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シークレットな勉強会
名前変換
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怒りがこんなにも一方通行でしか物事を考えられなくなるとは思わなかった。いつもならば、立ちはだかる壁は自分で切り開ける…オレのスタンド能力ならば、どんなモノだって入る事が出来るじゃあないか。なのに、普通忘れるか?
そう、冷静な頭ならば客観的に馬鹿にしただろう。しかし名前はブチャラティの感情を簡単に右に左へと転がしていく。それは道端に転がる石みたいに、指先でもコロッと揺らいでは転がり自分の意思では止められない。
キイッ…。
ブチャラティの苛立ちと、そろそろノブが本格的に悲鳴を上げた時だった。
頑なに侵入を拒んでいた扉が簡単に開き、ブチャラティは視界にきらりと光るメガネの反射による眩しさに目を細めた。
「どうされたんですか、ブチャラティ?」
光が薄れていく中で涼やかな音色の声が、待ち望んでいた鼓膜を震わす。なのに名前は此方の気も知らないで、不思議そうに首を傾げてレンズ越しに曇りの無い瞳を向けている。
そうしてブチャラティが顎に滴る汗を感じた時、彼女がいつの間にか手にしたハンカチで拭う感覚と柔軟剤の華やかな香りで"名前"を見つけられたのだと強張った心が解れていく。
何でこんなにも顔を見れただけで安心するんだ…。
つい緩んでしまいそうな口元と「大丈夫か」と気遣う言葉が口先を突きそうになったが、真の目的を思い出して今度は名前の顎を掴んで右へ左へと強引に向かせては印がないか確認をする。
男の力に敵わない名前は「な、わっ、何!?」と驚きの声を上げて、人形みたいにブチャラティにされるがままだ。
アバッキオには手を出される前…だったみたいだな。
左右の頬や首、そして唇を見ても印であるキスマークや口紅の痕が無い事を確認して部屋の奥で此方のやり取りをベットに座って見守る男へと視線を向けた。信頼はしているが、女性絡みだと不安はあった。まあ…今回は名前に非があるのだが。
「おい、アバッキオ。おまえは名前に、"何か"、されなかったか?」
敢えて"何か"に意味を込めて伝えれば、アバッキオは「クックッ」と喉を震わせ噛み締めて笑った。1つ年上のアバッキオは、元警察官と言う事もあり物事の常識があるし仕事面でも頼りにしている部下だ。仏頂面の裏で正義感を燃やす男なので、こうして顔をくしゃっと歪めて笑うのは珍しい。
「ブチャラティ、その質問は違うだろ。何でオレが心配されるんだ?」
「こいつの事だ、自分から誘ったに違いないからな。」
「さ、誘った訳じゃ…。」
「誰が聞いたって、おまえに誘われたって思うぜ。」
「ど、どこがですか!?私は必死で…!」
「必死で…何?」
顎を掴んだままなので顔を寄せてそう突っ込むと、名前はあからさまに眉の間がぎゅううっと狭くなり嫌な顔をした。そして瞳がオレ以外を求めるみたいに反れるのが、すごく腹立たしい。
「何って…ブチャラティには言えない…です。」
「はあ?言えないって何故だ!今まで散々っ…。」
オレに色々意見を言ってきたじゃあないか!
