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俺は今、とあるカフェにきている。そこは、アイツのお気に入りの場所。
任務の下調べを終えてアジトに戻る途中、アイツがちょっと休憩したいと言ってきたから、立ち寄ったのだ。
***
飲み物を注文し終えたところで、急に目の前に紙切れのようなものを差し出される。
「はい、コレ──」
「ん……?」
手元の文字をよく見れば、そこには“何でも言う事聞く券”と、記されている。
俺は思わず眉をひそめる。そして、ゆっくりとアイツに視線を合わせた。
「おい……これは、いったい何だ?」
「何って……約束したでしょう? えっ、もしかして、覚えてないの……?」
逆にアイツの方が 怪訝 そうな表情を浮かべてくるから、ますます意味がわからなくなってしまう。すると、アイツが呆れた様子で話し始める。
「昨日アジトで飲んだ時、ポーカーで賭けしたでしょう? プロシュートが勝って、私が負けた……その賭けの内容でさ──」
「……あぁ〜」
なんとなく記憶が蘇る。だが、酒席でのあんな口約束なんざ、あってないようなもの──なのに、ご丁寧にも覚えていたことに、少し驚きを覚える。それと同時に、これはもしかしたら面白いことになるかもしれないと、内心ほくそ笑みながら、アイツの出方を伺う。
「なァ……ここに書いてあるようによォ……本当に何でも言うこと、聞いてくれんのか?」
俺が紙上の文字を指差しながら、念押しするように問いかけると、アイツは、ツンと澄まして吐き捨てた。
「まぁ、約束は約束だからね〜……でも、内容によるかな? もちろん私のできる範囲でだし……変なことはしないからね? 有効期限は、当日の午前0時まで──だから、何して欲しいか、早めに決めてよね?」
アイツの言う“変なこと”がいったい何なのか──それはちょっと気になるところだなと思いつつ、俺は、アイツの前にその券を突き返すように置いてから、ちょっとした思いつきを言い放つ。
「……よし、決めたぜ」
「えっ……?」
「今からよォ、“俺の女”になれ……いいな?」
「それって……私に彼女になれと──?」
「何だよ……これも、オメーにとったら、できねーことなのかよ?」
若干ため息混じりに問いかけるも、すぐに返事は戻ってこない。とりあえず、運ばれてきたエスプレッソに口をつけ、タバコに火をつけようとした時、アイツから威勢よく返事が戻ってきた。
「……わかった! いいよ! じゃあ、今から私はプロシュートの彼女ね?」
“よろしく、彼氏さん”と、わざとらしく言いながら、唇の端を吊り上げて、ニヒルにほほ笑みかけてくる。俺もそれに対抗するかのように、フッと頬を緩ませた。そして、指に挟んだタバコを箱へと戻して、脱いでいたジャケットを羽織る。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って立ち上がると、アイツがキョトンとした表情で目を丸くする。
「えっ、ちょっ……行くってどこに?」
「あぁ? アジトに戻るんだろ?」
「あ〜、アジトか……」
「……ハンッ、オメー、今どこに行くと思ったんだ?」
ニヒルな笑みを差し向ければ、“別に”と言いながらも、アイツが言葉を詰まらせる。ちょっと面白くなってきたなと思ったその時──アイツが急に問いかけてきた。
「ねぇねぇ、プロシュートは彼女と一緒に歩く時……手とか繋ぐの? それとも腕組みする感じ?」
「……そうだなァ……オメーとだったら──手を繋ぐかなァ」
そう言ってアイツの手をとれば、形だけでも“恋人”に見えなくもないなと思った。そんな“恋人ごっこ”をしながら、アジトへと帰り着く。
