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  • 飴よりも ギアッチョ

    20211208(水)23:09
    「ギアッチョ、食後の飴あげる。」
    「あ?飴なんかいらねー。しかもリクイリッツィアじゃあねーだろソレ。」
    「だってあれは甘くないんだもん。」
    「はっ、ガキかよ。」

    食事を終えた私は車内に戻ると助手席のギアッチョへと可愛い色の飴を差し出した。これは最近お気に入りのフレーバーの飴でギアッチョにも食べてほしかったのに、案の定ぐちぐち言って受け取らないから私も徐々に腹が立ってきた。

    「うーるーさーい!もう!何で彼女が美味しいって言ってるのに素直に食べてくれないかなぁ!?」
    「おい、逆ギレかよ。」
    「そりゃあ怒りたくもなるよ!…私はさ、美味しいものを一緒に…ギアッチョと共有したいだけだもん…。」

    うん、私の我が儘です。ギアッチョの性格も解ってるし本当は食べたくない訳じゃないでしょう?いつも最終的には受け取ってくれる…最初から素直に食べてくれないだろうなとも思ってた。
    しゅんと誰が見ても落ち込み項垂れる私の耳に、頭上から盛大な溜め息が聞こえてきた。ほら、仕方ねえなって私の手からコロンとした飴を取ってギアッチョは口に放り込んだ。

    「ね?甘くて美味し…。」
    ガリガリガリッ
    「ちょ!そんなに一気に噛まないでよ!!」
    「いーだろ好きに食っても。」
    「そりゃそうだけど…。」

    私の言葉に被さってきた噛み砕く音に驚きギアッチョを見るも、本人は至って気にせず背凭れに凭れて少し気だるげに答える。その様子にそんなに食べたくなかったのかと私は味わってもらえない飴がなんだか可哀想になった。

    「飴なんかいらねーんだよ。」
    「ご、ごめ…ふう!?」

    冷たく言い放たれた言葉に思わず謝れば、その言葉さえも食べてしまう様にギアッチョの唇が重なり何度も角度を変えて奪われる。その突然のムードも無いキスに驚くも口内を割り入った舌で、私の口も先程の甘い飴の味でいっぱいになった。

    「ん、ん、ふ…んう。」
    「は…お前こそ解ってねーだろ。」
    「ふぇ…どういう意味?」
    「飴なんか食うよりお前とキスしてぇ。」
    「っ…!」

    そう言うギアッチョの眼差しは曇りが無くて、射ぬかれた私の身体が熱くなって溶かされてしまいそうになった。そんな理由で飴を拒否していたのかとも思ったが、私とキスしたいと思ってくれた気持ちが嬉しくてシートベルトを緩めて赤いメガネへと手を伸ばす。

    「ギアッチョずるいよ…。」

    ガラス越しじゃないギアッチョと私の瞳が交わり指先から鼓動が伝わる。こうして赤いメガネを外すのは私からキスする合図。
  • キミに癒されたい ジョルノ

    20211121(日)15:34
    1週間の疲れをまるで溜め込んでいたか、一気に出る金曜日の夕方。今日の仕事も終わり迎えに来てくれたジョルノの待つ車内へと戻ると、私は断りもせずに運転席に座る彼へと凭れ掛かった。

    「ジョルノ疲れたぁ…。」
    「お疲れ様です。でもすみません、生憎ぼくのスタンドでは疲れを取ってあげられない。」
    「いいのいーの!ジョルノとこうしてくっついてるだけで、私は癒されちゃうんだからっ。」
    「そうですか?…なら好きなだけどうぞ。」

    私の言い分に、そんなものかとクスクス笑いながら凭れる頭を優しく撫でてくれる。

    ほら、こう言う所。言わずとも私のしてほしい事をジョルノはしてくれる。

    年下で部下の彼に、こんな頼り方は上司として情けないとも思うが身体が求めてしまう。そんな柔らかい雰囲気を持っているジョルノに私は癒される。

    「ごめんね、折角迎えに来てくれたのに。…ジョルノだって帰って彼女とデートでしょ?」
    「酷いな。ぼくにそんな人が居ないの知ってるじゃあないですか。」
    「この前は居ないって言ってたけど、解らないでしょ?ジョルノかっこいいし若いんだから。それに、いっぱい告白されてるの知ってるよ~。」
    「告白されたって誰でもいいって訳じゃあないんですから。ぼくにだって選ぶ権利はあります。」
    「じゃあ一体どんな子…。」

