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  • ブチャラティのアウターだと!? ブチャラティ

    20230905(火)10:59
    「ブチャラティ見てください!じゃじゃーん!」

    いきなり扉がノックも無しに開かれたと思ったら、自身の恋人とナランチャが何やら自信満々に各々ポーズを決めて現れた。
    まあ、このノリはオレのチームではよくあること(主に恋人とナランチャ、たまにミスタとジョルノだが…)なので、特に驚きもしないのだが可哀想なので驚いてみる。

    「なんだ!?ビックリするじゃあないか…。」
    「へへーでしょ!?」
    「なあなあブチャラティ見てくれよ!これこれすっっごくねぇ!?」
    「ん?」

    最初に2人を認識したから気付かなかったが、2人が見に纏っている白地に独特な黒い模様が鏤められたアウターをヒラヒラしているから漸く理解した。

    「おいおいオレのスーツと同じ柄じゃあないか!」
    「そうなの!アバッキオと買いに行ってきました~!」
    「アバッキオもか?」
    「ブツブツ文句言ってたけど、全員分買ってくれたよな~!ブチャラティの柄が出て嬉しかったんじゃね?」
    「アバッキオってブチャラティ大好きだもんね~」

    と言うかいつの間に販売したんだ?と言う疑問もあるが、何より目の前の2人とメンバーが喜んでるならいいか。
    ブチャラティは改めて慕われている事を自覚すると口角を緩ませて、椅子から立ち上がると2人の頭を撫でてやる。

    「さ、じゃあ他の奴らにも着てもらおうか。」
    「「はーい!」」

    こうして集合を掛けられた他のメンバーもソファに腰掛けるブチャラティに披露するのだった。
  • 裏も表も知りたくて知りたくなかった ブチャラティ

    20230818(金)23:45
    ※これは後日続きを書く予定のお話です



    ブチャラティは表も裏も無く、すごく優しい男性だ。
    いつでも接し方が変わらないから1ミリも私に好意を抱いていたなんて気が付かなかったが、友人からは「優しいけど、特に貴方の時は瞳が優しくてよく笑ってたよ」って言って貰えて不安が自信へと繋がった。

    私も、好きなままでいいんだ…。



    「おかえり、仕事遅かったんだな。」
    「うん。同僚の子が体調崩しちゃって、ちょっと残業になったんだ。」
    「知ってたら迎えに行ったのに…夜道は危険だって言ったろ?」
    「大丈夫よ。私だよ?」
    「たく…。いくら魅力を伝えたら解ってくれるんだ?オレのgattinaは。」
    「ん…。」
    「付き合ってから益々綺麗になってるんだ…。それに…キスすると反応も可愛い。」
    「そ、それはブチャラティにだけ…だもの。」

    チュッチュッとキスを額や頬に落として愛おしげに蒼い瞳で見つめる彼を、疑うこと無く私は頬を赤らめて瞼を閉じれば寂しい唇へと合図を送る。
    すると小さな笑む声の後に「本当に可愛い…」と言いながら待ちわびた甘いキス。それは疲れた身体が解れちゃうくらい甘い…甘いキス。



    ◇◇◇◇


    「ん"っ、ゃっあ!」

    がリッと血の味が広がり下唇を噛み締める私は目の前の親指で自身の唇を拭う"元"恋人に震え上がる。
    甘いキスしか知らなかった…。否、知りたくなかった…こんな、こんな苦しいキス。

    「そんなに嫌うなよ…。寂しいだろ?」
    「そんな嘘…言わないで!もう、嫌いなくせにっ!」
    「それは…キミだろ?」

    え?

