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giorni felici
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「もうこんな時間かぁ…。」
壁に掛かる時計に目をやると、私が仕事が終わる時間まであと30分と迫っていた。だがこの時間は、仕事帰りの女性達で一際賑わっていくので稼ぎ時だ。ああ、これは残業確定ね。
私が働いているブティック店は人気のブランド店だ。私もここのデザインが好きで就職が決まった時は嬉しかったのを今でも覚えているし、着ると魔法に掛かったみたいに自分を素敵に見せてくれる洋服達。
だが、大好きな洋服に囲まれているのに、今の私は気持ちが乗らないでいた。
何故なら彼と会えないでいたのだ。
もう最後に会ってから1ヶ月近くは経っている。
私から電話を1度だけ掛けてみたのだが、折り返してくれたと思ったら忙しいのかすぐ切れてしまった。
やっぱりキスをまた拒否してしまったから?それとも遂に愛想を尽かされてしまったのかもしれない…。女性なら彼の周りには大勢居るもの。
考えていると悪い事ばかりに行き着いてしまう。
カラン…と思考の片隅で、店内にお客様が来た事を告げる扉に付いたベルが鳴ったのが聞こえた。
すると私が「いらっしゃいませ…。」と元気無く呟いた瞬間だった。視界いっぱいに華やかな香りと赤い薔薇の数々が広がった。
「また待たせてしまったな……名前、すまなかった。」
「ブチャラティ!!」
どうしよう!やっと会えた……。
申し訳無さそうに眉を下げ謝る彼に対して、私は会えた喜びと薔薇の花束の似合う姿に感動したまま惚れ惚れと見入ってしまった。
「今日はキミにワンピース選んでもらいたいんだ。」
「え?」
だが、次がれた台詞に一瞬にして真っ白になる。
どういう事?私に、貴方が女性にプレゼントするワンピースを選べって言うの?何なの!?貴方、私が好きだって知ってるわよね!?
彼の考えている事が解らず、先程までの会えた喜びは何処へやら。一気に頭の中で多くの疑問と質問が飛び交った。こんなに数多くの考えが巡る事ってないと思う。
私が答えられず固まっていると、背後から勢い良く両肩を叩かれたものだから、大きく身体が揺らいで我に返った。
「もう!名前ちゃん、ブチャラティさんの要望に答えてあげて!」
「店長!?」
「ありがとう、名前。よろしく頼む。」
後ろには店長、目の前には微笑む彼。神様は狡い。これじゃあ逃げられない。
「はぁ…。」
私は観念して気持ちを切り替える様に、小さく息を吐けば先程とは違いニッコリと接客をする時専用の笑みを浮かべた。
これでもブランド店の定員だ。店の評判を落とさない為にも、私は彼の手を引いて今人気のワンピースの前に案内した。
「こちらが、今季人気のワンピースになります。」
「そうか……じゃあ名前、これを着てみてくれないか?」
「なっ、んで……いえ、私が着ても意味無いのでは?」
「雰囲気を確認したいんだ。さあ、行こう。」
「ちょ、ちょっと……!」
彼は4色あるワンピースの中から、マネキンも着用している薔薇の花束と同じ赤い色を選び私に差し出した。
私は意味が解らず咄嗟に出た言葉を飲み込んで丁寧に断ったのだが、頑なな彼は腰に手を回し試着室まで上手に誘導した。
一体何を考えているの!?
