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マスカレードを壊したい
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ブチャラティと付き合い始めて、あれから驚くくらい平穏な日々が続いた。小さな事件は無くならないが、厄介事も無理難題な任務もスタンド使いも現れない。だから私は睡眠もたっぷり取れたし、水を与えられた花の様に生き生きとしてるに違いない。
化粧乗りもいいし、仕事も恋愛も充実してるなんて夢みたい!
お昼にテイクアウトしたアイスコーヒーを、鳥の囀ずりと子供達の声が広がる穏やかな公園のベンチで飲む。今までギャングとして汚い仕事も一生懸命にやってきたから、神様がご褒美をくれているみたいだ。
だって汚い仕事って言っても、この世から悪い奴を消してるだけだもの!うんうん、寧ろいい事してるわ!
「やあ、隣いいかい?」
「ええ、どうぞ……げっ!」
私は投げ掛けられた問い掛けに上機嫌だから笑顔で返したが、顔を見たら直ぐ様後悔した。
さらっとした紫色の髪ってだけでも異常なのに、顔に貼り付く怪しげなアイマスクも胡散臭い笑顔も、私のキラキラした世界には入って欲しくなかった人物。思わず声を上げるもソイツは気にする事なく、隣に空くベンチへと腰掛けて足を組んだ。
暗殺部隊のメローネ。
彼は一言で言うと変態だ。そう、間違いない。もうこれ以上説明してと言われても、変態としか伝えられない。特に女性は見た目とは違う彼の発言に嫌悪感を抱く者は多いと思う。
私が所属していた時だって、話が通じないからちゃんと話した事無いのよね。
「あのさ、Yシャツにジーンズ履いてるけど…アイマスク着けてる時点で変だからね。」
「酷いな、これでもキミに会うから正装してきたんだぜ?」
「…私に?」
「ああ、困ってるのさ、キミの彼氏に。」
彼氏って…ブチャラティだよね。何でメローネが困るの?
メローネとブチャラティは今まで顔を合わせた事も無いし、2人を繋ぐ物が何も無くて私には言っている事が理解出来ない。ぐぐっと眉の間に出来た皺が深くなった所で、メローネは薄笑いを浮かべて片手に抱えていたノートパソコンをちらつかせる。
あれはメローネにとって大事な物。あのパソコンでスタンドを作り上げるんだっけ?まともに話した事はないけれど、任務が一緒になった時に確か…「オレのベイビィ」とか言ってた。
「最近任務で見つけた数人の女から生まれたベイビィが言うんだ…『ブチャラティ』ってさ。」
「何それ怖いんだけど!」
「それで上手く言う事を聞かない…まあ出来が悪い母親なんだろうが…それだけ『ブチャラティ』への想いが強いって訳さ。ベイビィだって『ブチャラティ』を探しに行くんだぜ?」
「……。」
「気を付けた方がいい。キミの彼だろ?『ブチャラティ』って…。嫉妬の念や想いは強い程、女を醜い姿に変えるもんだろ?遅かれ早かれ、それは名前にだって来る筈さ。」
なるほど…忠告しに来てくれたって訳か。
意外にいい奴なんだ…と感動した私は、同じチームの時にもっと話をしてみたら良かったなと後悔した。こうしてチームを離れても心配してくれるなんて、先程冷たい態度を取って申し訳なくなる。
「……その、ありがとね。ちゃんと頭に入れておくわ。」
「ディ・モールト!素直でいいね!そうしてくれると、オレがリゾットとギアッチョに怒鳴られなくて済む。」
相変わらずの口癖で喜ぶと、メローネは用事が済んだとばかりに立ち上がると去っていった。まあ私とこれ以上話す事もメローネは無いんだろうけど、わざわざ服を変えてまで伝えに来てくれたのだから何かあったら報告しておこう。
そして私はメローネの言葉を思い出しながら彼であるブチャラティの行動を思い返してみる。確かに彼は優しいから、分け隔てなく接し困っている人が居たら1番に声を掛けるし親身に話しも聞いてくれる。
って事は、やっぱり女性は勘違いするわよね。最低でもときめいちゃったりするし、相談したいってお願いしたら時間を作るだろうし…。わー!すっごい自然といい雰囲気になってるの想像できる!でもブチャラティの事だから、その雰囲気に気付いてなかったりするんじゃないの!?それで悶々とした秘めた気持ちの中で、急に恋人が現れたら……残酷すぎる!!