"言えない"と言う台詞はブチャラティの感情を酷く逆撫でした。そう感情的に意見をぶつけようと大きく口を開いた時だった。
「落ち着けよブチャラティ…。あんたがそんなに取り乱すなんてよ、いつもらしくねぇ。」
「アバッキオ…。」
2人のやり取りを見ていたアバッキオが、声を荒げるブチャラティの肩を掴み口を挟む。その言葉と独特な低い声、真っ直ぐな紫色と黄色の混ざる瞳は、オレの真の熱を取り去って冷静さを呼び戻してくれる。アバッキオはいつも、1歩下がった所でオレが間違った行動をしていないか見ているのだ。
取り乱すなんてらしくない…か。
天辺に上っていた熱がじわじわと指先に下りてくるのが解り、冷静になって名前に視線を戻すも相変わらず地面を見たままで心まで反らしている様に見える。
一方的に話しても無駄か…。
「アバッキオ、とりあえず…名前と話がしたい。」
「おー、任せたぜ。因みにブチャラティ、オレはからかうくらいにしか思ってねーよ。こんなガキにはな。」
アバッキオは雰囲気から大丈夫だと察したのだろう。早々とすれ違い様に俯く名前の頭を撫でてから部屋を後にした。そこに彼なりの優しさが見えるのだが、2人きりになった瞬間に包む雰囲気は気まずい刺々しい物へと変わっていく。
例え聞かれるのを拒んでいようと、一体どうしてこんな行動を名前が取るのかを探るべきだ。これはチームの為にもな。
「名前、キミの行動の理由を知りたい。それはオレに言いたくなくても…だ。こうしてチームの輪を乱す事は、オレが許さない。」
「……そんなに乱してましたか?ただ見ていただけなのに。」
「……なら試してみるか。」
「へ?」
気付かないならば、仕方ない。
ここまで鈍感な彼女は、実際に体験させなければ理解出来ない子供と同じだ。手を取り先程までアバッキオが座っていたベットへと連れ込み素早く名前の上に覆い被さる。
「えっと試すって言うのはっ。」
「言うの忘れたが、さっきみたいに男をベットに座らせるなよ。」
「ぇ…。」
いきなり上に乗るブチャラティに驚きのあまりパチパチと瞬きをして唇を震わす彼女の姿は、初々しさと可愛らしさがあり男はこう言う所にぐっと弱い。漸く此方のペースに持っていけて心に余裕が生まれたオレは、変な所抜けている名前に釘を指す。
セックスの勉強もだが、しっかりと自覚の無い名前には色々と教えなければいけないな。
「あと、男を見つめてかっこいいと言うのは、誘い文句と同じだぜ。」
「そ、そんな事…相手の勘違いじゃないですか!」
「そうさ、勘違いさせてるんだよ…名前が。キミが可愛いから、男は勘違いでも本気にしてしまうんだ。」
「か…可愛いって…そんな…嘘…。」
「嘘かどうか…オレが教えてやろう。」
逃げられないならば視界だけでもと、またもや反らす名前の瞳を追いかけるみたいにメガネを取って此方を向かせる。するとやはりメガネを追いかけて此方と視線が絡まれば、もうブチャラティの手の内だ。
メガネを胸元のはだけるスーツに引っ掛ければ、より覆い被さりゼロ距離に等しい恋人同士の距離に迫る。
「可愛いよ…。もっと名前の顔が見たい。最近オレとは顔を合わせてくれていないだろ?」
「っ…、そ…れは。」
他の連中の顔は見るのに全然視線が合わなかった理由は頑なに言わない所から、名前の性格が垣間見得る。まあ、簡単には口を割らないと思えば、ギャングとして正解なんだがな。
「なあ、どんな気持ちになる?」
「どんな気持ちって…。」
「オレはドキドキする…。」
「ド、ドキドキって…。」
すると"ドキドキ"と言う表現に反応した名前は、言葉を震わせながら溶けるのではと錯覚する程に熱く視線が絡まる。
「シチュエーションの次は…キス、だったな。」
お互いの瞳の中に写る"自分"を覗くみたいに、確実に距離を詰めて鼻先が触れてしまいそうだ。
自然とキスをしたくなるとはこう言う瞬間なんだと、初めてブチャラティはこの感覚を知った。ドキドキと心音が鼓膜で規則正しく鳴り、映画のワンシーンで描かれる…男女の高鳴る感情の行く末みたいだ。
「い…や!」
「ぐっ…!?」
しかし唇があと数cmで触れてしまいそうな距離で、ドンッと胸に強い衝撃が加わり思わず息が止まるかと思った。そのままよろけて後ろに身を引いたブチャラティと名前の間には、今の衝撃で恋人など到底言えない距離が生まれている。
それで漸く彼女に抵抗されて手で身体を弾かれたのだと脳が理解する。
何故こんなにも名前はオレを拒否するんだ?あんなにも相談して、教えてほしいと、実践してほしいと持ち掛けてきたのに……今ではオレにすら相談もしてくれず拒否までされる。
ショックと言うものが頭を殴られた様な衝撃だとは思わなかった。視界も思考もぐらぐらして、これは裏切られたみたいな感覚に近い。
目の前の名前も頬を赤く染めてはいるが、自身が取った行動に戸惑いと混乱で瞳が揺らいでいる。
人は自然と取った行動が言葉よりも何よりも真実を物語る。これが名前の本音。
「……辞めよう。」
「え…。」
「キミは教えるのがオレじゃなくたっていいんだろ。だから、何日もあいつ等を見つめていたんじゃあないのか?」
「そ、そんなっ…。」
「オレ以外でも構わないが、あいつ等を困らせるなよ。」
1人立ち上がるとベットがギシッと軋む。その音はブチャラティの心の傷が広がる音に似ている。今は名前の言葉など最後まで聞きたくないし、この場から消える事を何よりも望んでいるが為に返答を聞かずにシーツの上にメガネを、部屋には彼女を残して姿を消した。
ブチャラティを襲うのは、冷たい海の中に足を浸している様なゆらゆら波打つ度に爪先が砂で埋まり身動きが取れない感覚。名前に拒絶された時の衝撃が忘れられない。
いや、冷静になればなるほど、金曜日でも無いのに先に手を出したオレが悪いんじゃあないか?だがああ言う雰囲気だったろ!?
