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マスカレードを壊したい
名前変換
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恋人達が別れを惜しむ時間。
手を絡めたり、また身を寄せて額同士を合わせたり…"貴方とまだ離れたくないの"と愛を囁き合い街灯が灯る様にキラキラと2人だけの空間へ変わる。
イタリアでは常に恋人達は寄り添い嘆くその光景を見る度、私は「また会えるのに何でそんなに名残惜しむの?」と不思議だった。なのにブローノ・ブチャラティと離れたくないって思ってしまう私が居る。
恋人関係になるまで、こんなに離れるのが寂しくて胸の奥が苦しく震えるだなんて思わなかった…。なのにここ数日の私達ときたら…。
「もう此処でいいから!」
「此処って…まだ結構距離あるぜ?折角なんだ…家まで送らせろよ。」
「絶対ダメ!」
「何でだよ。怪しいな…オレが行っちゃダメな理由があるのか?」
「理由なら簡単だわ。部屋が散らかってるの、ただそれだけ。」
こんなやり取りをかれこれ1分はしている。まるで先へ進みたいのに、"どうしようか"と心と葛藤して同じ場所で行ったり来たりしてるみたいだ。しか甘い雰囲気は周りには無くて、寧ろ視線の間に火花が散って見えてきた。
まったくもう…、恋人の甘い別れの時間って絶対こんなんじゃない…。
ちらりと横目で探ってもこんなに言い争いをしている恋人達はいないし、少なくともイタリアでは私達しかいないと思う。
その違和感故の周りの視線に背中がむず痒くなって、名前はブチャラティの胸元で静かに踊る金色のジッパーを指先で弄りながら顔を覗き込んだ。少し心配だったが彼の瞳に散っていた火花も落ち着いたみたい。
「ブチャラティ…変な勘違いしないで?本当に散らかってるから見られるのが恥ずかしいだけ。この世の中で、恋人に汚い部屋を見せたい女性っていないもの。」
ブチャラティだってイタリアーノだ。女性に恥をかかせる男じゃないのは充分承知で、言葉を選ぶ私も意地悪だなと思うが"あの部屋"を見せる訳にはいかない。きっとブチャラティが何をしでかすか解らないもの。
日頃の忌々しい女の醜い欲望を思い出せば、じくじくと…心の奥底で薔薇の蔦が這って絡めて締め付ける様な感覚に襲われて、名前はチリッと音を立てたジッパーを摘まむ指に力を込めた。
すると渋々と言った感じの吐息を漏らしたブチャラティが、私の頭に手を回して抱き寄せると爽やかなミントの香りに包まれた。
香水を変えたのかな…。それともクリーニングに出した時の香り?
いつもと違う香りに違和感を思いながらも、「amore…愛しいキミのおおせのままに…。」なんて甘いキスと言葉を降らすから気にならなくなった。きっとブチャラティから贈られる言葉を瓶に閉じ込めたら、子供が瞳をキラキラ輝かせて眺めるに違いない。それくらい甘くて砂糖菓子みたいに綺麗なんだもの。
だから、正反対過ぎて家に帰るのが憂鬱になる。
「ッ……!こ…れ……嘘でしょ…。」
ブチャラティに別れを告げて重たい足を、シンデレラが裸足で帰宅するみたく足を引き摺りながら家の扉を開いて言葉を失った。
真っ暗な部屋を月明かりが照らすと明らかになる割られた窓ガラス、引き裂かれたカーテン、おもちゃ箱を引っくり返したみたいに床に落ちる家具。今までよりも遥かに悪化した現状に、頭は働かないが身体中の血の気が引いていく事だけ名前は理解した。
しかし、そんな猶予も与えてくれないのかパキッとガラスが割れた音が響いて、私は反射的に身を屈めると小型ナイフが空を切って頭上を掠めて行く。私は玄関にある傘を素早く掴むとそのまま身を丸めた姿勢で暗闇へ突っ込み人の気配を感じた所で弧を描いた。
避けた!?
