プロシュート兄貴
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私は花屋の店番をしながら、流れる人並みに目を向ける。あの日以来、プロシュートさんは店に姿を現していない。
あの日、私はプロシュートさんに──
***
バレンティーノ当日──
確かにその日、99本のバラを持って現れたプロシュートさんに、私は改めて告白された。
「本当に来たんですか?」
「昨日そう言ったろ? 99本のバラ……その意味、オメーなら分かるよな? ずっと好きだった……今も……これからも──」
そう言ってスッと私を見据える。その瞳はあまりにも澄んでいて、彼の表情がいつもとは違って映る。でも、私は──
「ごめんなさい……私まだ、そんな簡単に気持ちを切り替えることができません……」
「そうか……」
「気持ちは受け取れませんが……花に罪はありません……花束は貰ってもいいですか?」
図々しい奴だと思われたかもしれない。でも、本心からそう思った。
プロシュートさんは、黙ったままバラの花束を置いて店を後にした。
それがまともに言葉を交わした最後となった。
***
3月14日──
ネアポリスの街中を歩くのはホルマジオとペッシの2人。
不意にホルマジオが話を切り出す。
「おい、ペッシ──」
「なんだよ、ホルマジオ?」
「プロシュートが惚れてる女がいる花屋は、この近くだったか?」
「えっ、そ、それは……」
「隠すこたァねぇだろォ? 別に取って食ったりしねーよ」
薄ら笑いを浮かべるホルマジオに、冗談には聞こえないとペッシの表情が若干引きつる。その反応を横目に、ホルマジオはとある花屋の店内へと入って行った。
大体の目星は付いていた。店内に入るとすぐに、どの人物がプロシュートの想い人なのかは容易に判断がついた。なぜなら、店内にいた彼女は、どことなく華やか且つ凛とした雰囲気を放つ女性だったからだ。
ホルマジオに気付いた彼女が声をかける。
「いらっしゃいませ」
「あ〜、ちょっと花束を見繕って欲しいんだがよォ、アンタのお勧めはどの花だ?」
その質問に、彼女が一瞬目を丸くする。そんな会話をいつもしていたのは──
“ユーフォルビア・レウコセファラ”
彼女が頭に浮かんだのは思わぬ花の名前だった。でも、答えたのはもちろん別の花。
「そうですね。今の季節ならガーベラはいかがですか? ピンクやオレンジ色の花が、色鮮やかで素敵だと思いますよ?」
そう言って彼女がホルマジオに微笑みかけた時、遅れてペッシもやって来た。
「おい、ペッシ、彼女だろ?」
「勝手に会ったこと、兄貴にバレてもオイラ知らねーから!」
「勝手にって……別にアイツの女じゃあねーだろ?」
「そ、それは……でもよォ──」
「ペッシくん……?」
2人のやりとりを聞いていた彼女が、突如会話に割って入ってきた。
「あなた……プロシュートさんと知り合いなんですか? あの……プロシュートさんって、今どうしてます?」
「どうってよォ、別にいつもと変わりゃしねーよ」
「そう……ですか」
「どうかしやしたか……?」
「ううん……ただ、最近全く顔を見かけないから……」
うつむき加減に話す彼女をホルマジオが鼻で笑う。
「アンタ、自分がフった男の事……気にしてんの?」
「……知ってるんですね。いや、私はただこの前のお礼をしたいって思ってて……でも、あれから全くお店に来ることもなくなってしまって。もちろん連絡先も知りませんし……だから、伝えて頂けませんか? ……おこがましいお願いなのは分かっています」
彼女の申し出に、ホルマジオが一瞬間を空けて答える。
「──伝える? 何を? フった男によォ、思わせぶりもいいところだなァ」
「別にそんなつもりじゃ──いや、それでも伝えて下さい! 来週、3月14日、広場の噴水前で待っていますと。時間は──」
***
アジトに戻ると、ホルマジオは早速プロシュートを見つけ声をかけた。
「オメー、来週の14日……予定はどうなってる?」
「あ? 何かあんのかよ?」
「何ってよォ、あの花屋の彼女からデートの誘いだ」
プロシュートは、一瞬にして眉間にシワを寄せ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「なんでオメーがそんな事を知っている……? おい、ペッシペッシペッシよォ〜、オメー、こいつに喋ったのか!?」
「そ、それは……」
ペッシが目を泳がせながら後退ると、すかさずホルマジオが前に出て2人の間に割って入った。
「まぁまぁ、落ち着けって。別にそれくらいいいじゃあねーかよ? ってか、オメー、どうすんだ? チーム1の伊達男がよォ、のこのこと出向くつもりか?」
「……場所と時間を教えろ」
「おいおい、マジで行く気かよ!?」
「ハンッ、俺はアイツを諦めちゃあいないからなァ……可能性があるなら、どこへだって行ってやるぜ?」
「……変わったな」
「あ?」
「本気なんだな」
