アストライア・ノヴァ
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「これでもうティティさんの重力は僕達には効かない」
「古里炎真…面倒な事を…!」
ギリ…と歯を食いしばるティティ。
その視線は恨めしそうに炎真に強く向けられている。
これでティティは重力の力を封じられた。
彼女は他にどんな能力があるのかはまだ未知数だけど
少なくとも重力が無くなり体が自由になったツナ達の方が、数的には有利だ。
でも…あたしは…
チラッとツナを見る。
ツナは真っ直ぐティティを見つめてはいるけど、何となく敵意はないように見えた。
「ツナくん、これで思いっきり戦えるよ」
「………いや」
そして彼は思った通り
「オレは戦いたくない」
そう言って、拳を下ろした。
ツナの守護者達もそれに続くように構えを解いていく。
炎真も分かっていたようで、僅かに浮かべる微笑みは「やっぱり」と言っているようだった。
そんな光景を見たティティはもちろん気に入らなさそうに
「…随分と余裕ですね沢田綱吉。
貴方が戦わないのは勝手ですが、戦わなければ死ぬのは美香です。
諦めて美香を差し出すというのですか?
まぁ…私としてはその方が楽なので有り難いですが」
「美香は守る。
でも、ティティさんとは戦わない。戦いたくない」
そう言うながらツナは遂にハイパー化まで解いてしまった。
「やっぱり戦えないよ。
泣いてる友達を、苦しんでる友達を…オレは殴れない。それも、何にも悪くない女の人に」
「呆れた…まだそんな事を。やはり子供ですね。
いいですか?私は貴方達の事を友達だと思ってないから殺意を持てるのです」
「オレはそうは思えない。
だって、本当にオレ達を殺す気ならもっと早く殺せたはずだよ。
オレ達は最初ティティさんが紛れ込んでるって気付けなかった。
家に遊びに来た時も、一緒に帰った時も、遊びに行った時も…!
幾らでもオレ達を殺す機会はあったはずだ!」
「っそれは…別に狙いは貴方達じゃなかったから…!」
「矛盾してるよ。美香の事だって居場所を奪うだけのつもりで殺す気はなかったって言ってたじゃないか!
オレ達に正体がバレた時だって美香を殺そうとはしたけど、オレ達には動きを封じるだけで手を出す様子はなかった!
さっきの星だって…!本気で落とすつもりなかったはず!
オレが砕くと思ってたはずだ。
XX BURNERの威力に驚いてはいても、砕かれる事自体は想定してたから…!」
「っ………」
「それだけじゃない。ヒバードに攻撃出来ないだけじゃなく、気遣うティティさんを見てオレは初めて気付いた。
そういえば…この周辺に鳥や動物の気配がないって。
さっきの衝撃で飛び立つ鳥が全くいないって。
ティティさん…最初に張ってた結界を使って周辺の動物達を怖がらせない為に、傷付けない為に逃がしてあげてたんだよね?
そう考えて、オレは確信したよ。
やっぱりティティさんは悪い人じゃない。優しい人だって…
オレの知る…優しい友達のティティさんなんだ…!
そんな人とオレは戦いたくないっ殴りたくない!!」
「友達ではないと何度言えば…!」
「オレはもう友達だと思ってる!
例え始まりが指輪の能力によるものだったとしても、その後の気持ちは決して指輪の力だけじゃなかった!
その証拠に指輪を壊した今だって、オレはティティさんの事を友達だって言い張れてる!!」
「う……」
「もう止めようよ!こんなの、何の解決にもならない!!」
「戦う事で解決出来るのです!私の問題は!!」
尚も食い下がるティティにツナは言う。
「ずっと思ってた…ずっと気になってた…っ
でも上手く言葉に出来なくてどう言って良いのか分からなくて
だけどようやく今分かった。
…ティティさん、貴女は戦いたいんじゃない。
死にたいんだ!!」
あたしの思考が停止する。
ツナの口から、彼に似つかわしくない言葉を発せられ
あたしは一瞬それを理解出来なかった。
そしてそれは…何故かティティもそうだった。
理解出来ないような顔をし、困惑げな表情でツナを見つめていたけれど
やがて何かを悟ったような…ようやく何かを理解したような
まるで胸のつっかえが取れてスッとスッキリしたような顔になり
「……そう……そう、です。
私は…死にたい…殺してもらいたい…」
「ティティさん…!」
悲痛なツナに声をかけられながら彼女は俯いた。
「人に強要するものではない。死にたいなら一人で勝手に死ねばいい。
…ええ、ええ。十分に分かっています。
でも私はどうしても沢田綱吉…貴方に頼むしかなかった。
それしか私は自分を救えないと思った。
…私には愛する人がいました。
師匠にある程度は私の事を聞いているのでしょう?