    まただ。やはりブチャラティの言葉の意図が解らない。
    でも、解るのは…。

    「ぁ…ぁ…。ダメ…ダメ…。」
    くち…。

    大好きなままの刻まれた私の身体なんだ…。

  • 1度だけ言ってみて ブチャラティ

    20230604(日)17:11
    「vuoi sposarmi?」
    「きゃあああ…素敵!」

    今ハマってるハンサム俳優が出ているドラマの甘いシーンに、私は声を荒げてソファへとダイブした。顔もいいのだが出ているフェロモンがすごい。流石老若男女ファンがいる俳優さんだ。この回も漸く主人公と結ばれるから視聴率がすごい事になっているだろう。

    いや…きっと私の上司がこの台詞を言ったら、もっと破壊力がすごそう。

    俳優さんに負けない容姿を持つのが上司であるブチャラティだ。きっと私が面食いになったのも、毎日あの顔を見ているからに違いない。感覚が可笑しくなるわよね。

    「よし…。」

    私はある決意をしてドラマを堪能した後に直ぐ様ベットへ潜るのだった。

    -翌日


    「は?おまえ…今何て言った?」
    「だから、『vuoi sposarmi?(私と結婚してくれませんか?』って言っていただけないでしょうか。」
    「……キミはオレの恋人か?」
    「いいえ。」
    「ならキミはオレが好きなのか?」
    「いいえ!そんな滅相もない!!」
    「却下だ。」
    「ええええそんなぁ!いーじゃあないですかぁ!」
    「そう言うのは取っとくべきだ。」
    「乙女の夢なんですぅ。」
    「じゃあ尚更だな。」
    「……だってこの先も言われないですもん!」


    ワンチャン優しいブチャラティならば言ってくれるかと期待したが、やはり無理か。もし聞けたらこの先も頑張れるしキュンキュン出来たのに!
    だってさ!イケメンと付き合える勝ち組になんてこの先もなれないじゃん!夢見させてくれたっていいじゃんかぁ!

    と心の中で叫びながらドサッと近場にあるソファへと座り込む。しかし、その後に影が覆い被さりギュウッと余計に身体が沈むから何事かと顔を上げると視界いっぱいにブチャラティ。

    「dimmi di si?(イエスと言って?)」

    次いだいつもよりも甘い甘い声色は、世を騒がせる俳優さんよりもかっこよくて妖艶で私の思考は真っ白になり「ひゃ…ひゃぃぃ…。」と気の抜けた返事しか出来なくなった。
    ソファに座る私に覆い被さったブチャラティは「どうだ」とフンッと鼻を鳴らして満足げに姿を消した。

    すごい…これは生き甲斐になるレベル…。プロポーズとは違うけど、色々凄かった…。


    バタン-

    一方扉を閉めて彼女から距離を取ったブチャラティにアバッキオがニヤニヤ口角を上げて楽しげだ。ああ、解ってるさ。

    「何で今のは言えて『好きだ』が言えないのか理解できねぇなぁ。ブチャラティともあろう男がよぉ。」
    「うるさい…色々順序があるんだよ。」

    今更ながら苛立って勢いで言えたが、羞恥心が襲い顔中が熱い。
    拗らせた想いはどうやったら本気と捉えてもらえるのだろうか?
  • フリーハグ ブチャラティ

    20230513(土)10:05
    「なんだろ…すごい人だかりと甲高い声が聞こえる。」

    任務報告をしにアジトへ戻れば近づくにつれて人と声に違和感を覚える。何故ならいつもこの周辺は人が疎らだし、況してやこんなに女性比率が高くないからだ。
    しかしアジトに一歩一歩足を進めると人口密度が増えるのは、違和感を通り越して異変だ!やっぱりいつもと何かか違う!

    「きゃあああ!」
    「何なの!?」

    複数の声が重なれば流石に異常を探すべく駆け出すが、すぐに私の取り越し苦労だと一気に身体中の力が抜けた。だって…。

    「ぎゃはははは!フーゴいいぞ!もっと抱き締めてやれって!」
    「あーあーフーゴ男だろぉ。女性に恥じかかせるんじゃあねぇぞ?」
    「お…まえらぁっ…。ぐっ…。」
    「なに…してんの」
    「あ!待ってたんです!この状況をどうにかしてください!」
    「この状況って…。」