俺はこのまま手を繋いで中に入るつもりだったが、入口付近で急にアイツがパッと手を離しやがる。そして、足早に中へと入ろうとするから、俺は逃すまいと、すかさず離した手を掴みにかかった。すると、驚いたようにしてアイツが振り返る。
「ん、何!?」
「何じゃあねーよ? 何で手ぇ離すんだ?」
「え? だって、みんないるし……それにプロシュートだって、変な勘ぐりされたくないでしょう?」
「あ? 何言ってんだ、オメー……? このまま行くに決まってんだろ? 勘ぐりも何も、今オメーは“俺の女”だろ?」
「そ、それはそうだけど──」
「自分が持ちかけた“何でも言う事聞く券”だろ?」
有無を言わさぬ態度で圧をかけ、鋭い視線を差し向ける。ここで普通の女なら、素直に言うことを聞くところだが、コイツは当たり前のように不服そうな表情を浮かべやがるから、ここは一気に畳み掛けるように言い放つ。
「ハンッ、ごちゃごちゃ言ってねーでよォ、腹ァ括って、言うこと聞けよ?」
「もう……今日限りなのに……後でちゃんと訂正しといてよね……? 本当、一度やるって決めたら“とことん”なんだから……」
言った手前、アイツも渋々承諾する。
その時俺は、気付いてしまった。例え 一時 だとしても、俺はコイツを“自分の女”だと、見せつけてやりたいと思っていることに──
中に入ると、そこに居たのは、ホルマジオとギアッチョの二人。
「戻ったぜ……あ? リゾットはどうした?」
「まだ戻ってねーよ……つーかよォ、何でオメーら、手ぇ繋いでんだ?」
ホルマジオが投げた質問に、それ見たことかと言わんばかりに、アイツが苦笑いを浮かべる。
「いや、ちょっと……」
「あ? 悪ィが、コイツは今日から俺の女だからよォ、気安くすんなよ?」
「……ハァ!? 何だよ、それ!? マジなのかよ、オイッ!?」
「ハイハイ、マジですよ〜……今日だけね」
アイツがボソッと言いやがったことは、どうやらギアッチョには聞こえてなかったみたいだが──ここで茶番がバレるのは 癪 だなと思い、“余計なことは言うな”と、小声で耳打ちをした。
勘のいいホルマジオには、バレているような気がしたが……気にせずその場をやり過ごす。
ドカリとソファーに腰掛けて、さっきできなかった一服を、と思い、紫煙を吹かす。そして、みせつけるようにして、アイツを自分の隣へと 誘 う。アイツもそれとなく、俺の隣に腰掛けた。
「リゾットがいねーなら、報告は明日でいいだろう……なァ、この後どうするよ? どっか行くか?」
「えっ、これって、デートのお誘い!?」
「ハンッ、当たりめーだろ? で、どっか行きたいとことあんのかよ?」
「行きたいところ……ねぇ……」
アイツは頬杖をつきながら、視線をちょっと上向きにする。それからしばらくした後に、急に視線をこっちに向けてきた。
「ねぇ、いつもどこでデートしてるの? 私もさ、同じところに連れてってよ!」
「あ、同じところ……? そう言われてもなァ……俺は、オメーとならどこでもいいぜ? オメーの行きたいところに行きてぇんだ」
思わず言ってしまった本音に、アイツは一瞬目を見開いて、それから“ん〜……”と、考えた後、“ドライブに行きたい”と言ってきた。
「おい、ギアッチョ! ちょっと車借りるな」
「おい! 何勝手に私用で使おうとしてんだよ!? ちょっ、聞いてんのかよ!? クソがっ!」
ギアッチョの怒号を 後目 に、俺は赤いオープンカーのキーを手にとると、クルクルっと回して、アイツの手をとりながら、アジトを後にする。
その後、ホルマジオとギアッチョが、アジトに戻ってきたやつらに、やれ、あれは嘘だとか本当だとか、何がどうなってしまったのかとか──色々と言っていたらしいが……俺は、そんなもん構うもんかと思っていた。