あまりにも強引な彼に私は抵抗する隙も与えられず、流される様にして試着室に着けばカーテンを閉められてしまった。試着室専用の大きな鏡には、大好きな彼が知らない女性に贈るワンピースを抱える惨めな私が映る。
「何してるのよ。私……馬鹿みたい。」
私は怒りと悲しみとでごちゃ混ぜの感情の中、今の私には到底似合わないであろう綺麗な赤いワンピースに袖を通す事しか出来ない。
下着の上からワンピースを被り、後ろのファスナーを上げ様と背中に手を伸ばしたのだが途中まで上がったのにその先が進まない。
「名前入るぞ?」
「ま、待って!きゃあっ!!」
力任せでは壊しかねないと焦れつつファスナーと格闘していると、着替えている途中でカーテンを開けられてしまい一瞬にして彼と目が合えば悲鳴を上げてしまった。
私は恥ずかしさのあまりワンピースが脱げない様にと両手で押さえ背を向けたのだが、残念な事に疼くまっているとカーテンが閉まる音が背後から聞こえた。大人2人が入るには狭い個室。肌同士が簡単に触れてしまう状況に、心拍数は余計に上がる。
「そんなに驚く事は無いだろ?取って食いはしないから大丈夫だ。ほら、オレが上げるから…。」
「あ、貴方みたいに慣れていないの!」
「オレだって慣れている訳じゃあないさ。」
私の反応を見て楽しんでいるのだろうか。
彼は余裕そうに笑いながら、まるで威嚇する野良猫を宥める様に囁く。背中にゆっくりと手が添えられてこの狭い試着室に、ジジジ……とファスナーが閉まる音が鮮明に響いて聞こえる。
私はこれ以上騒ぐ事も出来ず、この状況に観念して長い髪を両手で持ち上げると抵抗せずにされるがままになった。
なんともゆっくりと上がるファスナーがもどかしくて、私は両目をギュッと瞑り祈る様に終わるのを待った。
「まったく……キミは煽るのが上手いな。ジョルノみたく上手くいかないもんだ。」
「ひゃっ……っ!?」
突如、背中に熱を持つ柔らかな唇の感触。身体はビクッと跳ね上がったと同時に、私は漏れた悲鳴にも近い声に咄嗟に手で口を覆った。
自分でもこんな声が出た事に驚いていると、逃がさないとばかりに彼の両腕が私の胸に回り抱き締められる。
「や……離して。」
「ダメだ、逃がさない。名前、ちゃんと目を開けて……オレを見てくれ。」
「っ……!」
彼が持ってきていた薔薇の香りが、この狭い試着室に充満する。薔薇園を訪れた時の様に身体に纏わり付く香りと、彼の色気ある声色に目眩がしそうだ。
私はこの雰囲気に飲み込まれてしまいそうで恐る恐る瞳を開けると、鏡には彼に後ろから抱き締められて頬を真っ赤にしている自身の姿が映っていた。次に、私の耳に唇を這わせている彼の蒼い瞳と合う。彼は魔法でも使えるのだろうか?
深い、深海の様な蒼い瞳は合った瞬間に私を捕らえて離さない。
ベランダで初めて彼と目を合わせた時からそうだった。
「名前、キミはギャングのオレを変える事が出来る唯一の存在だ。好きだ…オレと付き合ってくれないか?」
真剣な表情の彼と紡がれた告白に、身体が貫かれた様な衝撃だった。あまりにも夢の様な言葉に、私の視界が徐々に揺らいでいき信じられないとばかりに首を横に振った。
「だって……私は今まで貴方の前に現れた女性みたいに魅力的じゃあ無いわ。」
「名前、怒るぞ。自分を下げるような事を言うもんじゃあ無いぜ。」
「だって……。」
「いいか、オレは面倒事は好きじゃあない。今の気持ちを聞きたいんだ。……好きにさせたのは名前、キミだぜ?」
首を振る私の顎を掴みしっかりと前を向かせ、鏡越しに目を合わせて耳元で囁く彼は本当に意地悪だ。私の気持ちも全て解って聞いているのだ。
「好き……。貴方の事が好き。」
「ああ、オレもだ……。」
彼は待ちに待った言葉を聞くと満足げに笑みを浮かべて、今度は捕まえたとばかりにより抱き寄せる。お互いの気持ちが通じる瞬間って、これ程までに愛しさが増すものなのか。実感した時には鼻の奥がツンとして、意識を集中させないと泣き出してしまいそうだ。
暫くの間抱き合っていたのだが、店内が賑わい始めたのに気付いた彼は身体を離しファスナーを上げて薔薇の花束を私に差し出した。
「これ……私にだったの?」
「当たり前だろ?オレはキミ以外の女性に、薔薇をプレゼントしようとはしないさ。」
そう言うなり私の手を取り立ち上がらせれば、カーテンを開けて試着室から出る。手を繋いで出てくれば、一気に注がれる視線に先程の試着室での愛の告白を思い出し恥ずかしくなった。
彼は周りに気にも止めず一直線に店長の所まで向かうと、ワンピースの通常の倍の金額を払いそして見せ付ける様に私を抱き寄せた。
「悪いが今日は彼女ごと買い取らせてもらう。」
「え……!」
彼の行動に私も店長も、そして店内に居た女性達も驚き声を上げた。きっと、明日この事がネオポリス中の人達に一気に広まるに違いない。
だって私だって信じられないんだもの!