    フーゴがミスタとナランチャに笑われながら、女性に抱き締められている状況…だよね?
    この構図が理解できない私は呆然と見比べて、更には抱き付く女性の背後には続いて女性が列を作っているではないか。そう、思い起こせば今路上で「フリーハグ」が流行っているとかって耳にした事があった。これだ。

    「はぁ…原因は君達なのね…。ばっかみたい。」
    「ひどい!助けてくれないんですか!?」
    「どうせいつもの罰ゲームとかでしょ?良かったじゃない、素敵な女性達と一生分のハグしちゃいなさい。」
    「ああ、あなたって人はブチャラティにしか興味なかったんだった!あーくっそ!」
    「ぎゃはは!フーゴそうだぜ!良かったじゃん!」
    「はいはい、お姉さん達ちゃーんと並んでよぉ。兄さんが1人ずつ抱き締めてくれるから。」

    私が呆れながらその場を通過してアジトへ入っても、扉越しに女性達の歓喜の声が木霊していた。
    わかるよ、憧れの人に抱き締められるなんてないもんね。
    私だって…ブチャラティが抱き締めてくれるなら並んじゃうもの。

    「でも、そんな奇跡ってないんだよねぇ…。」

    ブチャラティは頼んだらやってくれそうな気もするが、そうなると私以外の女性も抱き締めるって事で…嬉しさと嫉妬で胸がぎゅーっと締め付けられる。

    やめやめ、こんな妄想したって虚しくなるだけ!

    「おい、帰ったのか。」
    「ぎゃあ!」

    いきなり現れたブチャラティに大きな悲鳴を上げてしまった私に、青い瞳を丸くした後にクックと喉を鳴らした。ああ…恥ずかしい。

    「静かだから誰も居ないと思いました…。」
    「すまない、読み物をしていたからな。だから余計に外が騒がしいから見に来たんだ。」
    「あー…実はフーゴが罰ゲームでフリーハグをしているんです。そしたら女性達が列を作っちゃってて。」
    「フリーって…知らない女性を抱き締めるのか?」
    「ええ…私なら知らない人となんて抱き合えませんよ。」
    「全くだな。」

    私の意見に頷いて同意したブチャラティに心が解れ「ですよねぇ!」と笑みを浮かべると、何故だろう。真っ正面に立つ彼が大きく腕を広げているではないか。それはまるで何かを待っている様に私には見える。

    「キミなら抱き締められるぜ。」
    「!?」

    都合のいい妄想が実現した。そうだ、ブチャラティは愛想も良くて心の広い男なのだ。きっとメンバーとのスキンシップだと解釈したのだろうが、私には刺激が強すぎる!

    「そ、そんな簡単に抱き締めるとか言っちゃダメですよ!」
    「そうか?キミはオレにとって大切だから、だからこそ抱き締めちられるのなら抱き締めたい。」
    「大切な、仲間って事でしょう!?」
    「?そうだぜ?」
    「うう!(そんな無垢な瞳で見ないで!)」

    変に純粋な所のあるブチャラティに、まるで私が虐めている気分になり胸が痛くなったりキュンキュンときめいたり忙しくて唸り声を漏らす。
    すると背後からバンッと勢いよく扉が開く音と「あ~楽しかった!」「はあ…もうウンザリです…。女性は暫く遠慮します」と喜ぶ声と嘆く声が聞こえてきた。

    「あー!もしかしてブチャラティもフリーハグ!?」
    「まじか!え!?2人で内緒で!?やっらしぃ!」
    「…なんだ、おまえらもするか?」
    「する!」
    「…ぼくも。」


    どうしてこうなったのか…。
    私が抵抗したが故にブチャラティはナランチャと疲れきったフーゴを抱き締めていく。なんだこの光景は。
    流石にミスタも男と抱き合う趣味は無いのか「いやオレは…ごめんブチャラティ。」と謝っていた。

    えー…やっぱり抱き締めてもらうんだったなぁ。

    そんな光景を見ていたら意地張ってないで素直に抱き締めてもらえば良かったと後悔が襲い、3人がぞろぞろ奥へと進めばブチャラティの側に寄り袖口をクイッと勇気を出して引っ張ってみる。

