アストライア・ノヴァ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おっはよー美香。
って…うーん…その顔。また彼氏くんとケンカしたっていうレベルじゃない顔じゃーん…」
翌朝の学校。
クラスに入る前の廊下でティティが声をかけてきた。
「あれ…珍しいねティティ。
朝にあたしのクラスに来るなんて。
いつもはクラス離れてるからお昼休みの時すらなかなか会えないのに」
「心配して様子見に来たに決まってるでしょー?
遠いのに感謝してよねぇ
なに?その様子だとまたケンカしちゃったの?」
「ケンカなんてレベルじゃないわ…
もうあたし、彼と関係続けていくの無理よ。終わりかもしれないわ」
「ええ…なに…そこまで深刻なの?
ちょっとちょっと…ここ数日で展開早すぎじゃない?」
「もう…仲直りなんて出来ないのよ…っ」
昨日アーデルちゃんとしとぴっちゃんに散々話を聞いてもらって、沢山慰めてもらってやっと引っ込んだ涙がまたじわりと溢れてきた。
でもここは朝の廊下で周りに生徒はいっぱいいる。
下手に泣いて聞き耳を立てられたり、注目を浴びたくなくてあたしは慌てて目元を拭った。
ティティはそんなあたしを見てハァ…とため息をつくと
「まったく…仕方ないなぁ美香は。
ほら、ちょっと手を出して。
気休めかもしれないけど良い物貸してあげるからさ」
「?……」
言われた通り手を差し出した。
ティティは自分の指から何から引き抜くとそれをそっとあたしの手の平に乗せてくれる。
あたしの手の平に乗っていたのは指輪だった。
ツナが持つボンゴレリングのような大きな指輪ではなく、どちらかと言えばあたしが首から下げている山桜の指輪のような…小さな指輪。
宝石ではなく夜空のように蒼くて丸い石がひとつだけ付いてあって、他に装飾は何も無いシンプルなもの。
「これ…ティティがいつも指に付けてた指輪じゃない」
「そーそー。
小さい頃ママとパパが買ってくれた指輪だよぉ
その蒼い石、すっごく綺麗でしょ?
ラピスラズリって名前の石なんだって。
私はあまり詳しくないんだけど、確かすっごく昔からある石で昔のお金持ちの人は幸運を招くお守りとして持ってたんだって。
持ち主に試練を与えて成長促すから『成功の保証』っていう石言葉があるってママが言ってたの」
「へぇー…」
「それ、貸してあげる」
「え?」
「お守り。きっと仲直り出来るって!」
「ティティ…」
「あっでも…小さい頃から大事にしてる指輪だから一応隠し持っててくれる?
そうだ。美香が首から下げて大事に持ってる指輪があったでしょ?」
「うん。山桜の指輪ね」
「そのチェーンに通しておくとか出来る?」
「もちろん」
「じゃあそれでお願い!」
「分かった」
首からチェーンを外し、そしてティティから受け取った指輪を通す。
山桜の指輪の透明なピンク色と蒼い石が並んでとても綺麗だった。
「本当にいいの?ティティ」
「本当はダメなんだからさっさと仲直りして早く返して。
終わりかも〜なんて言って、本心は終わらせたくないくせにっ」
「もう…ふふっでも、ありがとう」
首にまたチェーンをかけて、指輪を制服の中に隠した。
そしてそのタイミングでチャイムが鳴った。
ティティは「ゲッ」と言うと
「やばー!もうそんな時間!?
朝礼遅刻確定じゃんっもー!
美香っ今度カフェでアイスコーヒー!!」
「はいはい。心配してくれてありがと」
「じゃあまた放課後ね!」
「うんっ夕方ね」
バタバタと廊下の生徒達を掻き分け走り去っていくティティを見送ってからあたしも教室に入った。
「(不思議。ティティに会ったらなんだかちょっとだけ元気出ちゃった)」
早速ティティが貸してくれた指輪の効果だろうか?