傘の持ち手を引き抜いて出てきたのは鋭い剣。
暗殺チームで身に付けた術は沢山あるが、どんな物でも殺せる様に、またはスタンドが使えない状況下で隠し武器を使って殺してきた。隠し武器は数多くあるが、ステッキに剣を忍ばせる男性がいるのをヒントに女性でも持って不自然じゃない傘に私は忍ばせていたのだ。しかし、その刃に重い感触は感じられず切ったのは虚しく漂う空気のみ。
ザッと後ろへ身を引いて剣を構えて間合いを取ると、私は暗闇に目を凝らして標的の正体を探る。だが、気配で解る。今、私の目の前に居る人物に殺意が無いと言う事。
「おまえ…早く身を引け。」
「はっ、直接言いにも来ない人の言う事なんて聞く筈ないでしょう!?」
「仕方ない…。」
「!」
その瞬間。蝋燭の火をフッと息で消した様に男の雰囲気が変わる。それは紛れもない"殺意"の塊。名前も足で踏ん張り出方を探るべく全身で神経を集中させて、未だに闇に溶けて浮かび上がる素人じゃない男の覗く鋭い瞳を見殺る。
私は、私の手で大切なモノを守るっ…!!
ヒュッと2人の空気を切る音が小さな部屋では大きく弾けて聞こえる。この男の先に私を狙いブチャラティを手にしようとする女が居るから、殺さず拷問するだけの深傷を追わせ絶対見つけ出す。意識と口と耳だけ機能すれば充分なのだ。
物騒な思考が名前の脳を支配するが、叩き込まれた根付いている暗殺精神はそう簡単に抜ける筈もなくメラメラと燃えている。こんな顔、絶対恋人に見せられはしない。
ピシャピシャッガチャガチャッ
「グボァッ…ガアッ!?」
「なっ…!?」
しかしその思考が男の汚い嗚咽、水音、金属が床に打ち付ける音で名前は本能で仰け反り身を翻す。
だってこの攻撃って…。
今宵の満月と同じく暗闇にぽっかり浮かんだ瞳が懐かしくて、私の足元から風船の空気が抜けてくみたいに力が入らなくなる。だめ、しっかりしなくちゃ…。でも…もう、やんなっちゃう…何で居るのよ。
「リゾット…。」
「名前…随分不抜けたな。」
「止めてよそんな言い方……女らしくなったって言って。」
「ああ…悪いな。」
大柄な体型に怖い面構えなのに、話し方がゆったりと柔らかさがあり上司なのに実家に帰った時の様な安心感をくれる人がリゾットだった。厳しいが見守ってくれる所は、今でも変わらないと実感すれば鼻の奥がツンと切なくなるくらい、親を失くすと置き換えてしまいがちと言うが離れてからつくづく思うなんて変なのかしら…。
「逃げたな…」なんて言いながらリゾットが指を指し示すから追えば、いつの間にか血痕だけを残して男は姿を消していた。あれだけ負傷すれば部も悪いと判断したのだろう。今なら血痕を辿って居場所を突き止められそうだが、今回の傷で一般人の依頼主には充分忠告になる。
「ありがとう…助かった。でもどうしてリゾットが此処に?……あ、もしかしてメローネ?」
「おまえの察する通りだ。」
「お喋りなんだから…。」
「あいつなりに心配してるんだろう。オレにだけ言ったみたいだ…珍しく飯に誘ってな。あいつらはオレをおまえの父親だと思ってるのか?」
「でも父親代わりではあるでしょ。」
「こんなデカイ娘はいない。」
「あはは…あーあ、この部屋どうしよ。うわ!暗いから解らなかったけど、明かり付けたら酷いわね!」
やりとりをしながら壁にあるスイッチを押せば照明が照らすのは酷い有り様の室内と血痕。テレビもレンジも買い替えたばっかりだったのに最悪…これ総額いくらかかるのよ。
名前は大家への謝罪と部屋の修繕費と家電家具の見積もりを弾き出すと頭が痛くなり、先程の男を取っ捕まえて全額払わせたくなった。
その前に今日何処で寝よう。こんな窓ガラスも割れて床も物で埋め尽くされた(しかも男の血反吐付き)部屋でなんて眠れないし寝たくない。ホテルに泊まるしかないかぁ…ああ出費が痛い。
