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シークレットな勉強会
名前変換
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風で雨が窓に打ち付ける程に酷い嵐が去ったら、今度は雲1つ無い青空がやってきた。なのにオレの心は晴れないまま、未だ舵も上手い事操れないでいる。
あの日からブチャラティは、皆が帰るのを待たずに仕事が終わるなりアジトを後にしている。別に用事がある訳じゃないし、独り暮らしで家に帰っても飯が勝手に出てくる訳でもないので決まった店に顔を出しているのだ。このネオポリスには数多くの舌を唸らせる店があるが、オレは下っ端の時からずっとひっそりと佇むこの店を愛用していた。
「やあ…今日も来たね。」と気さくな年配のマスターが笑顔で迎えてくれるから、いつものカウンターへ座り好物のカラスミソースのスパゲッティを注文する。ここのスパゲッティより旨いモノは食った事がないし、どれも旨いのに混みすぎないから落ち着いて食べれるのもいい。
アジトを出て3時間くらい経ったか。ブチャラティはお代を払い店を後にすると、未だに日が照る眩しさに目を細めた。イタリアは緯度が高く夏にはサマータイムと言って、大体夜の20時まで明るく時間が解らなくなっちまいそうになる。
どうやら未だに夜だと思っていない連中が居るみたいだな…。
何故なら男達数人が笑ったり踊ったりして固まっているのが視界に入ったからだ。見た感じ麻薬には手を出してなさそうだな…と足を進めながら蒼い瞳で男達の顔や肌を観察して見過ごそうとした。
父親を襲った男達や今まで麻薬を扱ってきた奴等を見てきた経験から、ブチャラティには区別出来ていたのだ。全て人生を破壊する麻薬は地道に駆逐していくしか、今は方法が無いのに焦れるがこれもオレの仕事だし美しいネオポリスを守る為。
「たくよぉ、日本人の女と付き合ったのにヤらせてくんねーんだぜ!」
「おいおい、最初は日本人の女は従順でいいとか言ってなかったかぁ!?」
「……。」
反吐が出そうだ。
男達は周りなどお構い無しで女性を罵倒する言葉を並べ立てる。同じ男として恥じるし、その女性を思うと苛立ちで耳の後ろがジリジリと熱くなる。こいつ等は言葉も暴力になる事も知らないのだ。それに…。
こんな会話を名前が聞いたら辛いだろうな…。
自分から終止符を打ったのに自然と彼女の事を考えてしまった。距離を置こうとしたのはオレだろ…。そうやってブチャラティが振り払う様に首を緩く振って男達の前を横切ろうとした瞬間だった。
「名前は最初、従順だったんだ。だかよぉ…ありゃあマグロ女だぜ!」
ゲラゲラと下品な笑い声と共に吐き出された名前にブチャラティは反射的に顔を上げた。
こいつ今…名前とか言ったな。まさかこいつが…。
セックスレスになったと、色々と上手くいっていないとも言葉を濁しながら言っていた名前は、恋人を好きじゃないのかと悟ったが…こんな奴なら例え好きになっても冷めちまうな。
セックスは愛情表現の1つ。相手を愛しむ気持ちを伝える術なのに、いつしか人間はそれ以上を求め自身の勝手な欲求を満たそうとする。
『何でもっと求めてくれないの?』
『ブチャラティ、貴方って普通なのね』
するとブチャラティの頭に問い掛ける女の影がちらつき、グッと奥歯を噛んで苦い記憶を磨り潰す。どいつも解っちゃいねぇ!
「なあ、これキミのじゃあないかい?」
「ああ?」
ブチャラティの身体はいつの間にか勝手に動いていた。ジュゼッペの背後に周り肩を叩いて此方を怪しむ彼の前に差し出した掌を開けば、白い肌が真っ青に変わる様は笑みすらも生む。
周りの奴らも「ジュ、ゼッペそれっ…。」とカチカチ歯を鳴らして声を上げる様は不協和音。
それもその筈。ブチャラティの掌には人の左耳があったのだ。
「あああああ!オレ!オレの耳!?何なんだ、ちくしょおおお!」
「……ああ、本当にゲス野郎は全てが醜いな。」
その場に崩れ落ちて発狂する姿をただただ見下ろしながらブチャラティは耳を汚い物でも扱う様に放り投げた。溢した言葉はボタボタと落ちる血液と掠れた叫び声に消され、そしてジュゼッペの目には己の一部であった耳しか目に入らず、オレは時間の無駄と判断して身を翻し足早にその場を去る。
名前に会いたいっ。否、会わなくっちゃあいけないっ…!