    この間ジョルノに声掛けながら後を歩く女子だって可愛かった。「じゃあ一体どんな子を選ぶのか」と口を開き掛けると、頭を撫でていたジョルノの手が私の顎を持ち上げ視線を奪う。その鮮明な深緑みたいな瞳に濁りは無い。

    吸い込まれそうってこう言う事なんだ。

    なんだか海に飛び込むみたいな感覚に私は動けずに居ると、ジョルノがにっこりと笑みを浮かべて今度は額をコツンと軽く手の甲で叩く。思わず鈍い声を痛くもないのに漏らしてしまった。

    「こら。こんな話してたら、癒されないでしょう?」
    「う…まあ…その…気になっちゃって。つい…。」
    「女子って好きですよね。すぐ恋愛話をしたがる…何故ですか?」

    私は少なくともジョルノに好意を持ってるからですなんて言えない…!

    心の中でもう1人の私が虚しく叫ぶ。こうして自然に触れられるのに言えない私はズルいと思う。許してくれるっ解ってて、"大人の余裕"とか言い聞かせて行動してるズルい女。ジョルノの周りの純粋な女子高生とは違う。

    「女子とはそう言う生き物なのよ。」
    「ふーん。…まあぼくは、貴方の恋愛話は聞きたくないです。」
    「私の?」
    「ええ、イライラしますから。」

    そう浮かべた爽やかな笑みに違和感を感じる。何それ…。詳しく尋ね様と思ったがジョルノがハンドルを握ったと同時に「行きますよ。」と車を発進させたので、慌ててシートベルトに手を掛けて私は高鳴る期待で踊る胸をぎゅうっと押さえ付けた。
  • 1日の合間に ブチャラティ

    20211114(日)16:52
    休憩がてらコーヒーをお気に入りの真っ赤なカップに淹れて、ソファへと向かえば先客が居た。ブチャラティの横で脱力して全てを彼に預けて眠るナランチャは、見ていて心が和む程だ。

    「疲れてるんだろ。スタンド使いだったみたいだしな。」
    「ブチャラティ重くないですか?」
    「ああ、オレはこのくらい平気さ。キミが片方に凭れても構わない。…どうだ?」
    「わ、私は恐れ多いですよ!ブチャラティの肩になんて!」
    「はっ、なんだそれ。別に他の奴らと変わらないだろ。」

    変わりますよ!

    私は真っ赤になって心の中で叫びながら、少し勇気を出して拳一個分の間を開けて彼の隣に腰掛けた。
    この距離ですらかなりいい匂いがする。ブチャラティの愛用している爽やかな香水の香りが私を纏うだけでドキドキするのに、ナランチャみたいに凭れるなんてすごく勇気がいる行為だ。
    ブチャラティと触れていないのに、隣に居るだけで右腕が酷く熱を保つ。

    「今は…この距離で充分です。」
    「何か言ったか?」
    「い、いいえ!…ブチャラティの部下で幸せです。」
    「そうか?…なんだか照れるな。でも嬉しいよ、ありがとう。」

    小さく溢した本音を拾われて焦ったが、もう1つの本音を伝えればお互いに笑みを浮かべた。

    こうやってブチャラティと仕事以外の話が出来るなんて幸せ。
  • ブローノと夢の国7 ブチャラティ

    20210926(日)12:25
    頭の片隅で水音とは違う可愛らしい音楽が聞こえた。ああ、夜のショーが始まったんだな…なんて思いながらブローノとするキスは、次を求めてしまう甘く大人な愛撫するみたいなキス。きっと家ならキス以上進んでしまう筈だけど、お互い残る自制心で舌を絡め抱き合いながら背中を、腰を、割り入る足で好きだと伝える。

