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マスカレードを壊したい
名前変換
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「どうしよう……隠せるかしら、コレ。」
私は眉に掛かっていた前髪を大きめのピンで横へ纏め、額を出した姿が映る鏡と睨み合いを続けていた。
瞼が腫れぼったく赤みも増している姿は、誰が見ても泣いた事は明らかだった。
溜め息混じりに小さく呟きながら手元には事前に用意しておいた温かいフェイスタオルを両手に持ち、目を瞑って顔を上げればソッと瞼の上に置いて数分大人しく待った。
以前テレビで観た女性必見の豆知識だと言うが、今回ばかりは試してみるしかない。
フェイスタオルから熱が引いていけばゆっくりと顔から外して、再度鏡に視線を向けると先程よりかは腫れぼったさは緩和されたのか二重に戻っている瞼にホッと胸を撫で下ろした。
「なんとか後は化粧で隠せそうね……。」
私は飾り気の無い素顔に愛用している小さなポーチから必要最低限の化粧品を取り出して、女性として身だしなみを整えていく。
ただ、私はバッチリとした化粧はしない。
あまり気合いを入れて化粧をすると女性度が増してしまうので、ギャングとしては薄く礼儀程度の化粧で充分だと思っていた。
「てめえは、バカなのかぁ?なんなんだ、その化粧は……。」
アジトに入るなり私を視界に入れたアバッキオは、まるで幽霊でも見たかの様に目を丸くして明らかに驚いた顔をした。
正直初めて会った時、長身で迫力があり男性ながらにして女性的な色気とあまりにもパーツが整っている綺麗な顔に怯んだ。
そんなアバッキオの顔を無惨にも歪めてしまったのだ。
一体何なのかと思っている内にズカズカと大股で歩みより再度色んな角度からじっくりと私の顔を見るなり声を荒げたのだ。
「な、何が悪いのよ!?」
「いいからこっち来い…。」
「きゃっ!!」
私の質問も無視して乱暴に腕を掴むなりどんどん奥へ引きずられて連れて来られたのは、アジトにある小さなシャワールーム脇にある洗面台の前だ。
「泣いたのがバレバレなんだよ……。いいかぁ、てめぇは"女"なんだ。化粧くらいしっかりやれ……見させられるオレ達の身にもなるんだなっ。」
「で、でも少しはやってるわよ!」
「ああ"?…………たく、化粧ポーチ出しな。」
私の後ろに立ち肩に掛けた鞄から奪う様にポーチを取り出せば、相変わらず必要最低限しか入っていない中身に尚更顔を歪めるアバッキオに私は気まずくて目を反らした。
だってちゃんと化粧したって、ギャングの世界に居る私には意味ないもの。
暗殺チームに入って暫くはキチンと化粧して着飾ってはいたけれど、敵の男共に舐められて襲われてからは止めたんだっけ……。
それ以来、化粧は女の象徴の様で苦手だわ。
「…………まあ、なんとかなんだろ。」
私の雰囲気と表情で察したのか、先程より優しい声色で呟けば何処からかアバッキオは鮮やかなパッケージの化粧品を何種類か取り出した。
驚いた瞳で見つめる私の前髪をピンで挟めば、コットンに化粧落としのローションを含ませ肌から落としていく。
「…………手際いいのね。」
「………まあな、お前よりかはいいかもな。今じゃ男でも化粧すんだろ。それに任務の際に変装するなら化粧も必要だしな。」
「なるほど……。それは一理あるわね。」
そういえば、メローネもそんな様な事言っていたかも知れない。
メローネの場合、関わるとちょっとやばくなりそうだから何時も深追いはしなかったけれど……。