「黙ってろ」
「しょーがねぇなァ……場所は──」
***
そして、3月14日当日──
私は自分が指定した時間よりも少し早くから、噴水前でプロシュートさんを待っていた。果たして彼は来てくれるか否か……
そうこうしてる内に、プロシュートさんが現れる。来てくれた事に安堵すると同時に、緊張感が高まってくる。『待たせたか?』と話す彼に目を向けると、髪をハーフアップに軽く束ね、服装もいつものそれとは違っていた。
丸眼鏡に柄のシャツ、ベージュのコートと言った装い。思わず目を逸らしてしまった。
「ん、どうかしたか……?」
「い、いえ……じゃあ、行きましょうか」
「ちょっと待て、行きつけのリストランテがあるんだが……そこでもいいか?」
「はい、それは構いませんよ。今日はお礼なので、プロシュートさんが行きたい所へ」
「ハンッ、俺が行きたいと言うよりは、オメーを連れて行きたいところ──と言った方が正しいな……」
「えっ……」
「オメーはただ黙ってついてくりゃあいい」
そう言った彼に手を取られるも、とっさに振り払ってしまう。しかし、すぐさまプロシュートさんが続ける。
「今日はデートだ。手ぐらい繋がせろ」
そう言って再び取られた手を、今度はしっかりと握り返した。
照れ隠しに顔を背けた私を、プロシュートさんがどんな表情で垣間見ていたか、私は知らない。
リストランテで食事をした後、少し散歩がてらサンテルモ城から、ネアポリスの街並みを見下ろす。
まだ昼下がり。でも、そこから見下ろす絶景に思わず目を奪われる。
「ネアポリスの街並みって、本当キレイ……」
「そうだな……」
「──プロシュートさん……今日、楽しかったですか?」
私の質問に、プロシュートさんが一瞬眉をひそめる。
「おい、なんだその質問はよォ?」
「私……正直に話しますけど、実は今日、プロシュートさんに会うまで少しもやもやしてました。誘いも直接自分で伝えたわけじゃなかったから、本当に来てもらえるかも不安だった。でも、今日こうして会えて……なんて言うか……全部吹っ切れた……そんな気がしました。だから……またこんな風に誘ってもいいですか……?」
言い終えて、隣の彼に目を向ける。今度はそらさず真っ直ぐ見据えた。
「オメー……自分が言ってる事、分かってんのか?」
「え……」
「本気……出してもいいんだな? まぁ、俺は本当に欲しいもんをそう簡単には諦めたりしねぇがなァ」
そう言ってふと口元を緩める姿に、ドキッと胸の高鳴りを覚える。まさか、いや、やっぱり私は──
そんな微かな恋心に気づき始めた初めてのホワイトデー。
あの日、私はプロシュートさんに──
***
バレンティーノ当日──
確かにその日、99本のバラを持って現れたプロシュートさんに、私は改めて告白された。
「本当に来たんですか?」
「昨日そう言ったろ? 99本のバラ……その意味、オメーなら分かるよな? ずっと好きだった……今も……これからも──」
そう言ってスッと私を見据える。その瞳はあまりにも澄んでいて、彼の表情がいつもとは違って映る。でも、私は──
「ごめんなさい……私まだ、そんな簡単に気持ちを切り替えることができません……」
「そうか……」
「気持ちは受け取れませんが……花に罪はありません……花束は貰ってもいいですか?」
図々しい奴だと思われたかもしれない。でも、本心からそう思った。
プロシュートさんは、黙ったままバラの花束を置いて店を後にした。
それがまともに言葉を交わした最後となった。
***
3月14日──
ネアポリスの街中を歩くのはホルマジオとペッシの2人。
不意にホルマジオが話を切り出す。
「おい、ペッシ──」
「なんだよ、ホルマジオ?」
「プロシュートが惚れてる女がいる花屋は、この近くだったか?」
「えっ、そ、それは……」
「隠すこたァねぇだろォ? 別に取って食ったりしねーよ」
薄ら笑いを浮かべるホルマジオに、冗談には聞こえないとペッシの表情が若干引きつる。その反応を横目に、ホルマジオはとある花屋の店内へと入って行った。
大体の目星は付いていた。店内に入るとすぐに、どの人物がプロシュートの想い人なのかは容易に判断がついた。なぜなら、店内にいた彼女は、どことなく華やか且つ凛とした雰囲気を放つ女性だったからだ。
ホルマジオに気付いた彼女が声をかける。
「いらっしゃいませ」
「あ〜、ちょっと花束を見繕って欲しいんだがよォ、アンタのお勧めはどの花だ?」
その質問に、彼女が一瞬目を丸くする。そんな会話をいつもしていたのは──
“ユーフォルビア・レウコセファラ”
彼女が頭に浮かんだのは思わぬ花の名前だった。でも、答えたのはもちろん別の花。
「そうですね。今の季節ならガーベラはいかがですか? ピンクやオレンジ色の花が、色鮮やかで素敵だと思いますよ?」
そう言って彼女がホルマジオに微笑みかけた時、遅れてペッシもやって来た。
「おい、ペッシ、彼女だろ?」