    「あの…すみません。まだ…間に合いますか?その…少しだけ…抱き締めて…ほしい…です。」

    するとブチャラティは口元を手で押さえて顔を反らしたが、直ぐ様向き直り腕を広げてくれた。

    「おいで…キミなら無制限でいいぜ?」

    そんな冗談を言いながら笑うブチャラティの黒髪から覗いた耳が、ほんのり淡いピンク色だったのは気のせいだろうか。
  • 捕まった ブチャラティ

    20230415(土)08:27
    こんな小さなパン屋が一際賑やかになる時間帯がある。もちろんランチタイムは店内がぎゅうぎゅうになるくらいのお客様が来るのだけれど、その賑やかさとは違って女性客が多くなって皆の目がハートになっちゃう賑わいなのだ。

    外が賑やかになってきたって事は…。

    キイッっと扉の開いた音がして目立つ人物が現れた。立っているだけで絵になり華やかになる彼はこの街のギャングであるが人気があるブチャラティ。怖さより勝る彼の人柄(まあ見た目から入る人も多いだろう)に魅了された女性は数知れず。
    私も噂だけは耳にしていたが、実際見て「この人は別の世界の人なんだ」と悟った。だってこんなにも女性の理想を詰め込んだ完璧な人っていないと思う。
    私は息を吸って長く吐いた。これで緊張が解れて自然な笑みを作れる。あとは…。
    サッとレジ下にしゃがんで「お願い、力を貸して?」と心の中で問い掛けると、もう1人の私が現れてニッコリと微笑んだ。「まかせて」と言っているみたいで心強い!ありがとう!
    赤面症で多汗症の私が好きな人と話すなんて無理。だから昔から出来る能力で分身を作って、乗り越えるのが1番いいのだ。

    「やあ、元気にしてたか?」
    「はい、ブチャラティさんもお変わりなかったですか?」
    「それがここ最近忙しくってな…。だからキミの笑顔を見たら疲れも吹き飛んじまうと思って来てみたんだ。」
    「ふふっ、嬉しいです。」
    「だが…。」

    しゃがみこんでいる私を影が覆った。そして見上げると爽やかな笑みを浮かべる青色の瞳と黒い瞳が混じり合って心臓が跳ねる。あ…バレた。

    「オレはキミに会いたかったんだぜ?」
    「え…えっと…こ、これはその、私達双子で!」
    「双子ねぇ…そんな出生記録あったか?」
    (ぎゃー!)

    私は色々バレてて動揺から顔中に熱が集まり汗がじわじわ浮かんできて逃げ場を失い、悪足掻きから顔を手で覆った。ど、どどどうしよう!

    「す、すみませ…。」
    「別に怒ってる訳じゃあないさ。」

    そう言ってレジカウンターをひょいっと身軽に飛び越えたブチャラティは腰抜けた私の前へ同じ様にしゃがむ。同じ目線でどうしたらいいか解らずさ迷う瞳。
    どうしてブチャラティはこんなに私に絡むの?
    前々から声を掛けられてはいたが謎が多すぎる。

    「警戒しないでほしい。オレは本当のキミと話したかっただけだ。」
    「話し?」
    「どうして隠れるのか…本当のキミがどんな女性なのか、オレにどんな表情を見せるのか…。」
    「ぁ、あの…。」

    ブチャラティの指が頬に、顎に流れて触れる所から熱くてドキドキしちゃう。

    「やっぱり可愛かった…。」
    「!」

    その一言で私の感情がショートして目の前が真っ暗になった。
    私、どうなっちゃうの!?
  • 着信拒否 ブチャラティ

    20230314(火)14:31
    「すまないな、迎えに来てもらって。遠かったんじゃあないか?」
    「いえ、以外に近かったですよ!それに…唯一2人きりになれますし、車内って。」

    あああ自分でも恥ずかしい事言っちゃった!でも、でも嬉しかったんだもの!