瞼を伏せつつアバッキオの言葉を聞いていると、暗殺チームの仲間でもあった美形なのに奇抜なファッションをしていた男性として非常に勿体ないメローネを思い出した。
「暗殺でも変装は必要だよ?ああ、名前ならすっごく綺麗になりそうだっ!!ディ、モールドッ!!いいぞッ。」って興奮されたから止めたんだっけ……。
嫌な記憶を思い出したと同時にブルッと身震いをするが、直ぐ様触れた柔らかいブラシの感触と化粧品の華やかな香りに心が安らいだ。
初めて人に化粧を施して貰うが、これもいいかかも知れないなんて思い始めた頃に肩を叩かれソッと瞳を開けた。
「嘘、すごい……これが私?」
目の前の鏡に映るもう1人の自身の姿に目を疑った。
長い睫はクルンと上を向いた事により二重瞼の大きな瞳を強調させた。
瞼には普段使っているブラウンやピンクが乗せられ使っていなかった淡いパールが瞳の周りを
輝かせる。
うっすらと頬にはピンクのチークを乗せて女性らしい血色の良い艶やかな印象を持たせ、唇には鮮やかオレンジに近い赤みの口紅で顔を明るくさせる。
普段とは違う艶やかでプルンとした唇は、男性の夢が詰まっているかの様で私でも思わず触れたくなった。
「本当にすごいわ!アバッキオって化粧上手だったのね!ありがとうっ。」
今朝見た酷い顔とは違い一瞬にして魔法にかかった様で、私は瞳を輝かせて長身のアバッキオを見上げて最後は笑顔で礼を言う。
女を捨てたつもりだったけれど、たまには良いものね!
「…………名前。」
「なに?……アバッキオ?」
見下ろすアバッキオは先程とは違う真剣な表情に変わり初めて名前で呼べば、私の頬を骨張った手で包んだ。
徐々に沈黙とアバッキオから放たれる何とも言えない色気ある雰囲気に包まれ始め、私は不思議に首を傾げた。
「ッ、いいから早くブチャラティにでも見せに行ってこい!」
「わっ!」
アバッキオは盛大に舌打ちして何かを抑える様に苛立った様子で私の背中を押してシャワールームから追い出した。
私はコロコロと機嫌が変わるアバッキオに訳もわからず戸惑うも、調度自室から彼が出てきたのが視界に入り体が固まった。
「お、おはよう、ブチャラティ。」
「ああ、名前か……おはよ…………。」
私は昨日の事もあり緊張気味に声を彼に掛ければ、爽やかな笑みを浮かべてこちらに視線を向けたが直ぐ様表情と言葉は消えてしまった。
予想外の反応にこちらも驚きを隠せず向き合った状態でどのくらい経っただろうか。
その場で見つめ合い固まってしまった。
「ブ…チャラティ?」
「す、すまない!いつもと違うから、少し驚いただけだ…。……綺麗だ名前。」
「あ、ありがとう……。あ!そうだ、私郵便局に行ってこようかな!」
今までに無いぎこちない言葉のやり取りと改まって彼が照れくさそうに言うものだから、私は逃げ出さす様に自身のデスクの引き出しから封筒を取り出して玄関へ足を進める。
が、前に出したヒールのかかとは地面に着くこと無く不思議に思い振り向けば私の腕を掴み歩みを止める彼と目が合った。
「え、な、何?」
「待て、名前は行く必要ない。アバッキオ!」
「……何だよ。」
「郵便局へ行ってくれ。……意味わかるな?」
私からあっという間に封筒を取り上げ名前を呼べば不機嫌そうに出てきたアバッキオは、彼の言葉を耳にすると一度私に視線を向けてから盛大に溜め息を吐いて差し出す封筒を受け取った。
「たくっ、わかったよ。名前……綺麗だぜ?」
「!?」
「チッ……、ジッパー!!」
渋々承諾してから女性を口説く様に囁くアバッキオらしからぬ発言に私は目を丸くしたのだが、彼が横の壁を叩いたと共に次いだ盛大な舌打ちとスタンド名を叫ぶ声に意識は持っていかれた。
