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息抜きって大事だ。
名前は日頃から行きたい場所や気になる映画等チェックしては、休日にとびきりお洒落をして外へ足を運ぶのである。その為殆んど休日に家にずっと居る事は無い。今日だって雑誌で紹介されていた素敵な店長が作る、カフェシェケラートを飲みに来たの。
シェイカーの中にエスプレッソと砂糖、そして氷を入れてシャカシャカと振っている姿はバーでカクテルを作ってもらっている感覚になる。そして出来上がりグラスに注がれたカフェシェケラートは、イタリアのアイスコーヒーで夏場には最高の飲み物と言える。
「んー!美味しい!」
喉を通る滑らかなカフェシェケラートに名前は自然と声を漏らして感動した。冷たいがコーヒーの深みや香りが鼻を抜けて行き、一気に身体を冷やす爽快感はこの暑さで待ち望んでいたものだ。やっぱり雑誌で取り上げられているだけあるなぁ…と美味しさを噛み締めていると、作ってくれたマスターが「Grazie」と笑っていたので恥ずかしくなった。
ここはマスターも素敵なのよね。
そう、お目当ては勿論カフェシェケラートだがマスターも気になっていたのだ。笑った時に出来る皺や口髭が似合う素敵なおじ様は、私の配属されたチームには居ない大人の魅力満載。
やっぱり年上って素敵…ブチャラティもかっこいいけど…うん、同い年だしね。
ずっと年上にしか惹かれなかった名前にとって、同年代に好意を持つのは違和感でしかなかった。それでもブチャラティが気になるのは何故なの?
最近は頭が勝手に暇を見つけては同じ質問ばかり繰り返すので私は困り果てていた。だっていくら考えても解らないんだもの。あーまただと考えてしまった事に気付いて名前はグラスに口を付けて邪念も飲み込んだ。
心もリラックスしに来たんでしょう?……もう、折角だし飲みながら読み掛けの小説でも読もう。
そう気を取り直してショルダーバックから小説を取り出して、読み途中に挟んでいたしおりを取り物語に身を埋める。昔から本を読む事は好きだったが、今は余計な事を考えなくても済む分読む時間が増えた気がする。
「カフェシェケラートくださいっ。」
やはり人気なのか注文が入るな…と顔を上げればマスターが嬉しそうに頷いて作り始める。あああかっこいい!素敵なおじ様の笑顔って癒される…。
名前はやはりカウンター席にして正解だったなと胸を弾ませて読書へ戻ろうとした時だ。
じいいっと何やら視線を感じて目をやると、先ほど注文した女性が立っている。おかしい。
否、女性は至って普通だ。サラサラなブロンドの髪が腰まであり白いシャツに夏らしい黄色のスカートにサンダル。どこにでも居る女性なのに、何かが普通じゃない。この違和感は何なの?
小説を手にしながら、名前は視線は彼女から離せない。だが、やはり理由があった。人は理由がない行動は取らないものだ。
違和感。それは彼女の肩に掛けていた黒いショルダーバッグから覗くぬいぐるみ。わりと掌にちょこんと乗りそうな大きさのぬいぐるみを持ち歩いていたのだ。
そう言えば大好きなキャラクターやアイドルのぬいぐるみを持ち歩いて、写真を取ったりするのが流行ってるんだっけ?
テレビか雑誌で見かけた気がする。確かに身近な所に好きなモノがあるとモチベーションが上がるのは名前にも理解出来た。でも…ブチャラティにそっくり。あんな可愛い人形の販売なんて予定にあったっけ?
髪型も白いスーツにジッパーが付いている。そんな企画も聞いた事がなかったが、いくら人気だからと言ってギャングがぬいぐるみを販売するなんて考えられない。
「まあ…いっか。明日会ったら聞いてみよう。」
私には無理だけど、器用な人は手作りでぬいぐるみや服やらを作れちゃうものね。
すごいなぁ…と呑気に考えながらどこまで読んだか文字を目で追っていると、今度はブブブッ…とポケットが振動した。ああ…嫌な予感がする。名前は休暇に仕事の携帯から連絡が来るのが嫌いだ。何故なら95%の確率で任務命令が告げられるから、折角お洒落したのに台無しになるし以前は突然のスタンド攻撃で新品のスカートが破れたの。最悪でしょう?しかし私には拒否権はない。
「はい、名前です。」
「名前大変なんだよ!ブチャラティが!ブチャラティがよぉぉ!」
「もー…ナランチャ声大きすぎ。耳痛い…。で?ブチャラティがどうしたの?」
「ぐすっ、ごめんよぉ。オレ達のせいでブチャラティが、ブチャラティがっ…連れ去られたんだっ。」
「連れ去られたぁ!?」
あのブチャラティが!?だってブチャラティは強い。そんな簡単に連れ去られる筈は無いし、もしもナランチャの言う通り連れ去られたのならば策があっての事だろう。それか…筋肉ムキムキの大男とか?
「いい?ナランチャ、ちゃんと説明して?私に電話したって事は意味があってでしょう?」
「そう、そうなんだよ!実はいきなりオレ達の前に現れた女が、ブチャラティに手を翳した瞬間。あっという間にぬいぐるみになっちゃってさ、それで…「ぬいぐるみ!?」
思わずナランチャのセリフを遮って声を荒げた私は、真っ先に女性が持っていたぬいぐるみを思い出した。
絶対彼女だわ!じゃあ、あのぬいぐるみは本物のブチャラティ!?