    なかなか平日は仲間も居るし恋人になれたとていい事ばかりじゃあない。目の前でご褒美をお預けをさせられている感覚に近い。いつだって会えるのは幸せなのに、それ以上の欲求が私のお腹をいっぱいにさせていく。でも…こんな事言ったら変だったかな?
    車内へ乗り込んだブチャラティからは返答もベルトを装着する音も聞こえないから、ソッと表情へ目線を向けると革のシートが軋んだ。

    「それに…こんなに接近できるしな?」
    「へ、へ!?」
    「何驚いてるんだ。キミから言ったんじゃあないか。」
    「そ、そうなんですけどいきなりはちょっと!心の準備が!」

    ドアップのブチャラティなんて理性を木っ端微塵にできちゃうくらいかっこいいっのに、本人は無自覚だから本当に困る。それなのに動けない事を利用して、彼は口角を上げて私の胸の間で食い込むシートベルトを指先でなぞるのが妙に厭らしい。

    いったい…この指は何処へ向かうの?

    つつつ…と下から胸、そして肩へと登り「準備できたか?」なんて下から覗く瞳が黒髪から覗いて夜空に浮かぶ星の様に神秘的なのに、唇が私を誘惑するから心拍数が上がりゾクゾクと肌が泡立つ。
    準備なんてしたってブチャラティの前では意味をなさないのも知っているし、押さえたって唇が重なれば膨らんだ欲求は爆発しちゃうのも知っている。なのに、彼の唇を欲してしまう。

    「キス…ブチャラティと…したい…って…思ってたの。」
    「上出来だ…。」

    夜だし木の下に止めているから、車内はあまり見えないと思うが妙にドキドキする。
    覆い被さるブチャラティは意地悪だったけど優しく唇を重ねてくれてホッとしたが、角度を変えると目的を持った舌が絡んで擦れて自然と腰が浮いてシートベルトが余計に食い込む。「悪い…止まらない。」と言う彼とのキスは苦しいけど甘くて2人の欲求は止まらず、私も手を伸ばしてぎゅうっと頭を抱き締めるともっと深くなった。

    止めなくちゃいけない、あんまり遅いと仲間が心配する。

    そんな正常な意識が交差するが太腿を撫でる手が彼の余裕の無さを証明していて、求められている事に幸福感に包まれて身を任せてしまう。携帯の振動が終わりを告げても2人共に気付かないふりをした。
  • 炎が燻る ナランチャ

    20230314(火)14:29
    「なぁなぁ、あのさぁ…。」
    「うん、お腹空いた?」
    「違う。」
    「じゃあ喉乾いたんでしょ!」
    「ちがーう!なあ!オレってそんなガキっぽい?」
    「え…。」
    「腹へったとか喉乾いたとか…そんなガキっぽい欲求ばっかじゃねぇ。」

    そう言って眉を寄せた表情は彼の言う"ガキっぽい"に近いのは年相応だからで、キリッとした此方を射止める瞳は"大人の男"で妙に心拍数が上がる。
    『じゃあどんな欲求なの?』と聞いたら理性の波が押し寄せてしまいそうのなので、私は乾いた唇にグッと力を入れる。だって今は…。

    「キ…「ま、待って私掃除しなきゃいけないんだった!皆もそろそろ帰ってきちゃうし!」

    何やら口先から欲求が漏れる前にナランチャの横から飛び上がるとソファが大きく揺れる。

    だってまだ仕事中だよ!

    本当に早く帰って来て~と願いながらテーブルに乱雑に置かれる雑誌を集めて本棚へ戻すと、その手に大きな手が重なる。ごつごつした部分と女性に近い細い線の指。年齢故の間の形が妙にセクシーで、私はナランチャの手が好きだから直ぐに本人だって解る。

    「オレの気持ちが爆発する前にさせてよ…。」
    「で、でも誰か来たら…。」
    「オレさ、確かにブチャラティ達よりガキだけど…誰よりもデッカイ欲求持ってるんだぜ。」
    「ぁ…ナランチャ…。」
    「好きだよ…。」
    「ん、ふ……ぅ。」