はあ……情けないな、さっきから何をやってるんだオレは。名前には"そう言う雰囲気だった"と言っても理解されないだろ。
頭の中で抱えきれない感情の渦が言葉として出ない変わりに、ドンッと壁を強く叩いて吐き出した。
『ブチャラティ…私、不感症かも知れません。』
何故か今になって名前との1番最初のやり取りがポツポツと頭の中で再生されていく。
『もっと色々……教えて貰えないですか?ブチャラティは教えるの上手ですので、信頼できます。』
名前とこのやり取りで、毎週金曜日に教えると決まった秘密の約束。
信頼しているからと、誰にも言えず1人抱え込んでいた悩みを打ち明けてきた名前。きっと女性が相談するには勇気が必要な内容だろう。だからこの時、オレは自身の悩みも彼女になら打ち明けられると思ったんじゃあないか。
最初こそ突飛な考えに驚き強引に始まったこの約束。だが、自身の性への悩みの解決方法の可能性を抱いていた事を思い出した。
「だが、こんな事を思い出しても……今はもう遅いだろうな…。」
名前はオレ以外を求め、オレは約束を破棄した。
手を付いている壁には今まで見た事のない表情をした自身を映す窓が1つ。そこから見えるコバルトブルーの空は失い、灰色の雲が重なり合い今にも雨が降ってきそうで木々が噂しているみたいにざわつき始めている。
きっと今夜は海が荒れる。幼い頃から親の仕事柄海を見てきたからブチャラティには解るのだ。そう、舵が取れない程の荒波が白い泡を弾いて乱暴に打ち付け合う…まさにオレの心と同じだな。
窓に映るもう1人の頬に水滴が落ちて、ブチャラティは手が付けられなかった感情の舵をぎゅっと握り直す決意をした。
be continued
そう、冷静な頭ならば客観的に馬鹿にしただろう。しかし名前はブチャラティの感情を簡単に右に左へと転がしていく。それは道端に転がる石みたいに、指先でもコロッと揺らいでは転がり自分の意思では止められない。
キイッ…。
ブチャラティの苛立ちと、そろそろノブが本格的に悲鳴を上げた時だった。
頑なに侵入を拒んでいた扉が簡単に開き、ブチャラティは視界にきらりと光るメガネの反射による眩しさに目を細めた。
「どうされたんですか、ブチャラティ?」
光が薄れていく中で涼やかな音色の声が、待ち望んでいた鼓膜を震わす。なのに名前は此方の気も知らないで、不思議そうに首を傾げてレンズ越しに曇りの無い瞳を向けている。
そうしてブチャラティが顎に滴る汗を感じた時、彼女がいつの間にか手にしたハンカチで拭う感覚と柔軟剤の華やかな香りで"名前"を見つけられたのだと強張った心が解れていく。
何でこんなにも顔を見れただけで安心するんだ…。
つい緩んでしまいそうな口元と「大丈夫か」と気遣う言葉が口先を突きそうになったが、真の目的を思い出して今度は名前の顎を掴んで右へ左へと強引に向かせては印がないか確認をする。
男の力に敵わない名前は「な、わっ、何!?」と驚きの声を上げて、人形みたいにブチャラティにされるがままだ。
アバッキオには手を出される前…だったみたいだな。
左右の頬や首、そして唇を見ても印であるキスマークや口紅の痕が無い事を確認して部屋の奥で此方のやり取りをベットに座って見守る男へと視線を向けた。信頼はしているが、女性絡みだと不安はあった。まあ…今回は名前に非があるのだが。
「おい、アバッキオ。おまえは名前に、"何か"、されなかったか?」
敢えて"何か"に意味を込めて伝えれば、アバッキオは「クックッ」と喉を震わせ噛み締めて笑った。1つ年上のアバッキオは、元警察官と言う事もあり物事の常識があるし仕事面でも頼りにしている部下だ。仏頂面の裏で正義感を燃やす男なので、こうして顔をくしゃっと歪めて笑うのは珍しい。
「ブチャラティ、その質問は違うだろ。何でオレが心配されるんだ?」
「こいつの事だ、自分から誘ったに違いないからな。」
「さ、誘った訳じゃ…。」
「誰が聞いたって、おまえに誘われたって思うぜ。」
「ど、どこがですか!?私は必死で…!」
「必死で…何?」
顎を掴んだままなので顔を寄せてそう突っ込むと、名前はあからさまに眉の間がぎゅううっと狭くなり嫌な顔をした。そして瞳がオレ以外を求めるみたいに反れるのが、すごく腹立たしい。
「何って…ブチャラティには言えない…です。」
「はあ?言えないって何故だ!今まで散々っ…。」
オレに色々意見を言ってきたじゃあないか!