恐る恐る視線を向ければ、まだカフェシェケラート作り終わるのを待つ女性のバックにはあのぬいぐるみが収まっていた。まるで幼い少女が抱え歩くみたいに、青いくりくりした瞳のデフォルメされた可愛らしいぬいぐるみ。ブチャラティ…あんなに可愛くなっちゃって…ああ、どうやって助けたら…。
「名前聞いてる!?」
「う、うん!あの…ナランチャ…私見つけちゃったの。」
「え?」
「だからね、今、今なのよ!その女が!私が居るバールに来てるのよ!」
「まじかよ!ええー!ちょっと待て!すぐ行くから待ってろ!?早く教えろよ場所をよぉ!」
最後まで叫びながらブチッと携帯を切るから鼓膜が悲鳴を上げて嫌な耳鳴りまでしてきた。名前はナランチャと暫く携帯で通話はしたくないと後悔しながら、視界ではずっとあの女とブチャラティを離さなかった。お…漸く出来たみたいね。
「grazie。」と礼を言って受け取れば、私の前を通過して奥のテーブルへと足を進めている。なんだかカツカツとヒールの音までご機嫌に聞こえるのは、ここのカフェシェケラートを飲めるからか、それともブチャラティを手に入れた喜びからなのだろうか。否、後者の方かもしれない。だって…。
「おお…。笑顔でブチャラティを座らせてカフェシェケラートと写真撮ってる。」
連写機能を使って撮り終えれば満足の1枚が見つかったのだろう。女は笑顔を絶やさずに携帯を閉まってブチャラティを視線で愛でている。
ずっとブチャラティを好きだったのね。
闘ってきたスタンド使いは大体が殺意の塊で、まず瞳から宿っているモノが違うし女は放っているオーラからも違うと解る。ただ恋をしているだけ。だが、だからって"好き"を押し付けてはいけないし、相手の意見を無視して独り占めはもっての他だ。
ブチャラティが女性に人気なのは知っていたけど、こんなに熱狂的なファンが居たなんて…でも、ここまでしちゃうとストーカー…ううん、犯罪よね。
名前は残りのカフェシェケラートを飲み干して喉を潤してから重い腰を上げて、目の前のマスターの前に1枚のクレジットカードを置いた。
「お嬢さんコレ…。」
「先に謝っておきます…。迷惑かけたらごめんなさい。」
きっと騒ぎにならないで事が進むとは解らない。名前はおじ様に頭を下げてカウンターから離れると、一直線に可愛くなった我らのリーダーの救出へと向かう。私達のチームはブチャラティが居ないと成り立たないもの。
「そろそろリーダーを返してくれない?」
私の声に反応して顔を上げた女の瞳は、独占欲に支配され汚く濁っていた。恋をしている輝いた純粋無垢な瞳は、こうも醜くなってしまうのか。つくづく恋は一歩間違えれば呪いに変わるのだと名前は実感した。まあ…私はそこまで夢中な恋をした事ないけどね。
「うるさいわね…邪魔だから消えて。」
「随分と邪険にするわね。でもね、貴方がブチャラティを好きな様に、こっちはどいつも独占欲強い奴が多いから宥める私が面倒なのよ。」
ドガガガァァァァァッ!!
バリバリバリッ!
ガチャガチャガシャーン!
すると凄まじい音の羅列。銃声と細かいガラスが飛び散り顔を腕で覆い、瞳を凝らすと見えたのは荒々しく登場したナランチャの姿。
修繕費が必要だからカードを渡したけど、こんなに騒ぎにしたらこの店に来れなくなるじゃあない!
「ナランチャ!もうちょっと考えて行動しなさいよ!」
「わりぃ!だってよぉ、ブチャラティの一大事だしさぁ…。」
「ブチャラティは渡さないわよ!」
貴重なお店を死守する私がナランチャに一喝していると、銃撃に身を屈めていた女が仁王立ちで鬼の形相で叫んでいる。参ったな…こう言うタイプって逆ギレしそうで厄介なんだよね。
名前はもしもの為に背中に隠し持っている拳銃へと手を伸ばす。私のスタンドは触れた部分を爆弾に変えられるんだけど、被害が大きいから最終手段でしか使えない。ミスタに教えてもらって銃も使える様になったが、やはりドラマや映画みたく簡単には撃てないし最初は撃った反動に堪えるのにも大変だったのは今でも忘れられない。
でも…彼女のスタンドがただ人形にさせるだけなら…ナイフにする手もあるわね。
彼女がブチャラティに変な事をしない様、些細な動きでも反応出来る為に名前は目を凝らす。万が一ブチャラティを私達が傷付いて綿でも出ちゃったら、元に戻った時にシャレにならないものね…。
「今、貴方がブチャラティを元に戻してくれたら私達は許せるわ。冷静になって!」
「漸く私のモノに出来たのに、今更出来ないわよ!」
「はあ?言っとくけどブチャラティをぬいぐるみに変えたってなぁ!心までは手に入った訳じゃあねぇだろ!」
「っ……!」
「今ならさ、ブチャラティって優しいし…許してくれるって。おまえが1番知ってんだろ?」
(ナランチャいい事言うじゃん!)
