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アイツは時折、突拍子もないことを言ってきやがる。そんな時は、目を爛々と輝かせてくるから、わかりやすい。
そう、そして今日も──
***
「ねぇねぇ──」
そう言いながら、アイツが俺のところにやってきた。一瞬、視線を向けるも、嫌な予感がしたので、すぐさまわざと視線を外す。そして、ローテーブル上に広げた新聞を読んでるフリをしてみた。しかし、アイツはそんなことはお構いなしに、俺の隣に腰掛ける。
その後も、返事もせずに新聞を読み続けている俺に対して、アイツがわざと視界に入るように、横から覗き込んできた。そこで俺は、ようやく面を上げて視線を合わせる。
「あ? 何だよ?」
「あのさ、ちょっと私のこと……全力で口説いみてよ!」
「……は?」
文字通り、空いた口が 塞 がらないとは、まさにこのことだ。
またか……と、 怪訝 そうな表情を浮かべる俺に、アイツが不適な笑みを向けてきた。どうせまた、テレビドラマか何かの影響だろうが──そんなくだらねーことに付き合わされる身にもなれと、ため息混じりに紫煙を吐き出す。
「オメーを口説くのならよォ、別に俺じゃあなくてもいいだろ?」
「えぇ〜、ちょっとやってくれてもいいじゃん! たまには、イタリアーノに酔ってみたいの!」
「……無駄だ」
「え、何が……?」
「時間の無駄だって言ってんだよ?」
俺は灰皿にタバコを押し付けて、少し強めの口調で言い放つ。その言葉を耳にしたアイツが、一瞬、眉間にシワを寄せて、徐々に唇を尖らせる。
「……なによ、その辺の女には 容易 くするのにさ〜、何で私にはできないの?」
「あのなァ……大体、ここでオメーなんざ口説いて……いったい、何になるってんだよ?」
「何って……それは──」
急に我に返ったようすで口ごもるアイツに、さらに畳みかけてみる。
「それによォ、覚悟はできてんのか……?」
「覚悟……?」
「そうだぜ? もし仮に、俺がオメーを口説き落としたとしたら、その先に何があるか……それくらい、わかってるよなァ?」
「えっ……」
「女を口説くってことはよォ、目的はそれしかねーだろ?」
言い終わると同時に、クッと口角の端を吊り上げながら、ニヒルな笑みを差し向ける。さて……それに対して、アイツがどう出るか──案の定、覚悟もクソもないアイツは、目玉を左右に泳がせながら、言葉を詰まらせている。俺はちょっと、面白くなっていた。
「そ、それは……」
「ハンッ、その覚悟もねーくせしてよォ、そんな簡単に“口説け”なんざ、言ってくんじゃあねーよ! ……でもまぁ、オメーも本気なら──」
スッと、視線を真っ直ぐアイツに向けて、 掬 ように左手を取りあげた。
「俺のこの瞳に映すのを、おまえだけにしてやってもいいんだぜ……? いや……おまえに出逢ったその日から、俺の瞳にはもう、おまえしか映ってねーよ? さっきは偉そうに覚悟なんて口にしちまったけどよォ……覚悟ができてねーのは、俺のほうだ……おまえのことになると、他に何も考えられなくなっちまう……もう、他のやつなんて見てほしくねーんだよ……おまえのその瞳に宿すのも、俺、ただ一人だけにしてほしい……なぁ、俺だけの物になれよ? でも、選ぶのはおまえだ……俺は、おまえの仰せのままに……俺の Principess ──」
そう言い終えると、ニヒルではない笑みを向けて、わざとリップ音を立てて左手の甲にキスを落とした。
「えっ……──」とアイツが口走った時、タイミングを見計らったかのように、玄関扉の開く音が聞こえてきたから、俺はスッと手を離した。チラリと隣を垣間見れば、明らかに動揺を隠せずにいるアイツの姿が目に止まる。
「戻ったぜ〜……あれ? オメーら、何で隣どうしで座ってんだ? 珍しいじゃあねーかよ?」
「あ? あぁ、口説いてたんだぜ?」
「……は? 誰が……誰を? まさか──」
言われたホルマジオは、目を見開きながら、視線をアイツへと向けている。当の本人は、「ちょっと、プロシュート……!」なんて焦った様子で、目配せしてくるのを見てみぬふりをして、俺は事実を正確に述べた。
「そうだ、今、コイツを口説いてた。悪ィなァ……ちょっと本気、出させてもらったぜ」
「おいおい、マジかよ!? オメーがマジで女口説くのなんざ、いつぶりだよ!? わざわざ口説かなくてもよォ、女の方から寄ってくるから必要ねーもんなァ」
アッヒャヒャと高笑いを浮かべるホルマジオ。それに対して、隣でアイツが目を見開く。
「冗談ぬかせよ? 俺だって、口説く時はちゃんと口説くんだぜ? 本気の相手を目の前にした時にはよォ……? まぁ、今のは冗談……だがなァ? あ? なんつー顔してんだよ、オメーはよォ?」
鼻で笑ってみせると、顔を真っ赤にしたアイツが部屋を出て行った。