彼女は一見1人でも生きていける雰囲気を出しているが、同じ人間だ。罵声を浴びせられたら誰だって傷付くし、誰かに傍に居てほしい筈だろう。助けてやりたいと同時に、それがオレだったら嬉しいとブチャラティは同時に思っていた。
♪♪♪~
取り出した仕事用とは別の携帯で、この時刻なら家に居るであろう名前へと着信を鳴らす。彼女ならば5コール以内で取る筈だと耳を澄ませば、5コール目にしてあの心地の良い声が鼓膜を震わせた。
「……はい。」
「おい、今家に居るんだろ?」
「そうですが…どうされたんですか急に…。」
「キミの顔が見たくなった。」
「ぇ…。」
嘘じゃない。突き放したくせに何を言ってるのだと思われても仕方がないし断られても仕方がないが、正直この気持ちを諦めるつもりは無い。会えないのであれば、最悪声だけでも距離を縮めたい。ブチャラティの真っ直ぐな凛とした言葉の後には沈黙が続き、焦る気持ちもあるが急かして嫌悪感を増しても良くないと待つ事にした。だが、不思議とこの沈黙が嫌ではない。
「ナポリVia Santa Maria di Costantinopoli, 118…。」
「名前それは…。」
「……家の住所です。」
「解った。」と一言告げると着信を終わらせ携帯をしまうと同時に、ブチャラティの磨かれた艶ある革靴は地面を蹴っていた。
* ** *** ****
女性の家へ入るなど初めてじゃないのに、思春期みたく心臓が馬鹿みたく動いている。
こんなんじゃ、家に入って名前の顔を見たらどうなっちまうんだ。
などと苦笑しながら少し緊張する指先で辿り着いたアパートメントのインターフォンを鳴らす。時刻はもうすぐ21時。まるで門限を気にする子供みたくソワソワしながら待つと扉が静かに開き、ブチャラティはその時手土産でも持ってくれば良かったと後悔した。
「すまないな、こんな時刻に。」
「いえ、用事など無かったですし…此処では…どうぞ。」
何故ならパジャマ姿の名前は武装を解いた無防備な姿で、ブチャラティはこれ以上嫌な印象を持たれたくなかったからだ。
仕事を終えたプライベートな時間に女性の部屋に入るなんて、ドキドキしない男は居ないだろ。
オレは本能的な身体の反応なのだと言い聞かせながら、甘い芳香剤の匂い漂う部屋の奥へと進んでいく。最終的に通された場所にはテレビとテーブルとイスと収納棚のある女性にしては飾り気の無い部屋。そして夜だからと出されたカップにはホットミルク。色気の無いとか女性らしさとか関係なくて、名前そのものが魅力的だから、そんな事は大した事じゃあない。
「名前…。」
「はい。」
「悪い…率直に言うが、キミの恋人にさっき遭遇してな。…別れたと耳にしたんだが…本当か?」
「え……。」
予想できない偶然に驚きのあまり一際大きくさせる瞳。だが「そりゃあオレだって驚いたさ。」と苦笑すれば、彼女も徐々に話せる決意が出来たのか「恥ずかしい所聞かれちゃいましたね。」と苦笑しながら温かいカップに触れる。きっとそうして緊張から冷えきった指先を温めてるんだろうな。
「そうなんです…。あ、でも、不思議と思ったより悲しくないんです。」
そう言う彼女は強がって言っているのではなく、本音で言っているのが困った様に眉尻を下げて笑みを浮かべる姿で解る。
目の周りも赤く腫れていないし本当みたいだな。
良かった…とブチャラティはあのゲス野郎のせいで名前が深くトラウマを植え付けられていたら、どうしようかと心配もしていたから一先ず胸を撫で下ろす。
「やはり恋愛は向いていないのかも知れません。フラれて好きじゃなかったんだって、改めて気付きましたし…。」
「そんな事ないさ。ただ、相手が悪かっただけだ…。相手が違えば、本当に心から好きだと思える相手も居るもんだぜ。」
「……あの、私もブチャラティに会いたかったんです。フラれたと同時に貴方の顔が見たくなった…それくらい、私にはブチャラティが影響力があったんです。」
その時だ。恋愛に不向きだと言う名前が、オレに会いたくなったと言った…その言葉が鼓膜に刻まれただけで、ブチャラティにとってはこれまでに無い幸福感が生まれた。
向かい合わせに座る彼女の手がオレの手の上に重なった事に気が付くと、絡み合う視線から太陽が海に反射した時みたいにキラキラと輝く光が見えて目を細める。何て言うんだ…この光は。