やはり行動は考えてないけど、ナランチャは相手の気持ちを読み取る力はあるから女の心は揺らいでる様だ。だって彼女の瞳から濁りが薄まって綺麗な緑色になっているもの…。
そっとナランチャとアイコンタクトを取って、名前は拳銃から手を引いて立ち上がれば女へと手を差し出した。
「さぁ…いつものブチャラティに戻してあげましょう。」
「ひっく…ぅっ…ごめんなさぁい。」
「大丈夫よ。ナランチャの言う通り、ブチャラティは心狭くないから許してくれるわ。」
「でもっ、でもっ、キスしないと魔法は解けなくってっ。」
「「キ、キス!?」」
何だそのおとぎ話みたいな展開!
私とナランチャはお互いに同じ事を思っただろう。でも元に戻る為なら仕方ないわよね。うん、ブチャラティは心広いから許してくれるだろうし、きっと…うん、確実にキスが初めてって訳じゃあないもの。
これが自身ならば知らない男とキスは許せないが、ブチャラティ程の男なら説得しなくても平気だろうと名前は女のキスを承諾した。
「ちょ、ちょっと名前いいのかよぉ!」
「だってキスしないと戻らないなら、するしかないでしょう?」
「うー…まあ…でもなぁ、ブチャラティ怒ると思うけど…。」
パアアアアアッ
「あ、ほら戻った!」
「ぅぅ……ブチャラティごめん。」
ブツブツ何やら言い続けるナランチャを聞き流しなら、目映い光が店内を包んで女のキスが成功した事を証明した。
ナランチャって意外とキスを気にするんだ…。乙女な所もあるのね。
男の人の方があまり気にしないのかと思っていたからやや好感度が上がりつつ、小さなぬいぐるみから元に戻ったブチャラティはまるで魔法が解ける王子様みたく光と煙に包まれている。その隙間から見えたブチャラティの横顔が綺麗で、年上専門の私でも容姿には胸が高鳴った。
しかし、姿がハッキリと見える様になれば艶やかな黒髪を揺らして犯人の女よりギロリと此方へ鋭い眼を凝らしているではないか。ゴゴゴゴゴ…と言う効果音まで聞こえる程の凄みを感じて、名前は迫力にゴクッと息を飲んだ。
え、え、え、ブチャラティ顔こわっ!怒ってる!?
「ブ、ブチャラティ元に戻って良かった!服も破けてないみたいね!」
「……。」
「ブチャラティ?」
よく解らないけど駆け寄って身の回りや白いスーツを見て声を掛けるも、何やら元に戻っても眉を寄せて不服そうな表情だ。一方犯人である女はブチャラティとキス出来た事が幸せすぎて上の空で、ナランチャに大人しく拘束されている。この温度差が凄いな…やっぱりキスが嫌だったのかな…ええー…ブチャラティが?
戸惑いつつも普段なら「助かった」とか「良くやったな」とか優しい言葉がある筈だ。礼を言えない程、ブチャラティは非常識人ではない。
「おい、そこの女!」
「は、はい!」
「しっかり見てろ。」
漸く凛とした声が発せられたと思ったら、一体何を言っているのだろうと名前はブチャラティに釘つけになった。その発せられた声は私の肌表面をピリピリと震わせて、それだけで真剣さが伝わってきて…それに「見てろ」なんて言われたら誰だって視線が行く。
ガシッ-!
しかしそんな他人事も一気に吹き飛んだのは、私の顎を躊躇なく掴まれた僅かな痛みに顔を歪めた時だった。次に現状を理解出来たのは、唇に押し付けられたモノが恋人達がする様な甘いのとは程遠いキスだと言う事。
驚きのあまり「ふ、ふぐ!んー!?」なんて全然色気なんてこれっぽっちも無い、くぐもった声を上げた私からブチャラティは唇を離せばフンッと鼻を鳴らし見下ろすのが不思議で仕方がない。
キ、キキキスって、い、意味が解らない!
ぐるぐると目が回りそうで思考も追い付かない。へなへなと足に力が入らなくなりそのまま床へ座り込んだ名前に対して、ブチャラティは犯人へとスーツを治しながら身を翻す。
「キスで魔法は解けても、オレがこいつを好きって気持ちは解けない。……悪いが諦めてくれ。」
もう動けるのはブチャラティだけじゃないかってくらい、私を含めて店に居る人達は呆然と立ち尽くした。だってこんなキスからの告白?みたいなのって想像できないよ!
そのまま言い終えるとブチャラティがマスターへ歩みより謝罪をすれば、何事もなかった様に出ていくから名前も慌てて足に力を入れて駆け出した。きっと生まれたての小鹿みたいに力が入らなくて、立ち上がった時間抜けだったと思う。ああもう!キスも見られちゃったし、もうこのお店に来れないよー!素敵なマスターだったのにぃ!