    「んう…はぁ…。」
    「は…ここまでにしとくか?」
    「う…ん。我慢する…。します。」

    自身に言い聞かせる様に呟いて頷く。じゃないと終わる事が出来なくて、最後にと濡れた唇を軽く啄むとチュッと音が鳴りブローノが大きな溜め息を吐いて私の肩に顔を埋めて項垂れた。どうしたんだろう。

    「おっまえなぁ…。」

    解らないけどよしよしと頭を撫でると眉を寄せて恨めしそうに見つめるから首を傾げれば、「覚悟しろよ?」と一言残してブローノは私の手を引いた。その一言にきゅうっと胸が締め付けられるなんて、最後までブローノはズルいなぁ。
    そんな私は眩しさに目を細めた。路地を抜けると広がるキラキラしゃらしゃらと音と光が弾ける夢の国。

    「綺麗…。」
    「綺麗だな…。」

    同時に零れた言葉にクスッと笑みを浮かべて、2人して目の前を通り過ぎて行くショーを見て最後の想い出を胸に刻む。ショーの終わりが近付くと人の並みが同じ方向へと動いていき、私は重大な事を忘れていたのを思い出す。

    「大変!皆にお土産買わなくちゃ!!」
    「そうだったな。土産が無いって知ったら、あいつ等ブチ切れるだろーぜ。」
    「ふふっ。想像できるね。何がいいかな~。やっぱりクランチチョコは外せないよね!」
    「あいつ等食うからな…。多めに買っていこう。」
    「ブローノは大家族だからね!喧嘩しない様にしなきゃ!」

    何度か付き合ってから会ったブローノのファミリーは皆優しくて、私をすぐに受け入れてくれた。今回の旅行も私の両親に会うからと快く行かせてくれたのだ。
    お土産の取り合いをする所を想像しながら笑う私の手を引きブローノの瞳いっぱいに捕らわれた。

    「おまえも、家族になるんだ。」
    「う…うん。両親も会うの楽しみにしてるって。」
    「光栄だな。…また来よう。今度は家族になって。」

    お互いに笑い合えば大きな音と共に夜空に輝く色とりどりの花が咲き誇った。揺れるブローノの漆黒の髪が、打ち上がる度に色彩で華やぎ花火より綺麗だった。
    end
  • ブローノと夢の国6 ブチャラティ

    20210925(土)09:27
    ブローノは絶対根に持ってるんだ…。
    私は食後に頼んだ可愛い猫のチョコケーキへと、容赦無くフォークを突き立てた。敢えて粒羅な瞳へと。目の前でコーヒーを優雅に飲むブローノの、艶やかな唇に瞳が奪われてしまうのは惚れた弱みか。それとも唇が覚えてしまっているからか。

    「食べたら次、どれ乗るか決まっているのか?」
    「……。」
    「おい。おい、聞いてるのか?」
    「き!聞いてるよ!」

    ぱちんと目の前で指を鳴らされると我に返った私は、急いでケーキを頬張って飲み込んだ。その様子を楽しげに見れば、伝票を持って先に行き会計をスマートに済ませる姿すらもかっこいい。うん、何回も言うがブローノはかっこいいのだ。

    「ほら、行くぞ。…暗いから足元気を付けろよ?」

    外に出ると月と星が漆黒の中を淡く照らし、ライトの照明の下でブローノが差し出した手を取り歩く。
    散々だった。約20分くらいだった演奏もブローノにちょっかい出されて頭に入って来なかったし、その後も言った本人は夕食へと誘ってきた。本気か冗談か解らなくなったけど、刺激された私の身体はブローノを求めて仕方がないのだ。

    「こっち、行こ。」

    テーマパークの冊子を見て何を乗るか考えるブローノに苛立ちすら覚えた私は、手を引いて主導権を握る決意をする。調度夜が私達を隠してくれる。
    人混みを分けて明るく可愛らしい夢の世界から建物の奥へと、まるでイタリアの路地みたいに入り組む2人になれる場所まで連れて行く。良かった…人も居ない。

