アストライア・ノヴァ
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「どうしたんだツナ。らしくねぇぞ」
美香と炎真が部屋から去ってしばらく経ってから
テーブルの前に座り込み俯くツナの前にリボーンが腕を組んで、テーブルの上で胡座をかいている。
「まだ美香の話しか聞いてねぇから何とも言えねぇが
話の通りならツナから嫌われてるはともかく、関心がないと思われても仕方ねぇぞ。
なにがあったんだ?理由があるなら言ってみろ」
「…………」
「他の男に美香を取られてもいい。
本気でそう思ってるのか?」
「………思ってないよ。そんな訳ないだろ…」
「お前はもう美香の事が好きじゃないのか?」
「好きだよ…!寧ろ、好きで…好きで好きでったまらなくて…!
だから不安になってるのに…!!」
「なにが不安なんだ」
「………美香に…嫌われたくない」
「嫌われる?」
「時々どうしようもなく不安になるんだ。
…正直、オレ美香の事可愛いとか…綺麗とか、女の人として見た事があまりないっていうか。
そういう気持ちになったことって寧ろ京子ちゃんの方が多くて。
好きなんだけど、オレって本当に美香の事女の子として見てるのかなって疑問に思ったことがあるんだ」
「…………」
「でもいざ恋人になったら…めちゃくちゃ美香が可愛くて、めちゃくちゃ好きって気持ちしか湧かなくて。
なんであんなに優しくて可愛いんだろう。
京子ちゃんとはまた違う可愛さっていうのかな。
なんか、うまく言えないんだけど違うんだ。
とにかく全部が可愛くて好きなんだ!
ずっと一緒にいたい。手放したくない…!」
「…………」
「だからなのか…分からないけど…
たまらなく不安になる。
あんなに可愛くて魅力的な美香がなんでダメツナのオレなんかを選んだんだろうって。
オレ、何も良い所なんてない。
あんなに可愛い美香と釣り合う男じゃない。
他人に恋人としてじゃなく、弟として紹介される事に安心する自分がいるんだ。
弟扱いされるのあんなにイヤだったのに…」
「…………」
「もしかしたら…オレと美香は本当は釣り合ってないんじゃないかと思ったら…なんか急に恥ずかしくて。
オレなんかが美香と手を繋いでたら周りから釣り合ってないって思われて…
オレだけならともかく美香まで笑われるんじゃないかって考えたら、繋げなくて。
キスも抱き締めるのも、元々恥ずかしかったのに更に恥ずかしくて出来なくなったんだ」
「自分に自信がねーから、美香に恋人として接するのを避けてたって事か?」
おずおずと綱吉は小さく頷いた。
「本当は気付いてたんだ。
美香が何度もオレに構ってほしいってアピールしてくれてたこと。
美香は優しいからいつもいつもオレが自分の好きな事を終わらせて満足するまで待っててくれた。
受験勉強でイライラして、勉強が終わったらストレス発散に美香よりも漫画とかゲームを優先して…
それでも美香は何も言わずに待っててくれた。
美香だって受験生なのに。オレの事をいつも気遣ってくれてた。
そういう所がたまらなく可愛くて魅力的で、大好きで!
…………オレなんてって…不安になる。
こんな調子じゃいつ美香に愛想を尽かされるか分からないって分かってたのに、どうしたらいいのか分からなくて…!
美香に嫌われたくないのにっどうすれば良いのか分からなくてっ
そんな時に元の世界では美香の元カレの秋元先輩と美香が出会ってしまって
美香も未練があるなんて言うから更にムカついて、離れていかないか怖くてっイライラして…!!」
「…………」
「どうしよう…っ
あんなの本心じゃない!行ってほしくない!!
誰にも美香を取られたくないよ!