考えれば考える程に、頭の中に一気に映画が早送りされたみたいな映像が流れてきた。穏やかな空気が漂う公園内でベンチに1人。「あー、うう…。」と女性達の苦悩を体感した様に私は苦し気な声を漏らして頭を抱える羽目になった。
さて、小1時間くらい経っただろうか。何だか考えすぎて疲れてしまった私は、コーヒーにも手を付けられず放心状態で雲の行き交う空を見上げた。やっぱりいい男と付き合うには、それなりのリスクがあるって事よね。もしも何か嫌がらせを受けても、少しは仕方がないのかも知れない…。
「うん、とりあえずもう休憩時間が終わっちゃうから戻ろう。あー今日は帰ってビール飲もう。うん、絶対。」
重い腰を上げて年配のおじさんみたいな事を呟きながらアジトへの道を歩き進めていく。ずっと座っていただけなのに、エナメルの靴が重く感じヒールもコンクリートに擦ってしまう。
でもアジトに入る前は深呼吸を2度してからノブへと手を掛ける。だってブチャラティに何か言われても困るもの。
「ただいま。」
「おかえり名前。」
「あれ!ブチャラティ出掛けるの?」
「ああ、ちょっと呼ばれちまってな。」
「そう…あ、ちょっと待って。」
扉を開けると調度此方へ向かうブチャラティと鉢合わせる。なんだか乗り気じゃないのか苦笑する彼からして、上客の接待なのかなと察し色々大変だな…と思う。彼の場合気遣いも言葉選びも上手いから余計に好まれるのだろう。折角だし見送ろうとすれば、背広が皺になっていているのに気付き裾をピンッと下に引っ張ってやると幾分は良くなった。やっぱり人に会う時の身嗜みって大事よね。
「ごめんね、スーツが少し皺になってたから…ずっと座って資料見てたんでしょう?」
「へえ、驚いた…よく解るな。」
「ふふっ、大体は想像出来るわよ。」
チームは違かったし一緒に過ごす時間はまだ短いけど、その分も見てるから解っちゃうわ。
目を丸くする彼に思わず笑みを溢せば「grazie…名前」と感謝の言葉と私の額の髪を避けてキスを落とす。離れる時の彼の瞳が名残惜しそうでつい追ってしまうが、それを隠すみたいにパナマハットを取り出して身に付ける。それはブチャラティの漆黒の髪と対比したクオリティの高いエクストラファイン素材ならではの白亜色。そしてキリリと引き締める黒いグログランリボン。しっかりとそこにはBorsalinoのゴールドのロゴが金色に光る。世界最高峰と讃えられる、アレッサンドリアの名門老舗。
う…わ…似合う。え、待って…かっこいい。
初めて見た姿に、彼のちょっとした違和感も忘れて乙女みたいに頬を染めてぽんやりと見惚れてしまう。
「名前?」
「はっ…!あ、ちょ、ちょっと待ってそれで行くの!?」
「あ?ああ、このスタイルが依頼者の希望だからな。」
「希望?」
「そうだ。会う時はパナマハットを被る。それが約束なんだ。」
依頼者は絶対女だ!!
私の中の"女の勘"が明確となった。その依頼者は自身の好みでブチャラティを"自身の"だと言わんばかり周りに知らしめているんだ。
でもこれはブチャラティの仕事でもあるし、依頼者の希望は絶対…。でも私だってかっこいいブチャラティ独り占めしたい。……え、待って今「独り占めしたい」って思った!?何ヤキモチ妬いてるの!?
ううううう…と色々言いたい事や想いを飲み込めば、私はぐっと彼の腕を掴んで訴えたい事を瞳に込める。とりあえず今は「いってらっしゃい」って言わなきゃ!
「今度!私と出掛ける時もハット被って!」
何言ってるのー!?
