アストライア・ノヴァ
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沢田家に帰りたくないあたしは炎真のお言葉に甘えてしばらく民宿に寝泊まりする事にした。
「ただいま」と言って立て付けの悪い玄関の引き戸を開けると
「おかえり」
目の前に炎真が立っていた。
「炎真」
「話があるんだ」
「え?」
「今すぐ来て」
炎真の顔は真剣で…少し怖いくらい。
とりあえず靴を脱ぐと彼に腕を引かれ二階に連れて行かれる。
入った部屋は昨夜アーデルちゃんとしとぴっちゃんとあたしの三人で寝た部屋。
今は布団は敷かれておらずただの畳の部屋だ。
人払いをしているのかシモンファミリーの人が数人いるにも関わらず、誰も近付いてくる様子はない。
「座って」
言われた通り畳の上に座る。
炎真もあたしと向き合う形で胡座をかいて座った。
「あのね美香」
「うん」
「僕はもう美香を疑ったりは絶対しない」
「うん…」
「だから、教えてほしい。
今日学校帰りにいた公園で…誰となんでキスしてたの?」
「………………え?」
「今日 キスしてたよね?
あの人は誰で、なんでしてたの?」
え…キス?
身に覚えがない。
「ええっと…公園って言ってたわよね?」
「うん」
「あっ…秋元くんとのこと?
やだ!キスなんてしてないわよ!
第一彼はただの友達なんだからっ」
「そうなの?顔が重なってたけど」
「あれはおまじないをしてくれたのよ。
…昨日ツナと大喧嘩したの炎真も知ってるでしょ?
その事を…その、愚痴ってたら…
彼が小さい頃死んだおばあちゃんがしてくれたっていう仲直りのおまじないをあたしにもしてくれたの。
その方法がまさかあんなに顔を近付けるものだったなんてあたしもビックリしちゃって。
額と額を押し当てあって『仲直り出来ますように』っていう呪文をかけるんだって。
秋元くんがまだ小学生の頃におばあちゃんがよくしてくれたそうよ」
「…そうだったんだ。じゃあキスしてたわけじゃないんだね?」
「当たり前じゃない。そんな関係じゃないわよ」
「そっか…良かった」
と、炎真が何故か安心したように息を吐いた。
「それに美香もまだツナくんと仲直りする気があるみたいで安心したよ」
「………え?」
「あのね美香。実はツナくん…」
「ああ…炎真。ツナはもういいの」
「……え」
「もう、ツナはいいわ。
秋元くんのおまじないもどんなものか気になっただけで、別に本当にツナと仲直りしたくて
藁にもすがる思いでお願いしたわけじゃないのよ」
「美香…?」
「もうあたしもツナも自由よ。
お互いにこだわる理由なんてないじゃない。
これで良かったんだわ。
これでもう、お互いがお互いのことで苦しまなくて済む」
「ちょっと待って美香!
ツナくんはまだ美香の事が好きなんだ!
そんな一方的に関係を断とうとしてもツナくんが納得するはずないよ!」
「そうなの?なら、もうあたしの事は気にしないで自由に生きてって伝えてちょうだい」
「そんな」
「自分で伝えた方がいいかしら?
じゃあ今すぐツナに電話して」
「ダメ!待ってってば美香!!」
持っていたカバンからケータイを取り出すと炎真がそれに飛びかかってあたしの手から奪い取ってしまう。
「ちょ…ちょっと炎真。どうしたのよ」
「こっちのセリフだよ!
一体どうしちゃったの!?あんなにツナくんの事大好きだったのに!」
「もう好きじゃないの。
ツナだってそうでしょ?あたしの事もう好きじゃないから他の人の所に行って良いって言ったんでしょ?」
「それは言葉の弾みで…」
「弾みでも一瞬でも思った事じゃない。
そしてそれを言葉にしたのなら、それは紛れもなく本心よ」
「違うよ…違う。ツナくんは…そんなつもりじゃ…」
「もういいのよ炎真。
あたしとツナのせいで炎真まで辛いことに巻き込んでごめんね。
ケータイ返して?ツナに電話しなきゃ」
「…………」
「炎真…
それ、バイトの連絡手段でもあるから…お願い」
「………分かった。その代わり」
炎真が突然手に持っているあたしのケータイを操作し始めた。
「炎真?」
何をしてるのだろう?と画面を覗き込むと
丁度画面は電話帳を開いているところで、炎真はその電話帳から『沢田家』という項目を表示させると
「ちょ!」
なんとそれを削除してしまった。
ツナとの唯一の連絡手段が…
更に彼は着信履歴や発信履歴のデータを全て削除し
「これ、返すね」
そしてケータイを差し出してくる炎真。
あたしはそれを受け取り電話帳の中身の確認をしながら
「どうして消しちゃったのよ…
これじゃツナに電話出来ないじゃない…!」
沢田家の電話番号はケータイを持つまでは覚えていたけど
ケータイを持ち始めてからは着信履歴や発信履歴、そして電話帳に頼りきりだったのですっかり記憶が薄れうろ覚え程度しか覚えていない。
「番号思い出せない…メモに書いておけば良かったわ。
炎真も、なんでこんな…」
「別れさせないよ。
僕はツナくんだから美香の事を諦める決心をしたんだ。
…本当に色んな事情があって、どんなに頑張っても難しくて。
美香とツナくんがお互いに納得した上で別れるという決断なら僕は口出しする気は無いけど
こんな美香から一方的に関係を断つ別れは僕が許さない!
それもっツナくんはまだ美香の事が大好きで、諦めてないのに!」
「……別れ話なんて…そういうものじゃない?
お互いが納得した上での別れなんてそうそう無いわよ」
「っ……それでも!
僕はツナくんに協力する。
こんな一方的な別れなんて絶対認めない!!
美香は何かおかしいよ!冷静になって!」
「炎真…」
「ツナくんに別れの連絡なんかさせないからね」
炎真はそう言って部屋から出て行ってしまった。
部屋に取り残されたあたしは炎真が出て行った方向を呆然と眺め、そして視線を手元のケータイに移す。
「(電話番号が分からないなら…)」
もう直接会うしかないわね。
なら、明日はもう沢田家に帰ろう。
バイトがあるから時間は遅くなっちゃうけど…
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