    「何処へ連れて行くつもりなんだ?オレのprincipessaは。」
    「ブローノのせい、なんだからっ。」

    その余裕な顔を見返してやりたい。私は睨み付けながらブローノの腕を掴み引き寄せると、精一杯背伸びをして唇を押し付けた。きっと睨んでも真っ赤だから、凄みも何も無いと思う。でもこんなに欲しくなったのが悔しいんだもの。
    私は壁に追いやったブローノの唇を割り入り、舌を忍ばせ震えながら歯列をなぞり舌同士を絡める。だが、これ以上先が解らなくて、唇を離すとズリズリとブローノの胸へと顔を埋めた。恥ずかしくて顔見れないよ…。

    「はあ…そんなに欲しくなったのか?」
    「っ…。だって、ブローノがあんな事…あんな事言うからっ。」
    「仕方がないだろ、オレだけなのかと思ったからな。…でも、そうじゃあ無かったみたいで安心したぜ。」
    「わっ。」

    腕の中で収まっていた私は気付いたらブローノと位置が入れ替わっていた。素早く反転されると壁に追いやる私の頬から首筋を指で擽り、蒼い瞳がギラリと光り完璧に獣を宿して笑みを浮かべる。

    「…言うんだ、どうして欲しい?」

    ああ、食べられるんだ。身体の奥が熱く疼くのが解り恥ずかしくて堪らないのに、辱しめて欲しい自分も居る。喉が乾くみたいな感覚が私を襲う。自分でキスを制限したのに、ブローノを覚えている身体が求めてしまうんだ。

    「キス…もっとしたい…。」
    「日本に来てから初めて聞いたぜ。…その言葉を待てたんだ。」

    欲望を抑えて掠れた声で耳すらも犯す。そして果物にゆっくりと、鋭い歯を立てて甘い果汁を溢さない様に、何度も何度もキスを続けた。今だけは夢から覚めて。
  • ブローノと夢の国5 ブチャラティ

    20210924(金)20:40
    「ブローノここ!やったー!結構前だね!」
    「ああ、良かったな。それにしても…本格的なんだな。」
    「ねー!ジャズとか色々演奏するみたいだよっ。」

    ずっと入ってみたかったの!
    私達は抽選で当たった、夢の国にあるミュージックシアターへ足を運んだ。端だけど前から5列目でとても見やすい場所で、私の心は始まる前から音楽を奏でる様に弾んでいる。それに歩く時間が長かったから足裏が少しじんじんして、フカフカの椅子が気持ちいい。
    女性の優しい声で館内放送や注意事項が流れ、近々始まる事を告げている。

    「楽しみだね。」
    「そうだな…。なあ、少し耳を貸してくれないか?」
    「?」

    ブローノからのお願いに何か困った事でもあったのかと、素直に身体を傾けて隣の椅子へと寄り掛かる。フワッといい香りが鼻を擽ると大好きな落ち着いたブローノの声、そして私の名前が頭に響きゾクッと甘く身体の奥が疼く。おかしい。何でこんなに身体が求めるの?

    「これが終わったら…少し2人きりになりたい。」
    「そ…んな事…言われても…ば、場所が。」
    「無いなら作ればいい…そうだろ?」
    「っ…。」

    甘いデザート酒のアマレットみたいに私を酔わすブローノの声色。視線を向けるブローノの表情が真剣で、よりドキッと胸が大きく跳ねて最初に聞いた耳から熱く火照っていく。本気…なの?
    しかしブーッと言う開始を知らせる音が響くと、照明が徐々に落ち暗闇が私達を包む。ピアノの軽快な音に私は慌ててピンッと姿勢を正して、ブローノから顔を離して舞台袖から出るキャラや歌い手を見るもどうも落ち着かない。

    作ればいいって…こんな人ばっかりのテーマパークで2人きりって…。

    何処にそんな所があると言うのだ。そんな場所があったら色んなカップルがイチャついてしまうではないか。確かに日本に着いてから、ブローノにはあまり外でキスしたりくっついたりは控えて欲しいと伝えてあった。あの時のブローノの顔、とても不服そうに頷いたっけ。

