風の日
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今日は、朝からずっと虚無感に襲われていた。それは、時折起こる発作のようなもの──
任務を終えてアジトに帰り着くと、私はすぐさまソファーへと座り込む。そんな私に『コーヒーでも飲むか?』と珍しくプロシュートが問いかける。今日は一緒に任務を行っていた。
勘のいいプロシュートの事だ。瞬時に私の異変を察知したのだろう。私が『うん』と静かに答えると、彼はそのままキッチンへと向かう。
その背中を見送ったつもりでいたが、ふらりと立ち上がると、いつの間にか彼の側まで来てしまっていた。
きっと酷い顔をしているに違いない。そんな姿を見せないように、背後から腕を回して背中に押しつける。
「あ? ……どうしたァ?」
「…………」
「おいおい、なんだオメー、今日は珍しく甘えてんのか?」
コーヒーを入れる手を止めて、プロシュートが少し後ろに振り向くそぶりを見せる。私は視線を落とし、顔を隠すようにしながら答える。
「……そう、甘えたい気分なの……悪い?」
「いいや……普段勝気なオメーがよォ、俺に弱い部分を見せてるってのは……そう悪かねぇなァ」
「私だって、いつもピエロみたいに笑ってばかりいられない……」
触れている片耳から、プロシュートの話し声が響いて聞こえる。背中越しに彼の体温をもっと感じていたい──そう思い両腕に力を込めた。
「ねぇ、このまま聞いて……私、プロシュートの事が好き……」
弱気な心がそうさせたのか──普段見せない本心がこぼれ落ちる。しかし、次の瞬間急に我に返り、思わずその場を離れようとした。
「おい──」
呼び止められると同時に腕を掴まれる。そして、壁際へと詰め寄られてしまうと、もうそこに逃げ場はない。
焦った私は、とりあえず顔を背ける。赤く染まっているであろう顔を見られたくなかった──でも、ラファエル色の瞳が、真っ直ぐこっちを見据えている。
そうこうしていると、プロシュートが先に口を開く。
「酷ぇ顔してんな……朝からずっとだ」
「うるさいな……でも、ちゃんと任務はこなしたでしょう?」
「ハンッ、んなこたァ当たりめーだ! これは遊びじゃあねーんだからな」
「分かってるよ、そんな事……」
「それに──いきなり告白しといてよォ、俺の答えは聞かなくてもいいのか?」
「それは……いや、そもそもさっきのは違うし! 別にあんな言葉に意味なんてない」
言った側から目が泳ぐ。本当は聞きたい……でも、本心を知るのが怖い、聞きたくない──両極端な言葉が頭をかけ巡る。
そして、プロシュートがゆっくり口を開く。
「俺もお前と同じだ」
少し口角の端を吊り上げながら、私を試すかように嘲笑う。決して“好き”の言葉は言ってくれない。ただ右に同じだと、そう言うだけ──
「……そう」
ため息混じりにポツリと呟く。どうかしていた。本心なんて簡単に口にするもんじゃあなかった。ましてや相手はあのプロシュート。あんな告白なんて、吐いて捨てるほど聞いてきたに違いない──
そんな後悔の念が押し寄せる。これ以上顔を合わせていたくない──そう思いつつ、再び目を逸らす。
「おい、どこ見てんだァ? 俺はこっちだぜ?」
「ズルイ……プロシュートは本当にズルイよ……そうやって言い寄ってきた相手に甘い言葉をかけて、騙──」
言ってる側から口付けられる。角度を付けながら深く、逃げられないように。
「んっ……」
思わぬず甘声が漏れてしまう。そして私は、これ以上逆らうことはせず、ただ流れに身を任せた。例えその行為に心がなくとも、私が彼を愛してしまっているのは紛れもない真実──
ゆっくり唇が離れると、必然的に見つめ合う。
「やっぱりちゃんと顔見せろ……」
「もう見てんじゃん……ホント、不細工な顔してるでしょう? 私──」
「あぁ……だが、甘えてーなら正面から来い……顔を見られたくねーなら、尚更……こうすりゃあいいだろ?」
そう言ったプロシュートに思いきり抱きしめられる。当然、私の顔は彼の胸へと押し付けられる。
「これならよォ、オメーのその不細工な面、俺にも、他の誰にも見えねーだろ?」
そう言うプロシュートを軽く両手で押し返す。足を一本後ろに戻して、目を丸くしている彼に、私は鋭い視線を差し向ける。
「なにそれ……そんな簡単に優しくしないでよ」
「ハンッ、何言ってんだ、オメーはよォ? 今更強がってんじゃあねぇよ。本当は弱ぇくせしてよォ……今日は甘えたい気分なんだろ? このマンモーナが──」
再びキツく抱き締められ──そのまま頭を2、3回優しく撫でられる。思わず泣きそうになるのを必死に堪えながら、今度はしっかりプロシュートの鼓動を感じる。
少し早くなる音に耳を傾けながら、私は安らぎに似た感覚を得る。
時に虚無感に苛まれ、どうしようもなく逃げ出したくなる時もある。でも、その時は抗わず、流れに身を任せてしまうのもいいのかもしれない──
ただ、こうして側にいてくれるあなたの存在が、私の何かを変えていく。