勝手に出てしまった言葉に、私はただただ固まった。これ以上口を開いてしまったら、また変な事を口走ってしまいそうでスタンドが変わりに喋れたらいいのにと思ってしまう。
この先をどうしたらいいのかと遠退いた意識を取り戻したのは、掴んでいた手にブチャラティの指先が絡まってから。
「いいぜ…約束しよう。」
パナマハットから覗く瞳に私が映るから、その距離の近さにドキッとした。言った事を後悔したばかりなのに返答1つでもう嬉しくなってしまうなんて、いつからこんなに単純な心になっちゃったんだろう。ブチャラティの瞳は、きっと水面みたいに素直な私を映して変えちゃうんだ。
「…らね。」
「ん?」
「絶対だからね。」
「何だよ…忘れる訳ないだろ?おまえからのデートの誘い…初めてだろ。」
「いや…デート…なのかな。」
「デートだろ。それとも辞めるか?」
「そ、それはダメ!」
「そうそう、素直が可愛いぜ名前。……と、時間無いから行く。じゃあな。」
ちゅっとリップ音を立てて頬にキスを落としてから腕時計の示す時間を見て驚いたブチャラティは、あっという間に外へと足を進めていった。取り残された私の気持ちはこれから会う女性への嫉妬と、デートの約束への高揚感で入り交じり陽炎の様に地面から炎の様な揺らめきが立つ。
「人の気も知らないで…。」
こんなに心を乱されているなんて…彼は気付いてないんだろうなと溜め息と共に苦笑すれば、ほわっと唇に残る感触を指先で触れる。よく王子様のキスは呪いを解くと童話では表現されるが、ブチャラティのキスもメローネの言った忠告を簡単に上書きしてしまった。
「さて…残りの仕事も片付けちゃおう。」
でも、またすぐに思い出してしまうんだ。
魔女の呪いはどす黒い、負の感情の塊。それは恨み、嫉み、怨嗟、憎悪、自棄、破壊衝動と言った多くを増幅させて"呪い"として発動される。その呪いは1度掛けられてしまったら逃れる事は困難に等しい。
忘れていたんだ。多くの人間を殺害していく中で、金や嫉妬がその人の元々持っている素敵な人格をズタズタに切り裂いて醜く豹変していった事を。
どんな手段を取っても、その対象人物を追い込んで呪いで死神を引き寄せてどん底へ叩き付けるんだ。
「何これ…。」
そう、私も既に呪いを掛けられていた。
ポストの中で待ち受けていたのは、1通の差出人の記名の無い白い封筒。
"ブローノ・ブチャラティにこれ以上近付くな"と言う文面と、胸元をナイフで何度も刺された私の写真が入っていた。
be continued
化粧乗りもいいし、仕事も恋愛も充実してるなんて夢みたい!
お昼にテイクアウトしたアイスコーヒーを、鳥の囀ずりと子供達の声が広がる穏やかな公園のベンチで飲む。今までギャングとして汚い仕事も一生懸命にやってきたから、神様がご褒美をくれているみたいだ。
だって汚い仕事って言っても、この世から悪い奴を消してるだけだもの!うんうん、寧ろいい事してるわ!
「やあ、隣いいかい?」
「ええ、どうぞ……げっ!」
私は投げ掛けられた問い掛けに上機嫌だから笑顔で返したが、顔を見たら直ぐ様後悔した。
さらっとした紫色の髪ってだけでも異常なのに、顔に貼り付く怪しげなアイマスクも胡散臭い笑顔も、私のキラキラした世界には入って欲しくなかった人物。思わず声を上げるもソイツは気にする事なく、隣に空くベンチへと腰掛けて足を組んだ。
暗殺部隊のメローネ。
彼は一言で言うと変態だ。そう、間違いない。もうこれ以上説明してと言われても、変態としか伝えられない。特に女性は見た目とは違う彼の発言に嫌悪感を抱く者は多いと思う。
私が所属していた時だって、話が通じないからちゃんと話した事無いのよね。
「あのさ、Yシャツにジーンズ履いてるけど…アイマスク着けてる時点で変だからね。」
「酷いな、これでもキミに会うから正装してきたんだぜ?」
「…私に?」
「ああ、困ってるのさ、キミの彼氏に。」
彼氏って…ブチャラティだよね。何でメローネが困るの?