***
車に乗り込んだ後、改めて、アイツに行き先を尋ねた。
「ドライブって言ってもよォ、どこに行きたいんだ?」
「今の気分なら……海! 海に連れてって!」
「海か……あぁ、いいぜ」
そして、海へと車を走らせる。二人きりの車内──急にアイツが吹き出すように笑みを浮かべる。
「おい、何だよ?」
「えっ、だって、プロシュートとデートしてるなんて、なんだか滑稽に思えてさ〜」
「そこは、笑うところかよ?」
「それに、案外、彼女に合わせるんだなぁって思ってさ。デートプランならお手の物かと思ってたんだけど」
「ハンッ、一夜限りのやつは、目的が決まってるからよォ、甘い言葉をかけて、それなりの“プラン”てのはあったりするが……でも、彼女となりゃあ求めるものが違ってくる。刺激も必要だが、それよりも安らぎだろ? 一緒にいて自然体でいられる相手ってのが一番だ。そんな相手とならどこに行っても居心地がいい……だから、相手の行きたいところでいいんだよ」
「ふ〜ん……」
そう言って、アイツは窓外の流れる景色に目を移す。
ビジネスパートナーとして近くにいる分、コイツが俺に抱くイメージは、決していいものじゃあないだろう。だからこそ、俺はこんな話をしたのかもしれない。
***
しばらくしてやってきた海辺は、秋の訪れを感じさせるかのように、風が少し肌寒かった。だから、海岸線は腕を組んで歩いた。靴だと砂浜は歩きにくいだとか言いながら、他愛もない会話を続けた。
夕暮れ時に差し掛かり、お腹が空いたと言い出したアイツの為に、近くのリストランテで食事を済ませ、その後、綺麗な夜景の見える丘へとやってきた。
その場所は知る人ぞ知る、ネアポリスの夜景が一望できる場所だ。
静かに……そして、吸い込まれるような闇に浮かび上がる光を目に映しながら、アイツがポツリと呟く。
「そろそろ今日が終わっちゃうね……」
「あぁ、そうだな」
一瞬、赤が色濃く灯り、やがて紫煙が立ち上がる。ふぅ……と、吐き捨てた煙が、風に流されて消えていくように、もうすぐこの関係も終わりを告げる。
「こんなふうにプロシュートと過ごすのも、以外と楽しかったよ! ありがと!」
この状況に不釣り合いな“ありがとう”の言葉。願いを聞いてもらっているのは、自分の方だというのに……俺はこの関係が名残惜しくなっていた。
「今、何時だ?」
「え? まだ0時は回ってないよ?」
「そうか……じゃあ、まだ間に合うな──」
そう言って、俺はアイツの頬から伝って顎に手を添える。そのまま口付けようとしたところで、アイツからストップがかかった。
「えっ、ちょっと待ってよ!」
「あ、なんで止めんだよ?」
「いや、だって止めるでしょう! これはダメだよ!」
「あぁ!? 俺とはキスできねーのかよ」
「当たり前じゃん! これは恋人ごっこ! そうでしょう? ここでキスなんてしちゃったら、それこそ他の女と同じじゃん?」
“他の女と同じ”──その言葉がすごく耳に痛かった。
「ハンッ、そんなつもりはねーよ」
「……え? 急に何言い出すの?」
「じゃあよォ……俺があの時言った“俺の女になれ”ってのが、あの券にかこつけた本気の告白だったと言ったら……オメー、どうするよ?」
「どうするも何も……そんなの冗談でしょう?」
半笑いのアイツに、バカな事を言ってしまったなと、自らも苦笑いを浮かべそうになる。でも──
「さてと、そろそろ帰ろっか! 彼女を家に送り届けるまでがデートだからね? 帰りも安全運転でよろしくね、彼氏さ──」
最後の一文字を言い終える前に、唇を塞ぐ。そして、そのまま有無を言わさずに深く舌をねじ込んでやった。
平手打ちで返されるかと思ったが、なんの反応もなく、互いに唇を離した。