    背丈は私よりも少し高いだけなのに鍛え抜かれた身体にすっぽりと覆われ、きっと後ろから見たら何してるかなんて解らない。でもナランチャの言う通り奪われた唇は深く、欲求を絡め取りぐずぐずに流れ込んで私の胸に刻み込む。
    ちゅっと花弁が落ちて唇から頬、耳へ「もっと…オレのモノにしたい…。」と鼓膜の奧深くに愛を囁く彼は年齢すら忘れてしまいそう。するりと胸の膨らみの曲線を撫でると喉を鳴らしてしまう自身に悪魔すら耳打ちをするのだ。さあ、いいんだよ。

    やっぱり誰もまだ帰ってこないで…。

    だから私の淫らな欲求も、彼の手によって咲き乱れたのだ。

  • 言葉と空の続き ブチャラティ

    20230310(金)01:04
    「よく頑張ったな…ちゃんと見てるぜ。」

    「部下を守るのも幹部の勤めだ。…だが、キミだけを守りたいってのも事実だぜ。」

    好きな人にこんな言葉を毎日囁かれてたら、勘違いしちゃうよね?
    まあ"囁く"は私だけが感じてただけか…。正確には"投げ掛けられた"だ。だけどさ、日本で過ごした時間の方が長い私にとって、イタリア人の普通の思いやりが甘い言葉に聞こえてしまっていた訳で。きっと「少しでも脈あるのかなぁ」なんて、脳まで甘い言葉に酔ってしまっていたんだ。あーもうほら!鏡見て!どう考えたって脈なんて無いでしょ!?

    丸い小さな鏡に移る自分と睨み合いをしたが、どうやら引き分けみたい。だってどっちも泣いてるんだもの。

    手鏡を置いてハンカチを取り出したけど、もっと悲しくなった。この上品な花の刺繍入りのハンカチ…。ブチャラティから貰ったやつだ。…大切に使ってきたけど、暫くは閉まっておこう。ハンカチは役目を果たせずバックへしまうとポケットティッシュで代用する。

    さっきから何でこんなにを湿っぽいのかって?
    フラれたからです。そう、フラれたの。……フラれたと同じ。

    任務も終わりブチャラティとミスタの居るトラットリアへ行くと、何やら話しに花を咲かせていた。どんな事を話してたかは解らないが「部下に恋愛感情は抱けない」だって。この台詞がこんなにも破壊力があるとは自分でも正直驚いたが、血の気が引いてその血が心臓に集中したのかバクバクして怖くなって引き返した。
    そして1人、ベンチで泣いてるのだ。こういう展開ドラマで見たかも…。ピリピリと人の視線が少し気になるけど、それよりも悲しい方が上回る。
    ズズッと鼻を鳴らして呆けた瞳で空を見上げると、真っ青な自然の作る色合いが綺麗すぎて目を細めた。真っ暗になる視界。やはり映るのは愛しい人。

    「いつの間にこんなに好きだったんだろぉ…。」

    彼一色になるのに時間が掛からなかったのは、きっと甘い言葉だけじゃあない。それを上回る優しさに惹かれた。
    きっとブチャラティは私がちゃんと告白したら、優しい言葉で断ったと思う。だから本音を聞けて良かったし、私に合った人はブチャラティじゃない。

    「そう思えばラクかも。」
    「オイ!サッキカラ何言ッテンダァァ!?」
    「ぎゃ!え!ええ!?No.2!?」
    「ブチャラティ、悩ンデルンダゼェ!」
    「な…何を?」
    「ヒヒッ!ヒャアアアッ!」
    「何でテンション上がったの!?」

    いつの間にか肩に現れたNo.2。質問に対して声と拳を上げて跳ねているのは可愛いが理解できない。
    しかし理由は聞けずずっと躍り続ける姿に、「もう、意味解んないけど…これはこれで癒される」と私の解れた心に余裕が生まれた。
    ブチャラティの姿見たくないけど、No.2が居るって事はミスタにバレちゃってる訳か。気まずいけど…もう少ししたら戻るしかないみたいね…。

    『部下に恋愛感情は抱けない』

    何よ…。じゃあ部下じゃなかったら恋愛感情になるの?ならないでしょう!?
    思い出したら悲しいより少し苛立ちが生まれて不貞腐れる私は、生まれてはじめて感情の起伏が激しくなったかも知れない。嫌いになりたいのに小さな奇跡にすがろうとしちゃってるし…もう!

