継承式編
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検査結果は特に異常無かった。
なので最初に伝えられてた通り、明日にでも退院出来るとの事。
あたしは明日の朝の退院を希望し、夕方学校が終わってお見舞いに来たツナには検査結果を教えた後『明日の夕方に退院』と伝えた。
「朝でも良かったけど、朝はツナは学校でしょ?
だから夕方学校帰りに来てもらって…一緒に家に帰ってもらいたいのよ。荷物もあるし」
「分かった。じゃあ明日学校終わったら迎えに行くよ」
これで良い。
これであたしは彼等から離れる事が出来る。
ーーー美香…貴女を助ける為に尽力を尽くした彼等なのに。どうしても黙って立ち去るのですか?
「(分かってる…分かってるわよ。最低だって。
でも仕方ないじゃない。これ以外どうすれば良いのよ)」
ーーーせめて事情の説明くらい
「(どう説明してもツナは引き止めるに決まってる。
誰よりも仲間や友達を大切にする人だもの。
『なら仕方ないね。さようなら』は彼の中で考える事はないわ)」
ーーー…………
「(忘れてもらうのが…一番いいのよ)」
事実、あたしを忘れててもツナは特に問題無さそうだった。
友達と楽しそうにしていたし…京子ちゃんの事を好きでい続けていた。
それが本来のツナ。本当のツナ。
あたしは決意を新たに再び彼と、炎真達の前から消える事にした。
そして翌朝。流石に二日続けて学校をサボれなかったらしいツナ達は朝は誰もお見舞いに来なかった。
朝食を終わらせたあたしは自分の荷物を片付けて、旅行バックを肩にかけると受付で手続きを済ませ病院を出る。
「念の為病院の裏口から出るわ。
それから駅に向かって…今回は前回とは反対方向の電車に乗って…」
ーーー美香
「なに?」
ーーーひとつだけ教えてあげます。
「…?」
ーーー私…ジョットの超直感に勝てたこと一度も無いのです。
「………え?どういう意味…」
病院の裏口から出て駅に向かう。
午前中だからか人気の無い裏道に入った所で前方に急に人の気配がした。
前を見るとハイパー化したツナがいる。
あたしは、頭の中が真っ白になった。
空を飛んでいたらしい彼は地面に降り立つとあたしを睨み
「…退院は今日の夕方じゃなかったか?」
「…………」
「美香。オレはちゃんと忠告したぜ。
『次は怒る』『嘘はイヤだ』ってな。
美香なら気付いてたはずだ」
「…………」
「またオレ達の前から消えるつもりなら…
何を一人で背負い込んでるのか無理にでも吐いてもらう!」
「っ」
慌ててツナに背を向け走りだす。
無駄だって分かってても、走り出さずにはいられなかった。
「今度は逃がすか!」
あっという間に後ろから抱かれ捕まった。
そのままふわりと体が浮くと
「ちょっ…なに!?」
「話がしやすい場所に連れていく」
「離して!」
ツナは逆にあたしの体を抱く腕の力を強めた。
そうして空を飛んで連れてこられたのは小さな無人の神社。
参拝客も少ないようで、その神社を囲む林の奥に連れられるとツナはまず飛んでいた空中から着地する。
その隙を狙って彼の腕を振り払いもう一度走り出そうとするけどツナに腕を掴まれ、グイッと引っ張られるとすぐ近くの一本の幹の太い木に両肩を掴まれてドンッと背を押し付けられた。
「ツナ…」
押し付けられた背中の衝撃の反射で閉じていた目を恐る恐る開く。
ツナはオレンジに光る瞳で睨んでくるだけで何も言わない。
本気で怒ってる。
「……やっぱり一人でいなくなろうとしたんだね。ツナくん」
今度はあたしが押し付けられた木の後ろから炎真まで出てきた。
ついでにリボーンくんまで。
「……ああ」
「美香…悪いけど今回は僕も怒るよ。
せっかくツナくんが忠告したのに」
「っ…………」
「話せ。何を隠してる」
「…………」
「話してくれるまでオレは美香を離す気はないよ」
額の炎が消え、目の雰囲気がいつものツナに戻るけど怒ってる様子は変わらなかった。
「もう…二度とあんな思いはしたくない。
大切な人を一時的にでも失った…あんな思いは!」
「…………」
「美香!