「自分勝手だと思います。でも、もう1度、私にチャンスをくれないでしょうか!教えてほしいのも、ブチャラティがいいんです!」
似てない様で何処か似ているオレ達。
オレも知りたい。輝くこの光の名前を。
「金曜日の勉強会…再開だな。」
「……はい!」
be continued
あの日からブチャラティは、皆が帰るのを待たずに仕事が終わるなりアジトを後にしている。別に用事がある訳じゃないし、独り暮らしで家に帰っても飯が勝手に出てくる訳でもないので決まった店に顔を出しているのだ。このネオポリスには数多くの舌を唸らせる店があるが、オレは下っ端の時からずっとひっそりと佇むこの店を愛用していた。
「やあ…今日も来たね。」と気さくな年配のマスターが笑顔で迎えてくれるから、いつものカウンターへ座り好物のカラスミソースのスパゲッティを注文する。ここのスパゲッティより旨いモノは食った事がないし、どれも旨いのに混みすぎないから落ち着いて食べれるのもいい。
アジトを出て3時間くらい経ったか。ブチャラティはお代を払い店を後にすると、未だに日が照る眩しさに目を細めた。イタリアは緯度が高く夏にはサマータイムと言って、大体夜の20時まで明るく時間が解らなくなっちまいそうになる。
どうやら未だに夜だと思っていない連中が居るみたいだな…。
何故なら男達数人が笑ったり踊ったりして固まっているのが視界に入ったからだ。見た感じ麻薬には手を出してなさそうだな…と足を進めながら蒼い瞳で男達の顔や肌を観察して見過ごそうとした。
父親を襲った男達や今まで麻薬を扱ってきた奴等を見てきた経験から、ブチャラティには区別出来ていたのだ。全て人生を破壊する麻薬は地道に駆逐していくしか、今は方法が無いのに焦れるがこれもオレの仕事だし美しいネオポリスを守る為。
「たくよぉ、日本人の女と付き合ったのにヤらせてくんねーんだぜ!」
「おいおい、最初は日本人の女は従順でいいとか言ってなかったかぁ!?」
「……。」
反吐が出そうだ。
男達は周りなどお構い無しで女性を罵倒する言葉を並べ立てる。同じ男として恥じるし、その女性を思うと苛立ちで耳の後ろがジリジリと熱くなる。こいつ等は言葉も暴力になる事も知らないのだ。それに…。
こんな会話を名前が聞いたら辛いだろうな…。
自分から終止符を打ったのに自然と彼女の事を考えてしまった。距離を置こうとしたのはオレだろ…。そうやってブチャラティが振り払う様に首を緩く振って男達の前を横切ろうとした瞬間だった。
「名前は最初、従順だったんだ。だかよぉ…ありゃあマグロ女だぜ!」
ゲラゲラと下品な笑い声と共に吐き出された名前にブチャラティは反射的に顔を上げた。
こいつ今…名前とか言ったな。まさかこいつが…。
セックスレスになったと、色々と上手くいっていないとも言葉を濁しながら言っていた名前は、恋人を好きじゃないのかと悟ったが…こんな奴なら例え好きになっても冷めちまうな。
セックスは愛情表現の1つ。相手を愛しむ気持ちを伝える術なのに、いつしか人間はそれ以上を求め自身の勝手な欲求を満たそうとする。
『何でもっと求めてくれないの?』
『ブチャラティ、貴方って普通なのね』
するとブチャラティの頭に問い掛ける女の影がちらつき、グッと奥歯を噛んで苦い記憶を磨り潰す。どいつも解っちゃいねぇ!
「なあ、これキミのじゃあないかい?」
「ああ?」
ブチャラティの身体はいつの間にか勝手に動いていた。ジュゼッペの背後に周り肩を叩いて此方を怪しむ彼の前に差し出した掌を開けば、白い肌が真っ青に変わる様は笑みすらも生む。
周りの奴らも「ジュ、ゼッペそれっ…。」とカチカチ歯を鳴らして声を上げる様は不協和音。
それもその筈。ブチャラティの掌には人の左耳があったのだ。
「あああああ!オレ!オレの耳!?何なんだ、ちくしょおおお!」
「……ああ、本当にゲス野郎は全てが醜いな。」
その場に崩れ落ちて発狂する姿をただただ見下ろしながらブチャラティは耳を汚い物でも扱う様に放り投げた。溢した言葉はボタボタと落ちる血液と掠れた叫び声に消され、そしてジュゼッペの目には己の一部であった耳しか目に入らず、オレは時間の無駄と判断して身を翻し足早にその場を去る。
名前に会いたいっ。否、会わなくっちゃあいけないっ…!