    自身にも苛立って見上げた空の色が、先程よりも柔らかい彼の瞳に近い色合いになっていた。
  • 鳴き声は時に甘く ブチャラティ

    20230222(水)15:45
    身軽に高い塀に飛び乗り尻尾を揺らす猫が、今日もブチャラティの隣を歩いている。イタリアでは猫が自由に暮らし、人間もそれを受け入れ野良でも挨拶を交わす。懐かれたのか、オレの家を出る時間に木陰からひょっこり現れてアジトまで付き添う猫が愛らしい。

    今まで情が出るから生き物は飼ってこなかったが…まずいな…。

    職業柄、大切な存在が出来ると後々辛くなるのは目に見えている。なのにオレの感情など知らないとばかりに「にゃあ!」と鳴いて撫でてとねだる。しゃんと背筋を伸ばして座る姿は気品があり、手を伸ばせば自ら擦り寄る姿は沸々と涌き出る感情に奥歯を噛んだ。野良なのに毛並みが良くどこか雰囲気に気品があって愛嬌も持っている。

    「まったく…キミが女性だったらオレは惚れている所だったな。」

    そう囁くと尻尾を揺らし「そうでしょ?」とばかりに此方を見る猫に、ご褒美にと好きな顎を指先で撫でてやる。さて、挨拶も終えてアジトの扉を開ける。これがブチャラティの日課となった。

    そしてもう1つ。

    「ブチャラティ、おはようございます。」

    扉を開けると淹れたてのコーヒーの薫りと共に、鈴が鳴る様な凛とした声色の彼女がオレを迎える。

    「キミはいつも早いな。今日こそ勝てると思ったんだが。」
    「1番は譲れませんよ?コーヒーをゆっくりと淹れてブチャラティを待つ。この時間が大好きなんですっ。」

    ニコッと彼女が笑うと瞬時に華が咲く。湧いてはいけないと頭では理解しているのに、耳元で胸の軽やかな音が響く。愛らしい…傍に居てほしい。きっとオレに尻尾があったら感情と一緒に揺れているだろう。
    ブチャラティは彼女の顎を先程の猫にした様に指先で擽れば、「わっ、わっ、」と戸惑い驚くも両手がコーヒーの淹れるカップを手にしているから動けない。それがまた可愛いのだ。

    「可愛い事言うから撫でたくなった。」
    「んっ、何んですかぁっ…っ、擽った…ふふっ。」
    「…なあ、"にゃあ"って鳴いてみてくれないか?そしてら止めてやる。」
    「ぇぇ~…。」
    「ほら…。」
    「ひゃははっ。」

    もっと擽れば声を上げて笑う彼女を追い込んでいくブチャラティ。オレは優しいとよく言われるが、そんな事はないと思う。好きな人ほど可愛がりたいのに悪戯したい気分になると知ったからだ。

    「にゃあ!にゃあ!」
    「!」
    「はあっ、も、降参です!」

    遂に鳴いた彼女の声は懐いた猫よりも胸の奥がぐっと締め付けられるくらい愛らしく、ブチャラティは頭を殴られた程の衝撃を受ける。
    可愛い可愛い可愛いオレのモノにしたいっ…。
    心の中で感情が大きくなりグッと奥歯を噛んで大きくなる炎を鎮火させる。これ以上大きくなるな。引き返せ。

    引き返せるのか?

