でもなく、クラスでモテるという人でもない。
成績だってあたしと同じくらい…至って平凡。
けれどお人好しで、優しくて…困ってる人を放っておけない。そんな人。
「……ありがとう。
じゃあ、お願いしていい?」
男の人の心理は男の人に聞くのが一番良いだろう。
あたしじゃ分からないツナの心を、秋元くんなら分かるかもしれない。
「分かった。なら放課後に校門の前で待ってるね」
「うん」
今日はティティに一言言っておかないと。
あたしは秋元くんと分かれるとポケットからケータイを取り出し、ティティにメールを打ち始めたのだった。
『あっ…』
そして放課後。
運が悪い事にあたしは秋元くんと一緒に並んで校門の前にいる所にティティの護衛として迎えに来ていた
ツナと山本くん、そして獄寺くんとティティの4人にバッタリと出くわしたのだ。
「みんな…」
「美香だー
あ、その人?今日メールで二人で一緒に帰るって言ってた人」
「え…」
「う、うん…」
ツナが小さく声を漏らし、強ばった顔をあたしに向けている。
山本くんは「偶然だな美香さん!」とにこやかに言ってくれるけど、獄寺くんが心做しかあたしを睨んでいるような…
「綱吉くんも今から帰りなんだ」
「はいっそうなんです…
だから…あっそうだ。今から帰るんですよね?
良かったら途中まで一緒に」
「ごめん…ツナ」
「え?美香…?」
「秋元くん…あたし、秋元くんの帰り道に合わせるわ」
「えっでも」
「あたしは大丈夫…
ごめんねツナ。秋元くん、こっちの道だから」
「……………」
「ほら行こう?」
半ば強引にあたしは秋元くんの腕を引っ張って彼の帰り道である並盛商店街とは反対方向の道に誘導する。
「う…うん。
じゃあまたね綱吉くん」
秋元くんは戸惑いながらもあたしに大人しく引っ張られ、顔だけ振り返ってツナに挨拶をした。
「っ…………」
「なんか仲良さそうだなっ」
「あいつ…まさか初代というお方がいながら…」
「初めて見る顔の人だねぇー
何処のクラスの男子だろ」
そんな会話がされてると知らずあたしは秋元くんと逃げるように多くの下校中の生徒達の中に隠れた。
しばらく二人無言で歩いて、生徒の数が減った頃合にあたしはやっと秋元くんの腕を離した。
「ごめんね急に」
「ううん。余程聞かれたくない内容なんだね」
「そうね…うん。確かにそうだわ」
まさかツナの前で『彼氏が素っ気ない』なんて言えないもの。
「それで…なにか悩みがあるんだよね?
良かったら公園に寄っていかないかい?
僕の帰り道だと引き返す美香さんが大変だし」
彼が指差す先には当然だがあたしが見慣れた公園ではなく、初めて見る公園。
広いという訳でもないけれど、狭いという訳でもない。
最低限の数の遊具があり、遊んでいる子供を見守れる範囲内に屋根付きのベンチと自販機がある。
今は誰も使っておらず悩み事を相談するのに丁度良さそうだった。
「うん。そうね…ありがとう」
「決まりだね」
二人で公園に入りベンチに向かう。
あたしはベンチに着くとすぐに座ったけど、秋元くんは隣に設置されている自販機に向かった。
ガタン!という物が落ちる音がふたつ聞こえたと思うと、秋元くんはあたしの前に立ち
「奢り」
と、ジュースを差し出してきた。
「そんな。悪いわ」
「いいよ。僕が飲みたいだけだから」
あたしの手に持たせて彼はジュースの蓋を開けながら隣に座った。
「(……炭酸ジュース…)」
それも 元カレの結友が好きだったもの。
やっぱり彼は『彼』なんだ。
カシュッと音を立てて蓋を開ける。
ツナに禁止されてるけど、今はツナはいないから…
ぐっと缶を傾けてあたしは炭酸ジュースを少量口に含んだ。
「(ぐ………っ)」
口の中が痛い。苦しい。
だけど吐くわけにはいかない。
なんとか少しずつコクリコクリと飲み込んで
やっと口の中が空になった。
「(少しこのまま放置しよう…炭酸が抜けたら多少はマシだから…)」
「それで…悩み事ってなに?」
秋元くんはあたしの様子に気付く事なく炭酸ジュースを飲みながら優しく聞いてきた。
「ぁ…うん。あのね…」
ふぅ、とため息をひとつついて
「彼氏が…なんだか素っ気ないなぁって…」
「素っ気ない?」
「付き合う前の方が…なんていうか、情熱的だった気がするの。
付き合ってないのに抱き締めてくれたり
結局出来なかったんだけど、キスしようとしてくれたり。
でも今は…抱き締めてくれた事はないし、キスは想い合えたその日以来してないし。
それどころか手を繋ごうとあたしからアピールすると『恥ずかしいから』って拒絶するの。
だから、なんかモヤモヤしちゃって。
あたしが悪いのかな。
あたしがちょっとグイグイいきすぎてて、引かれてるのかなって…
彼 明らかに草食系男子って感じだし」
「…………」
「男の人ってやっぱり女の人がグイグイくると引いちゃうのかな…?」
「うーん…」
秋元くんは唸りながらジュースを一口飲んだ。
「僕は嬉しいけどな。
そりゃ全然知らない女の人とか、大して親しくもない女の人からされるとちょっと引くけど
相手は付き合ってる恋人で…好きな人でしょ?
そんな風にアピールされたら『可愛いな』って思って、嬉しくて…つい甘やかしてあげたくなる」
「(可愛い…)」
少しだけドキッと胸が高鳴った。
「『恥ずかしい』って言ってるってことは彼氏さんシャイな人なんじゃない?」
「うん。そう」
「人前では恥ずかしいってだけかもしれないし
今度のデートは美香さんか彼氏さんの家でデートしてみたら?
沢山引っ付いて、甘やかしてくれるかも」
「…それが」
「?」
「ゲームしてるの…
特に最近は新しいゲームが出たから余計夢中になってて」
「…………」
「一人用のゲームみたいで、一緒にする事も出来ないし」
「うーん…そっか…」
「彼も受験生だし、受験勉強頑張ってるのよく知ってるわ。
だから息抜きぐらいさせてあげたい。
そしてこんな事で悩んでる事も知られたくないし、寂しいからってわがまま言って彼に負担をかけたくない」
「……優しい人なんだね、美香さん」
「え…そんな。そうでもないわ。
こんな欲張りばっかりのあたしが悪いんだし」
「優しいよ。そしてすっごく彼氏想いで大好きだっていうの僕にはよく伝わってくる。
美香さんは悪くないよ。
聞いた感じじゃ全然グイグイいきすぎてるなんて思わないし。
かと言って彼氏さんが悪いとも思ってない。
きっと二人の間で擦れ違ってるだけだよ」
「………そうよね」
「美香さんの気持ちも分かるけど
やっぱり言葉にしなくちゃ伝わらないってあると思うんだ。
だから、勇気を出して伝えてみたらどうかな?
『寂しい』って言ってみたら案外彼氏さんが気付いてなくて、ハッとして、美香さんを抱き締めてくれるかも」
「…………そうね。うん、そうしてみるわ。
ありがとう秋元くん」
「ううん。どういたしまして。
上手くいくといいね」
そう言って秋元くんは優しく微笑んだ。
その表情は、まさしくあたしの見慣れた『彼』だった。
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