メローネとブチャラティは今まで顔を合わせた事も無いし、2人を繋ぐ物が何も無くて私には言っている事が理解出来ない。ぐぐっと眉の間に出来た皺が深くなった所で、メローネは薄笑いを浮かべて片手に抱えていたノートパソコンをちらつかせる。
あれはメローネにとって大事な物。あのパソコンでスタンドを作り上げるんだっけ?まともに話した事はないけれど、任務が一緒になった時に確か…「オレのベイビィ」とか言ってた。
「最近任務で見つけた数人の女から生まれたベイビィが言うんだ…『ブチャラティ』ってさ。」
「何それ怖いんだけど!」
「それで上手く言う事を聞かない…まあ出来が悪い母親なんだろうが…それだけ『ブチャラティ』への想いが強いって訳さ。ベイビィだって『ブチャラティ』を探しに行くんだぜ?」
「……。」
「気を付けた方がいい。キミの彼だろ?『ブチャラティ』って…。嫉妬の念や想いは強い程、女を醜い姿に変えるもんだろ?遅かれ早かれ、それは名前にだって来る筈さ。」
なるほど…忠告しに来てくれたって訳か。
意外にいい奴なんだ…と感動した私は、同じチームの時にもっと話をしてみたら良かったなと後悔した。こうしてチームを離れても心配してくれるなんて、先程冷たい態度を取って申し訳なくなる。
「……その、ありがとね。ちゃんと頭に入れておくわ。」
「ディ・モールト!素直でいいね!そうしてくれると、オレがリゾットとギアッチョに怒鳴られなくて済む。」
相変わらずの口癖で喜ぶと、メローネは用事が済んだとばかりに立ち上がると去っていった。まあ私とこれ以上話す事もメローネは無いんだろうけど、わざわざ服を変えてまで伝えに来てくれたのだから何かあったら報告しておこう。
そして私はメローネの言葉を思い出しながら彼であるブチャラティの行動を思い返してみる。確かに彼は優しいから、分け隔てなく接し困っている人が居たら1番に声を掛けるし親身に話しも聞いてくれる。
って事は、やっぱり女性は勘違いするわよね。最低でもときめいちゃったりするし、相談したいってお願いしたら時間を作るだろうし…。わー!すっごい自然といい雰囲気になってるの想像できる!でもブチャラティの事だから、その雰囲気に気付いてなかったりするんじゃないの!?それで悶々とした秘めた気持ちの中で、急に恋人が現れたら……残酷すぎる!!
考えれば考える程に、頭の中に一気に映画が早送りされたみたいな映像が流れてきた。穏やかな空気が漂う公園内でベンチに1人。「あー、うう…。」と女性達の苦悩を体感した様に私は苦し気な声を漏らして頭を抱える羽目になった。
さて、小1時間くらい経っただろうか。何だか考えすぎて疲れてしまった私は、コーヒーにも手を付けられず放心状態で雲の行き交う空を見上げた。やっぱりいい男と付き合うには、それなりのリスクがあるって事よね。もしも何か嫌がらせを受けても、少しは仕方がないのかも知れない…。
「うん、とりあえずもう休憩時間が終わっちゃうから戻ろう。あー今日は帰ってビール飲もう。うん、絶対。」
重い腰を上げて年配のおじさんみたいな事を呟きながらアジトへの道を歩き進めていく。ずっと座っていただけなのに、エナメルの靴が重く感じヒールもコンクリートに擦ってしまう。
でもアジトに入る前は深呼吸を2度してからノブへと手を掛ける。だってブチャラティに何か言われても困るもの。
「ただいま。」
「おかえり名前。」
「あれ!ブチャラティ出掛けるの?」
「ああ、ちょっと呼ばれちまってな。」
「そう…あ、ちょっと待って。」
扉を開けると調度此方へ向かうブチャラティと鉢合わせる。なんだか乗り気じゃないのか苦笑する彼からして、上客の接待なのかなと察し色々大変だな…と思う。彼の場合気遣いも言葉選びも上手いから余計に好まれるのだろう。折角だし見送ろうとすれば、背広が皺になっていているのに気付き裾をピンッと下に引っ張ってやると幾分は良くなった。やっぱり人に会う時の身嗜みって大事よね。
「ごめんね、スーツが少し皺になってたから…ずっと座って資料見てたんでしょう?」
「へえ、驚いた…よく解るな。」
「ふふっ、大体は想像出来るわよ。」
チームは違かったし一緒に過ごす時間はまだ短いけど、その分も見てるから解っちゃうわ。
目を丸くする彼に思わず笑みを溢せば「grazie…名前」と感謝の言葉と私の額の髪を避けてキスを落とす。離れる時の彼の瞳が名残惜しそうでつい追ってしまうが、それを隠すみたいにパナマハットを取り出して身に付ける。それはブチャラティの漆黒の髪と対比したクオリティの高いエクストラファイン素材ならではの白亜色。そしてキリリと引き締める黒いグログランリボン。しっかりとそこにはBorsalinoのゴールドのロゴが金色に光る。世界最高峰と讃えられる、アレッサンドリアの名門老舗。
う…わ…似合う。え、待って…かっこいい。
初めて見た姿に、彼のちょっとした違和感も忘れて乙女みたいに頬を染めてぽんやりと見惚れてしまう。
「名前?」
「はっ…!あ、ちょ、ちょっと待ってそれで行くの!?」
「あ?ああ、このスタイルが依頼者の希望だからな。」
「希望?」
「そうだ。会う時はパナマハットを被る。それが約束なんだ。」
依頼者は絶対女だ!!