    「ブチャラティ?」
    「……。」
    「猫…好きなんですね。」
    「ああ…。」

    引き返そう。

    「好きだよ。」

    大丈夫だろ。

    「好きだぜ…。」
    「私も好きなんです。」

    その瞬間息が止まった。
    だが、彼女は「いつか飼いたいんですよね~」だなんて言うから少し腹が立った。自分勝手な感情。大人げない。だが、大人げなくさせるのが本気ってものであり、初めて手に入れたいと思ったのが彼女なのだから。だから気付いて欲しくなった。

    「……キミを好きって言ったんだ。」

    ピンと尻尾を立てて黒い瞳を大きくさせる猫みたいな彼女に、ブチャラティは真っ直ぐと告げて隣から離れた。言いたかった訳じゃあない。なのに感情的に口先から出てしまった。ロマンチックでもなんでもない告白だが、きっと彼女を揺るがすには充分だろう。自身の後先考えない行動に戸惑いアジトを出ると、先程の猫がまだ其処に居て「にゃあ!」と鳴いた。だけれど、やっぱり甘くオレの心を疼かせるのは彼女の声だけみたいだ。

    さて…どうしようか。

    ブチャラティは手で顔を覆い暗闇の中に答えを探す。何事も無かった様に接するか、冗談だ、気にするなと声を掛けるか…。それとも…。

    「好き…ってもう1回言ってもいいのか?」
  • 気付いちゃいけない気持ち ブチャラティ

    20230111(水)04:33
    幸せな結婚って何?

    既婚者は全員が幸せになる訳じゃあない。
    口では愛を囁けても身体ごと愛してもらえなくなったら、愛はあるのだろうか。否、私にはもう耐えられない。

    カッフェでぐるぐると同じ考えを巡らせながら苦いコーヒーを流し込む。答えなんて解ってるのに迷路に迷ってしまった私は行ったり来たり。

    「離婚…する勇気なんてない。」

    つい本音が口先を突いては、空気に溶けて無かった事になる。この愛溢れるイタリアの地で場違いな私は証を外した薬指を見つめては、その指越しの黒髪の美しさに瞳を細めた。ああ…今日も素敵だ。
    ブローノ・ブチャラティは忘れていた恋心を思い出させてくれる人だ。既婚者だって憧れの男性を愛でる時間だってほしい。
    たまにこのカッフェに訪れる彼をこっそりと見つめるのが楽しみであり、昔に追っかけていたアイドルを好きだった頃の私を思い出して原動力になる。いくつになったって甘酸っぱい恋心は大切だと思う。

    今日もありがとうございました…。

    静かにコーヒーを楽しむブチャラティの横顔を見つめながら感謝をし、私は夫では満たされなかった心が満杯になって席を立つ。そっと彼の背後を通るドキドキとそわそわが入り交じる緊張感がたまらなく好き。
    すると、いきなり身体に伝わった衝撃に驚きすぎて固まってしまった。だって…。

    「すまない。ぶつかってしまったが…怪我はないか?」

    私の瞳と鼓膜が支配された初めての感覚。憧れの彼は想像以上の容姿の良さと心地いい声質で、もっと好きになってしまいそうで怖いのに嬉しすぎて心臓が震えてる。

    「失礼…。」

    惚けている私に何やらスーツのポケットからハンカチを取り出して手首へ巻いていくではないか。立ち上がった彼は高身長だし爽やかな香水が解るくらい身近で、行動を目で追うのがやっとだ。

    あ…。

    そこで漸く袖口に付いたコーヒーのシミに気が付いた。きっと飲んだ時に付いたのだろうか。

    「あの、これはぶつかって付いたんじゃなくって…。」
    「そうかもな。だが、それでもせっかく似合っているんだ。家に着くまでは貴方の魅力の妨げにさせたくはない。」

    彼のスーツと同じ白い清潔感のあるシワ1つ無いハンカチが、花束のリボンみたく手首を彩る。ああ…言葉選びも素敵だ。

    「ありがとうございます…。」
    「素敵な1日を。ではまた…。」

    黒髪を揺らして笑みを浮かべたブチャラティはテーブルのカップと、自然な流れで私のカップを取れば返却して去っていった。
    "ではまた…"がすごく特別な言葉に聞こえてキラキラ輝く。この感覚が帰宅後も私の胸に残り、ハンカチが次を導く予感がした。