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シークレットな勉強会
名前変換
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休日にも関わらず、名前はいつもと同じ時間に目を覚ます。そしてベットから出ると、キッチンで愛用のクックマを棚から取り出すのだ。
名前の朝の日課は、まずコーヒーを飲む準備をする事から始まる。2つあるコンロでヤカンでお湯を沸かしている間に、コーヒーの粉をスプーンで掬い小さなクックマへ入れる。するとふわりと薫りが鼻を擽る。その香ばしい薫りは心をリラックスさせてくれる筈なのに、未だモヤモヤと渦を巻いたまま昨日の事が頭から離れないでいた。
『キミの手は小さいな。…この手で、これから色んなキミを知っていくんだ。彩香、触ってもいい?』
ブチャラティ。彼のあの真っ直ぐな、私の奥の奥を見つめる眼差し。
そして指1本1本に愛撫するみたいに触れて絡める男性らしく骨張っているのにスラリと長くて綺麗な指先。肩を抱く右手は名前の首筋から耳朶、そして耳の輪郭をゆっくりとなぞりそっちに意識が集中して熱くなる。
『この耳で、オレの声をちゃんと覚えるんだ…。』
『ッ……!』
いつの間にか左耳に寄せた唇から、ブチャラティの低くどこか艶のある声が頭に響いて背筋からゾクゾクッと何かが駆け抜ける感覚に名前は混乱する。
何…この感覚。声を聞いただけなのに…なんか身体が……変。
万年冷え性で、触れた人に驚かれる名前の普段からひんやりと冷たくきめ細かい肌が泡立ち内側から一気に熱くなる。
『オレの声…嫌いか?』
『わ…か…んない…ですよっ。そんなの…考えた事無い…。』
『なら…好きになるんだ。オレの声だけで名前の身体が疼くくらい…。キミは頭がいいんだ、すぐ理解出来る筈だぜ。』
催眠術にかけるみたいにゆっくりと的確に脳へ語りかけられると、思わず従ってしまいそうになる。そう、これはマインドコントロールなのだ。それはブチャラティが拷問する1つの方法でもあったのを名前は思い出した。拷問には暴力で真実を暴く方法と、寄り添って自身の思い通りに答えを手繰り寄せて頑なな口から真実を吐かせる2つの方法がある。
まさに私からも言わせ様としているのかも知れない。でも…何を?
『…余計な事を考えるなよ。』
『っ…ゃっ!』
いきなり響いた彼の甘い声とは違う追い掛けて来た鋭い痛み。肩を竦め驚いてブチャラティを見れば、口角を上げて自身の八重歯から赤い舌先を覗かせると漸く甘噛みされたんだと理解した。
名前は初めて聞いた自身の女性らしい声に恥ずかしくなってわなわなと肩を震わせると、宥める様にブチャラティは繋ぐ手に力を入れて肩を抱き寄せる。グッと再度顔が寄ると柔らかい毛先が頬に触れて、視界が彼に支配されドッドッと心臓が速まっていく。
『名前…逃げるなよ。』
『べ、別に逃げた訳じゃありませんっ。びっくりしただけです!こんな…ブチャラティ…ズルいです。』
『別にズルしてないぜ?』
『いいえ!マインドコントロールされたらおかしくなります!』
『……へえ、おかしくなるのか?』
『あ…。』
何言ってるの私は…!!
こんなに頭が自分の言う通りに働かないのは初めてだ。名前は焦ってどう否定していいものか口をモゴモゴと動かすと、ずれたメガネに手が掛かりそのまま外されてしまった。
『おいおい、口が世話しないな。…陸に上げられた魚みたいになってるぜ?』
『違います!慣れてないんです!…もうっ、返して下さい!』
『ははっ、なら見えない方が意識しなくていいんだろ。…ほら、こっち見ろよ。』
ああ、この顔…。ブチャラティはいつもと違って取り乱す私を楽しんでるんだ。
名前はぼやける視界で表情は見えないが、その分声の変化や雰囲気を敏感に感じ取って声を荒げてしまった。それがまたブチャラティを楽しませる要素に繋がるのか、未だに喉の奥をクックッと鳴らしている。
悔しい。今までコツを掴むのが速いからか人並みには勉強も運動も仕事も出来て来た。苦手を上げるとすれば恋愛だろう。
だからこうして接するブチャラティには初めて悔しさが込み上げて来た。名前にとって初めての負けなのだ。ああ、なのにほら、今度は絡めていた指先に、彼の魅力的な声を紡ぐあの唇が触れてしまう。
-ガチャンッ!