このままじゃ美香がオレから離れていってしまう!そんなのイヤだ!!」
綱吉はそう叫びながら頭を抱え始めた。
自分の感情と気持ちを整理出来ず混乱してしまう綱吉のその姿は歳相応に子供らしく、そして幼い。
自分より少し大人である恋人の大人びた姿に魅力を感じつつも焦りを覚えるのもまた子供らしい。
『好き』という感情しか分からなくて正確にどうすれば良いのか分からない
『愛を育む』という事を知らない教え子の姿にリボーンは『まだまだガキだな』とフッと笑った。
さて、どこからどう教えていこうか。
そうリボーンが考え始めた時だった。
「ツーくん。ちょっと下りてらっしゃーい」
階下から奈々がそうツナを呼んだ。
俯いて涙ぐんでいたらしいツナは腕で目元を拭うと立ち上がって部屋を出た。
リボーンもテーブルから下りてツナの後に続く。
ツナはダイニングを覗くと
「なに…?母さん」
「ちょっとそこ座りなさい」
奈々はほのぼのとした雰囲気でいつも食事の時に使うテーブルを指した。
ツナは言われた通りノロノロといつもの定位置に座った。
その隣の椅子にリボーンが飛び乗って座る。
「ご飯食べる?夕飯食べてなかったでしょう?」
「いらない…」
「そう?」
「それより…なに?」
何も知らずのんびりしているいつもの奈々だが、余裕の無いツナにはそれがどうしてもイライラした。
急かすように促すと奈々はツナと向き合うように座りニコニコといつもの笑顔で
「ツっくん。美香ちゃんと何かあったんでしょう?」
「…………」
「そうねぇ…母さんの勘だけど
ツっくんったら美香ちゃんを大切にしたいのに、それを上手に出来ていないんじゃないかしら?」
何も知らないと思っていたのに奈々はピタリと言い当てた。
綱吉は動揺でピクリと肩を震わし、無言で驚愕する。
「あのねツっくん。
確かにツっくんは勉強が苦手で、運動もいまいちで…ダメツナなんてあだ名が付いて学校で呼ばれているのも知っているわ。
…それでもツナは母さんとお父さんの自慢の息子なの。
だってこんなに優しくて強くて、かっこいいのに可愛い男の子他にいないわよ!」
「かっ…可愛い?」
聞き捨てならない言葉に綱吉は思わず顔を上げた。
奈々の顔は変わらず穏やかだった。
「可愛いわよ!
ツナったら美香ちゃんの事大好きで大好きでたまらないのに、それを素直に言えなくて伝えられなくてソワソワしてるんだもの!
その姿が母さん可愛くてたまらないの!」
「ちょっ…やめろよ!ソワソワなんてしてない!」
「そんなツナに美香ちゃん気付いてたりしてて、それがまたおかしくって可愛くて!」
「やめろって!!何なんだよっもーーー!!」
自分では気付いていない姿に恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
それ以上聞きたくなくて耳を塞ぎ綱吉は叫んだ。
「うふふっ
だからね?私はツナと美香ちゃんお似合いだと思ってるわ」
「っ…………」
「ツっくんは美香ちゃんに何か不満があるのかしら?