目にした時には壁に縦に切れ目が入った様にジッパーが現れて、開いた瞬間に掴んだ腕で私は中に無理やり押し込まれて床にバランスを崩して倒れ混んだ。
ここは隣の客間だ。
幸い黒い絨毯が引かれていて痛みはないが、直ぐ様私に覆い被さり顎を掴んで片方の腕で唇をゴシゴシと乱暴に拭う。
「んんっ!!や、なにするのよ!!」
私は逃げる様に拭う腕を押し退ければ、私の唇横には赤い口紅が伸びて同じくスーツにもくっきりと痕が残ってしまっていた。
すると彼は苦し気に顔を歪めてこちらを見る瞳は何かと葛藤しているのか、思春期の少年の様に揺らいでいる。
「アバッキオの手で綺麗になったかと思うと腹が立つに決まっているだろう!……それに…他の奴等にこんなに綺麗な名前が瞳で汚されるかと思うと……っ…、外になんか出せる訳がないっ。」
予想外の自分勝手な発言に、私はただただ言葉を失うしか無かった。
なんで彼はこんなにも私の事で余裕が無くなるのかしら……。
彼のチームに移動になってから、つくづく思う。
完璧なまでのリーダー気質で的確に指示をして部下を導く彼とは裏腹に、私が関わると感情を露にし独占しようとする。
今目の前にいるのは、ただの20歳の青年、ブローノ・ブチャラティなのだ。
それが恋と言ってしまえばそれまでなのだが、彼はギャングで上を目指す男。
敵は必ず彼の弱点を探し当てる……それが私であってはいけないのだ。
「私は嫉妬深い男は嫌いよ!それなら、いつもの自信満々な貴方の方がマシだわっ。…………貴方の"弱点"にはなりたくない。」
覆い被さる自身より立場が上の彼を一喝しつつ、最後には本音も交えて話せば少し照れくさくなり視線は反らした。
これは悪までも私の宝物を持っててくれたお礼だ。
言葉の意味を理解したと同時に心に余裕が生まれた為か、彼は口角を上げていつもの優しい笑みを浮かべながら顎を掴んでいた手で唇からはみ出て伸びた口紅を拭った。
「名前を"弱点"なんかにさせないさ。おまえはオレの希望だから……。まず、オレが手出しをさせると思うか?」
「まあ、その前に私が叩きのめすけどね。あーあ、折角の化粧が台無し。」
「すまなかった……でも、そんなに着飾る事は無いさ。そのままのおまえは綺麗なんだから。」
「ば、馬鹿言わないで。……ほら、スーツに白いのに口紅付いちゃったじゃない。」
私は先程口紅を拭われた箇所に目をやれば、白地のスーツには鮮やかな赤い口紅がしっかりと唇の形を残して隅の方は伸びた一筋の痕が刻まれていた。
溜め息を吐き眉を寄せながらスーツと睨み合いをする私を気遣ってか、頭を軽く叩いた彼はスーツの上まで上がったジッパーを下ろして脱ぎ始めたので目を見開いた。
「早速クリーニングに出してくる。名前は書類や領収書の整理を頼む。」
「わ、わかったから早く何か着てよ!馬鹿!」
「この位で恥ずかしがってたら、この先保たないぜ?いい子で待ってろよ…。」
急いで視線を反らす態度の私を楽しげに見ながら、筋肉質な身体を隠す様に繊細な模様が描かれたレースのインナーのみの姿になった彼は上着を抱えて客間を後にした。
初めて見る彼の身体が一瞬なのにも関わらず目から離れない程に刺激的で、私は頬に手を当てチラリと客間にある鏡に視線をやるとチークがより鮮やかな赤みを増している。
しかし、夕方クリーニング店へ彼に頼まれてスーツを受け取りに向かえば、私は一気に青ざめるのであった。
「まあ……ふふっ、仲がよろしくって良いですね!」
「へ?」
「でも、スーツが痛んでしまうので何度も付けちゃ駄目ですよ?イチャイチャもほどほどに。」