オレはっ…オレ達は別に美香が異世界の人間だって知っても何も変わらない!!
そんなのっ何も関係ない!美香は美香なんだ!!」
「関係あるのよ…っ」
「なら教えろよ!どう関係あるんだよ!」
「いいじゃない。あたしの事忘れたって何も問題なかったでしょ?
ツナは変わらず友達と楽しく過ごせて、好きな人をずっと見続けられて…家族と穏やかに過ごせた。
それの何が悪いの?そもそもそれが本来のツナの日常の姿なのに。
あたしがいる方が、異常なのよ。あたしはこの世界に、星に…存在してない」
「何言ってるんだよ…本気で言ってるのか?
美香はオレの目の前に今存在してるだろ!
美香と出会って、一緒に過ごして…家族になったのなら美香のいない日常はもう日常じゃない!
オレが取り戻したい日常じゃないんだ!
忘れるからいいなんて問題じゃない。忘れたくなんてなかった!!
勝手に人の記憶を消しておいて勝手に納得するなよ!!」
「だからっそのあたしと出会ってしまった事が既に間違いなの!
その間違いを星が正してくれるなら、それがいいのよっ」
「何が正しいか正しくないかをよく知らないものに判断されて、勝手に正されたくない!
オレは美香と出会った事に後悔してないし、間違ったとも思ってないっ」
「ツナ達はこの世界の人間で、この星に生きてるの。
この星に生きる命のひとつとして星はツナ達を守る為にやってるのよ!
何処からやってきたかも分からない…実害を及ぼすあたしから…!」
「何がどう害なんだよ。美香のどこが害なんだっ」
「本来存在しないあたしと出会い、関わってしまった事でツナの人生が変わってしまってるのよ!
ツナ、あたしの事好きなのよね!?」
「んな…!」
ツナの顔が赤くなる。
「それが間違いなの!存在しない人に恋をするなんて有り得ない現象が起きてるの!
存在しない人の為に傷付くなんて現象が起きてしまってる!
確かに今あたしはここにいるけど、いないのが普通なの!
そんな人の為にツナや炎真が傷付く異常事態が起きてるのよ!
それを星が正そうとしてるだけっ
ツナの好きな人は京子ちゃんなのっ思い出して!
炎真だって!存在しない人に恋をしてしまってるって分かってよ!!」
『分からないよ!!』
ツナと炎真が声をハモらせた。
「星に存在しなかったとしても、今目の前に美香は存在してる!
目の前にいて、話して…触れる事が出来る!
オレにとって美香は十分存在してる人だ!」
「星だか世界だかよく分からないものに、なんで僕達の好きな人まで管理されなきゃならないの?
そんなの僕達の勝手だ!
存在してないからダメだっていうなら、なんでいつまでも美香を存在させてるんだよっ」
「それはあたしがなかなか星から消えないからよ!
『元の世界に帰りたい』って願えばすぐ元の世界に帰る事が出来るの。
でも…元の世界に帰ったって誰も待ってない。
だったら楽しかった思い出のあるこの世界にいたいっ
星に何度殺されかけたって構わない。あたしがそうわがままを言って、粘ってるせいなのよ…!
崖から落ちて、やっとあたしを消せると星は思ったでしょうに…結局助かってしまったし…
仕方ないのよ。これはただのあたしのわがまま。
だからせめて…この星に生きる人達の人生を狂わせるようなこと、したくない!」
「オレの人生はリボーンに出会ってからとっくに狂ってるよ。
マフィアになんかなりたくないし、ケンカなんかしたくないのに…でも仲間や友達が傷付く方がもっとイヤだから戦うしかない。
それでもっオレは狂わされる前よりずっと今の方が楽しいんだ。
だったらもう何度狂ったって構わない!