「ブ、ブチャラティ!ちょっと!ちょっと待ってよ!」
「……。」
「っ…、止まれってば!」
バシッー
「いって!名前、おまえなぁ!」
追いかけても声を掛けても止まらないのが腹立たしくて、名前は上司とか関係無くブチャラティに履いてた右足のヒールを姿勢のいい背中目掛けて投げ飛ばしたらナイスヒット。これでも小学生の頃は男子に混じってよく野球やってたんだから!
だからか痛みに驚いたブチャラティがやっと足を止めて振り返るが、落ちている黒いヒールを見てクックッと腹を押さえて笑いだした。
「はっ、おいおい、靴を投げる奴がいるかぁ?」
「だってブチャラティが止まらないのが悪いんじゃあない。」
「だからって…はあ、ほら…。」
「わ!ちょっと抱っこなんていいから!」
「靴を脱いだおまえが悪いんだぜ?」
「な…によそれ。」
ヒールを拾い上げたかと思えば、そのまま目の前に来たら私まで抱き上げられるから驚いた。こうもお姫様抱っこを自然に出来る人はブチャラティしかいないと思ったし、年齢高めのおじ様にしか反応しなかった心臓がまたきゅんきゅん疼く。この人とキスしたとか…うう…恥ずかしくなってきた。
至近距離で見た唇に先程の光景が甦った名前は、抵抗せず抱っこされたまま近場のベンチへと下ろされるのを待つ。幸いナランチャのスタンド攻撃の銃撃で人気は無くなっていたから、これ以上恥ずかしい思いはしなくて済んだ。
しかし、ブチャラティは下ろしたら目の前に膝を着いて持っていたヒールを右足へと履かせてくれる。ピッタリと収まる靴は自身で買ったから当たり前なのだが、まるでシンデレラにガラスの靴を履かせる王子様みたい。そして此方を揃った黒髪越しに見上げて微笑むブチャラティに名前は正直惚れてしまいそうな1歩手前まで来ていた。怖い怖いイケメンって怖い!
「と、とりあえずブチャラティが元に戻って良かったー!本当にぬいぐるみになったって知った時はびっくりしたんだから!」
「……ああ、どうなるかと思ったぜ。ぬいぐるみには2度となりたくはないな。」
「ちゃんと私がスタンドの特徴と今回の事、データで纏めて報告書作っておくからブチャラティは直帰して休んで下さい!」
「……なあ。」
「なに?」
「……消毒をもっとさせてくれないか。」
「消毒…?」
緊張とこの甘い雰囲気から逃れたくて、つい早口になったがブチャラティは機械を逃さなかった。少し遠回しな言い方で戸惑う名前の唇を、再度すんなりと奪っていく。流れる様に立ち上がる途中で今度は顎ではなく、肩を抱いて押し付けるだけじゃない優しいキスをする。
ちゅ…ちゅ…。
"待って"とか"何で"とか言いたい事や抵抗しなきゃいけないのだが、先程とは違うキスに名前の本能が抗えなくなった。
何故なら角度を変えたり鳥が花から蜜を吸う様に下唇を啄んでから、ゆっくりと唇を合わせたキスなのだ。それはキスで愛情表現をするみたいに気持ちが伝わる愛撫に近いモノで、名前は自然と力が抜けて瞳がとろんと無防備な状態にまでなった。
キスってすごい…んだ。
男性と付き合った経験はあれど、こんなにも気持ちの乗った優しいキスをした人は少ないのではないだろうか。
「もう…他の女とキスさせるなよ。」
1度唇を離したブチャラティが熱宿る瞳で見つめながら掠れた声で言うから、私は「彼女じゃないんだし、好きにしたらいいじゃない」とか言えなくて頷いた。すると額を擦り合わせて「mi sei mancata(淋しかったぜ)」とあの時の気持ちを伝えるブチャラティに、考えもせずキスを促した事が申し訳なく思う。
「あの時は…勝手に決めてごめんなさい。嫌だったんだよね?」
「当たり前だろ。……言っとくが、もう名前としかするつもりはないぜ。」
そうハッキリと言えば再度恋文を贈るみたいな甘いキスが降る。本当に勝手だ。なのに嫌な気持ちよりも嬉しいとか…色々ありすぎておかしくなっちゃったのかも。
あっという間に私のおじ様への気持ちは、紙一面を絵の具で塗り潰すにみたいにブチャラティだけになってしまった。きっと私…あの女の人みたいな顔になっちゃうのかな。
その時脳にちらついたのは、愛しげにブチャラティぬいぐるみを見つめる女の姿。女が1番輝いて可愛らしく見えた瞬間だ。
サァッ…と風が木々の隙間と名前の真っ赤な頬を撫でて通り過ぎれば、次に吹くのは恋を誘うロマンチックな風だと予感した。
end
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ぬいぬい様
ブチャラティ×夢主 スタンド攻撃でぬいぐるみになったブチャラティを救う夢主。ブチャラティの片思いだが、夢主は今回の件で気持ちに気付く
リクエストありがとうございました!
ブチャラティがぬいぐるみになるとか可愛いなぁ…実際に家でブチャぬいを愛でているのでスタンド使ったモブちゃんの気持ち解ります。
そして勝手にキス決定でキレるブチャラティからの暴走。最終的に好きになってもらうからいいか…と考えてるんでしょう。楽しかったです~!