「あ…。」
大きな音に漸く自身がコーヒーを飲む準備をしている事に気付き、スプーンから零れ散らばったコーヒーの粉をやるせない気持ちで布巾で拭くが茶色く伸びるばかり。
「はあ…何やってるんだか…。」
同じく名前の心は一向に晴れず上手く行かない気持ちと行動に苛立ち、ゴシゴシと何度も拭いては溜め息を漏らす。
なんでこんなに自分を見失ってしまうの?こんな、こんな事今まで無かった…。
「っ…!」
自身に問い掛けをすればブチャラティの顔が私の思考を埋め尽くす。それと同時に呼吸を忘れたみたいに喉奥が苦しくて言葉に詰まってしまう。ほら、顔を思い出しただけで苦しくなる。
「…顔?……そうか!そうだわ!!」
何で気付かなかったのだろうと今になっては簡単な話に呆れさえする。答えを導きだした名前の瞳は、プレゼントを貰った子供みたいにキラキラと輝かせた。
同じチームになって当たり前になっていたが、ブローノ・ブチャラティは自身が生きてきた中で顔の造形は完璧だ。自身の顔は酷く写真写りが悪い時もあるし、鏡を見て改めて考えさせられる時もある。しかし彼はどの角度から見てもかっこいいのだ。ギャングじゃなければスタイルも良いので俳優やモデルにもなれるだろう。それならば自身が感じていた異常な症状にも納得出来る。
「あの顔に免疫さえ付けば、絶対取り乱したりしない筈!!」
名前は頭がいいのだが、良すぎるあまりに変な思考に行き着く事がある。しかし本人は至って真面目なのである。こうして名前はある作戦を立てながら上機嫌でコーヒーへと沸いたお湯を注ぎ優雅な朝食を取るのであった。
* ** *** ***
「……。」
じー。
ジョルノは朝から物凄い視線を浴びている。きっとこんなに誰かに見つめられる事は、女子から日々熱い視線を受けているジョルノであっても無かったであろう。
しかもその視線はうっとりとした甘い柔らかい恋する視線とは別物で、まるで珍獣を発見した研究員の様に頭から爪先まで至る角度から観察されている視線だ。
特に顔は物凄く見られていますよね…。
「名前、今日の君は変だ。一体どうしたんですか?」
任務が一緒の名前と共に行動をして、無事に終わったので見られていても支障はないのだがどうも気が散ってしまう。とうとうジョルノはカッフェで先輩である彼女にコーヒーをご馳走しながら問い掛けた。しかしその問いに対して眉一つ動かさずに冷静な名前は首を左右に振るのみ。
「別に何でもないの。気にしないで、ジョルノ。」
「いやいや、そんなにずーっと隙あらば見つめられたら気になっちゃいますよ!…ぼくの顔、そんなに変ですか?」
「ううん、かっこいいから見てるだけだから。」
「え…かっこいい?」
「そう、かっこいいわ。」
かっこいいから見ているとは、どう言う事なのだろうか。こうはっきりと言い放たれては思考が停止してしまう。面食らうとはこう言う事なんだなと沁々とジョルノは感心するも、口説いている訳でもない。普段から読めないとは思っていたがこうも不思議な女性はいないな…と自然と笑みを溢すのであった。
しかし、この不思議な体験をする者はジョルノだけでは終わらなかった。
「なあなあ、オレの顔に何か付いてる?」
「ううん、ナランチャってかっこいいから…。」
「はあ!?な、なに…言って…。」
ナランチャは思わず大声を上げて、これでもかってくらい大きな瞳をより大きくさせて耳まで真っ赤になった。直接外見を褒められた事など数えたくらいしか無いし、男性として意識されたかと思うと心臓がうるさくて掌まで汗が滲む。任務でさえこんなに緊張した事は無い。
「名前だってその…か、可愛い…ぜ?」
