アストライア・ノヴァ
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一時間の勉強が終わるとツナは早々に勉強道具を片付けゲームのスイッチを入れた。
いつのもテレビゲームではなく携帯ゲーム機の方だ。
どうやら好きなシリーズの新作らしく、入手してからは毎日時間があると遊んでいた。
ジャンルはRPGみたいであたしはゲームをよく知らないが、一人用のゲームらしい。
受験生の貴重な趣味の時間だ。
あたしも受験生を一度は経験しているから分かる。
毎日勉強のストレスと見えない未来のプレッシャーで押し潰されそうだった。
だから、ツナにとってこのゲームの時間が如何に大切か理解しているつもりだ。
「(邪魔しないように…)」
自分の勉強道具を持ってそっと静かに彼の部屋から出た。
そしてすぐ隣の自分の部屋に入ると勉強道具を机の上に置いて、深くため息をつく。
「…ツナ…」
寂しい。
ツナは本当にあたしの事を恋人だと認識してるのだろうか?
でも認識してなかったら、きっとあんな優しくて胸がときめく事を言ってくれるわけないわよね。
もっと抱きしめてほしいとか…キスがしたいとか。
本当はゲームじゃなくてあたしに構ってほしいとか
そんなのはあたしのわがままだ。
「ていうか、あたしがガツガツしすぎよね」
ナンセンスだって分かってる。
無意味だし、ツナに失礼だとも分かってる。
それでもどうしてもあたしが中学の時に付き合っていた元カレと比べてしまう。
元カレとあたしは中学三年になった頃に付き合い始めた。
若干ツナの方が早いが、付き合った時期や付き合って経った月日はほぼ変わらない。
「(元カレも中三だったわ。だから受験勉強で大変だった。
でも…それでも、彼は沢山あたしを愛してくれた。
何度もキスをした。抱きしめてくれた。
息抜きしようってデートにも誘ってくれた。
それなのに…)」
そこまで考えてあたしはハッとする。
「何考えてんのよ。
元カレと比べるなんてほんと最低…!」
元カレだって結局は上手くいかず別れた人じゃない。
それなのに…!
「(でも、あれはあたしの不可解な現象が原因で…
別に大喧嘩したわけでも、不仲だったわけでもないし…)」
もう不可解な現象はあたしには起こっていない。
彼はツナと違って普通の男子中学生だった。
特別な力なんて持っていない一般人。
そんな人なら不可解な現象に怯えるのは仕方ない事。
『守ってくれなかった』と誰が責められようか。
もしあの頃、あたしに不可解な現象がなければ彼とはずっと続けていけたのだろうか?
あたしは…自分が思ってるよりも強く元カレに未練があるのだと初めて気付いた。
両親を失い、たった一人の家族だった弟を失った直後だったからきっと他の事に気を回す余裕がなかったのね。
「結友…」
ポツリと呟く、元カレの名前。
「バカねあたしったら。
もうこの世界は別の世界。
あたしの元カレだった結友は存在しないっていうのに」
でももしかしたら元カレである結友はいなくても結友という人物は存在しているかもしれない。
あたしと同級生のままなら高校三年生だろう。
もし…会えたら…
あたしと彼は、また惹かれ合うのだろうか…?
そんな事をあたしは一人ぼんやりと考えていた…
ティティはハッキリと思ったこと言う女の子だ。
日本人特有の建前やオブラートに包むというものを知らない。
そんな彼女に次の日の学校の帰り道、昨日ツナに手を繋ぐのを拒否された事を話した。
ティティは顔を顰めて
「それもう彼氏じゃないじゃん」
「そんなハッキリ言わないでよティティ…」
「恥ずかしいってなに。
私ならぶん殴っちゃってるなー
私と歩くのが恥ずかしいってこと!?失礼しちゃう!って」
「ティティらしいわ…
で、でも!手は繋げなかったけどジュースくれたりしたし…」
「でもそれ別に奢ってもらったわけじゃないんでしょ?」
「…確かに貰い物をそのままあたしにくれたみたいだけど」
「色々取り繕ってないでさー本音言っちゃいなよ。ほらほら」
「う……
もっと…キスとか…ハグとかしたい、です」
「最近じゃ小学生でも彼氏作ってキスしてるっていうのに。
ジュース貰っただけで満足出来るはずないじゃん」
「うう…
でも、だからってどうしたら…
彼も受験生だから変にプレッシャーになることしたくないし…」
ティティはしばらく空を見上げ「んー」と考えたあと
「ならさー逆に何もしないで離れてみたら?」
「え?」
「多分彼氏くん美香のこと信用しきってると思うんだよねー
それはそれで良いことだと思うんだけど
信用して好きにさせてるのと、無関心で放置するとは別物って分かってないんだよ。
だからさ、美香から離れて彼氏くんを試してみなよ。
美香が離れてるのに気付いて連れ戻してきたら美香への愛は本物。
そのまま気付く様子がなかったらその程度だったんだって諦めて、自然消滅するとか」
「え…そんな…」
「だってこのままだとずっと美香がやきもきしてモヤモヤを抱えたままになるよ?
何も進歩なく永遠に同じ状況を堂々巡りするだけ。
たまには相手を試す事も必要だって!」
「………」
「別に浮気しろって言ってるわけじゃないんだし。
ちょっと距離を置く程度何も問題ないでしょ」
確かに…ティティの言う通りだ。
あたしとツナは少し距離が近過ぎてるのかもしれない。
初めて会った時からずっと一緒にいたからそれがいつの間にか当たり前だと思っていた。
「…そうね。それ、試してみる。
とりあえず今日からちょっとずつね…」
「うんうん。それがいいよ♪」
と、ティティはにっこり笑った。
「ありがとうティティ。なんだかスッキリしたわ」
「じゃあ今度カフェでクレープ奢りね♡」
「もー…仕方ないなぁ」
苦笑しながらも無邪気に「やった〜」と笑うティティの姿にあたしも楽しくなる。
そうしてあたし達はまた取り止めのない談笑をしつつ道を歩いて、分かれ道である並盛商店街の入り口に着いた。
今日はツナと鉢合わせなかった。
「じゃあねティティ。また明日ね」
「またね〜!」
お互いに手を振って挨拶をしてから分かれる。
学校のカバンからケータイを取り出して時間を確認する。
「よし、時間ピッタリね」
今日はバイトの日だ。
並盛高校に転入してからすぐあたしはバイトを始めた。
バイト先は並盛商店街にあるケーキ屋ラ・ナミモリーヌ。
たまに京子ちゃんとハルちゃん、他にも奈々さんやビアンキさん等もお客さんとして訪れるので接客をしていてとても楽しい。
今日はどんな人が来るのだろう?と楽しみにしながら、あたしはバイト先へと向かったのだった。
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