彼は堂々と店を出て、外に止めていた愛車のドアを開けてくれる。大胆な行動と紳士の様なエスコートに、私は観念すると緊張も解けて何だか可笑しくなりクスクスと笑みを溢した。
「もう、貴方には敵わないわね。」
「キミを手に入れるまで、随分手こずったからな。」
彼は車に乗り込む私に、意地悪な笑みを浮かて囁き優しくドアを閉めてくれた。膝に抱えた目の前にある茎の長い真っ赤な薔薇の数々。それも嬉しくて、私は花束と一緒に今の幸せを抱え込んだ。
「可愛いな……名前、今度こそいいか?」
幸せに浸っていると隣に座っていた彼は、花束を抱き抱える私に顔を近付けながら問い掛けていた。質問から彼のしたい事が解れば、私は照れくさそうに笑みを浮かべて小さく頷いた。
「いっぱい待たせちゃったものね……。」
今度は私から拒否してきた分の謝罪を込めて、身を乗り出してその唇を重ねた。ソッと彼から唇を離そうとしたのだが、逃がさないとばかりに素早く彼の大きな掌が頭を包み込む。
「ブ…チャラティ……っ。」
「ン……甘ったるいが好きな味だ。」
「んう……っ、あ……。」
何度も繰り返されるキスの合間に彼の囁く艶やかな声が聞こえる。角度を変えて啄む様なキスから、確かめる様なキスに変わる。次いで舌先が絡まると押し寄せる甘い波に、意識を手放さないと私は彼にしっかりと抱き付いた。
「キミに気付けたあの日、あの時を、運命の女神に感謝する…。」
「ん…私も…。」
運命の女神に感謝してもしきれない。
見知らぬ恋から、忘れられない愛に。
愛から、貴方と過ごす幸せの日々に。
これからの幸せな日々の数だけ、甘いキスを。
甘いキスの数だけ、沢山の愛情を貴方に。
end
壁に掛かる時計に目をやると、私が仕事が終わる時間まであと30分と迫っていた。だがこの時間は、仕事帰りの女性達で一際賑わっていくので稼ぎ時だ。ああ、これは残業確定ね。
私が働いているブティック店は人気のブランド店だ。私もここのデザインが好きで就職が決まった時は嬉しかったのを今でも覚えているし、着ると魔法に掛かったみたいに自分を素敵に見せてくれる洋服達。
だが、大好きな洋服に囲まれているのに、今の私は気持ちが乗らないでいた。
何故なら彼と会えないでいたのだ。
もう最後に会ってから1ヶ月近くは経っている。
私から電話を1度だけ掛けてみたのだが、折り返してくれたと思ったら忙しいのかすぐ切れてしまった。
やっぱりキスをまた拒否してしまったから?それとも遂に愛想を尽かされてしまったのかもしれない…。女性なら彼の周りには大勢居るもの。
考えていると悪い事ばかりに行き着いてしまう。
カラン…と思考の片隅で、店内にお客様が来た事を告げる扉に付いたベルが鳴ったのが聞こえた。
すると私が「いらっしゃいませ…。」と元気無く呟いた瞬間だった。視界いっぱいに華やかな香りと赤い薔薇の数々が広がった。
「また待たせてしまったな……名前、すまなかった。」
「ブチャラティ!!」
どうしよう!やっと会えた……。
申し訳無さそうに眉を下げ謝る彼に対して、私は会えた喜びと薔薇の花束の似合う姿に感動したまま惚れ惚れと見入ってしまった。
「今日はキミにワンピース選んでもらいたいんだ。」
「え?」
だが、次がれた台詞に一瞬にして真っ白になる。
どういう事?私に、貴方が女性にプレゼントするワンピースを選べって言うの?何なの!?貴方、私が好きだって知ってるわよね!?