「!?ち、違うんです!!」
私がアジトに着いて彼にスーツを投げつけたのは、言うまでもない。
be continued
私は眉に掛かっていた前髪を大きめのピンで横へ纏め、額を出した姿が映る鏡と睨み合いを続けていた。
瞼が腫れぼったく赤みも増している姿は、誰が見ても泣いた事は明らかだった。
溜め息混じりに小さく呟きながら手元には事前に用意しておいた温かいフェイスタオルを両手に持ち、目を瞑って顔を上げればソッと瞼の上に置いて数分大人しく待った。
以前テレビで観た女性必見の豆知識だと言うが、今回ばかりは試してみるしかない。
フェイスタオルから熱が引いていけばゆっくりと顔から外して、再度鏡に視線を向けると先程よりかは腫れぼったさは緩和されたのか二重に戻っている瞼にホッと胸を撫で下ろした。
「なんとか後は化粧で隠せそうね……。」
私は飾り気の無い素顔に愛用している小さなポーチから必要最低限の化粧品を取り出して、女性として身だしなみを整えていく。
ただ、私はバッチリとした化粧はしない。
あまり気合いを入れて化粧をすると女性度が増してしまうので、ギャングとしては薄く礼儀程度の化粧で充分だと思っていた。
「てめえは、バカなのかぁ?なんなんだ、その化粧は……。」
アジトに入るなり私を視界に入れたアバッキオは、まるで幽霊でも見たかの様に目を丸くして明らかに驚いた顔をした。
正直初めて会った時、長身で迫力があり男性ながらにして女性的な色気とあまりにもパーツが整っている綺麗な顔に怯んだ。
そんなアバッキオの顔を無惨にも歪めてしまったのだ。
一体何なのかと思っている内にズカズカと大股で歩みより再度色んな角度からじっくりと私の顔を見るなり声を荒げたのだ。
「な、何が悪いのよ!?」
「いいからこっち来い…。」
「きゃっ!!」
私の質問も無視して乱暴に腕を掴むなりどんどん奥へ引きずられて連れて来られたのは、アジトにある小さなシャワールーム脇にある洗面台の前だ。
「泣いたのがバレバレなんだよ……。いいかぁ、てめぇは"女"なんだ。化粧くらいしっかりやれ……見させられるオレ達の身にもなるんだなっ。」
「で、でも少しはやってるわよ!」
「ああ"?…………たく、化粧ポーチ出しな。」
私の後ろに立ち肩に掛けた鞄から奪う様にポーチを取り出せば、相変わらず必要最低限しか入っていない中身に尚更顔を歪めるアバッキオに私は気まずくて目を反らした。
だってちゃんと化粧したって、ギャングの世界に居る私には意味ないもの。
暗殺チームに入って暫くはキチンと化粧して着飾ってはいたけれど、敵の男共に舐められて襲われてからは止めたんだっけ……。
それ以来、化粧は女の象徴の様で苦手だわ。
「…………まあ、なんとかなんだろ。」
私の雰囲気と表情で察したのか、先程より優しい声色で呟けば何処からかアバッキオは鮮やかなパッケージの化粧品を何種類か取り出した。
驚いた瞳で見つめる私の前髪をピンで挟めば、コットンに化粧落としのローションを含ませ肌から落としていく。
「…………手際いいのね。」
「………まあな、お前よりかはいいかもな。今じゃ男でも化粧すんだろ。それに任務の際に変装するなら化粧も必要だしな。」
「なるほど……。それは一理あるわね。」
そういえば、メローネもそんな様な事言っていたかも知れない。
メローネの場合、関わるとちょっとやばくなりそうだから何時も深追いはしなかったけれど……。
瞼を伏せつつアバッキオの言葉を聞いていると、暗殺チームの仲間でもあった美形なのに奇抜なファッションをしていた男性として非常に勿体ないメローネを思い出した。