今まで敢えて口にはしなかったがナランチャも、率直に褒められれば名前を褒めずにはいられなかった。慣れない事をしてナランチャは言った後に頭から蒸気が出そうな程真っ赤で俯くが、やはり女性を褒める事を忘れないのは彼の中に流れるイタリアの血からだろうか。
「名前大変だ…。ナランチャがかっこいいなんて、病院へ行った方がいい。」
「あ!安心して、フーゴもかっこいいわよ。…ほら、もっと顔を見せて。」
「ちょ、ちょっと!」
今まで2人の様子を呆れて見守っていたフーゴも、やり取りの内容に流石に名前が頭でも打ったのではと心配になって割って入ったが最後。名前は次はこっちと両頬を持って顔を寄せるものだから、長いくるんとした睫毛と女性らしい香りにフーゴは驚いてパープル・ヘイズを出しそうになるのを奥歯を噛んで耐え凌ぐ。
このアジト内では右左を見ても顔がいい人が居るのは、自身の苦手を克服するには持って来いだと名前は感心した。
こうしてメンバーで徐々に慣らして、最終的にブチャラティを見ても動揺しなければ完璧ね!
でも…不思議と心臓はそこまで騒がないのよね?
同じくかっこいいのにな…と名前は色んな角度からフーゴを見つめ続けた。一体ブチャラティと何が違うのだろうか。
◇◇◇
この同時刻、ある1室では力強く机を叩く音が響いていた。
バンッ-!!
「ぜーったい変だぜ、ありゃあ!」
「……うるさいぞミスタ、名前が変わってるのはいつもの事だろ。」
ミスタが珍しく必死に汗だくになりながら机を叩いて、上司であるブチャラティに訴えていた。しかしブチャラティは今更気付いたのかと、真剣には聞かずに少し呆れながら新聞を広げ横目で見つめた。正直な所、ブチャラティは名前の変なお願いばかりされているので『変だ』と言われてもピンと来ないのだ。彼女と居ると一体何が常識なのか解らなくなる上に、ミスタの訴えを聞いても『またか』と言う感覚に近い。
「だってよぉ!こうやって、ずーっと顔見てくるんだぜ!?しかも『かっこいいわ』って言いながら!」
「!?」
「いってぇ!!」
なかなか真剣に耳を貸さないブチャラティに痺れを切らしたミスタは、両頬をがっちり手で押さえると無理矢理自身へ向かせて顔を寄せた。だが、いきなり男の顔が額がくっつく程に近くなったので、ブチャラティは洗い息づかいと汗ばむ肌に反射的に驚きすぎて殴ってしまった。
「ミ、ミスタすまない!」
「ほらね!オレの顔だって驚くだろ!?」
「いや…おまえと彼女とじゃあ驚き方が違うだろうがな。まあ驚くよな…。」
「しかもじっくり見るとあいつも可愛いからさ、皆が変な気持ちになっちゃうでしょ!うちは思春期も多いんだし!!」
「……解った。オレから言っておく。あいつらの風紀を乱すのは良くないからな。」
「そうそう!躾をしっかり頼むぜブチャラティ!」
ミスタは解ってもらえた事に安心して笑顔で部屋を後にし、残されたブチャラティは「はあああ。」っと長い溜め息を吐いてその場で頭を抱えた。
今度は何を企んでる?名前の事だ、きっと何か理由があるに違いないが…ミスタが可愛いとか言っていたな…。
名前の謎の行動理由も気になるが、ミスタが然り気無く口にしていた"可愛い"と言う単語が妙に引っ掛かる。ダメだ…頭が痛んできやがった。今、こっちは後回しでいいから第一優先で名前の妙な行動を止めさせよう。
ブチャラティは交差する色んな思考や疑問を払う様に頭を左右に振ってうんうんと数回頷いてから新聞を放って席を立つ。
すると部屋を出れば「ブチャラティ~」と被害にあったフーゴとナランチャが疲れきった様子で駆け寄ってきた。それからフーゴは早く医者に見せた方がいいと被害報告をしては騒ぎ、ナランチャは身振り手振りで一通りをフーゴで再現しながら騒ぎだす。
ミスタの奴、こいつらにオレが解決するとでも言ったな?