「勝手に会ったこと、兄貴にバレてもオイラ知らねーから!」
「勝手にって……別にアイツの女じゃあねーだろ?」
「そ、それは……でもよォ──」
「ペッシくん……?」
2人のやりとりを聞いていた彼女が、突如会話に割って入ってきた。
「あなた……プロシュートさんと知り合いなんですか? あの……プロシュートさんって、今どうしてます?」
「どうってよォ、別にいつもと変わりゃしねーよ」
「そう……ですか」
「どうかしやしたか……?」
「ううん……ただ、最近全く顔を見かけないから……」
うつむき加減に話す彼女をホルマジオが鼻で笑う。
「アンタ、自分がフった男の事……気にしてんの?」
「……知ってるんですね。いや、私はただこの前のお礼をしたいって思ってて……でも、あれから全くお店に来ることもなくなってしまって。もちろん連絡先も知りませんし……だから、伝えて頂けませんか? ……おこがましいお願いなのは分かっています」
彼女の申し出に、ホルマジオが一瞬間を空けて答える。
「──伝える? 何を? フった男によォ、思わせぶりもいいところだなァ」
「別にそんなつもりじゃ──いや、それでも伝えて下さい! 来週、3月14日、広場の噴水前で待っていますと。時間は──」
***
アジトに戻ると、ホルマジオは早速プロシュートを見つけ声をかけた。
「オメー、来週の14日……予定はどうなってる?」
「あ? 何かあんのかよ?」
「何ってよォ、あの花屋の彼女からデートの誘いだ」
プロシュートは、一瞬にして眉間にシワを寄せ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「なんでオメーがそんな事を知っている……? おい、ペッシペッシペッシよォ〜、オメー、こいつに喋ったのか!?」
「そ、それは……」
ペッシが目を泳がせながら後退ると、すかさずホルマジオが前に出て2人の間に割って入った。
「まぁまぁ、落ち着けって。別にそれくらいいいじゃあねーかよ? ってか、オメー、どうすんだ? チーム1の伊達男がよォ、のこのこと出向くつもりか?」
「……場所と時間を教えろ」
「おいおい、マジで行く気かよ!?」
「ハンッ、俺はアイツを諦めちゃあいないからなァ……可能性があるなら、どこへだって行ってやるぜ?」
「……変わったな」
「あ?」
「本気なんだな」
「黙ってろ」
「しょーがねぇなァ……場所は──」
***
そして、3月14日当日──
私は自分が指定した時間よりも少し早くから、噴水前でプロシュートさんを待っていた。果たして彼は来てくれるか否か……
そうこうしてる内に、プロシュートさんが現れる。来てくれた事に安堵すると同時に、緊張感が高まってくる。『待たせたか?』と話す彼に目を向けると、髪をハーフアップに軽く束ね、服装もいつものそれとは違っていた。
丸眼鏡に柄のシャツ、ベージュのコートと言った装い。思わず目を逸らしてしまった。
「ん、どうかしたか……?」
「い、いえ……じゃあ、行きましょうか」
「ちょっと待て、行きつけのリストランテがあるんだが……そこでもいいか?」
「はい、それは構いませんよ。今日はお礼なので、プロシュートさんが行きたい所へ」
「ハンッ、俺が行きたいと言うよりは、オメーを連れて行きたいところ──と言った方が正しいな……」
「えっ……」
「オメーはただ黙ってついてくりゃあいい」
そう言った彼に手を取られるも、とっさに振り払ってしまう。しかし、すぐさまプロシュートさんが続ける。
「今日はデートだ。手ぐらい繋がせろ」
そう言って再び取られた手を、今度はしっかりと握り返した。
照れ隠しに顔を背けた私を、プロシュートさんがどんな表情で垣間見ていたか、私は知らない。
リストランテで食事をした後、少し散歩がてらサンテルモ城から、ネアポリスの街並みを見下ろす。
まだ昼下がり。でも、そこから見下ろす絶景に思わず目を奪われる。
「ネアポリスの街並みって、本当キレイ……」
「そうだな……」
「──プロシュートさん……今日、楽しかったですか?」
私の質問に、プロシュートさんが一瞬眉をひそめる。
「おい、なんだその質問はよォ?」
「私……正直に話しますけど、実は今日、プロシュートさんに会うまで少しもやもやしてました。誘いも直接自分で伝えたわけじゃなかったから、本当に来てもらえるかも不安だった。でも、今日こうして会えて……なんて言うか……全部吹っ切れた……そんな気がしました。だから……またこんな風に誘ってもいいですか……?」
言い終えて、隣の彼に目を向ける。今度はそらさず真っ直ぐ見据えた。
「オメー……自分が言ってる事、分かってんのか?」
「え……」
「本気……出してもいいんだな? まぁ、俺は本当に欲しいもんをそう簡単には諦めたりしねぇがなァ」
そう言ってふと口元を緩める姿に、ドキッと胸の高鳴りを覚える。まさか、いや、やっぱり私は──
そんな微かな恋心に気づき始めた初めてのホワイトデー。
the END