彼の考えている事が解らず、先程までの会えた喜びは何処へやら。一気に頭の中で多くの疑問と質問が飛び交った。こんなに数多くの考えが巡る事ってないと思う。
私が答えられず固まっていると、背後から勢い良く両肩を叩かれたものだから、大きく身体が揺らいで我に返った。
「もう!名前ちゃん、ブチャラティさんの要望に答えてあげて!」
「店長!?」
「ありがとう、名前。よろしく頼む。」
後ろには店長、目の前には微笑む彼。神様は狡い。これじゃあ逃げられない。
「はぁ…。」
私は観念して気持ちを切り替える様に、小さく息を吐けば先程とは違いニッコリと接客をする時専用の笑みを浮かべた。
これでもブランド店の定員だ。店の評判を落とさない為にも、私は彼の手を引いて今人気のワンピースの前に案内した。
「こちらが、今季人気のワンピースになります。」
「そうか……じゃあ名前、これを着てみてくれないか?」
「なっ、んで……いえ、私が着ても意味無いのでは?」
「雰囲気を確認したいんだ。さあ、行こう。」
「ちょ、ちょっと……!」
彼は4色あるワンピースの中から、マネキンも着用している薔薇の花束と同じ赤い色を選び私に差し出した。
私は意味が解らず咄嗟に出た言葉を飲み込んで丁寧に断ったのだが、頑なな彼は腰に手を回し試着室まで上手に誘導した。
一体何を考えているの!?
あまりにも強引な彼に私は抵抗する隙も与えられず、流される様にして試着室に着けばカーテンを閉められてしまった。試着室専用の大きな鏡には、大好きな彼が知らない女性に贈るワンピースを抱える惨めな私が映る。
「何してるのよ。私……馬鹿みたい。」
私は怒りと悲しみとでごちゃ混ぜの感情の中、今の私には到底似合わないであろう綺麗な赤いワンピースに袖を通す事しか出来ない。
下着の上からワンピースを被り、後ろのファスナーを上げ様と背中に手を伸ばしたのだが途中まで上がったのにその先が進まない。
「名前入るぞ?」
「ま、待って!きゃあっ!!」
力任せでは壊しかねないと焦れつつファスナーと格闘していると、着替えている途中でカーテンを開けられてしまい一瞬にして彼と目が合えば悲鳴を上げてしまった。
私は恥ずかしさのあまりワンピースが脱げない様にと両手で押さえ背を向けたのだが、残念な事に疼くまっているとカーテンが閉まる音が背後から聞こえた。大人2人が入るには狭い個室。肌同士が簡単に触れてしまう状況に、心拍数は余計に上がる。
「そんなに驚く事は無いだろ?取って食いはしないから大丈夫だ。ほら、オレが上げるから…。」
「あ、貴方みたいに慣れていないの!」
「オレだって慣れている訳じゃあないさ。」
私の反応を見て楽しんでいるのだろうか。
彼は余裕そうに笑いながら、まるで威嚇する野良猫を宥める様に囁く。背中にゆっくりと手が添えられてこの狭い試着室に、ジジジ……とファスナーが閉まる音が鮮明に響いて聞こえる。
私はこれ以上騒ぐ事も出来ず、この状況に観念して長い髪を両手で持ち上げると抵抗せずにされるがままになった。
なんともゆっくりと上がるファスナーがもどかしくて、私は両目をギュッと瞑り祈る様に終わるのを待った。
「まったく……キミは煽るのが上手いな。ジョルノみたく上手くいかないもんだ。」
「ひゃっ……っ!?」
突如、背中に熱を持つ柔らかな唇の感触。身体はビクッと跳ね上がったと同時に、私は漏れた悲鳴にも近い声に咄嗟に手で口を覆った。
自分でもこんな声が出た事に驚いていると、逃がさないとばかりに彼の両腕が私の胸に回り抱き締められる。
「や……離して。」
「ダメだ、逃がさない。名前、ちゃんと目を開けて……オレを見てくれ。」
「っ……!」
彼が持ってきていた薔薇の香りが、この狭い試着室に充満する。薔薇園を訪れた時の様に身体に纏わり付く香りと、彼の色気ある声色に目眩がしそうだ。
私はこの雰囲気に飲み込まれてしまいそうで恐る恐る瞳を開けると、鏡には彼に後ろから抱き締められて頬を真っ赤にしている自身の姿が映っていた。次に、私の耳に唇を這わせている彼の蒼い瞳と合う。彼は魔法でも使えるのだろうか?