美香ちゃんは優しくて良い子だから、言ってあげたらきっとツナに相談してくれるわ」
「……違う…違うんだ、母さん。
美香に何も不満はないよ。
そりゃ…相談してほしいのになかなか相談してくれないとか、そういう不満はあるけど。
それ以外は…全然……というか、寧ろ…オレの方が…」
「…………」
「オレなんかが…美香と釣り合うのか、心配で…」
耳を塞いでいた両手を下ろし、落ち込んだ顔で俯いて胸の奥の言葉を吐露する。
それを聞いた奈々は微笑ましそうに柔らかく笑うと
「そうね…美香ちゃんってとても大人よね。
頼れる親戚は誰もいなくて、そんな中両親を二人同時に失って。
唯一の家族だった弟だけでも守ろうと一人で頑張ったのに…結局病気で失って。
悲しさのあまり記憶を失って、帰る家も失って、笑う事を忘れてしまった。
記憶はある程度は取り戻せたけどまだ全てを取り戻したわけじゃない。
母さん…美香ちゃんは普通の同級生の女の子達よりも遥かに大人だと思ってるわ。
そんな経験なかなかしないもの」
奈々はまだ美香の事を記憶を一部失った女の子だと思っていることを綱吉は思い出す。
「だからツっくんが大人な美香ちゃんの姿を見て不安になったり、焦ったりする気持ちも分かるわ」
「…………」
「でもねツっくん。美香ちゃんは大人だからこそ、ツナの全部が大好きって言える女の子なのよ?」
「………え?」
「ツナが考える自分のダメな所。恥ずかしい所。
きっと美香ちゃんはそれすらも含めてツナが好きって思ってると思うわ」
「…………」
「美香ちゃんだって分かってるのよ。
ツナと同じ歳の弟がいたみたいだし、ツナの年頃の男の子がどういうものなのか知ってるんだわ。
だからツナの子供らしい所もツナの好きな所として愛してるの。
…言われた事ない?ツナの言うダメな所も含めて全部好きって」
「っ」
綱吉は炎真達との戦いで聖地に行った時の事を思い出した。
獄寺とSHITT・P!での戦いで、ツナの良い所だけ見て盲信していると考えていたSHITT・P!が獄寺に綱吉のダメな所をツラツラと暴露した時。
獄寺は特に動揺する様子もなかった。
その姿に綱吉は疑問に思っていたが、一緒にいた美香が教えてくれた言葉だけは何故か印象に残っている。
ーー人間なんだから何かしら短所やダメな所なんて沢山あるわよ。
でも、それを上回る好きな気持ちや尊敬する気持ちがあれば
どんなにその短所やダメな所を並べられようと関係ないの。
だって、知った上で好きなんだから
「……美香…」
あの時の綱吉は美香の記憶を失っていて、美香が誰を想って、誰に対して言っていたのか分からなかった。
でも、今は分かる。
「(オレに対して言ってたんだ…)」
ーー貴女にも…いるんですか?そういう人…
ーーそうね…正確には『いた』わ
「(あれは…っオレの事だったんだ…!)」
美香は、もうそんな頃から綱吉に対して声を上げていた。
ーー貴方のダメな所も 全部好き!
「美香…っ母さん、オレ…!」
「ツっくん…」
「美香に酷い事言っちゃったんだ!
こんな事で悩んでる情けない姿を美香に見られたくない。幻滅されたくないって思ってずっと言い出せなくて…っ
それでイライラして、心にも無いことをつい言っちゃって…傷付けたんだ!
どうしよう!美香に嫌われたらどうしよう!!」
「大丈夫よツっくん。
言ったでしょ?美香ちゃんは大人な女の子だから謝ればきっと許してくれるわ。
ツナはまだ中学生なんだし、美香ちゃんならそれもちゃんと理解してくれている。
美香ちゃんだって大人びてるけどやっぱりまだ高校生なんだもの。
お互いに子供で喧嘩の弾みで心にも無いこと言って傷付けるなんてよくある事よ。
大人の母さんと父さんだってたまにあるんだから。
そんな時はいつもみたいに謝るの。
いつもはお互いにちゃんと出来て仲直りしてたじゃない。それでいいの。
そして、ツナがずっと悩んでた事を打ち明けてあげて。
美香ちゃんなら受け止めてくれるから…」
「オレ…最低だ…っ
美香、美香…!!」
「大丈夫。大丈夫よツっくん。
絶対に仲直り出来る。心配しないで」
自己嫌悪と押し隠していた気持ちを吐き出せた安心感で泣きじゃくる綱吉の頭を奈々は優しく何度も何度も撫でてあげる。
恋に真剣に悩む息子の姿に奈々は微笑ましくて、穏やかな笑みを浮かべたまま
年頃故にもう何年も触れられなかった我が子の柔らかい髪と頭に触れて撫で続ける。
「お腹すいたでしょ?
スープ作ってあげるから、それ食べて元気出しましょ!ね?」
綱吉は泣き続け、涙を拭いながらコクリと素直に頷いた。
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