私の中の"女の勘"が明確となった。その依頼者は自身の好みでブチャラティを"自身の"だと言わんばかり周りに知らしめているんだ。
でもこれはブチャラティの仕事でもあるし、依頼者の希望は絶対…。でも私だってかっこいいブチャラティ独り占めしたい。……え、待って今「独り占めしたい」って思った!?何ヤキモチ妬いてるの!?
ううううう…と色々言いたい事や想いを飲み込めば、私はぐっと彼の腕を掴んで訴えたい事を瞳に込める。とりあえず今は「いってらっしゃい」って言わなきゃ!
「今度!私と出掛ける時もハット被って!」
何言ってるのー!?
勝手に出てしまった言葉に、私はただただ固まった。これ以上口を開いてしまったら、また変な事を口走ってしまいそうでスタンドが変わりに喋れたらいいのにと思ってしまう。
この先をどうしたらいいのかと遠退いた意識を取り戻したのは、掴んでいた手にブチャラティの指先が絡まってから。
「いいぜ…約束しよう。」
パナマハットから覗く瞳に私が映るから、その距離の近さにドキッとした。言った事を後悔したばかりなのに返答1つでもう嬉しくなってしまうなんて、いつからこんなに単純な心になっちゃったんだろう。ブチャラティの瞳は、きっと水面みたいに素直な私を映して変えちゃうんだ。
「…らね。」
「ん?」
「絶対だからね。」
「何だよ…忘れる訳ないだろ?おまえからのデートの誘い…初めてだろ。」
「いや…デート…なのかな。」
「デートだろ。それとも辞めるか?」
「そ、それはダメ!」
「そうそう、素直が可愛いぜ名前。……と、時間無いから行く。じゃあな。」
ちゅっとリップ音を立てて頬にキスを落としてから腕時計の示す時間を見て驚いたブチャラティは、あっという間に外へと足を進めていった。取り残された私の気持ちはこれから会う女性への嫉妬と、デートの約束への高揚感で入り交じり陽炎の様に地面から炎の様な揺らめきが立つ。
「人の気も知らないで…。」
こんなに心を乱されているなんて…彼は気付いてないんだろうなと溜め息と共に苦笑すれば、ほわっと唇に残る感触を指先で触れる。よく王子様のキスは呪いを解くと童話では表現されるが、ブチャラティのキスもメローネの言った忠告を簡単に上書きしてしまった。
「さて…残りの仕事も片付けちゃおう。」
でも、またすぐに思い出してしまうんだ。
魔女の呪いはどす黒い、負の感情の塊。それは恨み、嫉み、怨嗟、憎悪、自棄、破壊衝動と言った多くを増幅させて"呪い"として発動される。その呪いは1度掛けられてしまったら逃れる事は困難に等しい。
忘れていたんだ。多くの人間を殺害していく中で、金や嫉妬がその人の元々持っている素敵な人格をズタズタに切り裂いて醜く豹変していった事を。
どんな手段を取っても、その対象人物を追い込んで呪いで死神を引き寄せてどん底へ叩き付けるんだ。
「何これ…。」
そう、私も既に呪いを掛けられていた。
ポストの中で待ち受けていたのは、1通の差出人の記名の無い白い封筒。
"ブローノ・ブチャラティにこれ以上近付くな"と言う文面と、胸元をナイフで何度も刺された私の写真が入っていた。
be continued