深い、深海の様な蒼い瞳は合った瞬間に私を捕らえて離さない。
ベランダで初めて彼と目を合わせた時からそうだった。
「名前、キミはギャングのオレを変える事が出来る唯一の存在だ。好きだ…オレと付き合ってくれないか?」
真剣な表情の彼と紡がれた告白に、身体が貫かれた様な衝撃だった。あまりにも夢の様な言葉に、私の視界が徐々に揺らいでいき信じられないとばかりに首を横に振った。
「だって……私は今まで貴方の前に現れた女性みたいに魅力的じゃあ無いわ。」
「名前、怒るぞ。自分を下げるような事を言うもんじゃあ無いぜ。」
「だって……。」
「いいか、オレは面倒事は好きじゃあない。今の気持ちを聞きたいんだ。……好きにさせたのは名前、キミだぜ?」
首を振る私の顎を掴みしっかりと前を向かせ、鏡越しに目を合わせて耳元で囁く彼は本当に意地悪だ。私の気持ちも全て解って聞いているのだ。
「好き……。貴方の事が好き。」
「ああ、オレもだ……。」
彼は待ちに待った言葉を聞くと満足げに笑みを浮かべて、今度は捕まえたとばかりにより抱き寄せる。お互いの気持ちが通じる瞬間って、これ程までに愛しさが増すものなのか。実感した時には鼻の奥がツンとして、意識を集中させないと泣き出してしまいそうだ。
暫くの間抱き合っていたのだが、店内が賑わい始めたのに気付いた彼は身体を離しファスナーを上げて薔薇の花束を私に差し出した。
「これ……私にだったの?」
「当たり前だろ?オレはキミ以外の女性に、薔薇をプレゼントしようとはしないさ。」
そう言うなり私の手を取り立ち上がらせれば、カーテンを開けて試着室から出る。手を繋いで出てくれば、一気に注がれる視線に先程の試着室での愛の告白を思い出し恥ずかしくなった。
彼は周りに気にも止めず一直線に店長の所まで向かうと、ワンピースの通常の倍の金額を払いそして見せ付ける様に私を抱き寄せた。
「悪いが今日は彼女ごと買い取らせてもらう。」
「え……!」
彼の行動に私も店長も、そして店内に居た女性達も驚き声を上げた。きっと、明日この事がネオポリス中の人達に一気に広まるに違いない。
だって私だって信じられないんだもの!
彼は堂々と店を出て、外に止めていた愛車のドアを開けてくれる。大胆な行動と紳士の様なエスコートに、私は観念すると緊張も解けて何だか可笑しくなりクスクスと笑みを溢した。
「もう、貴方には敵わないわね。」
「キミを手に入れるまで、随分手こずったからな。」
彼は車に乗り込む私に、意地悪な笑みを浮かて囁き優しくドアを閉めてくれた。膝に抱えた目の前にある茎の長い真っ赤な薔薇の数々。それも嬉しくて、私は花束と一緒に今の幸せを抱え込んだ。
「可愛いな……名前、今度こそいいか?」
幸せに浸っていると隣に座っていた彼は、花束を抱き抱える私に顔を近付けながら問い掛けていた。質問から彼のしたい事が解れば、私は照れくさそうに笑みを浮かべて小さく頷いた。
「いっぱい待たせちゃったものね……。」
今度は私から拒否してきた分の謝罪を込めて、身を乗り出してその唇を重ねた。ソッと彼から唇を離そうとしたのだが、逃がさないとばかりに素早く彼の大きな掌が頭を包み込む。
「ブ…チャラティ……っ。」
「ン……甘ったるいが好きな味だ。」
「んう……っ、あ……。」
何度も繰り返されるキスの合間に彼の囁く艶やかな声が聞こえる。角度を変えて啄む様なキスから、確かめる様なキスに変わる。次いで舌先が絡まると押し寄せる甘い波に、意識を手放さないと私は彼にしっかりと抱き付いた。
「キミに気付けたあの日、あの時を、運命の女神に感謝する…。」
「ん…私も…。」
運命の女神に感謝してもしきれない。
見知らぬ恋から、忘れられない愛に。
愛から、貴方と過ごす幸せの日々に。
これからの幸せな日々の数だけ、甘いキスを。
甘いキスの数だけ、沢山の愛情を貴方に。
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