すると「恋人の家に行けばいいだろう。」と考えを読んだリゾットの冷静な声が響くけど、そんな頼ってしまったら理由を聞かれてしまうではないか。
本当ならば、すぐにブチャラティに話して手を回してもらうのが早急な解決の近道なのは充分承知だ。しかしこれは女の戦いであるし自分の手で解決したい。悔しい腹立つ渡したくないブチャラティは私だけの恋人なのよ。心の中に居る欲望丸出しの私は、まるで嫌がらせをしてくる女を見ているみたいで苦しくなる程に恋は人を狂わす。
結局まだ頑固なのよね…。
「"甘え"は"逃げ"では無い。」
「え…。」
「名前…今まで甘えるなと言ってきたが、恋人になら甘えるべきだろう。」
「リゾット…。」
「おまえはよく耐えて頑張ってきた…事態はおまえの命まで狙うまで迫ってるんだ。ならば、もう…いいんじゃあないか?」
リゾットの言葉を聞いている内にゆらゆらと視界が揺れていく。1人前になるまでの私を知っているからこそ言える台詞とその重さに涙腺だっておかしくなる。ましてや嫌がらせを受けてからずっと誰にも相談できず耐えてきた孤独は、本当は見つけ出してほしいと望んでしまうくらい追い込まれていたからだ。
名前はまるで子供みたくぽろぽろと大粒の涙を溢して俯くから、余計に床に涙は落ちていく。そんな私を見てリゾットは動じもせずに大きな掌とは対照的に優しい手付きで頭を撫でるから心が解れてきた。
家族って…血が繋がってなくてもいい。
頭の中にリゾット筆頭に暗殺チームのメンバーの顔が浮かんで、名前は涙と共に「ありがとう」と感謝を落とした。
「ん…もう平気。ありがと…リゾットが珍しく優しいから油断しちゃった。」
「たく…優しいついでに、この部屋は"掃除屋"を頼んどいてやる。だから名前、着替えや必要な物だけ纏めて恋人の家へ行くんだ。」
「"掃除屋"かぁ…助かる!」
暗殺した後の処理をしてくれるのがパッショーネの極秘部隊である"掃除屋"だ。素性は知らないが腕が確かで元通りにして汚れも揉み消してくれる凄腕集団。それならば、部屋を任しても安心だ。暗殺チームの面々がどの様な生い立ちで結成したかは知らないが、きっとリゾットのこの優しさに信頼を寄せ彼の名誉の為にも力を尽くすのだろうと染々名前は感じた瞬間だった。
心がポカポカする…この温かさが勇気になる。
心の隙間が埋まったみたいに迷う事なく旅行鞄に詰め混んで、私はリゾットと別れて恋人への道を一歩一歩踏みしめて進む。
"真の恋の道は、茨の道である"とシェイクスピアの名言にもあったが、私とブチャラティはギャングで、変える事は出来ないしそこから普通の道は歩めない。ならば恋した私達には、もっと厳しい道が待っているに違いないのだから切り裂いていけばいい。
ピンポーン
インターフォンの高い音が響くと室内から扉越しに微かだが足音が近付いてくると、名前に緊張感が忍び寄る。何処から話そうか。ブチャラティは自身に想いを寄せた女が私に危害を加えてると知ったらどんな気持ちになるだろうか…。それとも殺してしまうんじゃないかと嫌な予感もする。やっぱり止めた方がいいんじゃ…。
ダメダメ、また色んな感情が出てきちゃう!こういう時は…今1番伝えたい気持ちを言うのがいいに決まってる。
そう決断すると扉が開きお互いの瞳が混じるとどんな色になるのだろうかと思うくらい、ブチャラティの蒼い瞳が私を写すから恥ずかしくなったが胸の奥の温かさにトン…と背中を押される。
「あのね…困ってて…今日は……1人になりたくなくって…。」