"言えない"と言う台詞はブチャラティの感情を酷く逆撫でした。そう感情的に意見をぶつけようと大きく口を開いた時だった。
「落ち着けよブチャラティ…。あんたがそんなに取り乱すなんてよ、いつもらしくねぇ。」
「アバッキオ…。」
2人のやり取りを見ていたアバッキオが、声を荒げるブチャラティの肩を掴み口を挟む。その言葉と独特な低い声、真っ直ぐな紫色と黄色の混ざる瞳は、オレの真の熱を取り去って冷静さを呼び戻してくれる。アバッキオはいつも、1歩下がった所でオレが間違った行動をしていないか見ているのだ。
取り乱すなんてらしくない…か。
天辺に上っていた熱がじわじわと指先に下りてくるのが解り、冷静になって名前に視線を戻すも相変わらず地面を見たままで心まで反らしている様に見える。
一方的に話しても無駄か…。
「アバッキオ、とりあえず…名前と話がしたい。」
「おー、任せたぜ。因みにブチャラティ、オレはからかうくらいにしか思ってねーよ。こんなガキにはな。」
アバッキオは雰囲気から大丈夫だと察したのだろう。早々とすれ違い様に俯く名前の頭を撫でてから部屋を後にした。そこに彼なりの優しさが見えるのだが、2人きりになった瞬間に包む雰囲気は気まずい刺々しい物へと変わっていく。
例え聞かれるのを拒んでいようと、一体どうしてこんな行動を名前が取るのかを探るべきだ。これはチームの為にもな。
「名前、キミの行動の理由を知りたい。それはオレに言いたくなくても…だ。こうしてチームの輪を乱す事は、オレが許さない。」
「……そんなに乱してましたか?ただ見ていただけなのに。」
「……なら試してみるか。」
「へ?」
気付かないならば、仕方ない。
ここまで鈍感な彼女は、実際に体験させなければ理解出来ない子供と同じだ。手を取り先程までアバッキオが座っていたベットへと連れ込み素早く名前の上に覆い被さる。
「えっと試すって言うのはっ。」
「言うの忘れたが、さっきみたいに男をベットに座らせるなよ。」
「ぇ…。」
いきなり上に乗るブチャラティに驚きのあまりパチパチと瞬きをして唇を震わす彼女の姿は、初々しさと可愛らしさがあり男はこう言う所にぐっと弱い。漸く此方のペースに持っていけて心に余裕が生まれたオレは、変な所抜けている名前に釘を指す。
セックスの勉強もだが、しっかりと自覚の無い名前には色々と教えなければいけないな。
「あと、男を見つめてかっこいいと言うのは、誘い文句と同じだぜ。」
「そ、そんな事…相手の勘違いじゃないですか!」
「そうさ、勘違いさせてるんだよ…名前が。キミが可愛いから、男は勘違いでも本気にしてしまうんだ。」
「か…可愛いって…そんな…嘘…。」
「嘘かどうか…オレが教えてやろう。」
逃げられないならば視界だけでもと、またもや反らす名前の瞳を追いかけるみたいにメガネを取って此方を向かせる。するとやはりメガネを追いかけて此方と視線が絡まれば、もうブチャラティの手の内だ。
メガネを胸元のはだけるスーツに引っ掛ければ、より覆い被さりゼロ距離に等しい恋人同士の距離に迫る。
「可愛いよ…。もっと名前の顔が見たい。最近オレとは顔を合わせてくれていないだろ?」
「っ…、そ…れは。」
他の連中の顔は見るのに全然視線が合わなかった理由は頑なに言わない所から、名前の性格が垣間見得る。まあ、簡単には口を割らないと思えば、ギャングとして正解なんだがな。
「なあ、どんな気持ちになる?」
「どんな気持ちって…。」
「オレはドキドキする…。」
「ド、ドキドキって…。」
すると"ドキドキ"と言う表現に反応した名前は、言葉を震わせながら溶けるのではと錯覚する程に熱く視線が絡まる。
「シチュエーションの次は…キス、だったな。」
お互いの瞳の中に写る"自分"を覗くみたいに、確実に距離を詰めて鼻先が触れてしまいそうだ。