…ううん。きっと違うわ。
これは間違いなく、明るくて太陽みたいなティティ自身の力だわ。
本当に良い友達が出来て良かった。
あたしは彼女がいるから、この学校生活が楽しいのだと今更実感したのだった。
「ラピスラズリ……古代からある石なんだ…凄い…」
その日の放課後。
あたしは自分のケータイを使ってティティがお守りとして貸してくれたラピスラズリという石をネットで調べていた。
「石言葉は他にも『真実』『健康』『幸運』…
花言葉みたいなものかな」
花言葉の存在は知っていたので、以前あたしは山桜の花言葉を調べた事がある。
色々花言葉はあったが、印象に残ったのは『あなたに微笑む』という言葉だった。
I世の時代に果たして花言葉というものがあったのかは謎だが、なんとなく合ってる気がして
本来なら山桜の指輪を通しておばあちゃんにI世が微笑んでいたのだろう。
「っひゃ!なに…」
その時、突然頬に冷たさを感じて驚いて頬を押さえながらその方向を見た。
そこには缶ジュースを持ってクスクスと笑う秋元くんが立っており
「ビックリした?」
「ビックリした〜もおお」
「あははっごめんごめん」
と、彼は笑いながら隣に座ってくる。
最近は彼の帰り道にある公園で一緒に過ごすのが日課になっている。
さすがに毎日ではないけれどこうし時々秋元くんが公園の自販機で飲み物を奢ってくれるのが嬉しい。
「美香さん確か炭酸飲めなかったんだよね?」
「え」
「この間コンビニで美香さんの知り合いがそう言ってたじゃないか」
「ああ…うん。実は苦手で」
「言ってくれれば良かったのに。
今まで無理して飲んでたのかい?そんな無茶して」
「奢ってもらってる身なのに好き嫌いなんて贅沢よ」
「そんな事ないよ。
せっかく一緒に飲むならお互い好きな物飲みたいって僕は思うよ」
「…そっか…」
「だから今回はミルクティーにしてみた。
ミルクティーは飲める?」
「うん。大丈夫」
「なら、どうぞ」
差し出された缶のミルクティーをお礼を言いながら受け取り、二人で缶を開けて中身を飲む。
「ところで何見てたの?」
あたしが持ってるケータイが気になるようで秋元くんがそう言いながらあたしの手元を見ている。
「今日友達がお守りとして指輪を貸してくれたの。
その指輪についてた石の名前がラピスラズリっていうんだけど…
あたし石とか全然分からないからちょっと調べてたのよ」
今表示させてある画面を秋元くんに見せる。
秋元くんは画面に映っているラピスラズリの画像を見ると
「これ石なんだ?綺麗な色だね。
へ〜古代から既におしゃれ用だけでなくお守りとしても重宝されてたんだ。
友達は何のお守りとして貸してくれたの?」
「…………」
「………?」
「……彼氏と…仲直り出来ますように…って…」
「美香さん…」
「ご…ごめんね。この話題なんかいっつも引きずってるみたいで…」
「ううん。気にしないで」
「でも…もうすぐ終わると思う。
昨日まためちゃくちゃケンカしちゃったの。
もう辛くてたまらくて…つい彼の家を飛び出してきちゃって」
「…………」
「きっともう仲直りなんて無理なのよ。
あたしも今までの鬱憤が溜まりに溜まってたせいで、言わなくて良い事散々言っちゃったし…
もう終わりなのよ。もうすぐ…きっと、彼から…別れてって……っ」
じわりと目に涙が溢れてあたしはそれを拭う。
でも涙は次々溢れてきて止まることはなかった。
どうしようも出来なくてあたしは諦めて、ミルクティーの缶をベンチに置くと両手で顔を覆ってしばらく泣くことにする。
それを秋元くんが静かに見守ってくれていた。
しばらくの間泣いて落ち着いてきたあたしに秋元くんが
「美香さん。僕はお守りはないけど、おまじないは知ってるんだ」
「?………」
涙を拭い彼を見る。
「昔生きてたおばあちゃんが教えてくれた仲直りのおまじないなんだ。
友達とケンカして泣いて帰ってきた時はよくそれをしてくれたんだ」
「どんなおまじない…?」
秋元くんの体があたしと向き合う。
「ちょっとごめんね」
そう言って彼の両手があたしの両頬を包み
キョトンとしていると彼の顔が近付いてきた。
「……結友…」
思わず昔を思い出して名前を呟いた。
キス……されるのだろうか……?
けれど、彼の顔は途中で止まり代わりに額と額がコツンと当たる。
秋元くんはその状態で目を閉じたまま
「大好きな人と仲直り出来ますように」
「っ…」
「…こんな感じ。
さすがにこの歳になると、なんか恥ずかしいね」
秋元くんはすぐに顔を離して照れたように頬を赤くして笑った。
胸がドキドキと鳴る。
そうだった…結友はちょっと天然で、こういう事平気でしてくる人だった…!
突然の出来事に固まるあたしを見た秋元くんがハッとして急に慌てだし
「あっ…ごめん!
やっぱりイヤだったよね!?ほんとごめん!!」
「う…ううん!大丈夫!
確かにビックリはしたけど…
あはは。そっか、おばあちゃんのおまじないなのね」
「うん。なんでかは分からないんだけど
そのおまじないをおばあちゃんがしてくれた次の日は必ず友達と仲直り出来たんだ。
まだ小学生だからだったかもしれないけど…
でも、美香さんにも効き目があるといいね」
「ふふっそうね。効き目あるといいなぁ」
ああ なんだろう。
今、凄く満たされてる感じがする。
あたしが思い描いていた彼氏と彼女の関係って…こんな感じのような気がする。
秋元くんなら…結友なら…このまま……
あたしは気付かなかった。
公園の入り口にツナと炎真がいた事を。
彼はドサリとカバンをその場に落とし、呆然と立ち尽くしていた事を…
・NEXT