信用してくれるのは有り難いが、こうも騒がしいとブチャラティはリーダーと言うより多くの生徒を束ねる教師にでもなったみたいだ。
「それにさ、名前ヤバイかも…。顔を見せてって言ったら、アバッキオがニヤニヤしながら仮眠室に連れてったぜ。」
仮眠室って…まさか!
そう心配するナランチャが耳打ちすれば、「大丈夫だ」と2人を宥めていたブチャラティの脳裏に嫌な予感が過る。アバッキオならば「顔を見せて」なんて誘い文句として受け取ってもおかしくはない。ベットに軽々と押し倒されて癖のある髪が揺れ簡単に淡い唇を奪われる名前が想像出来ると、触ったあの柔らかい唇の感触がブチャラティの指先を襲う。するとその反応を追うみたいにドッドッと心臓が速まり額に嫌な汗がじんわりと滲む。
「名前っ…!」
何なんだ。身体が勝手に動いてしまって訳も解らずブチャラティは足を速めて名前の名前を口走っていた。いつもなら音も立たない階段も廊下も派手に音を立てて走り、一直線に仮眠室を目指すと自分らしくもなくノックもせず扉のノブを握る。
しかし邪魔をするかの様に鍵がかかっていてガチャガチャと鈍い音が鳴り、ブチャラティは盛大に「チッ、くそっ!!」と悪態を付きすっかりスタンド能力を忘れてしまっていた。
be continued
名前の朝の日課は、まずコーヒーを飲む準備をする事から始まる。2つあるコンロでヤカンでお湯を沸かしている間に、コーヒーの粉をスプーンで掬い小さなクックマへ入れる。するとふわりと薫りが鼻を擽る。その香ばしい薫りは心をリラックスさせてくれる筈なのに、未だモヤモヤと渦を巻いたまま昨日の事が頭から離れないでいた。
『キミの手は小さいな。…この手で、これから色んなキミを知っていくんだ。彩香、触ってもいい?』
ブチャラティ。彼のあの真っ直ぐな、私の奥の奥を見つめる眼差し。
そして指1本1本に愛撫するみたいに触れて絡める男性らしく骨張っているのにスラリと長くて綺麗な指先。肩を抱く右手は名前の首筋から耳朶、そして耳の輪郭をゆっくりとなぞりそっちに意識が集中して熱くなる。
『この耳で、オレの声をちゃんと覚えるんだ…。』
『ッ……!』
いつの間にか左耳に寄せた唇から、ブチャラティの低くどこか艶のある声が頭に響いて背筋からゾクゾクッと何かが駆け抜ける感覚に名前は混乱する。
何…この感覚。声を聞いただけなのに…なんか身体が……変。
万年冷え性で、触れた人に驚かれる名前の普段からひんやりと冷たくきめ細かい肌が泡立ち内側から一気に熱くなる。
『オレの声…嫌いか?』
『わ…か…んない…ですよっ。そんなの…考えた事無い…。』
『なら…好きになるんだ。オレの声だけで名前の身体が疼くくらい…。キミは頭がいいんだ、すぐ理解出来る筈だぜ。』
催眠術にかけるみたいにゆっくりと的確に脳へ語りかけられると、思わず従ってしまいそうになる。そう、これはマインドコントロールなのだ。それはブチャラティが拷問する1つの方法でもあったのを名前は思い出した。拷問には暴力で真実を暴く方法と、寄り添って自身の思い通りに答えを手繰り寄せて頑なな口から真実を吐かせる2つの方法がある。
まさに私からも言わせ様としているのかも知れない。でも…何を?