名前は日頃から行きたい場所や気になる映画等チェックしては、休日にとびきりお洒落をして外へ足を運ぶのである。その為殆んど休日に家にずっと居る事は無い。今日だって雑誌で紹介されていた素敵な店長が作る、カフェシェケラートを飲みに来たの。
シェイカーの中にエスプレッソと砂糖、そして氷を入れてシャカシャカと振っている姿はバーでカクテルを作ってもらっている感覚になる。そして出来上がりグラスに注がれたカフェシェケラートは、イタリアのアイスコーヒーで夏場には最高の飲み物と言える。
「んー!美味しい!」
喉を通る滑らかなカフェシェケラートに名前は自然と声を漏らして感動した。冷たいがコーヒーの深みや香りが鼻を抜けて行き、一気に身体を冷やす爽快感はこの暑さで待ち望んでいたものだ。やっぱり雑誌で取り上げられているだけあるなぁ…と美味しさを噛み締めていると、作ってくれたマスターが「Grazie」と笑っていたので恥ずかしくなった。
ここはマスターも素敵なのよね。
そう、お目当ては勿論カフェシェケラートだがマスターも気になっていたのだ。笑った時に出来る皺や口髭が似合う素敵なおじ様は、私の配属されたチームには居ない大人の魅力満載。
やっぱり年上って素敵…ブチャラティもかっこいいけど…うん、同い年だしね。
ずっと年上にしか惹かれなかった名前にとって、同年代に好意を持つのは違和感でしかなかった。それでもブチャラティが気になるのは何故なの?
最近は頭が勝手に暇を見つけては同じ質問ばかり繰り返すので私は困り果てていた。だっていくら考えても解らないんだもの。あーまただと考えてしまった事に気付いて名前はグラスに口を付けて邪念も飲み込んだ。
心もリラックスしに来たんでしょう?……もう、折角だし飲みながら読み掛けの小説でも読もう。
そう気を取り直してショルダーバックから小説を取り出して、読み途中に挟んでいたしおりを取り物語に身を埋める。昔から本を読む事は好きだったが、今は余計な事を考えなくても済む分読む時間が増えた気がする。
「カフェシェケラートくださいっ。」
やはり人気なのか注文が入るな…と顔を上げればマスターが嬉しそうに頷いて作り始める。あああかっこいい!素敵なおじ様の笑顔って癒される…。
名前はやはりカウンター席にして正解だったなと胸を弾ませて読書へ戻ろうとした時だ。
じいいっと何やら視線を感じて目をやると、先ほど注文した女性が立っている。おかしい。
否、女性は至って普通だ。サラサラなブロンドの髪が腰まであり白いシャツに夏らしい黄色のスカートにサンダル。どこにでも居る女性なのに、何かが普通じゃない。この違和感は何なの?
小説を手にしながら、名前は視線は彼女から離せない。だが、やはり理由があった。人は理由がない行動は取らないものだ。
違和感。それは彼女の肩に掛けていた黒いショルダーバッグから覗くぬいぐるみ。わりと掌にちょこんと乗りそうな大きさのぬいぐるみを持ち歩いていたのだ。
そう言えば大好きなキャラクターやアイドルのぬいぐるみを持ち歩いて、写真を取ったりするのが流行ってるんだっけ?
テレビか雑誌で見かけた気がする。確かに身近な所に好きなモノがあるとモチベーションが上がるのは名前にも理解出来た。でも…ブチャラティにそっくり。あんな可愛い人形の販売なんて予定にあったっけ?
髪型も白いスーツにジッパーが付いている。そんな企画も聞いた事がなかったが、いくら人気だからと言ってギャングがぬいぐるみを販売するなんて考えられない。
「まあ…いっか。明日会ったら聞いてみよう。」
私には無理だけど、器用な人は手作りでぬいぐるみや服やらを作れちゃうものね。
すごいなぁ…と呑気に考えながらどこまで読んだか文字を目で追っていると、今度はブブブッ…とポケットが振動した。ああ…嫌な予感がする。名前は休暇に仕事の携帯から連絡が来るのが嫌いだ。何故なら95%の確率で任務命令が告げられるから、折角お洒落したのに台無しになるし以前は突然のスタンド攻撃で新品のスカートが破れたの。最悪でしょう?しかし私には拒否権はない。
「はい、名前です。」
「名前大変なんだよ!ブチャラティが!ブチャラティがよぉぉ!」
「もー…ナランチャ声大きすぎ。耳痛い…。で?ブチャラティがどうしたの?」
「ぐすっ、ごめんよぉ。オレ達のせいでブチャラティが、ブチャラティがっ…連れ去られたんだっ。」
「連れ去られたぁ!?」
あのブチャラティが!?だってブチャラティは強い。そんな簡単に連れ去られる筈は無いし、もしもナランチャの言う通り連れ去られたのならば策があっての事だろう。それか…筋肉ムキムキの大男とか?
「いい?ナランチャ、ちゃんと説明して?私に電話したって事は意味があってでしょう?」
「そう、そうなんだよ!実はいきなりオレ達の前に現れた女が、ブチャラティに手を翳した瞬間。あっという間にぬいぐるみになっちゃってさ、それで…「ぬいぐるみ!?」
思わずナランチャのセリフを遮って声を荒げた私は、真っ先に女性が持っていたぬいぐるみを思い出した。
絶対彼女だわ!じゃあ、あのぬいぐるみは本物のブチャラティ!?