どんな表情をするのだろう。しかしそんな不安も吹き飛んだ。だってブチャラティがギャングだって忘れちゃうくらいの笑顔を見せるんだもの。「漸く来た…。」そう私の手を引いて家へと招き入れた彼に、すがる様に身を寄せ今日まで拒んできた別れの時間を埋めるといつもの香水に包まれた。
be continued
手を絡めたり、また身を寄せて額同士を合わせたり…"貴方とまだ離れたくないの"と愛を囁き合い街灯が灯る様にキラキラと2人だけの空間へ変わる。
イタリアでは常に恋人達は寄り添い嘆くその光景を見る度、私は「また会えるのに何でそんなに名残惜しむの?」と不思議だった。なのにブローノ・ブチャラティと離れたくないって思ってしまう私が居る。
恋人関係になるまで、こんなに離れるのが寂しくて胸の奥が苦しく震えるだなんて思わなかった…。なのにここ数日の私達ときたら…。
「もう此処でいいから!」
「此処って…まだ結構距離あるぜ?折角なんだ…家まで送らせろよ。」
「絶対ダメ!」
「何でだよ。怪しいな…オレが行っちゃダメな理由があるのか?」
「理由なら簡単だわ。部屋が散らかってるの、ただそれだけ。」
こんなやり取りをかれこれ1分はしている。まるで先へ進みたいのに、"どうしようか"と心と葛藤して同じ場所で行ったり来たりしてるみたいだ。しか甘い雰囲気は周りには無くて、寧ろ視線の間に火花が散って見えてきた。
まったくもう…、恋人の甘い別れの時間って絶対こんなんじゃない…。
ちらりと横目で探ってもこんなに言い争いをしている恋人達はいないし、少なくともイタリアでは私達しかいないと思う。
その違和感故の周りの視線に背中がむず痒くなって、名前はブチャラティの胸元で静かに踊る金色のジッパーを指先で弄りながら顔を覗き込んだ。少し心配だったが彼の瞳に散っていた火花も落ち着いたみたい。
「ブチャラティ…変な勘違いしないで?本当に散らかってるから見られるのが恥ずかしいだけ。この世の中で、恋人に汚い部屋を見せたい女性っていないもの。」
ブチャラティだってイタリアーノだ。女性に恥をかかせる男じゃないのは充分承知で、言葉を選ぶ私も意地悪だなと思うが"あの部屋"を見せる訳にはいかない。きっとブチャラティが何をしでかすか解らないもの。
日頃の忌々しい女の醜い欲望を思い出せば、じくじくと…心の奥底で薔薇の蔦が這って絡めて締め付ける様な感覚に襲われて、名前はチリッと音を立てたジッパーを摘まむ指に力を込めた。
すると渋々と言った感じの吐息を漏らしたブチャラティが、私の頭に手を回して抱き寄せると爽やかなミントの香りに包まれた。
香水を変えたのかな…。それともクリーニングに出した時の香り?
いつもと違う香りに違和感を思いながらも、「amore…愛しいキミのおおせのままに…。」なんて甘いキスと言葉を降らすから気にならなくなった。きっとブチャラティから贈られる言葉を瓶に閉じ込めたら、子供が瞳をキラキラ輝かせて眺めるに違いない。それくらい甘くて砂糖菓子みたいに綺麗なんだもの。
だから、正反対過ぎて家に帰るのが憂鬱になる。
「ッ……!こ…れ……嘘でしょ…。」
ブチャラティに別れを告げて重たい足を、シンデレラが裸足で帰宅するみたく足を引き摺りながら家の扉を開いて言葉を失った。
真っ暗な部屋を月明かりが照らすと明らかになる割られた窓ガラス、引き裂かれたカーテン、おもちゃ箱を引っくり返したみたいに床に落ちる家具。今までよりも遥かに悪化した現状に、頭は働かないが身体中の血の気が引いていく事だけ名前は理解した。
しかし、そんな猶予も与えてくれないのかパキッとガラスが割れた音が響いて、私は反射的に身を屈めると小型ナイフが空を切って頭上を掠めて行く。私は玄関にある傘を素早く掴むとそのまま身を丸めた姿勢で暗闇へ突っ込み人の気配を感じた所で弧を描いた。
避けた!?
