俺は女とヤル時、決まって後ろから攻め立てる。その理由は、余計なことをしなくて済むから。
　一夜限りの相手だ……見つめ合う必要もない、抱き合う必要もない、ましてや甘い言葉やキスもいらねェ……ただ欲求を満たす為だけの行為──
　そうこれは、叶わぬアイツへの想いを吐き出す為の単なる無意味な行為だ。

＊＊＊

「もう帰っちゃうの？」

　行為を終えると一服もせず、衣服を整える俺に向かって女が問いかける。その問いかけに耳を傾けることもなく、俺は足早にその場を後にした。
　俺がこんな事をしている間にも、アイツが他の男に抱かれていると思うと 虫唾（むしず）が走る。
　イライラを抑える為に、結局胸ポケットから煙草とライターを取り出して火をつける。そして思い切り夜空に向かって紫煙を投げつけた。
　そこに冷たく風が吹き付けたから、紫煙はいとも簡単にかき消されてしまった。

　確かペッシが言ってたな……これは恋だって。アイツにまつわる全てのことが気にかかるのは、俺がアイツに恋をしているからだとよ。ペッシの奴め……この俺に向かって、一丁前のことを言いやがって……でもまぁ、あながち間違っちゃあいないかもしれねぇなァ……いやむしろ、ペッシの言う通りかもしれない──

　そんな風に改めて自覚させられる。
　ほんの少し心の隙間に刺さる様な夜風に当たりながら、すでに結果は見えているこの恋を、俺は一体いつまで続けるつもりなのだろうか……

　そんな自問自答を繰り返す曇天の星空。