アストライア・ノヴァ
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その日は結局ティティと話せたのはツナ達と集まったお昼休憩の時だけだった。
なのであたしは彼女が卒業までの間、指輪の力で自分の都合の良いように周りが思い込む仕込みをしていると言うというので
一体どういう風に仕込んでいるのか観察してみた。
ティティの設定ではティティはあたしと同じように今年からこの並盛高校に通い出したイタリア人。
普通科に入ったけど頭が良い人で(これは設定関係なく本当)
適度にクラスメイト達と距離を保ちつつ、適度に仲良し。
進路指導の先生からは「頭が良いからもっと良い大学に行けるのに」と言われているが、ティティが望んでランクの低い大学を進路先として希望。
その為、ティティなら推薦で余裕だろうと担任の先生からも安心されて特に心配はされていない。
おそらく試験の時期になったら彼女の能力で書類を希望先の大学に送ったと思い込ませるのだろう。
もちろんティティは進学なんかする気はない。
彼女は並高を卒業したら自分の使命と仕事に専念するだけなのだから。
何というか…おおよそ第三者が気になるだろう情報だけをうまく開示して深い所までは踏み込ませない。そんな印象を受けた。
人は知り合い程度の相手ならある程度の情報を得るだけで満足する。
もちろん、例外もあるけれど。
ティティはそれを上手く利用してクラスに溶け込んでいた。
100%能力に頼りきりというわけではなく、頭を使って補っている様子を見ると…本当に最低限の力しか使っていないようだ。
ただ…ティティ、家がないけど帰る所はあるのだろうか?
それだけが気になって彼女に声をかけようとしたけれど、残念ながら今日は避けられておしまい。
あたしは今日の日付が自分の出席番号だからという理由で化学のノートを集める係に抜擢されてしまい
そして案の定ノートを忘れていた例の男子生徒のノートが完成したのが放課後。
あたしがクラス全員のノートを職員室に運んでいる間にティティはさっさと学校を出てしまっていて、あたしが教室に戻った時はクラスには誰も残っていなかった。
「ハァ…バイト行かなきゃ」
まだ時間には余裕がある。
カバンに自分の荷物を詰め込んで、ケータイを開く。特にメールや着信はない。
それをカバンの中に入れ
「あ…美香さん」
「え?」
教室のドアの方を見ると秋元くんが立っていた。
「秋元くん」
「一緒に帰ろうと思って…でもなかなか来ないから気になって」
そう言いながら彼は教室の中に入ってあたしに近付いてきた。
「ああ…今日化学のノート提出があったんだけど、ノート集め係に指名されちゃったのよ」
「ああ、なるほど。
あの先生今日の日付を出席番号にして指名するもんね」
「ノート提出の日を見て察しちゃうわよねー」
と、二人でクスクスと笑い合う。
あたし達以外誰もいない夕方の教室。
外から聞こえる運動部の掛け声。
静かで…なんだか妙にドキドキする空気が流れる。
そして
「…あのさ…美香さん」
「…ん…?」
「もし、良かったら…僕と付き合ってもらえないかな…?」
頬が赤い秋元くんの顔。
そんな照れた顔は…あたしがよく知る結友そのものだった。
当たり前よね。だって…彼はこの世界の結友だもの。
「ダメ…かな。その…やっぱり彼氏さんの事…忘れられないかな?」
「秋元くん…」
「僕ならっ絶対美香さんを一人寂しい思いなんかさせない!」
…知ってる。
「どんなに忙しくても、どんなに都合が悪くてもっ美香さんを優先出来る自信がある!」
…知ってる。
「だから…僕の恋人になってほしいんだ」
全部知ってる。『貴方』はそんな人。
だからあたしは『貴方』に惚れた。好きになった。傍にいてほしいと思った。
「…………」
あたしは目を閉じる。
結友、あたし…やっぱり貴方に未練があったわ。
だって一緒に居た頃は本当に楽しくて幸せだったもの。
両親以外から初めて『愛』をあたしに与えてくれた人。
別れた事を気にしてないつもりだったけど、本当は気にしてた。
そう認めるわ。
だけどね…
あたしにはもう、誰よりも傍に居てほしい人が出来たの。
「……ごめんなさい…」
やっぱり貴方は『結友』じゃない。
あたしの知ってる結友は、両親と仲良しで…おばあちゃんとは特に関わりがなかった。
それがあたしが好きになった『結友』。
あたしの…初恋の人。初めての彼氏。
「実はね…彼氏と仲直り出来たの」
「えっ…」
「色々あって…もう一度ゆっくり、ちゃんと二人で話し合ったのよ。
そしたら色々すれ違ってた事が分かったの。
彼はちゃんとあたしを愛してくれてたわ。
ただ…不器用なだけだったみたい。
自分の問題なのに不安にさせてごめんって謝ってくれたわ。
だからあたしも我儘言ってごめんって謝って、仲直りしたの」
「…………」
「ごめんね。あんなに秋元くんを巻き込んで、『もう別れる』なんて大騒ぎしておいて
やっぱり仲直り出来ましたー…なんて…本当にごめんなさい」
あたしはそう言って秋元くんに深々と頭を下げた。
それを見た彼は慌てたように
「そっそんな!謝らなくていいよ!
でも…そっか…仲直り出来たんだ…
うん…そ、そうだよね。その方が絶対良いに決まってる。
僕こそごめん!急にその…ええっと」
「ううん。秋元くんの気持ちは嬉しいわ。
こんなあたしを好きになってくれてありがとう」
「あ…僕こそ。美香さんと一緒に帰ったり、公園で色々お喋りした時間本当に楽しかったよ。ありがとう…」
「あたしも楽しかったわ。秋元くんさえ良ければ、これからは友達として…」
「…ううん。止めておくよ」
「…え?」
寂しそうに目を伏せる彼。
「実はさ…」と一言言って、それから少し間が開き
しばらく経ってやっと決心したようにもう一度顔を上げ
「高校卒業したら…並盛を出る予定なんだ」
「え…」
「県外の…遠い大学に進学する予定なんだ。もう、家から出たくてさ…」
「っ………」
「大学を卒業したら、多分もうそこで就職先も探すと思う。
並盛に帰る気はなくて…
だから、もし美香さんと付き合えたらしばらく遠距離恋愛をして
大学を卒業したら僕から迎えに行こうかなって考えてたんだ」
「そう…だったの…」
「あっご、ごめんね!?勝手にここまで考えて…!
美香さんの進路だってあるのに…っ」
「ううん。ちゃんとあたしの事まで考えてくれる秋元くんらしいわ」
「あ…そ、それで…友達になってしまったら…僕が辛くて」
「………」
「だから…寂しいけど、これでお別れしようと思う。
今までありがとう。本当に楽しかったよ。
これからも彼氏さんと仲良く…元気でね」
そう言って彼は手を差し出してきた。
あたしは胸の奥が痛み、寒くなるのを感じる。
それでも…あたしも手を差し出して、ぎゅっと握手を交わした。
「あたしも…今までありがとう。元気でね」
さようなら。
あたしに初めての恋を教えてくれた『彼』。
あたしに初めての愛を教えてくれた『彼』。
もう未練は残さない。
もう『彼』の背中は追いかけない。
笑顔で…今度こそ別れを受け入れてみせる。
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