傘の持ち手を引き抜いて出てきたのは鋭い剣。
暗殺チームで身に付けた術は沢山あるが、どんな物でも殺せる様に、またはスタンドが使えない状況下で隠し武器を使って殺してきた。隠し武器は数多くあるが、ステッキに剣を忍ばせる男性がいるのをヒントに女性でも持って不自然じゃない傘に私は忍ばせていたのだ。しかし、その刃に重い感触は感じられず切ったのは虚しく漂う空気のみ。
ザッと後ろへ身を引いて剣を構えて間合いを取ると、私は暗闇に目を凝らして標的の正体を探る。だが、気配で解る。今、私の目の前に居る人物に殺意が無いと言う事。
「おまえ…早く身を引け。」
「はっ、直接言いにも来ない人の言う事なんて聞く筈ないでしょう!?」
「仕方ない…。」
「!」
その瞬間。蝋燭の火をフッと息で消した様に男の雰囲気が変わる。それは紛れもない"殺意"の塊。名前も足で踏ん張り出方を探るべく全身で神経を集中させて、未だに闇に溶けて浮かび上がる素人じゃない男の覗く鋭い瞳を見殺る。
私は、私の手で大切なモノを守るっ…!!
ヒュッと2人の空気を切る音が小さな部屋では大きく弾けて聞こえる。この男の先に私を狙いブチャラティを手にしようとする女が居るから、殺さず拷問するだけの深傷を追わせ絶対見つけ出す。意識と口と耳だけ機能すれば充分なのだ。
物騒な思考が名前の脳を支配するが、叩き込まれた根付いている暗殺精神はそう簡単に抜ける筈もなくメラメラと燃えている。こんな顔、絶対恋人に見せられはしない。
ピシャピシャッガチャガチャッ
「グボァッ…ガアッ!?」
「なっ…!?」
しかしその思考が男の汚い嗚咽、水音、金属が床に打ち付ける音で名前は本能で仰け反り身を翻す。
だってこの攻撃って…。
今宵の満月と同じく暗闇にぽっかり浮かんだ瞳が懐かしくて、私の足元から風船の空気が抜けてくみたいに力が入らなくなる。だめ、しっかりしなくちゃ…。でも…もう、やんなっちゃう…何で居るのよ。
「リゾット…。」
「名前…随分不抜けたな。」
「止めてよそんな言い方……女らしくなったって言って。」
「ああ…悪いな。」
大柄な体型に怖い面構えなのに、話し方がゆったりと柔らかさがあり上司なのに実家に帰った時の様な安心感をくれる人がリゾットだった。厳しいが見守ってくれる所は、今でも変わらないと実感すれば鼻の奥がツンと切なくなるくらい、親を失くすと置き換えてしまいがちと言うが離れてからつくづく思うなんて変なのかしら…。
「逃げたな…」なんて言いながらリゾットが指を指し示すから追えば、いつの間にか血痕だけを残して男は姿を消していた。あれだけ負傷すれば部も悪いと判断したのだろう。今なら血痕を辿って居場所を突き止められそうだが、今回の傷で一般人の依頼主には充分忠告になる。
「ありがとう…助かった。でもどうしてリゾットが此処に?……あ、もしかしてメローネ?」
「おまえの察する通りだ。」
「お喋りなんだから…。」
「あいつなりに心配してるんだろう。オレにだけ言ったみたいだ…珍しく飯に誘ってな。あいつらはオレをおまえの父親だと思ってるのか?」
「でも父親代わりではあるでしょ。」
「こんなデカイ娘はいない。」
「あはは…あーあ、この部屋どうしよ。うわ!暗いから解らなかったけど、明かり付けたら酷いわね!」
やりとりをしながら壁にあるスイッチを押せば照明が照らすのは酷い有り様の室内と血痕。テレビもレンジも買い替えたばっかりだったのに最悪…これ総額いくらかかるのよ。
名前は大家への謝罪と部屋の修繕費と家電家具の見積もりを弾き出すと頭が痛くなり、先程の男を取っ捕まえて全額払わせたくなった。
その前に今日何処で寝よう。こんな窓ガラスも割れて床も物で埋め尽くされた(しかも男の血反吐付き)部屋でなんて眠れないし寝たくない。ホテルに泊まるしかないかぁ…ああ出費が痛い。
