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  • 世話を焼きたい2 ブチャラティ

    20220525(水)23:17
    「ブチャラティおはようございます!」
    「おい!2分の遅刻だぞ!」
    「すみませんっ。そのっ…時計が止まっていて…。」
    「言い訳をするんじゃあない。ガキじゃなく、おまえはれっきとした大人なんだ…起きれる様に工夫しろ。」

    ブチャラティは腕時計を見せつけながら息を荒げて自室へ入ってきた彼女へ一喝した。想い人の前に彼女は部下なのだ。イタリア人は待ち合わせ時間に遅れるなどと言われたりもするが、ギャングにとっては時間は1分1秒を争う場合もある。これが任務ならば敵を逃す場合もあるし、依頼人を待たせたら信用問題にも繋がる。
    言い放ったオレの対応に「はい…。」と小さな声で返事をして頭を深々ともう1度下げた姿は、見えていて胸がチクンと傷んだ。

    「いいか、そう言う場合も考えてもう1つ時計をセットしたりするんだ。"もしも"は大事な選択肢の1つだぜ。それに…普段からその考え方をしていれば任務中も何かあった時の選択肢が広がり、素早く判断して動く事が出来るもんさ。」
    「なるほどぉ…。じゃあ早速今日、時計を買って帰ります!」
    「ああ、そうした方がいい。そうだ…オレがオススメを選んでやる。」
    「え!?そ、それって買い物に付いて来てくれるって事ですか?何か悪いですよ…。」
    「それ以外に何がある。…それとも。」

    上司であるブチャラティに甘えていいものかと考え込む彼女へ一歩近付いて、揺れて頬へ落ちる髪を掬い耳へと掛ける。その指先で耳から顎へと道を指し示す様に此方へ向かせてやる。

    「ご所望なら…オレが傍で起こしてやるぜ?一緒に寝るか?」

    するとボボボッと火が灯った様に頬が染まる姿はいつ見ても可愛い。最近気付いたのだが、彼女は瞳を合わせて離すのに弱いみたいだ。だからオレは構わず利用して意識させるのに必死だった。何せオレの想い人は鈍感だからな。どうせ今も…。

    「何言ってるんですか!エッチ!ひ、1人で大丈夫ですから!」

    パシッとすごい速さでブチャラティの手を叩いて叫んだ彼女は、さながら痴漢にあったみたいに走り去って行った。何だか思っていたのと違う反応にオレは頭が追い付かず、解るのは叩かれた手がじんじんと痛む事。
    『相変わらず世話焼きですね、ブチャラティはっ。』とか言われるのかと思ったぜ。

    このままデートに漕ぎ着けそうかとも期待したのだが儚く散ってしまい溜め息を漏らすが、果たして彼女の反応はいい事なのだろうか。「一緒に寝るか?」はちょっと言いすぎたか…くそ、本気で嫌がられたんじゃない…よな?
    悶々とした感情が漂うも、胸ポケットの携帯が鳴り着信相手を確認して息を吐く。恋愛ばかり考えていられない、仕事は始まったのだ。取り敢えず帰り際に声を掛けてみようと決意して、携帯電話を耳へと当てるのであった。
  • 世話を焼きたい1 ブチャラティ

    20220503(火)01:18
    「おい、またニンジン残してるぞ。」
    「そ、そんな事ないですよ?」
    「嘘つくんじゃあねぇ。お前は必ずニンジンを残す。2日前も残してたぜ。」
    「うっわ!何で知ってるんですか!?」
    「因みにピーマンも嫌いだろ。昨日残してた。」
    「ストーカーみたいじゃあないですか!そんなブチャラティ嫌です!」

    ストーカーって…お前が好きだからって、何でそっちにいかねーんだろうな。

    ブチャラティは彼女の反応を見つめながら、悶々とした気持ちを抱き自身の皿に乗っていたニンジンを刺して隣の皿へと移した。するとあからさまに嫌そうに眉を寄せて、フォークで増えたニンジンを弄りどうするか考えている様だ。

    「ほら、食べられねぇなら口開けろ。食べさせてやる。」
    「そ、そこまでしなくても…。」
    「お前は好き嫌いが多すぎる。栄養が偏っちまうだろ。只でさえスタンド使って体力消耗すんだから。」
    「私は甘い物食べると元気になるので平気です!」
    「…あーん。」
    「無視!?」