恐る恐る視線を向ければ、まだカフェシェケラート作り終わるのを待つ女性のバックにはあのぬいぐるみが収まっていた。まるで幼い少女が抱え歩くみたいに、青いくりくりした瞳のデフォルメされた可愛らしいぬいぐるみ。ブチャラティ…あんなに可愛くなっちゃって…ああ、どうやって助けたら…。
「名前聞いてる!?」
「う、うん!あの…ナランチャ…私見つけちゃったの。」
「え?」
「だからね、今、今なのよ!その女が!私が居るバールに来てるのよ!」
「まじかよ!ええー!ちょっと待て!すぐ行くから待ってろ!?早く教えろよ場所をよぉ!」
最後まで叫びながらブチッと携帯を切るから鼓膜が悲鳴を上げて嫌な耳鳴りまでしてきた。名前はナランチャと暫く携帯で通話はしたくないと後悔しながら、視界ではずっとあの女とブチャラティを離さなかった。お…漸く出来たみたいね。
「grazie。」と礼を言って受け取れば、私の前を通過して奥のテーブルへと足を進めている。なんだかカツカツとヒールの音までご機嫌に聞こえるのは、ここのカフェシェケラートを飲めるからか、それともブチャラティを手に入れた喜びからなのだろうか。否、後者の方かもしれない。だって…。
「おお…。笑顔でブチャラティを座らせてカフェシェケラートと写真撮ってる。」
連写機能を使って撮り終えれば満足の1枚が見つかったのだろう。女は笑顔を絶やさずに携帯を閉まってブチャラティを視線で愛でている。
ずっとブチャラティを好きだったのね。
闘ってきたスタンド使いは大体が殺意の塊で、まず瞳から宿っているモノが違うし女は放っているオーラからも違うと解る。ただ恋をしているだけ。だが、だからって"好き"を押し付けてはいけないし、相手の意見を無視して独り占めはもっての他だ。
ブチャラティが女性に人気なのは知っていたけど、こんなに熱狂的なファンが居たなんて…でも、ここまでしちゃうとストーカー…ううん、犯罪よね。
名前は残りのカフェシェケラートを飲み干して喉を潤してから重い腰を上げて、目の前のマスターの前に1枚のクレジットカードを置いた。
「お嬢さんコレ…。」
「先に謝っておきます…。迷惑かけたらごめんなさい。」
きっと騒ぎにならないで事が進むとは解らない。名前はおじ様に頭を下げてカウンターから離れると、一直線に可愛くなった我らのリーダーの救出へと向かう。私達のチームはブチャラティが居ないと成り立たないもの。
「そろそろリーダーを返してくれない?」
私の声に反応して顔を上げた女の瞳は、独占欲に支配され汚く濁っていた。恋をしている輝いた純粋無垢な瞳は、こうも醜くなってしまうのか。つくづく恋は一歩間違えれば呪いに変わるのだと名前は実感した。まあ…私はそこまで夢中な恋をした事ないけどね。
「うるさいわね…邪魔だから消えて。」
「随分と邪険にするわね。でもね、貴方がブチャラティを好きな様に、こっちはどいつも独占欲強い奴が多いから宥める私が面倒なのよ。」
ドガガガァァァァァッ!!
バリバリバリッ!
ガチャガチャガシャーン!
すると凄まじい音の羅列。銃声と細かいガラスが飛び散り顔を腕で覆い、瞳を凝らすと見えたのは荒々しく登場したナランチャの姿。
修繕費が必要だからカードを渡したけど、こんなに騒ぎにしたらこの店に来れなくなるじゃあない!
「ナランチャ!もうちょっと考えて行動しなさいよ!」
「わりぃ!だってよぉ、ブチャラティの一大事だしさぁ…。」
「ブチャラティは渡さないわよ!」
貴重なお店を死守する私がナランチャに一喝していると、銃撃に身を屈めていた女が仁王立ちで鬼の形相で叫んでいる。参ったな…こう言うタイプって逆ギレしそうで厄介なんだよね。
名前はもしもの為に背中に隠し持っている拳銃へと手を伸ばす。私のスタンドは触れた部分を爆弾に変えられるんだけど、被害が大きいから最終手段でしか使えない。ミスタに教えてもらって銃も使える様になったが、やはりドラマや映画みたく簡単には撃てないし最初は撃った反動に堪えるのにも大変だったのは今でも忘れられない。
でも…彼女のスタンドがただ人形にさせるだけなら…ナイフにする手もあるわね。
彼女がブチャラティに変な事をしない様、些細な動きでも反応出来る為に名前は目を凝らす。万が一ブチャラティを私達が傷付いて綿でも出ちゃったら、元に戻った時にシャレにならないものね…。
「今、貴方がブチャラティを元に戻してくれたら私達は許せるわ。冷静になって!」
「漸く私のモノに出来たのに、今更出来ないわよ!」
「はあ?言っとくけどブチャラティをぬいぐるみに変えたってなぁ!心までは手に入った訳じゃあねぇだろ!」
「っ……!」
「今ならさ、ブチャラティって優しいし…許してくれるって。おまえが1番知ってんだろ?」
(ナランチャいい事言うじゃん!)