自然とキスをしたくなるとはこう言う瞬間なんだと、初めてブチャラティはこの感覚を知った。ドキドキと心音が鼓膜で規則正しく鳴り、映画のワンシーンで描かれる…男女の高鳴る感情の行く末みたいだ。
「い…や!」
「ぐっ…!?」
しかし唇があと数cmで触れてしまいそうな距離で、ドンッと胸に強い衝撃が加わり思わず息が止まるかと思った。そのままよろけて後ろに身を引いたブチャラティと名前の間には、今の衝撃で恋人など到底言えない距離が生まれている。
それで漸く彼女に抵抗されて手で身体を弾かれたのだと脳が理解する。
何故こんなにも名前はオレを拒否するんだ?あんなにも相談して、教えてほしいと、実践してほしいと持ち掛けてきたのに……今ではオレにすら相談もしてくれず拒否までされる。
ショックと言うものが頭を殴られた様な衝撃だとは思わなかった。視界も思考もぐらぐらして、これは裏切られたみたいな感覚に近い。
目の前の名前も頬を赤く染めてはいるが、自身が取った行動に戸惑いと混乱で瞳が揺らいでいる。
人は自然と取った行動が言葉よりも何よりも真実を物語る。これが名前の本音。
「……辞めよう。」
「え…。」
「キミは教えるのがオレじゃなくたっていいんだろ。だから、何日もあいつ等を見つめていたんじゃあないのか?」
「そ、そんなっ…。」
「オレ以外でも構わないが、あいつ等を困らせるなよ。」
1人立ち上がるとベットがギシッと軋む。その音はブチャラティの心の傷が広がる音に似ている。今は名前の言葉など最後まで聞きたくないし、この場から消える事を何よりも望んでいるが為に返答を聞かずにシーツの上にメガネを、部屋には彼女を残して姿を消した。
ブチャラティを襲うのは、冷たい海の中に足を浸している様なゆらゆら波打つ度に爪先が砂で埋まり身動きが取れない感覚。名前に拒絶された時の衝撃が忘れられない。
いや、冷静になればなるほど、金曜日でも無いのに先に手を出したオレが悪いんじゃあないか?だがああ言う雰囲気だったろ!?
はあ……情けないな、さっきから何をやってるんだオレは。名前には"そう言う雰囲気だった"と言っても理解されないだろ。
頭の中で抱えきれない感情の渦が言葉として出ない変わりに、ドンッと壁を強く叩いて吐き出した。
『ブチャラティ…私、不感症かも知れません。』
何故か今になって名前との1番最初のやり取りがポツポツと頭の中で再生されていく。
『もっと色々……教えて貰えないですか?ブチャラティは教えるの上手ですので、信頼できます。』
名前とこのやり取りで、毎週金曜日に教えると決まった秘密の約束。
信頼しているからと、誰にも言えず1人抱え込んでいた悩みを打ち明けてきた名前。きっと女性が相談するには勇気が必要な内容だろう。だからこの時、オレは自身の悩みも彼女になら打ち明けられると思ったんじゃあないか。
最初こそ突飛な考えに驚き強引に始まったこの約束。だが、自身の性への悩みの解決方法の可能性を抱いていた事を思い出した。
「だが、こんな事を思い出しても……今はもう遅いだろうな…。」
名前はオレ以外を求め、オレは約束を破棄した。
手を付いている壁には今まで見た事のない表情をした自身を映す窓が1つ。そこから見えるコバルトブルーの空は失い、灰色の雲が重なり合い今にも雨が降ってきそうで木々が噂しているみたいにざわつき始めている。
きっと今夜は海が荒れる。幼い頃から親の仕事柄海を見てきたからブチャラティには解るのだ。そう、舵が取れない程の荒波が白い泡を弾いて乱暴に打ち付け合う…まさにオレの心と同じだな。
窓に映るもう1人の頬に水滴が落ちて、ブチャラティは手が付けられなかった感情の舵をぎゅっと握り直す決意をした。
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