    「!」

    そんな事を思い出していたら、膝が大きな掌で包まれた。驚いて横へ視線を向ければ、足を組み肘を着き余裕な笑みを浮かべるブローノが居た。かっこいい…だなんて思っているとスルスルッと内側の太股を撫でていく仕草が、スカート越しでも厭らしさを彷彿させて胸が張り裂けそう。

    『好きだ…。』

    口パクでそう言うブローノに翻弄されている私を置いて、パンパンッと楽しげな手拍子が生まれ会場が一体化する。
  • ブローノと夢の国4 ブチャラティ

    20210923(木)10:22
    「呪われたホテルで、毎夜亡霊のパーティーが始まる」って言うのがコンセプトのアトラクションがある。この夢の国で唯一恐怖体験が出来るのだが、私は幼い頃苦手で父の手を繋いでいたっけ。それが今、好きな人と手を繋いで来ているなんて…凄い事な気がする。

    「緊張してるのか?」
    「う、うん。相変わらず怖いのって苦手で…。ここ、そんなに怖くはないんだけど…暗くって。」

    真っ暗なホテルって病院並みに怖いと思うのは、やはりホラー映画の影響もあるのかも知れない。ブローノはと言うと、暗いロビーを歩いても全くと言っていい程に動揺もせず寧ろどこか楽しそうに私の手を握り返した。

    「ブローノは怖くないの?」
    「そうだな…。幽霊よりも怖いモノに、沢山触れているからかも知れないな。」
    「なる…ほど。人間の方が怖い…よね。」

    ギャングは生死と隣り合わせの任務が多い。ブローノはその重みを知っているが故に、時に厳しくとても人に優しい。私を助けてくれた時もそうだった。
    仕事を終えた私が店の戸締まりをしていると、いきなり押し入ってきた客の男に襲われた。助けてくれたあの時から、ブローノは私の中で特別な人。そして本当の人間の怖さを知った。

    「そんな不安な顔するな…安心しろ、もうあんな思いはさせないさ。…オレが傍に居るんだ。おまえはオレの横で笑っているのが一番だぜ?」
    「ん…ありがとう…。」
    バンッー!!
    『ギニャアアアア!』
    「きゃああ!」

    薄暗い中でもブローノが私の頭を撫でながら笑みを向けているのが解り、強張っていた心が解れた時だった。突然の大声と化け猫が現れたので、私も悲鳴を上げて思いっきりブローノへとしがみついた。やはり怖いものは怖い!
    するとピクリとも動かないブローノは無言のまま、自身より低い化け猫へと手を伸ばし頭を掴みグイッと反転させる。

    「悪いが、オレの恋人を怖がらせないでくれ。」
    『にゃ…ぇ、えっと…。』
    「まあ、おまえが痛みを知りたいって言うんなら話しは別だぜ?……どうする?いくらでも教えてやる。」
    「ブローノ…ごめん、お化け役の人がかわいそう。」

    イタリア語で脅され頭を掴む手はギリギリと爪が立てられている。その様子は着ぐるみを着ていても痛々しくて落ち着いた私は苦笑した。こんなに守ってくれる恋人は、きっとブローノしかいないなぁ。
    因みにブローノは、最初の猫が説明する時の仕掛けに人一倍驚いていた。

    「お、おい!猫が宙を舞って姿を消したぞ!どうなってやがる!しかも天井が上がってるだと!?」
    「ブローノ落ち着いて!」

    脅かす役が居るのは解ってるけど、こう言う仕掛けには素直に驚くのよね。まるで子供みたい。
    少し天然な所があるブローノはギャングには見えなくて、きっと私しか見れない貴重な瞬間で嬉しくなった。
  • ブローノと夢の国3 ブチャラティ

    20210922(水)11:26
    ブローノに席を取ってもらっている間に、猫の形をしたチュロスを買いに行った私は熱々を両手に1本ずつ持ちながら小走りをする。やっぱり此処に来たら絶対食べてほしい!