「暗殺でも変装は必要だよ?ああ、名前ならすっごく綺麗になりそうだっ!!ディ、モールドッ!!いいぞッ。」って興奮されたから止めたんだっけ……。
嫌な記憶を思い出したと同時にブルッと身震いをするが、直ぐ様触れた柔らかいブラシの感触と化粧品の華やかな香りに心が安らいだ。
初めて人に化粧を施して貰うが、これもいいかかも知れないなんて思い始めた頃に肩を叩かれソッと瞳を開けた。
「嘘、すごい……これが私?」
目の前の鏡に映るもう1人の自身の姿に目を疑った。
長い睫はクルンと上を向いた事により二重瞼の大きな瞳を強調させた。
瞼には普段使っているブラウンやピンクが乗せられ使っていなかった淡いパールが瞳の周りを
輝かせる。
うっすらと頬にはピンクのチークを乗せて女性らしい血色の良い艶やかな印象を持たせ、唇には鮮やかオレンジに近い赤みの口紅で顔を明るくさせる。
普段とは違う艶やかでプルンとした唇は、男性の夢が詰まっているかの様で私でも思わず触れたくなった。
「本当にすごいわ!アバッキオって化粧上手だったのね!ありがとうっ。」
今朝見た酷い顔とは違い一瞬にして魔法にかかった様で、私は瞳を輝かせて長身のアバッキオを見上げて最後は笑顔で礼を言う。
女を捨てたつもりだったけれど、たまには良いものね!
「…………名前。」
「なに?……アバッキオ?」
見下ろすアバッキオは先程とは違う真剣な表情に変わり初めて名前で呼べば、私の頬を骨張った手で包んだ。
徐々に沈黙とアバッキオから放たれる何とも言えない色気ある雰囲気に包まれ始め、私は不思議に首を傾げた。
「ッ、いいから早くブチャラティにでも見せに行ってこい!」
「わっ!」
アバッキオは盛大に舌打ちして何かを抑える様に苛立った様子で私の背中を押してシャワールームから追い出した。
私はコロコロと機嫌が変わるアバッキオに訳もわからず戸惑うも、調度自室から彼が出てきたのが視界に入り体が固まった。
「お、おはよう、ブチャラティ。」
「ああ、名前か……おはよ…………。」
私は昨日の事もあり緊張気味に声を彼に掛ければ、爽やかな笑みを浮かべてこちらに視線を向けたが直ぐ様表情と言葉は消えてしまった。
予想外の反応にこちらも驚きを隠せず向き合った状態でどのくらい経っただろうか。
その場で見つめ合い固まってしまった。
「ブ…チャラティ?」
「す、すまない!いつもと違うから、少し驚いただけだ…。……綺麗だ名前。」
「あ、ありがとう……。あ!そうだ、私郵便局に行ってこようかな!」
今までに無いぎこちない言葉のやり取りと改まって彼が照れくさそうに言うものだから、私は逃げ出さす様に自身のデスクの引き出しから封筒を取り出して玄関へ足を進める。
が、前に出したヒールのかかとは地面に着くこと無く不思議に思い振り向けば私の腕を掴み歩みを止める彼と目が合った。
「え、な、何?」
「待て、名前は行く必要ない。アバッキオ!」
「……何だよ。」
「郵便局へ行ってくれ。……意味わかるな?」
私からあっという間に封筒を取り上げ名前を呼べば不機嫌そうに出てきたアバッキオは、彼の言葉を耳にすると一度私に視線を向けてから盛大に溜め息を吐いて差し出す封筒を受け取った。
「たくっ、わかったよ。名前……綺麗だぜ?」
「!?」
「チッ……、ジッパー!!」
渋々承諾してから女性を口説く様に囁くアバッキオらしからぬ発言に私は目を丸くしたのだが、彼が横の壁を叩いたと共に次いだ盛大な舌打ちとスタンド名を叫ぶ声に意識は持っていかれた。
目にした時には壁に縦に切れ目が入った様にジッパーが現れて、開いた瞬間に掴んだ腕で私は中に無理やり押し込まれて床にバランスを崩して倒れ混んだ。