「……悪ィな……嫌だったなら、言えよ?」
アイツは何も答えない代わりに、今度は自らが歩み寄り唇を合わせた。
時刻はまだ明日を差していないから、恋人ごっこがまだ続いているのかもしれない──でも、急に態度の変わったアイツに、少なからず期待してしまう。
これから新たな関係が始まりそうな……そんな気分だ。
任務の下調べを終えてアジトに戻る途中、アイツがちょっと休憩したいと言ってきたから、立ち寄ったのだ。
***
飲み物を注文し終えたところで、急に目の前に紙切れのようなものを差し出される。
「はい、コレ──」
「ん……?」
手元の文字をよく見れば、そこには“何でも言う事聞く券”と、記されている。
俺は思わず眉をひそめる。そして、ゆっくりとアイツに視線を合わせた。
「おい……これは、いったい何だ?」
「何って……約束したでしょう? えっ、もしかして、覚えてないの……?」
逆にアイツの方が
「昨日アジトで飲んだ時、ポーカーで賭けしたでしょう? プロシュートが勝って、私が負けた……その賭けの内容でさ──」
「……あぁ〜」
なんとなく記憶が蘇る。だが、酒席でのあんな口約束なんざ、あってないようなもの──なのに、ご丁寧にも覚えていたことに、少し驚きを覚える。それと同時に、これはもしかしたら面白いことになるかもしれないと、内心ほくそ笑みながら、アイツの出方を伺う。
「なァ……ここに書いてあるようによォ……本当に何でも言うこと、聞いてくれんのか?」
俺が紙上の文字を指差しながら、念押しするように問いかけると、アイツは、ツンと澄まして吐き捨てた。
「まぁ、約束は約束だからね〜……でも、内容によるかな? もちろん私のできる範囲でだし……変なことはしないからね? 有効期限は、当日の午前0時まで──だから、何して欲しいか、早めに決めてよね?」
アイツの言う“変なこと”がいったい何なのか──それはちょっと気になるところだなと思いつつ、俺は、アイツの前にその券を突き返すように置いてから、ちょっとした思いつきを言い放つ。
「……よし、決めたぜ」
「えっ……?」
「今からよォ、“俺の女”になれ……いいな?」
「それって……私に彼女になれと──?」
「何だよ……これも、オメーにとったら、できねーことなのかよ?」
若干ため息混じりに問いかけるも、すぐに返事は戻ってこない。とりあえず、運ばれてきたエスプレッソに口をつけ、タバコに火をつけようとした時、アイツから威勢よく返事が戻ってきた。
「……わかった! いいよ! じゃあ、今から私はプロシュートの彼女ね?」
“よろしく、彼氏さん”と、わざとらしく言いながら、唇の端を吊り上げて、ニヒルにほほ笑みかけてくる。俺もそれに対抗するかのように、フッと頬を緩ませた。そして、指に挟んだタバコを箱へと戻して、脱いでいたジャケットを羽織る。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って立ち上がると、アイツがキョトンとした表情で目を丸くする。
「えっ、ちょっ……行くってどこに?」
「あぁ? アジトに戻るんだろ?」
「あ〜、アジトか……」
「……ハンッ、オメー、今どこに行くと思ったんだ?」
ニヒルな笑みを差し向ければ、“別に”と言いながらも、アイツが言葉を詰まらせる。ちょっと面白くなってきたなと思ったその時──アイツが急に問いかけてきた。
「ねぇねぇ、プロシュートは彼女と一緒に歩く時……手とか繋ぐの? それとも腕組みする感じ?」
「……そうだなァ……オメーとだったら──手を繋ぐかなァ」
そう言ってアイツの手をとれば、形だけでも“恋人”に見えなくもないなと思った。そんな“恋人ごっこ”をしながら、アジトへと帰り着く。