やはり行動は考えてないけど、ナランチャは相手の気持ちを読み取る力はあるから女の心は揺らいでる様だ。だって彼女の瞳から濁りが薄まって綺麗な緑色になっているもの…。
そっとナランチャとアイコンタクトを取って、名前は拳銃から手を引いて立ち上がれば女へと手を差し出した。
「さぁ…いつものブチャラティに戻してあげましょう。」
「ひっく…ぅっ…ごめんなさぁい。」
「大丈夫よ。ナランチャの言う通り、ブチャラティは心狭くないから許してくれるわ。」
「でもっ、でもっ、キスしないと魔法は解けなくってっ。」
「「キ、キス!?」」
何だそのおとぎ話みたいな展開!
私とナランチャはお互いに同じ事を思っただろう。でも元に戻る為なら仕方ないわよね。うん、ブチャラティは心広いから許してくれるだろうし、きっと…うん、確実にキスが初めてって訳じゃあないもの。
これが自身ならば知らない男とキスは許せないが、ブチャラティ程の男なら説得しなくても平気だろうと名前は女のキスを承諾した。
「ちょ、ちょっと名前いいのかよぉ!」
「だってキスしないと戻らないなら、するしかないでしょう?」
「うー…まあ…でもなぁ、ブチャラティ怒ると思うけど…。」
パアアアアアッ
「あ、ほら戻った!」
「ぅぅ……ブチャラティごめん。」
ブツブツ何やら言い続けるナランチャを聞き流しなら、目映い光が店内を包んで女のキスが成功した事を証明した。
ナランチャって意外とキスを気にするんだ…。乙女な所もあるのね。
男の人の方があまり気にしないのかと思っていたからやや好感度が上がりつつ、小さなぬいぐるみから元に戻ったブチャラティはまるで魔法が解ける王子様みたく光と煙に包まれている。その隙間から見えたブチャラティの横顔が綺麗で、年上専門の私でも容姿には胸が高鳴った。
しかし、姿がハッキリと見える様になれば艶やかな黒髪を揺らして犯人の女よりギロリと此方へ鋭い眼を凝らしているではないか。ゴゴゴゴゴ…と言う効果音まで聞こえる程の凄みを感じて、名前は迫力にゴクッと息を飲んだ。
え、え、え、ブチャラティ顔こわっ!怒ってる!?
「ブ、ブチャラティ元に戻って良かった!服も破けてないみたいね!」
「……。」
「ブチャラティ?」
よく解らないけど駆け寄って身の回りや白いスーツを見て声を掛けるも、何やら元に戻っても眉を寄せて不服そうな表情だ。一方犯人である女はブチャラティとキス出来た事が幸せすぎて上の空で、ナランチャに大人しく拘束されている。この温度差が凄いな…やっぱりキスが嫌だったのかな…ええー…ブチャラティが?
戸惑いつつも普段なら「助かった」とか「良くやったな」とか優しい言葉がある筈だ。礼を言えない程、ブチャラティは非常識人ではない。
「おい、そこの女!」
「は、はい!」
「しっかり見てろ。」
漸く凛とした声が発せられたと思ったら、一体何を言っているのだろうと名前はブチャラティに釘つけになった。その発せられた声は私の肌表面をピリピリと震わせて、それだけで真剣さが伝わってきて…それに「見てろ」なんて言われたら誰だって視線が行く。
ガシッ-!
しかしそんな他人事も一気に吹き飛んだのは、私の顎を躊躇なく掴まれた僅かな痛みに顔を歪めた時だった。次に現状を理解出来たのは、唇に押し付けられたモノが恋人達がする様な甘いのとは程遠いキスだと言う事。
驚きのあまり「ふ、ふぐ!んー!?」なんて全然色気なんてこれっぽっちも無い、くぐもった声を上げた私からブチャラティは唇を離せばフンッと鼻を鳴らし見下ろすのが不思議で仕方がない。
キ、キキキスって、い、意味が解らない!
ぐるぐると目が回りそうで思考も追い付かない。へなへなと足に力が入らなくなりそのまま床へ座り込んだ名前に対して、ブチャラティは犯人へとスーツを治しながら身を翻す。
「キスで魔法は解けても、オレがこいつを好きって気持ちは解けない。……悪いが諦めてくれ。」
もう動けるのはブチャラティだけじゃないかってくらい、私を含めて店に居る人達は呆然と立ち尽くした。だってこんなキスからの告白?みたいなのって想像できないよ!
そのまま言い終えるとブチャラティがマスターへ歩みより謝罪をすれば、何事もなかった様に出ていくから名前も慌てて足に力を入れて駆け出した。きっと生まれたての小鹿みたいに力が入らなくて、立ち上がった時間抜けだったと思う。ああもう!キスも見られちゃったし、もうこのお店に来れないよー!素敵なマスターだったのにぃ!