    自信満々に胸を張り笑みを浮かべる彼女に、容赦なくフォークで刺したニンジンをじりじりと口へ迫らせる。

    すると子供みたいに涙目になりニンジンとオレを交互に睨む姿に、思わずドキッとしちまった…不覚。

    「また貧血になったり"疲れて歩けませーん"なんて言われても困る。」

    そしたらオレが居ない時は他の奴が助けるんだろ?そんなの見たくもない。

    本当に心配もしているし、同時に嫉妬もしているブチャラティはつい彼女に小言を口にしてしまう。早く気持ちを打ち明けたいとも思うが、立場上そうもいかず小言みたくなってしまうのだ。
    彼女も一理あると思ったのか、ゴクッと息を飲んで気持ちが固まったのか大きく口を開けて頬張った。そしてすごい速さで飲み込んだ。

    「ああああ…ブチャラティッ。」
    「ほら、ジュース飲むんだ。」
    「ごくごくごくっ。ぷはあ!もう今日は無理です!」
    「ああ、一歩前進だな偉いぜ。」
    「ん…じゃあドルチェ食べたい。パンナコッタお願いします!」
    「すまない、パンナコッタ1つ頼む。」

    ジュースを飲み干した彼女は口内を洗浄したいのか、涙目で上目遣いで懇願する姿は悪いが可愛らしい。頭を撫でれば少し落ち着いたのか大人しくなった。

    「また明日頑張ろうな。」
    「ええ!?またですかぁ…。」
    「その後デザート頼んでいいからな。もちろんご馳走する。」
    「ううっ…それ断れない。」

    こうして明日の約束をしてブチャラティは距離を縮めて行こうと戦略を立てる事にした。色んな表情も独り占め出来るしな。
  • 嘘だらけの恋仲 ブチャラティ

    20220422(金)15:23
    「なあ…言って…。」
    「ぃ…ま?」
    「じゃなきゃ意味ないだろ。ほら…。」

    鼻先が、唇が、直ぐにでも触れてしまいそうな距離でお願いされると胸が苦しくなって泣きそうになる。でも今泣いちゃいけない。この気持ちを言っちゃいけない。

    「来たぜ…時間が無い。」
    「す、好き…。」
    「いい子だ。」

    そして唇のほんの上に押し付けられる唇。ぎりぎりキスではない、その行為は他の角度から見たらキスしている風に見えるだろう。私は恥ずかしくて目を開ける事は出来ないが、すぐ後ろを2人組が通る気配がした。

    ああ…もう終わっちゃう。

    私の予感は的中した。唇の感触が離れて瞼を開けると、ターゲットをじっと見つめる横顔がもう私に感心がないみたいで寂しくなる。否、虚しいの方が合っているのかも。

    「行くぞ…そろそろ麻薬取引が始まる筈だ。」
    「はい…。」

    これは仕事。業務上の一時の恋人役。
    女性が私しか居ないから仕方がないけど…そろそろ嫌って言わなきゃ。他の人を探してくださいって言わなきゃ…。

    チリチリと恋する火種が燻って私の胸を焦がす。この炎が燃え広がらない内に対処しないと、どうにかなってしまいそうなのに前を行くブチャラティの背中を見ただけで決断が揺らいでしまいそう。
  • おめでとう ジョルノ

    20220416(土)22:15
    「ジョルノ、こんな所に呼び出してごめんね。今皆帰ってきてて、2人きりになれる場所が此処しかなくって…。」
    「いえ…ぼくは構いませんよ。」

    そう申し訳なさそうに言う彼女は、狭い物置き兼資料置き場の1つしかない椅子を引いて手招きをしている。寧ろこんな場所に呼び出されては妙に緊張してしまう。

    何だかいけない事をする気分だ。

    取り敢えず手招きする彼女へ近寄れば嬉しげにニコニコ笑顔を絶やさない。可愛い。こんなに上機嫌なのは付き合って初めてかもしれない。
    ジョルノは思わず頬へ触れれば、今度は花が開いた様に笑顔を向けるものだから自然とちゅっとキスを落とす。すると「な、何ジョルノ!」と今度は真っ赤になって表情をコロコロ変えるから、止められなくて軽いキスを何度も落とす。

    「ん、んっ…ま、待ってストーップ!」
    「え…ダメですか?」
    「わ、渡したい物があるの!」
    「じゃあ受け取ったら続きしてもいいんですよね?」
    「ぅ…い…いいよ。」

    ジョルノは自身のお願いに彼女が弱い事を知っているから、ついつい調子に乗ってしまう。可愛い彼女が悪いんです。我慢できなくなりますよ…絶対ぼくだけじゃあない筈だ。
    取り敢えず彼女がぼくの手を引いて強引に座らせると、何やら後ろの棚から紙袋を取り出して再度笑顔を作っている。何だ?