それはまるで風の日に飛ぼうととしてみるような、そんな感覚──
だからきっと、私達はそんなものなのかもしれない。
任務を終えてアジトに帰り着くと、私はすぐさまソファーへと座り込む。そんな私に『コーヒーでも飲むか?』と珍しくプロシュートが問いかける。今日は一緒に任務を行っていた。
勘のいいプロシュートの事だ。瞬時に私の異変を察知したのだろう。私が『うん』と静かに答えると、彼はそのままキッチンへと向かう。
その背中を見送ったつもりでいたが、ふらりと立ち上がると、いつの間にか彼の側まで来てしまっていた。
きっと酷い顔をしているに違いない。そんな姿を見せないように、背後から腕を回して背中に押しつける。
「あ? ……どうしたァ?」
「…………」
「おいおい、なんだオメー、今日は珍しく甘えてんのか?」
コーヒーを入れる手を止めて、プロシュートが少し後ろに振り向くそぶりを見せる。私は視線を落とし、顔を隠すようにしながら答える。
「……そう、甘えたい気分なの……悪い?」
「いいや……普段勝気なオメーがよォ、俺に弱い部分を見せてるってのは……そう悪かねぇなァ」
「私だって、いつもピエロみたいに笑ってばかりいられない……」
触れている片耳から、プロシュートの話し声が響いて聞こえる。背中越しに彼の体温をもっと感じていたい──そう思い両腕に力を込めた。
「ねぇ、このまま聞いて……私、プロシュートの事が好き……」
弱気な心がそうさせたのか──普段見せない本心がこぼれ落ちる。しかし、次の瞬間急に我に返り、思わずその場を離れようとした。
「おい──」
呼び止められると同時に腕を掴まれる。そして、壁際へと詰め寄られてしまうと、もうそこに逃げ場はない。
焦った私は、とりあえず顔を背ける。赤く染まっているであろう顔を見られたくなかった──でも、ラファエル色の瞳が、真っ直ぐこっちを見据えている。
そうこうしていると、プロシュートが先に口を開く。
「酷ぇ顔してんな……朝からずっとだ」
「うるさいな……でも、ちゃんと任務はこなしたでしょう?」
「ハンッ、んなこたァ当たりめーだ! これは遊びじゃあねーんだからな」
「分かってるよ、そんな事……」
「それに──いきなり告白しといてよォ、俺の答えは聞かなくてもいいのか?」
「それは……いや、そもそもさっきのは違うし! 別にあんな言葉に意味なんてない」
言った側から目が泳ぐ。本当は聞きたい……でも、本心を知るのが怖い、聞きたくない──両極端な言葉が頭をかけ巡る。
そして、プロシュートがゆっくり口を開く。
「俺もお前と同じだ」
少し口角の端を吊り上げながら、私を試すかように嘲笑う。決して“好き”の言葉は言ってくれない。ただ右に同じだと、そう言うだけ──
「……そう」
ため息混じりにポツリと呟く。どうかしていた。本心なんて簡単に口にするもんじゃあなかった。ましてや相手はあのプロシュート。あんな告白なんて、吐いて捨てるほど聞いてきたに違いない──
そんな後悔の念が押し寄せる。これ以上顔を合わせていたくない──そう思いつつ、再び目を逸らす。
「おい、どこ見てんだァ? 俺はこっちだぜ?」
「ズルイ……プロシュートは本当にズルイよ……そうやって言い寄ってきた相手に甘い言葉をかけて、騙──」
言ってる側から口付けられる。角度を付けながら深く、逃げられないように。
「んっ……」
思わぬず甘声が漏れてしまう。そして私は、これ以上逆らうことはせず、ただ流れに身を任せた。例えその行為に心がなくとも、私が彼を愛してしまっているのは紛れもない真実──
ゆっくり唇が離れると、必然的に見つめ合う。
「やっぱりちゃんと顔見せろ……」
「もう見てんじゃん……ホント、不細工な顔してるでしょう? 私──」
「あぁ……だが、甘えてーなら正面から来い……顔を見られたくねーなら、尚更……こうすりゃあいいだろ?」
そう言ったプロシュートに思いきり抱きしめられる。当然、私の顔は彼の胸へと押し付けられる。
「これならよォ、オメーのその不細工な面、俺にも、他の誰にも見えねーだろ?」
そう言うプロシュートを軽く両手で押し返す。足を一本後ろに戻して、目を丸くしている彼に、私は鋭い視線を差し向ける。
「なにそれ……そんな簡単に優しくしないでよ」
「ハンッ、何言ってんだ、オメーはよォ? 今更強がってんじゃあねぇよ。本当は弱ぇくせしてよォ……今日は甘えたい気分なんだろ? このマンモーナが──」
再びキツく抱き締められ──そのまま頭を2、3回優しく撫でられる。思わず泣きそうになるのを必死に堪えながら、今度はしっかりプロシュートの鼓動を感じる。
少し早くなる音に耳を傾けながら、私は安らぎに似た感覚を得る。
時に虚無感に苛まれ、どうしようもなく逃げ出したくなる時もある。でも、その時は抗わず、流れに身を任せてしまうのもいいのかもしれない──
ただ、こうして側にいてくれるあなたの存在が、私の何かを変えていく。
それはまるで風の日に飛ぼうととしてみるような、そんな感覚──
だからきっと、私達はそんなものなのかもしれない。
the END