「ブ、ブチャラティ!ちょっと!ちょっと待ってよ!」
「……。」
「っ…、止まれってば!」
バシッー
「いって!名前、おまえなぁ!」
追いかけても声を掛けても止まらないのが腹立たしくて、名前は上司とか関係無くブチャラティに履いてた右足のヒールを姿勢のいい背中目掛けて投げ飛ばしたらナイスヒット。これでも小学生の頃は男子に混じってよく野球やってたんだから!
だからか痛みに驚いたブチャラティがやっと足を止めて振り返るが、落ちている黒いヒールを見てクックッと腹を押さえて笑いだした。
「はっ、おいおい、靴を投げる奴がいるかぁ?」
「だってブチャラティが止まらないのが悪いんじゃあない。」
「だからって…はあ、ほら…。」
「わ!ちょっと抱っこなんていいから!」
「靴を脱いだおまえが悪いんだぜ?」
「な…によそれ。」
ヒールを拾い上げたかと思えば、そのまま目の前に来たら私まで抱き上げられるから驚いた。こうもお姫様抱っこを自然に出来る人はブチャラティしかいないと思ったし、年齢高めのおじ様にしか反応しなかった心臓がまたきゅんきゅん疼く。この人とキスしたとか…うう…恥ずかしくなってきた。
至近距離で見た唇に先程の光景が甦った名前は、抵抗せず抱っこされたまま近場のベンチへと下ろされるのを待つ。幸いナランチャのスタンド攻撃の銃撃で人気は無くなっていたから、これ以上恥ずかしい思いはしなくて済んだ。
しかし、ブチャラティは下ろしたら目の前に膝を着いて持っていたヒールを右足へと履かせてくれる。ピッタリと収まる靴は自身で買ったから当たり前なのだが、まるでシンデレラにガラスの靴を履かせる王子様みたい。そして此方を揃った黒髪越しに見上げて微笑むブチャラティに名前は正直惚れてしまいそうな1歩手前まで来ていた。怖い怖いイケメンって怖い!
「と、とりあえずブチャラティが元に戻って良かったー!本当にぬいぐるみになったって知った時はびっくりしたんだから!」
「……ああ、どうなるかと思ったぜ。ぬいぐるみには2度となりたくはないな。」
「ちゃんと私がスタンドの特徴と今回の事、データで纏めて報告書作っておくからブチャラティは直帰して休んで下さい!」
「……なあ。」
「なに?」
「……消毒をもっとさせてくれないか。」
「消毒…?」
緊張とこの甘い雰囲気から逃れたくて、つい早口になったがブチャラティは機械を逃さなかった。少し遠回しな言い方で戸惑う名前の唇を、再度すんなりと奪っていく。流れる様に立ち上がる途中で今度は顎ではなく、肩を抱いて押し付けるだけじゃない優しいキスをする。
ちゅ…ちゅ…。
"待って"とか"何で"とか言いたい事や抵抗しなきゃいけないのだが、先程とは違うキスに名前の本能が抗えなくなった。
何故なら角度を変えたり鳥が花から蜜を吸う様に下唇を啄んでから、ゆっくりと唇を合わせたキスなのだ。それはキスで愛情表現をするみたいに気持ちが伝わる愛撫に近いモノで、名前は自然と力が抜けて瞳がとろんと無防備な状態にまでなった。
キスってすごい…んだ。
男性と付き合った経験はあれど、こんなにも気持ちの乗った優しいキスをした人は少ないのではないだろうか。
「もう…他の女とキスさせるなよ。」
1度唇を離したブチャラティが熱宿る瞳で見つめながら掠れた声で言うから、私は「彼女じゃないんだし、好きにしたらいいじゃない」とか言えなくて頷いた。すると額を擦り合わせて「mi sei mancata(淋しかったぜ)」とあの時の気持ちを伝えるブチャラティに、考えもせずキスを促した事が申し訳なく思う。
「あの時は…勝手に決めてごめんなさい。嫌だったんだよね?」
「当たり前だろ。……言っとくが、もう名前としかするつもりはないぜ。」
そうハッキリと言えば再度恋文を贈るみたいな甘いキスが降る。本当に勝手だ。なのに嫌な気持ちよりも嬉しいとか…色々ありすぎておかしくなっちゃったのかも。
あっという間に私のおじ様への気持ちは、紙一面を絵の具で塗り潰すにみたいにブチャラティだけになってしまった。きっと私…あの女の人みたいな顔になっちゃうのかな。
その時脳にちらついたのは、愛しげにブチャラティぬいぐるみを見つめる女の姿。女が1番輝いて可愛らしく見えた瞬間だ。
サァッ…と風が木々の隙間と名前の真っ赤な頬を撫でて通り過ぎれば、次に吹くのは恋を誘うロマンチックな風だと予感した。
end
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ぬいぬい様
ブチャラティ×夢主 スタンド攻撃でぬいぐるみになったブチャラティを救う夢主。ブチャラティの片思いだが、夢主は今回の件で気持ちに気付く
リクエストありがとうございました!
ブチャラティがぬいぐるみになるとか可愛いなぁ…実際に家でブチャぬいを愛でているのでスタンド使ったモブちゃんの気持ち解ります。
そして勝手にキス決定でキレるブチャラティからの暴走。最終的に好きになってもらうからいいか…と考えてるんでしょう。楽しかったです~!