    「お誕生日おめでとうジョルノ!」

    そう大きめの声でピンクのリボンでラッピングされた小袋を差し出した。そこで初めて誕生日だと気付いたジョルノは何だか照れくさくなり頬が熱を持つ。

    「忘れていました!ありがとうございます…わあ、開けてもいいですか?」
    「もちろん!」

    子供みたいに無邪気にぼくの様子を見守る彼女に連れて笑みが零れる。そんなジョルノは受け取った小袋を開けると、中にはチョコマフィンが入っていた。

    「わあ!すごい!手作りですか!?」
    「うん!本当はケーキにしたかったけど、今日の夜は皆でお祝いするからね。あ…言っちゃった。」
    「ふふっ…ありがとうございます。ほら、ぼくだけ座ってるのも嫌なので、あなたは此処に座って下さい。」
    「え…だって膝の上…。」
    「ほーらっ。」

    真っ赤になる彼女を軽々と抱き寄せて膝の上に座らせると、その小さな背中からぎゅうっと抱き締める。

    「幸せすぎて食べるの勿体なくなっちゃいます。」
    「だーめ、食べてください。」

    クスクス笑い合い振り向く彼女の頬へ愛しくて再度キスを贈る。結局このまま猫がじゃれ合う様にキスしたり愛を囁き合って、ケーキは勿体なくて家まで持って帰ったのだった。
  • デートをしたら ブチャラティ

    20220325(金)17:17
    「あーあ、楽しみにしてたのになぁ…。」
    「どうかしたのか?」
    「あ…ブチャラティ。それがね、私の前で人気店の期間限定ジェラートが売り切れちゃったんです。食べたかったなぁ…。」
    「それは残念だったな。今日は暑かったから、よく売れたんだろうぜ。」
    「そうなんです…まあピスタチオも大好きなんですけどねぇ。」

    私がそう嘆きつつもカップに入ったジェラートを口に含むと、広がる甘さと冷たさに至福の時が流れる。それこそ食べ損ねた期間限定のフレーバーに思いを馳せた。すると何やら此方を見つめて腕を組んで考え込んでいるブチャラティも、ジェラートが食べたくなったのかも知れない。解ります、ジェラート嫌いな人はいないもんね。

    「ブチャラティも食べますか?」
    「オレの膝の上で食べるか?」

    しかし私の問い掛けを上書きするみたいに重ねて発せられた問い掛けに思考は停止した。

    「え…今何て?」
    「だから、オレの膝の上で食べるか?」
    「お、おかしいでしょそんなの!」
    「だが、キミは俺が好きなんだろ?」
    「なっ…なっ…。」
    「膝の上で食べれば落ち込んだ気持ちも晴れるかと…そう思ったんだが…。」
    「バカ!!」

    何で私の気持ち知ってるの!?て言うか知っててその選択肢になるの!?

    平然と言って退けるブチャラティは此方の気持ちなど知らずに、寧ろ善意で慰め様としているみたいな表情が逆に恥ずかしくなる。私はそれはもう顔中真っ赤にして、上司でもある彼に失言をしてしまった。

    素直に座っていればいい想い出になるのに…バカは私だ。

    「ははっ、それもそうか、キミは子供じゃあないもんな!すまない、バカにしたつもりじゃあないんだぜ。」
    「はあ……いつになったら私は子供扱いされなくなるんですか?」
    「デートでもしたら子供に見えなくなるかもな…するか?」
    「へ!?」

    彼の予想を斜めいく提案に驚きすぎて、手にしていたジェラートのカップに力が込もり歪んでしまった。もう大好きなジェラートの味も解んないや。寧ろ限定のフレーバーじゃなくって良かったかも。
  • 出る条件がなくたって ブチャラティ

    20220206(日)22:30
    「あ…れ…。」

    どれだけノブを捻ったり引っ張ったり押したりしたか解んない。それくらい喧しい音をガチャガチャと立てながら私は1人困惑した。入れたんだし鍵穴も無いから出られる筈なのに、どうして出れないの!?