何度狂わされても、楽しい日常が送れるなら別にいい!
オレにとってもう美香がいない日常は非日常なんだ!
人生を狂わされるより、そっちの方がよっぽどイヤだよ!!」
「……………」
「行かないでよ美香!
星とか世界とか、そんな難しくてよく分からないものの為になんで美香が孤独にならなきゃならないんだ!!
なんで美香が殺されなきゃならないんだ!!
『生きたい』って思って良いんだ!美香!!」
「あたしは…っツナやみんなをあたしから守りたくて…!」
「オレは美香を守りたい!
もう…っ失いたくない…!
記憶は確かになくなってたし、美香の言う通りいつもの日常を送れてたよ。
でもな…っ心の中の感情までは消せてなかったんだ!
ずっと何かを探してた!ずっとよく分からない喪失感を感じていた!
取り返しのつかないものをオレは失ったと、よく分からないのに自分を攻め続けていたんだっ
完璧じゃないんだ!美香の言う星が正したものは完璧じゃないんだよ!!」
「…………」
「そんな思いを…美香はオレ達に強いるつもりなのか?
ふざけるなよ…!そんなの、絶対に許さないからな…!!」
そう言って涙ぐみながらツナはあたしを睨み続けた。
星の修正が完璧じゃない?
でも、確かに完璧だったらツナはあたしの事を思い出したりしなかったはず。
そんな…なんでそう仕事が雑なのよ。なんでそういい加減なのよ。
だったら…あたしは…
「じゃあ…どうしたら、いいのよ…」
涙がじわりと溢れる。
足の力が抜け、あたしはズルズルとその場に座り込んで顔を両手で覆う。
「記憶を消してしまうなんて最低だって分かってたわ。
でも…でも、それでツナ達の人生の軌道修正が出来るなら仕方ないって…そう思って…一人になる決意をしたのに。
ツナ達の本来の日常を取り戻せるならって…思ったのに…!
もうどうすればいいのか分からない…!
どうすればツナ達は元の日常に戻れるのよっ
正しい日常と、正しい人生に戻してあげたかっただけなのに…!」
泣きじゃくるあたしにツナがしゃがんで
「簡単だよ。…帰ってこいよ、美香」
フルフルと頭を振る。
「オレ達の日常は、さっき言った通り美香も含めた全員が笑っていることなんだ」
「……………」
「美香がいないなら…それはもうオレ達にとっての正しい日常と人生じゃない」
「……………」
「帰ってきてよ。…頼むよ。
もう美香がいない日常はごめんなんだ…!」
何かを差し出された気がして泣き顔を上げるとツナの手があった。
怒って睨んでいたツナの表情が、いつの間にか泣きそうな程の懇願するものになっている。
「あたし…みんなを傷付けたくないの…!」
「誰も傷付いてなんかない!
美香がいなくなった時の方がみんな傷付いてた!」
「…………っ」
「頼む…手を握ってくれ…!」
「美香」
今までずっと黙っていたリボーンくんが声をかけた。
「難しい事は考えるな。
今美香が、何処にいたいのか…
存在してないと言われるこの世界でも
『許されるなら居続けたい所』をシンプルに考えてみろ」
「……………」
…許されるなら、あたしは……
「…ツナ達と、一緒にいたい…」
ツナの手に手を伸ばし、そっと指が触れると一気に腕を掴まれて体を引かれ抱きしめられた。
「おかえり…美香!」
「ツナ…」
「これでいいんだ。これからの事は、一緒に考えればいい。
もう一人で抱え込んで…勝手にいなくなったりしないで…!」
「ごめん…ごめんね、ツナ…」
「一緒に帰ろう。オレ達の家に…!」
炎真とリボーンくんに見守られながらあたしはツナにしがみついて泣き続けた。
ツナはそんなあたしをずっと抱きしめ続け、頭を撫でてくれたのだった。
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