いきなり呼び出しをくらった。それはついさっきの出来事──
　スマホがなり、画面上に映し出されたのは、酔狂な漫画家の名前。
　なんだろうと思いながらも、私はいつものカフェへと足を運ぶ。そこには既に先生の姿があった。

「露伴先生──」

　私の呼びかけに先生が振り向く。

「そんなところに突っ立ってないで……ここに座りなよ」

　私は先生が指し示めした向かい側の席に座る。好きなものを頼むといいと言われ、私は温かいカフェラテを注文する。そして、飲み物がくるのを何気なく待っていると──さっきからずっと視線がこちらに向けられている事に気づき始める。

「あ、あの〜……」
「何だ？」
「先生は、さっきから何を描いているんですか？」
「何って……被写体は、ぼくの目の前にいるじゃあないか」
「目の前って、もしかして私……！？」

　目を丸くする私をよそに、先生は淡々と続きを話し始める。

「とりあえず、今日一日中、君の行動を観察させてもらうよ──」
「えっ……！？　か、観察って──何で？　何で私なんか……？」

　怪訝そうな表情を浮かべて首を傾げる。それに対し、先生は顎に手を添えて一瞬だけ間を置いて言葉を返す。

「──そうだなァ……強いて言うなら好奇心……か？　君の事は見ていて　飽きないからなァ」

　そう言った後、先生の頬が一瞬だけ緩む。そんな優しい表情を向けられるなんて──
　私は思い切ってカマをかけてみた。そう、あの岸辺露伴を相手に。

「先生、それって……好奇心なんかじゃあないですよ？」
「はぁ？　じゃあ君は、それ以外の一体何になるって言うんだ？」
「それは──恋ですよ、恋！　なーんだ……先生、私に恋しちゃってるんですね！」

　今度は言われた先生が目を丸くする。

「オイオイオイオイ──この岸辺露伴が君に恋してるだと？　そんなのちゃんちゃらおかしいじゃあないか」

　そう言って、フンっと顔を背けられる──思った通りの反応だ。私はすかさず“冗談ですよ”と、準備していたセリフを言い放ち、笑いかける。
　だが、しかし──
　そんな私を見て先生が、“あぁ、そう言うことか”と、自らの気持ちを自覚し始めていなんて──今はまだ知る由もない。