    「おい、どうかしたのか?」
    「え、えーと…言いにくいのですが…で、出れなくなっちゃいました。で、でもなんとか開けますね!」

    世話しない様子を不思議に思ったのか背後からブチャラティが冷静に声が掛けるが、こんな失態を何とか解決しなければと私は頭を巡らせる。きっとアバッキオにこの状況を知られたら、「やっぱりおまえじゃあブチャラティを守れないな。」とバカにされるに違いない。でもどうやってこの困難を乗り越えたらいいの?ここは窓も無いアジトの地下書庫。このネオポリスの資料や今まで出会ったスタンドの資料があり、整理に来たのだが…こんな時に限って皆は外だし…あーもうどうしよう!

    「……まさか。」

    しかしごちゃ混ぜの思考が1つの答えを導きだした。出れない部屋に男女が2人。もしかしてこれは世に言う"○○しないと出れない部屋"ってやつ!?え!じゃ、じゃあこの後ブチャラティとあんな事やこんな事を!?

    最近見た漫画だと出るのに3つくらいエッチな条件があったけど……ブチャラティとなんて恐れ多い!ダメ!下着だって上下別だし恥ずかしすぎる!

    しかしダメと言いつつも妄想内の私はブチャラティと甘い雰囲気に包まれて唇を寄せる。そんな妄想が広がり「ひゃー!」っと顔を両手で覆い踞くまると、この後の展開に初な乙女心が弾けてどうにかなりそうな身体を両腕で必死に押さえ込んだ。

    「おい。」
    「ひゃい!」
    「オレのジッパーで出れるぞ。」
    「へ…。」

    あれほど力業でも開かなかった扉に、輝く金色のジッパーで新たな出口を作っているではないか。

    うそ…○○しないと出れない部屋じゃ…。

    途端に全ては自身の勘違いだと知り先程とは違い羞恥心で全身が沸騰しそうなくらい熱くなり、だらだらと変な汗まで出てきた。わー私のバカ!漫画の見すぎよ!

    「あ、な、なーんだ!もう!ブチャラティのスタンドがあって良かったです!ははは…。」

    もう書き消す様に大きな声で笑いながらブチャラティの元へ行き、この部屋を出ようとした時だ。ジッパーを開けて待っていてくれたブチャラティが、私の手を包み引き寄せてくれるではないか。その時のフワッと広がる爽やかなミントの様な香りとブチャラティの綺麗な瞳がキラリと光る。

    「…何か期待していたのか?」
    「へ!?」

    期待って!?何!?ブチャラティにバレてる!?

    ブチャラティは私の心が読めるのだろうか。やましい考えをしていた自身が動揺し、包まれた掌はしっとりと汗ばんでいく。

    「オレはキミともう少し一緒に居たいが…どうする?」
    「え…?一緒に…ですか?」
    「ああ、じゃなきゃ1人で出来る資料整理に付き合ったりしないさ。…キミだからだぜ。」

    そう言いながら私の意見なんて聞かないでブチャラティはゆっくりとジッパーを閉めて、再度2人の空間を作る。そして何も条件が無くたって、言葉で伝える代わりに私を愛しげに抱き締めた。
  • 入れ替わり ブチャラティ

    20220102(日)21:26
    「う…美しい。」

    私は鏡に映る姿に感動して率直な感想が溢れた。人間は時に嘘を言い本当の自分を隠そうとするが、鏡は目の前のモノを偽りなく映し出す。徹夜明けや飲み過ぎた時は残酷だと思ったけど、こんなに鏡がある事に感謝するなんて…!

    鏡には大好きなブチャラティの顔。言っておくが、中身はブチャラティではない。ややこしいが鏡は中身までは映せないので説明すると、私とブチャラティは入れ替わってしまったらしい。

    「わああ!やだ!ブチャラティって近くで見ると益々いい男!!何この筋肉!刺繍のインナーもエロい!!」

    私は全てが手に入ったとばかりにブチャラティの身体を見渡しては、愛しげに震えながら抱き締めた。
    いつも我慢していたが、今日はもう我慢しない!ブチャラティ大好き!!