ここは隣の客間だ。
幸い黒い絨毯が引かれていて痛みはないが、直ぐ様私に覆い被さり顎を掴んで片方の腕で唇をゴシゴシと乱暴に拭う。
「んんっ!!や、なにするのよ!!」
私は逃げる様に拭う腕を押し退ければ、私の唇横には赤い口紅が伸びて同じくスーツにもくっきりと痕が残ってしまっていた。
すると彼は苦し気に顔を歪めてこちらを見る瞳は何かと葛藤しているのか、思春期の少年の様に揺らいでいる。
「アバッキオの手で綺麗になったかと思うと腹が立つに決まっているだろう!……それに…他の奴等にこんなに綺麗な名前が瞳で汚されるかと思うと……っ…、外になんか出せる訳がないっ。」
予想外の自分勝手な発言に、私はただただ言葉を失うしか無かった。
なんで彼はこんなにも私の事で余裕が無くなるのかしら……。
彼のチームに移動になってから、つくづく思う。
完璧なまでのリーダー気質で的確に指示をして部下を導く彼とは裏腹に、私が関わると感情を露にし独占しようとする。
今目の前にいるのは、ただの20歳の青年、ブローノ・ブチャラティなのだ。
それが恋と言ってしまえばそれまでなのだが、彼はギャングで上を目指す男。
敵は必ず彼の弱点を探し当てる……それが私であってはいけないのだ。
「私は嫉妬深い男は嫌いよ!それなら、いつもの自信満々な貴方の方がマシだわっ。…………貴方の"弱点"にはなりたくない。」
覆い被さる自身より立場が上の彼を一喝しつつ、最後には本音も交えて話せば少し照れくさくなり視線は反らした。
これは悪までも私の宝物を持っててくれたお礼だ。
言葉の意味を理解したと同時に心に余裕が生まれた為か、彼は口角を上げていつもの優しい笑みを浮かべながら顎を掴んでいた手で唇からはみ出て伸びた口紅を拭った。
「名前を"弱点"なんかにさせないさ。おまえはオレの希望だから……。まず、オレが手出しをさせると思うか?」
「まあ、その前に私が叩きのめすけどね。あーあ、折角の化粧が台無し。」
「すまなかった……でも、そんなに着飾る事は無いさ。そのままのおまえは綺麗なんだから。」
「ば、馬鹿言わないで。……ほら、スーツに白いのに口紅付いちゃったじゃない。」
私は先程口紅を拭われた箇所に目をやれば、白地のスーツには鮮やかな赤い口紅がしっかりと唇の形を残して隅の方は伸びた一筋の痕が刻まれていた。
溜め息を吐き眉を寄せながらスーツと睨み合いをする私を気遣ってか、頭を軽く叩いた彼はスーツの上まで上がったジッパーを下ろして脱ぎ始めたので目を見開いた。
「早速クリーニングに出してくる。名前は書類や領収書の整理を頼む。」
「わ、わかったから早く何か着てよ!馬鹿!」
「この位で恥ずかしがってたら、この先保たないぜ?いい子で待ってろよ…。」
急いで視線を反らす態度の私を楽しげに見ながら、筋肉質な身体を隠す様に繊細な模様が描かれたレースのインナーのみの姿になった彼は上着を抱えて客間を後にした。
初めて見る彼の身体が一瞬なのにも関わらず目から離れない程に刺激的で、私は頬に手を当てチラリと客間にある鏡に視線をやるとチークがより鮮やかな赤みを増している。
しかし、夕方クリーニング店へ彼に頼まれてスーツを受け取りに向かえば、私は一気に青ざめるのであった。
「まあ……ふふっ、仲がよろしくって良いですね!」
「へ?」
「でも、スーツが痛んでしまうので何度も付けちゃ駄目ですよ?イチャイチャもほどほどに。」
「!?ち、違うんです!!」
私がアジトに着いて彼にスーツを投げつけたのは、言うまでもない。
be continued