すると「恋人の家に行けばいいだろう。」と考えを読んだリゾットの冷静な声が響くけど、そんな頼ってしまったら理由を聞かれてしまうではないか。
本当ならば、すぐにブチャラティに話して手を回してもらうのが早急な解決の近道なのは充分承知だ。しかしこれは女の戦いであるし自分の手で解決したい。悔しい腹立つ渡したくないブチャラティは私だけの恋人なのよ。心の中に居る欲望丸出しの私は、まるで嫌がらせをしてくる女を見ているみたいで苦しくなる程に恋は人を狂わす。
結局まだ頑固なのよね…。
「"甘え"は"逃げ"では無い。」
「え…。」
「名前…今まで甘えるなと言ってきたが、恋人になら甘えるべきだろう。」
「リゾット…。」
「おまえはよく耐えて頑張ってきた…事態はおまえの命まで狙うまで迫ってるんだ。ならば、もう…いいんじゃあないか?」
リゾットの言葉を聞いている内にゆらゆらと視界が揺れていく。1人前になるまでの私を知っているからこそ言える台詞とその重さに涙腺だっておかしくなる。ましてや嫌がらせを受けてからずっと誰にも相談できず耐えてきた孤独は、本当は見つけ出してほしいと望んでしまうくらい追い込まれていたからだ。
名前はまるで子供みたくぽろぽろと大粒の涙を溢して俯くから、余計に床に涙は落ちていく。そんな私を見てリゾットは動じもせずに大きな掌とは対照的に優しい手付きで頭を撫でるから心が解れてきた。
家族って…血が繋がってなくてもいい。
頭の中にリゾット筆頭に暗殺チームのメンバーの顔が浮かんで、名前は涙と共に「ありがとう」と感謝を落とした。
「ん…もう平気。ありがと…リゾットが珍しく優しいから油断しちゃった。」
「たく…優しいついでに、この部屋は"掃除屋"を頼んどいてやる。だから名前、着替えや必要な物だけ纏めて恋人の家へ行くんだ。」
「"掃除屋"かぁ…助かる!」
暗殺した後の処理をしてくれるのがパッショーネの極秘部隊である"掃除屋"だ。素性は知らないが腕が確かで元通りにして汚れも揉み消してくれる凄腕集団。それならば、部屋を任しても安心だ。暗殺チームの面々がどの様な生い立ちで結成したかは知らないが、きっとリゾットのこの優しさに信頼を寄せ彼の名誉の為にも力を尽くすのだろうと染々名前は感じた瞬間だった。
心がポカポカする…この温かさが勇気になる。
心の隙間が埋まったみたいに迷う事なく旅行鞄に詰め混んで、私はリゾットと別れて恋人への道を一歩一歩踏みしめて進む。
"真の恋の道は、茨の道である"とシェイクスピアの名言にもあったが、私とブチャラティはギャングで、変える事は出来ないしそこから普通の道は歩めない。ならば恋した私達には、もっと厳しい道が待っているに違いないのだから切り裂いていけばいい。
ピンポーン
インターフォンの高い音が響くと室内から扉越しに微かだが足音が近付いてくると、名前に緊張感が忍び寄る。何処から話そうか。ブチャラティは自身に想いを寄せた女が私に危害を加えてると知ったらどんな気持ちになるだろうか…。それとも殺してしまうんじゃないかと嫌な予感もする。やっぱり止めた方がいいんじゃ…。
ダメダメ、また色んな感情が出てきちゃう!こういう時は…今1番伝えたい気持ちを言うのがいいに決まってる。
そう決断すると扉が開きお互いの瞳が混じるとどんな色になるのだろうかと思うくらい、ブチャラティの蒼い瞳が私を写すから恥ずかしくなったが胸の奥の温かさにトン…と背中を押される。
「あのね…困ってて…今日は……1人になりたくなくって…。」
どんな表情をするのだろう。しかしそんな不安も吹き飛んだ。だってブチャラティがギャングだって忘れちゃうくらいの笑顔を見せるんだもの。「漸く来た…。」そう私の手を引いて家へと招き入れた彼に、すがる様に身を寄せ今日まで拒んできた別れの時間を埋めるといつもの香水に包まれた。
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