    「おい、止めろ変態。」
    「わ!ブチャラティ起きたんですか!?」
    「そんな大声出してたら起きるに決まっているだろう。…はあ、よりにもよってキミと入れ替わるとはな。」
    「漫画みたいにぶつかると本当に入れ替わるんですね!ビックリしました!」
    「嬉しそうだなキミは。…ほら、女なんだから…色々困るだろ?」
    「いえ!寧ろご褒美です!!着替えとかお風呂とか…あ、心配なら一緒に入りませんか!?」
    「…今すぐこっち来い。」
    「うっ!く、苦しいですっ…!!」

    私を見つめていた眼差しが一気に冷ややかなモノに変わるが、私はそんな事気にしてなどいられない。それよりも今を楽しまなきゃいけないんだから!
    しかしそんな企みは筒抜けだからか、自身を抱き締める私の首根っこを掴むとブチャラティは引きずって自室から連れ出す。

    「せめて!せめてお風呂入ってからでも!!」
    「お"い!アバッキオこいつを縛っとけ!!」

    そうしてアバッキオに椅子に縛り付けられた私は、ブチャラティ達が解決法を探している間ずっと待っていた。結局何度もブチャラティと頭をぶつけて漸く元通りに入れ替われたのでした。くそう!
  • 片想い ブチャラティ

    20211225(土)17:37
    「なあ、本当に友達にあげるのか?」
    「はい、そうですよ。とってもお世話になってるんです!」

    プレゼント選びに付き合ってほしいと言うので来てみれば、先程から見てるのは男物ばかり。派手なものではなくシックな落ち着いた色合いばかりだから社会人か?
    何が悲しくて好きな女の想い人のプレゼント選びを一緒にしなきゃあいけないんだ。

    「ブチャラティはこう言うの貰ったら嬉しいですか?」

    そう言って指差したのは深い紺色のキーケース。滑らかな皮素材で出来ており手に馴染み重宝するであろう。

    オレならプレゼントされたら嬉しいが…。

    「いや、もっと気軽なものなんてどうだ?例えばお菓子とか…。」
    「それじゃあ食べたら無くなっちゃうじゃないですか!…ずっと持っていて欲しいんです。」

    それはそうなのだが、そんなに悲しげに言わなくてもいいだろう。言葉に寂しそうに呟く彼女は可愛いが、真意がより解ってしまったオレは胸が苦しくて仕方がない。

    そんなに好きなのか…。

    「すまない、意地悪を言った…。きっとこのキーケースなら喜ぶぜ。」

    するとパアッと星が輝いたみたいに喜ぶ彼女に、オレの心臓は馬鹿みたいに錯覚してしまう。泣き顔は見たくないから上手くいってほしい気持ちとは裏腹に、泣き崩れてオレの元へくればいいのにと微笑んでしまう。

    いつでも来ればいいさ…。キミを抱き締める準備はいつだって出来てるぜ。

    天使の皮を被った悪魔は、愛らしい彼女の背中を優しく押した。
  • 捕まった ブチャラティ

    20211221(火)15:38
    「だ、だめだめだめ!」
    「どうして?」
    「ちかっ、顔が近いんですってばっ!」
    「理由になってないだろ。…どうしてだ?」
    「も~!顔が好きすぎて心臓が保たないのー!!」

    私はもう鼻先が触れてしまうんじゃないかってくらい距離を詰めてくるブチャラティに大声を上げた。否、もう鼻先より視界いっぱいに大好きな彼で埋め尽くされて、悲鳴に近かったと思う。路地裏とか夜中だとかそんなの関係ない。

    好き。嬉しい。でも抑えが効かなくなっちゃう!離れなきゃ!!