俺はこのまま手を繋いで中に入るつもりだったが、入口付近で急にアイツがパッと手を離しやがる。そして、足早に中へと入ろうとするから、俺は逃すまいと、すかさず離した手を掴みにかかった。すると、驚いたようにしてアイツが振り返る。
「ん、何!?」
「何じゃあねーよ? 何で手ぇ離すんだ?」
「え? だって、みんないるし……それにプロシュートだって、変な勘ぐりされたくないでしょう?」
「あ? 何言ってんだ、オメー……? このまま行くに決まってんだろ? 勘ぐりも何も、今オメーは“俺の女”だろ?」
「そ、それはそうだけど──」
「自分が持ちかけた“何でも言う事聞く券”だろ?」
有無を言わさぬ態度で圧をかけ、鋭い視線を差し向ける。ここで普通の女なら、素直に言うことを聞くところだが、コイツは当たり前のように不服そうな表情を浮かべやがるから、ここは一気に畳み掛けるように言い放つ。
「ハンッ、ごちゃごちゃ言ってねーでよォ、腹ァ括って、言うこと聞けよ?」
「もう……今日限りなのに……後でちゃんと訂正しといてよね……? 本当、一度やるって決めたら“とことん”なんだから……」
言った手前、アイツも渋々承諾する。
その時俺は、気付いてしまった。例え
中に入ると、そこに居たのは、ホルマジオとギアッチョの二人。
「戻ったぜ……あ? リゾットはどうした?」
「まだ戻ってねーよ……つーかよォ、何でオメーら、手ぇ繋いでんだ?」
ホルマジオが投げた質問に、それ見たことかと言わんばかりに、アイツが苦笑いを浮かべる。
「いや、ちょっと……」
「あ? 悪ィが、コイツは今日から俺の女だからよォ、気安くすんなよ?」
「……ハァ!? 何だよ、それ!? マジなのかよ、オイッ!?」
「ハイハイ、マジですよ〜……今日だけね」
アイツがボソッと言いやがったことは、どうやらギアッチョには聞こえてなかったみたいだが──ここで茶番がバレるのは
勘のいいホルマジオには、バレているような気がしたが……気にせずその場をやり過ごす。
ドカリとソファーに腰掛けて、さっきできなかった一服を、と思い、紫煙を吹かす。そして、みせつけるようにして、アイツを自分の隣へと
「リゾットがいねーなら、報告は明日でいいだろう……なァ、この後どうするよ? どっか行くか?」
「えっ、これって、デートのお誘い!?」
「ハンッ、当たりめーだろ? で、どっか行きたいとことあんのかよ?」
「行きたいところ……ねぇ……」
アイツは頬杖をつきながら、視線をちょっと上向きにする。それからしばらくした後に、急に視線をこっちに向けてきた。
「ねぇ、いつもどこでデートしてるの? 私もさ、同じところに連れてってよ!」
「あ、同じところ……? そう言われてもなァ……俺は、オメーとならどこでもいいぜ? オメーの行きたいところに行きてぇんだ」
思わず言ってしまった本音に、アイツは一瞬目を見開いて、それから“ん〜……”と、考えた後、“ドライブに行きたい”と言ってきた。
「おい、ギアッチョ! ちょっと車借りるな」
「おい! 何勝手に私用で使おうとしてんだよ!? ちょっ、聞いてんのかよ!? クソがっ!」
ギアッチョの怒号を
その後、ホルマジオとギアッチョが、アジトに戻ってきたやつらに、やれ、あれは嘘だとか本当だとか、何がどうなってしまったのかとか──色々と言っていたらしいが……俺は、そんなもん構うもんかと思っていた。
***
車に乗り込んだ後、改めて、アイツに行き先を尋ねた。
「ドライブって言ってもよォ、どこに行きたいんだ?」
「今の気分なら……海! 海に連れてって!」
「海か……あぁ、いいぜ」
そして、海へと車を走らせる。二人きりの車内──急にアイツが吹き出すように笑みを浮かべる。
「おい、何だよ?」