    あれ?
    ベンチへ近付くとブローノの膝の上には小さなお姫様。潤んだ瞳でしがみつく様子からして迷子かな?
    しかし、長身で紺色のYシャツに白いパンツスタイルで子供を抱くブローノは色んな意味で目を惹く。

    ブローノとの子供が出来たらこんな感じ…かな?やだ!私ったら!!

    なんて未来の妄想が広がるも照れくさくなり頭を振って消し去った。こう言うのは妄想するよりも、ブローノと話し合って将来を作っていくのが恋人2人の楽しみなのだ。取っておかなきゃ!

    「ブローノお待たせ!…その子、迷子?」
    「ああ、日本語は理解出来ないが様子からして迷子みたいだ。…ほら、一緒に探しに行こうか、小さなprincipessa。」
    「すぐお姉ちゃん達がお母さんを見付けてあげるね!」
    「ねぇねぇ、おねーちゃん。」
    「うん、なあに?」
    「どうやって王子様と出会えたの?」

    純粋な子供の質問と曇りの無い硝子の様な瞳に、私は言葉を失ってしまった。確かに幼い少女から見たら、ブローノは絵本の王子様を具現化したみたいに見えるのだろう。言葉は通じなくとも、容姿とイタリア人特有の紳士な振る舞いは王子様に負けない。でも、ブローノはギャングなのだ。子供の夢を私が壊す訳にはいかないよね。

    「どうかしたか?」
    「えっと…ブローノみたいな王子様と、どうやって出会えたの?って。」
    「なるほどな…。王子様…か。」

    通訳するとブローノも少女の質問に驚いたのか目を見開いた。しかし、片腕に抱く少女に柔らかな笑みを浮かべると、握る拳を目の前に持って行き開くと可愛らしい花が現れた。思わず私と少女も「わあっ。」と声を上げてどうやったのかと好奇心の瞳でブローノを見つめる。ブローノはいつも私をこうして驚かせてくれるの。

    「彼女とは運命の出会いだったんだ。…素敵なprincipessaにも、王子様が現れる筈だぜ。」
    「ブローノ…。」
    「ねえ、おねーさん!何て言ったの?」
    「え、えっとね…。」

    そのままブローノの言葉を通訳するのは恥ずかしいが、きっと少女も納得してくれるに違いない。伝えた少女はとても幸せそうで輝く未来に駆け出して行った。
  • ブローノと夢の国2 ブチャラティ

    20210921(火)08:19
    夢の国には数々のキャラクターが居て、突然出現するので好きに写真を取ったり触れ合ったり出来るのも人気の1つだ。それに好きなキャラのコスプレをして楽しんだり出来るのも魅力だよね。

    「わあ!可愛いお姫様!!」

    黒猫と人間のお姫様が恋に落ちると言うのがメインストーリーなので、この2人のコスプレが多い。特に幼い女の子がフワフワのドレスを揺らして歩く姿はうっとりとして胸が高鳴るものだ。

    「おまえも似合うよ。さっき着替える店があったぜ?」
    「えー、私は似合わないよ!ああ言う可愛い子が着るから可愛いの!」
    「おまえは自分の可愛さを解ってないよな。…ちょっと待ってろ。」
    「ちょっとブローノ!?」

    突如歩きだしたブローノに戸惑うも、待てと言われれば待つしかない。下手に動いたらはぐれちゃいそう。
    ベンチに座って、木の隙間から夢の国の象徴とも言える絵本から飛び出して来た様な城が見える。あそこの前でも写真撮りたいな~。

    「ねえ、おねーさん1人で楽しそうだけどさ、一緒に喋ろーよ!」
    「そうだ!オレ等、1人余るから乗り物一緒に乗ってくんない?」
    「い、いえ、彼がすぐ戻ってくるので無理です!」

    きっと私はニヤニヤと1人楽しそうだったのだろう。3人組の男がまるで友達みたいに私を囲って座るから、笑顔も消えてあからさまに怪訝な顔をして速攻で返答をした。コミュ能力高すぎでしょ!怖い!
    「ジェットスターだけだから」と私の肩を叩くので、嫌悪感が触れた肩から広がり振り払おうとしたらドカッと言う派手な音と共に綺麗な革靴が目の前に広がる。

    ブローノ!