『…余計な事を考えるなよ。』
『っ…ゃっ!』
いきなり響いた彼の甘い声とは違う追い掛けて来た鋭い痛み。肩を竦め驚いてブチャラティを見れば、口角を上げて自身の八重歯から赤い舌先を覗かせると漸く甘噛みされたんだと理解した。
名前は初めて聞いた自身の女性らしい声に恥ずかしくなってわなわなと肩を震わせると、宥める様にブチャラティは繋ぐ手に力を入れて肩を抱き寄せる。グッと再度顔が寄ると柔らかい毛先が頬に触れて、視界が彼に支配されドッドッと心臓が速まっていく。
『名前…逃げるなよ。』
『べ、別に逃げた訳じゃありませんっ。びっくりしただけです!こんな…ブチャラティ…ズルいです。』
『別にズルしてないぜ?』
『いいえ!マインドコントロールされたらおかしくなります!』
『……へえ、おかしくなるのか?』
『あ…。』
何言ってるの私は…!!
こんなに頭が自分の言う通りに働かないのは初めてだ。名前は焦ってどう否定していいものか口をモゴモゴと動かすと、ずれたメガネに手が掛かりそのまま外されてしまった。
『おいおい、口が世話しないな。…陸に上げられた魚みたいになってるぜ?』
『違います!慣れてないんです!…もうっ、返して下さい!』
『ははっ、なら見えない方が意識しなくていいんだろ。…ほら、こっち見ろよ。』
ああ、この顔…。ブチャラティはいつもと違って取り乱す私を楽しんでるんだ。
名前はぼやける視界で表情は見えないが、その分声の変化や雰囲気を敏感に感じ取って声を荒げてしまった。それがまたブチャラティを楽しませる要素に繋がるのか、未だに喉の奥をクックッと鳴らしている。
悔しい。今までコツを掴むのが速いからか人並みには勉強も運動も仕事も出来て来た。苦手を上げるとすれば恋愛だろう。
だからこうして接するブチャラティには初めて悔しさが込み上げて来た。名前にとって初めての負けなのだ。ああ、なのにほら、今度は絡めていた指先に、彼の魅力的な声を紡ぐあの唇が触れてしまう。
-ガチャンッ!
「あ…。」
大きな音に漸く自身がコーヒーを飲む準備をしている事に気付き、スプーンから零れ散らばったコーヒーの粉をやるせない気持ちで布巾で拭くが茶色く伸びるばかり。
「はあ…何やってるんだか…。」
同じく名前の心は一向に晴れず上手く行かない気持ちと行動に苛立ち、ゴシゴシと何度も拭いては溜め息を漏らす。
なんでこんなに自分を見失ってしまうの?こんな、こんな事今まで無かった…。
「っ…!」
自身に問い掛けをすればブチャラティの顔が私の思考を埋め尽くす。それと同時に呼吸を忘れたみたいに喉奥が苦しくて言葉に詰まってしまう。ほら、顔を思い出しただけで苦しくなる。
「…顔?……そうか!そうだわ!!」
何で気付かなかったのだろうと今になっては簡単な話に呆れさえする。答えを導きだした名前の瞳は、プレゼントを貰った子供みたいにキラキラと輝かせた。
同じチームになって当たり前になっていたが、ブローノ・ブチャラティは自身が生きてきた中で顔の造形は完璧だ。自身の顔は酷く写真写りが悪い時もあるし、鏡を見て改めて考えさせられる時もある。しかし彼はどの角度から見てもかっこいいのだ。ギャングじゃなければスタイルも良いので俳優やモデルにもなれるだろう。それならば自身が感じていた異常な症状にも納得出来る。
「あの顔に免疫さえ付けば、絶対取り乱したりしない筈!!」