「えっ、だって、プロシュートとデートしてるなんて、なんだか滑稽に思えてさ〜」
「そこは、笑うところかよ?」
「それに、案外、彼女に合わせるんだなぁって思ってさ。デートプランならお手の物かと思ってたんだけど」
「ハンッ、一夜限りのやつは、目的が決まってるからよォ、甘い言葉をかけて、それなりの“プラン”てのはあったりするが……でも、彼女となりゃあ求めるものが違ってくる。刺激も必要だが、それよりも安らぎだろ? 一緒にいて自然体でいられる相手ってのが一番だ。そんな相手とならどこに行っても居心地がいい……だから、相手の行きたいところでいいんだよ」
「ふ〜ん……」
そう言って、アイツは窓外の流れる景色に目を移す。
ビジネスパートナーとして近くにいる分、コイツが俺に抱くイメージは、決していいものじゃあないだろう。だからこそ、俺はこんな話をしたのかもしれない。
***
しばらくしてやってきた海辺は、秋の訪れを感じさせるかのように、風が少し肌寒かった。だから、海岸線は腕を組んで歩いた。靴だと砂浜は歩きにくいだとか言いながら、他愛もない会話を続けた。
夕暮れ時に差し掛かり、お腹が空いたと言い出したアイツの為に、近くのリストランテで食事を済ませ、その後、綺麗な夜景の見える丘へとやってきた。
その場所は知る人ぞ知る、ネアポリスの夜景が一望できる場所だ。
静かに……そして、吸い込まれるような闇に浮かび上がる光を目に映しながら、アイツがポツリと呟く。
「そろそろ今日が終わっちゃうね……」
「あぁ、そうだな」
一瞬、赤が色濃く灯り、やがて紫煙が立ち上がる。ふぅ……と、吐き捨てた煙が、風に流されて消えていくように、もうすぐこの関係も終わりを告げる。
「こんなふうにプロシュートと過ごすのも、以外と楽しかったよ! ありがと!」
この状況に不釣り合いな“ありがとう”の言葉。願いを聞いてもらっているのは、自分の方だというのに……俺はこの関係が名残惜しくなっていた。
「今、何時だ?」
「え? まだ0時は回ってないよ?」
「そうか……じゃあ、まだ間に合うな──」
そう言って、俺はアイツの頬から伝って顎に手を添える。そのまま口付けようとしたところで、アイツからストップがかかった。
「えっ、ちょっと待ってよ!」
「あ、なんで止めんだよ?」
「いや、だって止めるでしょう! これはダメだよ!」
「あぁ!? 俺とはキスできねーのかよ」
「当たり前じゃん! これは恋人ごっこ! そうでしょう? ここでキスなんてしちゃったら、それこそ他の女と同じじゃん?」
“他の女と同じ”──その言葉がすごく耳に痛かった。
「ハンッ、そんなつもりはねーよ」
「……え? 急に何言い出すの?」
「じゃあよォ……俺があの時言った“俺の女になれ”ってのが、あの券にかこつけた本気の告白だったと言ったら……オメー、どうするよ?」
「どうするも何も……そんなの冗談でしょう?」
半笑いのアイツに、バカな事を言ってしまったなと、自らも苦笑いを浮かべそうになる。でも──
「さてと、そろそろ帰ろっか! 彼女を家に送り届けるまでがデートだからね? 帰りも安全運転でよろしくね、彼氏さ──」
最後の一文字を言い終える前に、唇を塞ぐ。そして、そのまま有無を言わさずに深く舌をねじ込んでやった。
平手打ちで返されるかと思ったが、なんの反応もなく、互いに唇を離した。
「……悪ィな……嫌だったなら、言えよ?」
アイツは何も答えない代わりに、今度は自らが歩み寄り唇を合わせた。
時刻はまだ明日を差していないから、恋人ごっこがまだ続いているのかもしれない──でも、急に態度の変わったアイツに、少なからず期待してしまう。
これから新たな関係が始まりそうな……そんな気分だ。
the END