    私はこの究極な選択肢から逃れることで頭がおかしくなってしまいそうだったんだもの。

    「へえ…それは嬉しい限りだな。」
    「きゃっ!!」

    ジッパー独特な音とブチャラティの声が同時にしたかと思った時には遅かった。足裏が地から離れた感覚と身体が上へと引っ張られて悲鳴を上げたら、ブチャラティに抱えられたまま屋上まで登り私を夜空の星が出迎えた。
    ジッパーを巧みに操り辿り着いた屋上。そこはホテルの最上階テラスで食事を楽しむ為のテーブルやイスがいくつも並んでいて、夜中の今では誰もいなく貸し切りみたいだ。

    「キミがどんな理由でもオレを好きなら好都合だ。」
    「ブ…チャラティ?」

    月明かりの中で私を抱いていた手を腰に乗せて1つのテーブルまで誘導していく。そのテーブルだけ真っ赤なバラの花束が置いてあり、予め準備されていた事に動揺する私をよそに椅子を引いて座る様に促される。

    どうしよう…すべて彼の思い通りになっていない?

    有無を言わさない表情で微笑む彼にこんなに広いスペース、誰も居ないのに再度私は逃げ場を失ってしまう。今までなんとか理由を付けて彼の誘いから逃げていたし、なるべく2人きりにならない様にしてきたのにこれでは水の泡だ。

    「オレの全てを好きになってもらう…それだけだ。」

    ほらね、ブチャラティと2人きりになると身体が、心臓や理性が正気じゃなくなる。座る私に覆い被さる様に後ろからテーブルに手を着き、耳に響く彼の声に胸の奥がきゅうっと切なくなり理性を煽る。

    もう好きなんですっ。でも…これ以上私をおかしくさせないでっ!

    「や…困りますっ。あのっ…私じゃなくなっちゃうっ。」
    「それでいいさ…オレがキミを支えるから。なあ…もっとオレでおかしくなってほしい…。」

    鼓膜に低く囁く声が私を底無しの沼へと沈めていった。そうか、彼を好きになっておかしくなってもいいんだ。揺らぐ瞳で見上げると星屑よりも彼の蒼い瞳が美しくて泣きそうになった。
  • 飴よりも薬がご所望 ブチャラティ

    20211215(水)05:56
    「ゲホッ…。」
    「ブチャラティ早く風邪治るといいですね…。」
    「ああ…熱は出ないんだが、今回は咳がやけに長くてな。」

    私は隣で口元を押さえて苦し気な咳をするブチャラティへと目をやる。もう1週間くらい咳が続いているんじゃないかな。メンバーも心配で休むようにと言っているのだが、ブチャラティは熱がないからと休んでくれない。こう言う所、少し頑固って言うか…もっと頼ってほしいなって思う。

    「そうだ、さっきのお店のおばあさんがブチャラティにって…飴くださいましたよ!」
    「飴?」
    「はい、のど飴ですって…ちょっと待って下さいね。」

    私は先程おばあさんから受け取った飴をぎゅうっと手の中で握って願いを込める。

    大好きなブチャラティの風邪が早く治りますように!

    そうして願いを込めた可愛らしい包みの飴を、少し冷えたブチャラティの手へと渡す。

    「どうぞ。おばあさんと私の気持ちも込めておいたので、きっと良くなりますよ。」
    「……キミはオレが元気な方が…嬉しいか?」
    「当たり前ですよ!嬉しいです!もうめちゃくちゃ嬉しいです!!」
    「そうか…ならオレもちゃんと薬を取るか。」
    「そうですよ、ちゃーんと薬は飲んで……あれ、取る?飲むんじゃなくて?」
    「ああ…。ほら…。」
    「?」

    ブチャラティの言葉に引っ掛かり首を傾げると、私の頬にあの冷たい指が這いそのまま顎のラインをなぞる。掌に落ちた雪の結晶みたいに、いつの間にか溶けてなくなっちゃうみたいな…そんなキスが頬に触れた。

    「オレの薬だから…キミは。」

    そう優しく言葉を添えると、停止続ける私にブチャラティは何処か楽しげにクスクス笑う。

    「薬……薬って!?」
    「疲れていても元気になるんだ…キミと居るとな。だから、この飴はキミが食べるといい。」
    「ちょ…ん、ん…。」

    ブチャラティは当たり前とでも言う様に飴の包みを取ると、乳白色の丸い飴を私の乾いた唇へと押し当てた。展開に付いていけない私が瞬きをして惚けていると、ふにふにと押し当てて飴で遊ぶブチャラティ。

    ああ、何でこうも私を翻弄するんだろう…本当に頭痛が…。

    ズキズキと痛む頭と悪戯な上司に私は悩まされていく。