名前は頭がいいのだが、良すぎるあまりに変な思考に行き着く事がある。しかし本人は至って真面目なのである。こうして名前はある作戦を立てながら上機嫌でコーヒーへと沸いたお湯を注ぎ優雅な朝食を取るのであった。
* ** *** ***
「……。」
じー。
ジョルノは朝から物凄い視線を浴びている。きっとこんなに誰かに見つめられる事は、女子から日々熱い視線を受けているジョルノであっても無かったであろう。
しかもその視線はうっとりとした甘い柔らかい恋する視線とは別物で、まるで珍獣を発見した研究員の様に頭から爪先まで至る角度から観察されている視線だ。
特に顔は物凄く見られていますよね…。
「名前、今日の君は変だ。一体どうしたんですか?」
任務が一緒の名前と共に行動をして、無事に終わったので見られていても支障はないのだがどうも気が散ってしまう。とうとうジョルノはカッフェで先輩である彼女にコーヒーをご馳走しながら問い掛けた。しかしその問いに対して眉一つ動かさずに冷静な名前は首を左右に振るのみ。
「別に何でもないの。気にしないで、ジョルノ。」
「いやいや、そんなにずーっと隙あらば見つめられたら気になっちゃいますよ!…ぼくの顔、そんなに変ですか?」
「ううん、かっこいいから見てるだけだから。」
「え…かっこいい?」
「そう、かっこいいわ。」
かっこいいから見ているとは、どう言う事なのだろうか。こうはっきりと言い放たれては思考が停止してしまう。面食らうとはこう言う事なんだなと沁々とジョルノは感心するも、口説いている訳でもない。普段から読めないとは思っていたがこうも不思議な女性はいないな…と自然と笑みを溢すのであった。
しかし、この不思議な体験をする者はジョルノだけでは終わらなかった。
「なあなあ、オレの顔に何か付いてる?」
「ううん、ナランチャってかっこいいから…。」
「はあ!?な、なに…言って…。」
ナランチャは思わず大声を上げて、これでもかってくらい大きな瞳をより大きくさせて耳まで真っ赤になった。直接外見を褒められた事など数えたくらいしか無いし、男性として意識されたかと思うと心臓がうるさくて掌まで汗が滲む。任務でさえこんなに緊張した事は無い。
「名前だってその…か、可愛い…ぜ?」
今まで敢えて口にはしなかったがナランチャも、率直に褒められれば名前を褒めずにはいられなかった。慣れない事をしてナランチャは言った後に頭から蒸気が出そうな程真っ赤で俯くが、やはり女性を褒める事を忘れないのは彼の中に流れるイタリアの血からだろうか。
「名前大変だ…。ナランチャがかっこいいなんて、病院へ行った方がいい。」
「あ!安心して、フーゴもかっこいいわよ。…ほら、もっと顔を見せて。」
「ちょ、ちょっと!」
今まで2人の様子を呆れて見守っていたフーゴも、やり取りの内容に流石に名前が頭でも打ったのではと心配になって割って入ったが最後。名前は次はこっちと両頬を持って顔を寄せるものだから、長いくるんとした睫毛と女性らしい香りにフーゴは驚いてパープル・ヘイズを出しそうになるのを奥歯を噛んで耐え凌ぐ。
このアジト内では右左を見ても顔がいい人が居るのは、自身の苦手を克服するには持って来いだと名前は感心した。
こうしてメンバーで徐々に慣らして、最終的にブチャラティを見ても動揺しなければ完璧ね!
でも…不思議と心臓はそこまで騒がないのよね?
同じくかっこいいのにな…と名前は色んな角度からフーゴを見つめ続けた。一体ブチャラティと何が違うのだろうか。
◇◇◇
この同時刻、ある1室では力強く机を叩く音が響いていた。
バンッ-!!