    私と男の僅かな空間に差し込んだ足でベンチを蹴り、ギャングの顔を覗かせるブローノが男達を睨み付けた。ファンシーな世界に似合わない肌を切り付ける程の雰囲気が立ち込める。「す!すみませんでした!」とイタリアギャングに触れた事の無い彼等は、悲鳴を上げて駆け出した。うん、やっぱりギャングって雰囲気の切り替えが凄い…。

    「おい。これで解ったか?…おまえは誰から見ても可愛いんだ。」
    「う…ブローノにそう思ってもらえて嬉しいけど…。恥ずかしいよ。」
    「恥ずかしくても真実なんだ。じゃなきゃ男が声掛けないだろ。……可愛いが、誰が渡すかよ。」

    男が触った肩を手でポンポンと払う表情は心底嫌そうで、ちょっとそれが嬉しくもある。普段は紳士なのに、ブローノは前から私が接客中も何処か苛立っていたなぁ。

    「オレのprincipessa…。」
    「…ん。」
    「その表情も可愛いよ。…今すぐ抱きたいくらいだ。」

    先程の嫌悪感は何処へやら。隣に腰掛けたブローノが私にだけ聞こえる様に耳元で甘い声色で囁くものだから、みるみる冷えた頬に赤みが指し身体の底から熱くなる。きっとブローノは男達が声を掛けると解ってたんだ。…うう、好き!
  • ブローノと夢の国1 ブチャラティ

    20210920(月)11:01
    足を踏み入れたその瞬間から、私達は現実から少し離れる事が出来る。それが、年齢性別問わず楽しませてくれる"テーマパーク"なのだ。付き合ったら絶対来てみたかった、お決まりのデートスポットはやはり前日から楽しみで胸が高鳴りっぱなしだった。おかげで何処から周りるか、限定の食べ物とかしっかりリサーチ済みよ!

    「ブローノ見て見て!これ絶対似合うよ!」
    「オレがか?」

    私がブローノに差し出したのは、このパークに入園すると付ける人の多いキャラクターの耳が付いたカチューシャだ。それは色んな動物や毛色の愛らしい耳。1番似合うと思うメインキャラの黒い猫耳だ。

    「オレは男だぜ?それに…年齢的にもまずくないか?」
    「いえいえ!夢の国は皆付けていいんです!私も付けるのでお願いします!!」
    「たく…。おまえはそう言う所、頑固だよな。」

    それを受け取りつつ怪訝な顔をして猫耳を摘まんだり触ったりしたいたが、敬語で必死に頼む私に折れたのか溜め息を吐いて黒髪へとカチューシャを付ける。
    ブローノは試しに付けたら諦めると思ったのだろうが、多分周りに居た店員や女性は全員思ったと思う。

    めちゃくちゃ似合ってます!!こんなに黒い猫耳が似合う20歳居る!?これは悪いけどキャラクターよりも注目浴びちゃうよ!?

    私が感動のあまり潤んだ瞳で見つめるモノだから呆れた表情をしていたブローノだが、流れていたキャラクターの映像を横目で見ると手を伸ばして顎を掴んだ。ひょいっと顔を上げられて、調子に乗りすぎたかなと不安になると口角をにやりと上げるではないか。少し嫌な予感がする…。

    「"食べちゃうにゃあ"」
    「!!」
    「これで満足だろ?」

    キャラクターの名台詞を言うものだから、私の身体にピシャーンッと雷が駆け抜けた。それは反則だよ!!
    真っ赤になりながら口をパクパクと動かす私が面白いのかクックッと噛み締めてブローノは笑う。それすらもかっこいい。高貴な猫が嘲笑う感じ。

    「やっぱり買うか。もっとおまえを困らせたくなった。」
    「ま、待ってブローノ!!」

    うん、やっぱり付けてもらうのは止めよう。こんなの帰るまで付けてたら身が保たないや。