彼女は一見1人でも生きていける雰囲気を出しているが、同じ人間だ。罵声を浴びせられたら誰だって傷付くし、誰かに傍に居てほしい筈だろう。助けてやりたいと同時に、それがオレだったら嬉しいとブチャラティは同時に思っていた。
♪♪♪~
取り出した仕事用とは別の携帯で、この時刻なら家に居るであろう名前へと着信を鳴らす。彼女ならば5コール以内で取る筈だと耳を澄ませば、5コール目にしてあの心地の良い声が鼓膜を震わせた。
「……はい。」
「おい、今家に居るんだろ?」
「そうですが…どうされたんですか急に…。」
「キミの顔が見たくなった。」
「ぇ…。」
嘘じゃない。突き放したくせに何を言ってるのだと思われても仕方がないし断られても仕方がないが、正直この気持ちを諦めるつもりは無い。会えないのであれば、最悪声だけでも距離を縮めたい。ブチャラティの真っ直ぐな凛とした言葉の後には沈黙が続き、焦る気持ちもあるが急かして嫌悪感を増しても良くないと待つ事にした。だが、不思議とこの沈黙が嫌ではない。
「ナポリVia Santa Maria di Costantinopoli, 118…。」
「名前それは…。」
「……家の住所です。」
「解った。」と一言告げると着信を終わらせ携帯をしまうと同時に、ブチャラティの磨かれた艶ある革靴は地面を蹴っていた。
* ** *** ****
女性の家へ入るなど初めてじゃないのに、思春期みたく心臓が馬鹿みたく動いている。
こんなんじゃ、家に入って名前の顔を見たらどうなっちまうんだ。
などと苦笑しながら少し緊張する指先で辿り着いたアパートメントのインターフォンを鳴らす。時刻はもうすぐ21時。まるで門限を気にする子供みたくソワソワしながら待つと扉が静かに開き、ブチャラティはその時手土産でも持ってくれば良かったと後悔した。
「すまないな、こんな時刻に。」
「いえ、用事など無かったですし…此処では…どうぞ。」
何故ならパジャマ姿の名前は武装を解いた無防備な姿で、ブチャラティはこれ以上嫌な印象を持たれたくなかったからだ。
仕事を終えたプライベートな時間に女性の部屋に入るなんて、ドキドキしない男は居ないだろ。
オレは本能的な身体の反応なのだと言い聞かせながら、甘い芳香剤の匂い漂う部屋の奥へと進んでいく。最終的に通された場所にはテレビとテーブルとイスと収納棚のある女性にしては飾り気の無い部屋。そして夜だからと出されたカップにはホットミルク。色気の無いとか女性らしさとか関係なくて、名前そのものが魅力的だから、そんな事は大した事じゃあない。
「名前…。」
「はい。」
「悪い…率直に言うが、キミの恋人にさっき遭遇してな。…別れたと耳にしたんだが…本当か?」
「え……。」
予想できない偶然に驚きのあまり一際大きくさせる瞳。だが「そりゃあオレだって驚いたさ。」と苦笑すれば、彼女も徐々に話せる決意が出来たのか「恥ずかしい所聞かれちゃいましたね。」と苦笑しながら温かいカップに触れる。きっとそうして緊張から冷えきった指先を温めてるんだろうな。
「そうなんです…。あ、でも、不思議と思ったより悲しくないんです。」
そう言う彼女は強がって言っているのではなく、本音で言っているのが困った様に眉尻を下げて笑みを浮かべる姿で解る。
目の周りも赤く腫れていないし本当みたいだな。
良かった…とブチャラティはあのゲス野郎のせいで名前が深くトラウマを植え付けられていたら、どうしようかと心配もしていたから一先ず胸を撫で下ろす。
「やはり恋愛は向いていないのかも知れません。フラれて好きじゃなかったんだって、改めて気付きましたし…。」
「そんな事ないさ。ただ、相手が悪かっただけだ…。相手が違えば、本当に心から好きだと思える相手も居るもんだぜ。」
「……あの、私もブチャラティに会いたかったんです。フラれたと同時に貴方の顔が見たくなった…それくらい、私にはブチャラティが影響力があったんです。」
その時だ。恋愛に不向きだと言う名前が、オレに会いたくなったと言った…その言葉が鼓膜に刻まれただけで、ブチャラティにとってはこれまでに無い幸福感が生まれた。
向かい合わせに座る彼女の手がオレの手の上に重なった事に気が付くと、絡み合う視線から太陽が海に反射した時みたいにキラキラと輝く光が見えて目を細める。何て言うんだ…この光は。
「自分勝手だと思います。でも、もう1度、私にチャンスをくれないでしょうか!教えてほしいのも、ブチャラティがいいんです!」
似てない様で何処か似ているオレ達。
オレも知りたい。輝くこの光の名前を。
「金曜日の勉強会…再開だな。」
「……はい!」
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