「ぜーったい変だぜ、ありゃあ!」
「……うるさいぞミスタ、名前が変わってるのはいつもの事だろ。」
ミスタが珍しく必死に汗だくになりながら机を叩いて、上司であるブチャラティに訴えていた。しかしブチャラティは今更気付いたのかと、真剣には聞かずに少し呆れながら新聞を広げ横目で見つめた。正直な所、ブチャラティは名前の変なお願いばかりされているので『変だ』と言われてもピンと来ないのだ。彼女と居ると一体何が常識なのか解らなくなる上に、ミスタの訴えを聞いても『またか』と言う感覚に近い。
「だってよぉ!こうやって、ずーっと顔見てくるんだぜ!?しかも『かっこいいわ』って言いながら!」
「!?」
「いってぇ!!」
なかなか真剣に耳を貸さないブチャラティに痺れを切らしたミスタは、両頬をがっちり手で押さえると無理矢理自身へ向かせて顔を寄せた。だが、いきなり男の顔が額がくっつく程に近くなったので、ブチャラティは洗い息づかいと汗ばむ肌に反射的に驚きすぎて殴ってしまった。
「ミ、ミスタすまない!」
「ほらね!オレの顔だって驚くだろ!?」
「いや…おまえと彼女とじゃあ驚き方が違うだろうがな。まあ驚くよな…。」
「しかもじっくり見るとあいつも可愛いからさ、皆が変な気持ちになっちゃうでしょ!うちは思春期も多いんだし!!」
「……解った。オレから言っておく。あいつらの風紀を乱すのは良くないからな。」
「そうそう!躾をしっかり頼むぜブチャラティ!」
ミスタは解ってもらえた事に安心して笑顔で部屋を後にし、残されたブチャラティは「はあああ。」っと長い溜め息を吐いてその場で頭を抱えた。
今度は何を企んでる?名前の事だ、きっと何か理由があるに違いないが…ミスタが可愛いとか言っていたな…。
名前の謎の行動理由も気になるが、ミスタが然り気無く口にしていた"可愛い"と言う単語が妙に引っ掛かる。ダメだ…頭が痛んできやがった。今、こっちは後回しでいいから第一優先で名前の妙な行動を止めさせよう。
ブチャラティは交差する色んな思考や疑問を払う様に頭を左右に振ってうんうんと数回頷いてから新聞を放って席を立つ。
すると部屋を出れば「ブチャラティ~」と被害にあったフーゴとナランチャが疲れきった様子で駆け寄ってきた。それからフーゴは早く医者に見せた方がいいと被害報告をしては騒ぎ、ナランチャは身振り手振りで一通りをフーゴで再現しながら騒ぎだす。
ミスタの奴、こいつらにオレが解決するとでも言ったな?
信用してくれるのは有り難いが、こうも騒がしいとブチャラティはリーダーと言うより多くの生徒を束ねる教師にでもなったみたいだ。
「それにさ、名前ヤバイかも…。顔を見せてって言ったら、アバッキオがニヤニヤしながら仮眠室に連れてったぜ。」
仮眠室って…まさか!
そう心配するナランチャが耳打ちすれば、「大丈夫だ」と2人を宥めていたブチャラティの脳裏に嫌な予感が過る。アバッキオならば「顔を見せて」なんて誘い文句として受け取ってもおかしくはない。ベットに軽々と押し倒されて癖のある髪が揺れ簡単に淡い唇を奪われる名前が想像出来ると、触ったあの柔らかい唇の感触がブチャラティの指先を襲う。するとその反応を追うみたいにドッドッと心臓が速まり額に嫌な汗がじんわりと滲む。
「名前っ…!」
何なんだ。身体が勝手に動いてしまって訳も解らずブチャラティは足を速めて名前の名前を口走っていた。いつもなら音も立たない階段も廊下も派手に音を立てて走り、一直線に仮眠室を目指すと自分らしくもなくノックもせず扉のノブを握る。
しかし邪魔をするかの様に鍵がかかっていてガチャガチャと鈍い音が鳴り、ブチャラティは盛大に「チッ、くそっ!!」と悪態を付きすっかりスタンド能力を忘れてしまっていた。
be continued