さて、これがどう映ったか……まぁ、自分で蒔いた種だから、ちゃんと責は負ってもらうとして──でも、俺自身も“本気の相手”とか、つい口走ってしまったことが、今ごろになって、なんだか少し笑えてきた。
本音半分、建前半分の言動に、ほんの少しだけ前者に賭けたくなった……そんな午後の出来事だ。
そう、そして今日も──
***
「ねぇねぇ──」
そう言いながら、アイツが俺のところにやってきた。一瞬、視線を向けるも、嫌な予感がしたので、すぐさまわざと視線を外す。そして、ローテーブル上に広げた新聞を読んでるフリをしてみた。しかし、アイツはそんなことはお構いなしに、俺の隣に腰掛ける。
その後も、返事もせずに新聞を読み続けている俺に対して、アイツがわざと視界に入るように、横から覗き込んできた。そこで俺は、ようやく面を上げて視線を合わせる。
「あ? 何だよ?」
「あのさ、ちょっと私のこと……全力で口説いみてよ!」
「……は?」
文字通り、空いた口が
またか……と、
「オメーを口説くのならよォ、別に俺じゃあなくてもいいだろ?」
「えぇ〜、ちょっとやってくれてもいいじゃん! たまには、イタリアーノに酔ってみたいの!」
「……無駄だ」
「え、何が……?」
「時間の無駄だって言ってんだよ?」
俺は灰皿にタバコを押し付けて、少し強めの口調で言い放つ。その言葉を耳にしたアイツが、一瞬、眉間にシワを寄せて、徐々に唇を尖らせる。
「……なによ、その辺の女には
「あのなァ……大体、ここでオメーなんざ口説いて……いったい、何になるってんだよ?」
「何って……それは──」
急に我に返ったようすで口ごもるアイツに、さらに畳みかけてみる。
「それによォ、覚悟はできてんのか……?」
「覚悟……?」
「そうだぜ? もし仮に、俺がオメーを口説き落としたとしたら、その先に何があるか……それくらい、わかってるよなァ?」
「えっ……」
「女を口説くってことはよォ、目的はそれしかねーだろ?」
言い終わると同時に、クッと口角の端を吊り上げながら、ニヒルな笑みを差し向ける。さて……それに対して、アイツがどう出るか──案の定、覚悟もクソもないアイツは、目玉を左右に泳がせながら、言葉を詰まらせている。俺はちょっと、面白くなっていた。
「そ、それは……」
「ハンッ、その覚悟もねーくせしてよォ、そんな簡単に“口説け”なんざ、言ってくんじゃあねーよ! ……でもまぁ、オメーも本気なら──」
スッと、視線を真っ直ぐアイツに向けて、
「俺のこの瞳に映すのを、おまえだけにしてやってもいいんだぜ……? いや……おまえに出逢ったその日から、俺の瞳にはもう、おまえしか映ってねーよ? さっきは偉そうに覚悟なんて口にしちまったけどよォ……覚悟ができてねーのは、俺のほうだ……おまえのことになると、他に何も考えられなくなっちまう……もう、他のやつなんて見てほしくねーんだよ……おまえのその瞳に宿すのも、俺、ただ一人だけにしてほしい……なぁ、俺だけの物になれよ? でも、選ぶのはおまえだ……俺は、おまえの仰せのままに……俺の
そう言い終えると、ニヒルではない笑みを向けて、わざとリップ音を立てて左手の甲にキスを落とした。
「えっ……──」とアイツが口走った時、タイミングを見計らったかのように、玄関扉の開く音が聞こえてきたから、俺はスッと手を離した。チラリと隣を垣間見れば、明らかに動揺を隠せずにいるアイツの姿が目に止まる。
「戻ったぜ〜……あれ? オメーら、何で隣どうしで座ってんだ? 珍しいじゃあねーかよ?」
「あ? あぁ、口説いてたんだぜ?」
「……は? 誰が……誰を? まさか──」
言われたホルマジオは、目を見開きながら、視線をアイツへと向けている。当の本人は、「ちょっと、プロシュート……!」なんて焦った様子で、目配せしてくるのを見てみぬふりをして、俺は事実を正確に述べた。
「そうだ、今、コイツを口説いてた。悪ィなァ……ちょっと本気、出させてもらったぜ」
「おいおい、マジかよ!? オメーがマジで女口説くのなんざ、いつぶりだよ!? わざわざ口説かなくてもよォ、女の方から寄ってくるから必要ねーもんなァ」
アッヒャヒャと高笑いを浮かべるホルマジオ。それに対して、隣でアイツが目を見開く。
「冗談ぬかせよ? 俺だって、口説く時はちゃんと口説くんだぜ? 本気の相手を目の前にした時にはよォ……? まぁ、今のは冗談……だがなァ? あ? なんつー顔してんだよ、オメーはよォ?」
鼻で笑ってみせると、顔を真っ赤にしたアイツが部屋を出て行った。
さて、これがどう映ったか……まぁ、自分で蒔いた種だから、ちゃんと責は負ってもらうとして──でも、俺自身も“本気の相手”とか、つい口走ってしまったことが、今ごろになって、なんだか少し笑えてきた。
本音半分、建前半分の言動に、ほんの少しだけ前者に賭けたくなった……そんな午後の出来事だ。
the END