こんな特異な存在の私でも受け入れて、私が両親から失ってしまった愛情を注いでくれる人がいました。
彼はとても立派で…戦争で苦しむ孤児や人々を受け入れ、時に人々を守る為に戦い、どんな時も笑顔で逞しく…みんなを引っ張ってくれました。
絶望で目の前を覆われ、先の分からないふわふわと宙に浮いたような戦時中。
彼の存在は傍にいるだけで…まるで地に足を付いたような、安心出来る力強い大地のような人でした」
みんなが俯いたティティの言葉に耳を貸す。
炎真も自分の手を下ろし、能力の使用を止めていた。
「私はそんな彼の力になりたくて、一緒に戦い、一緒に人々を守り…人々を慈しみました。
人々を愛する彼が大好きでした。私を愛してくれる彼が大好きでした。
とても幸せでした。異質な存在として生まれ変わり孤独を約束された私が…『ユースティティア』となる以前に得られていた幸せを
やっともう一度手にする事が出来た日々でした」
ゆっくりとティティの顔が上げられる。
それは目に光を失った絶望を貼り付けたような顔。
蛇口が壊れた水道のように次から次へと涙が目から流れ、輪郭を伝って地面に落ちる。
「でも彼は呆気なく死にました。
戦場で…流れ弾でした。頭にたった一発。即死でした。
お別れする暇も、声をかける暇すらも、尽きかける命を救う暇すらもなく…彼はこの世を去りました。
私は認めたくなかった。絶対に認めたくありませんでした。
自分はこの惑星では存在があやふやなせいか過去と未来の行き来が自由です。
だから…彼が生き存える未来にしてみせると過去を変える為何度も遡りました」
「………でも…過去を変えられなかった」
あたしが呟く。
ティティは表情がないまま
「話した通りです。過去は変えられない。
死因が変わるだけで、彼が死ぬという事実は確立されたもの。
私は繰り返した分だけ…目の前で彼が死ぬ瞬間を見てきました。
だから私は自分を変えようとしました。
私が死ねば一緒になれる。私が死ねばいい!
腰の後ろに隠してある…護身用のナイフで私は自分の胸を思いっきり突き刺したのです!」
ティティの涙の勢いが強まった。
「っ……死ねなかった…!!
何度自分を傷つけても!私は死にかけるほどの大怪我を負ったというだけで、その先に進めない…!
何度か繰り返す内、私はひとつの仮説が頭を過りました。
私はこの惑星から剥離された存在。
存在しているのに存在していない。
両親から確かに生まれたのに、子として認識してもらえない。
だから私は…
生まれてないのだから、『死』という概念もない!」
その場の全員が言葉を失う。
「死ねないの!死ねないの!!死にたくても死ねないのよ!!
『生』という概念がないから『死』という概念もない!!
それに気付いて私は絶望しましたっ
これから先、私は自分の友人や恋人や家族…愛する人が死ぬその時を
永遠に迎え続けなければならないという現実に!!」
ティティが泣き喚きながら頭を抱えその場に膝をつく。
「そんなのイヤ!そんなのイヤぁあ!!
誰か私を殺して!!殺してぇええええ!!!
ナイフで刺しても死ねない!爆発でも死ねない!!飛び降りても火に包まれても水に沈んでも死ねない!!!
だからもう私は美香に復讐という形で命を狙って
沢田綱吉に私と戦わせるしかないと思ったのです!!
貴方のX BURNERなら、私を微塵も残さず消し去ってくれると信じて…!!」
ティティの頭がゆっくりと上がる。
泣き腫らした目からはとめどなく涙が溢れている。
弱々しくツナに向かって手を伸ばすその姿は…まるで救いを求めているようで痛々しい。
「美香の弟くん…」
『ティティ』が呼んでいた、ツナを指す言葉。
ツナがビクリと肩を震わせティティを凝視する。
「お願い…助けて。助けて。私を……殺して…」
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