ハナウタ
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それは今朝の出来事──
「オメー、今日何時上がりだ?」
出かけようとした矢先、ホルマジオに呼び止められる。振り向きながら彼を見ると、いつもの様に愛想の良い笑みを浮かべている。
「今日はターゲットの下調べだけだし、そんなにはかからないと思うけど……何?」
「じゃあ終わったらよォ、アジトに戻ってこいよ」
ホルマジオの問いかけに、私は少し首を傾げる──と言うのも、大抵任務が終わると報告はメールで済ませ、そのまま直帰することにしているからだ。もちろんその事は、チームメンバーも周知済み。今まで属していたどのチームにおいても、プライベートを共に過ごすことなどほとんどなかった。
「だから、何で?」
「俺ら、たまにアジトに集まって飲んでんだよ。オメーは、まだ参加したことなかったよなァ? だから、今日は来いよ」
「飲みか……私、あんまりお酒強くないんだよね……」
「なんだ、オメー下戸かよ? まぁ、別に無理に飲まなくてもいいから、たまにはよォ“集まり”って奴に付き合えよ、なァ?」
「ん〜……」
私は歯切れ悪く返事を濁す。確かにこのチームは今までよりはずっと居心地が良い。やっている事は非道なのに、なぜかチーム内はそんな行いを微塵も感じさせないくらい明るいのだ。彼らが行う任務は、ビジネス以外の何事でもない。ただのイカレタ殺人者集団とは訳が違う。
しかし、それとこれとは話は別──
そんな私の返事を待たずして、ホルマジオは話を続ける。
「あ、でもよく考えてみたら、みんなで集まって楽しく飲み会とかよォ……これじゃあ、まるで仲良しチームみてぇだな」
アヒャヒャと陽気に笑ってみせるホルマジオにつられて、私もつい笑みを溢してしまう。
「まぁそんなのも、たまにはいいじゃあねーかよ。それに──アイツがどうしてもお前を誘えって……んな事はよォ、テメーでやれってんだよ、全くしょうがねーなぁ〜」
「アイツ……?」
「いやいや、こっちの話……じゃあそーゆー事で」
『ちょっと──』と言う私の言葉を遮る様に、手を軽く振りながらホルマジオがその場を後にする。私も時間が差し迫っていたのもあり、そのまま任務へと向かった。
***
本心を言えば、悪い気はしなかった……むしろ参加してみたいとさえ思っていた。不思議と思い浮かんだのは、あの人の言葉だった。
『オメーは、いつになったら心を開くんだ?俺達はもう……仲間だろ?』
“仲間”──どうも引っかかる言葉だった。その時だけは、仲間だなんてそんな一括りに収まるのは、なんとなく嫌だ──そう思ってしまった。
普段、あの人は気の知れた仲間に対して、どんな顔を見せるのだろうか……すごく興味が湧いた。知りたい……もっと……もっと……
そして、任務を終えた私は、約束どおりアジトへと足を向かわせる。その足取りは、若干重い──私は柄にもなく緊張していた。いや、緊張する事自体が不自然な話。
今朝だってアジトにいたんだし、いつもと変わらない……そう、普通にしていればいいだけの話。平常心……平常心……
そう思いながら、アジトの近くまで来た時、背後から呼び止められる。
「──あれ? 今日はあんたも参加すんの?」
「えっ……う、うん。今朝、ホルマジオに誘われて──」
「ホルマジオ……? なんだよ、アイツ自分で誘ってねーのかよ!?」
「案外女々しいんじゃあないのか? とりあえず一緒に行こうか」
偶然出会したのは、メローネとギアッチョ。促されるまま、一緒にアジトへと向かった。しかし、入り口まで来たところで、私は一瞬足を止めてしまう。それをメローネが不思議そうに見ている。
「どうしたの? 早く中に入りなよ」
「──う、うん」
若干背中を押されるようにして、そのままリビング中へといざなわれる。
そこには既にホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ……そして、プロシュートの姿があった。
「あれ? お前ら待ち合わせてきたのかよ?」
「いや、偶然近くで会ったから──」
「はい、これ」
「おぉ〜、王様のワインじゃん!」
「一応、初めての参加だし……」
ホルマジオに手渡したのは、アジトに向かう途中、酒屋に立ち寄り購入したワイン。
あまりお酒には詳しい方じゃないが、イタリア北部ピエモンテ州の有名な高級赤ワイン“バローロ”──その名は聞いたことがあった。とりあえず、有名な物なら間違いないだろうと手土産に選んだのだ。
そうこうしていると、不意に名前を呼ばれる。
「突っ立ってねーで、座れよ……」
そう言ってきたのはプロシュートだ。
こっちに来いと言わんばかりに、自分の隣を軽く叩きながら指し示してきた。
それを断わる理由は特に見当たらないのだが、私は少し遠慮しがちに距離をとりながら彼の隣に座った。大股びらきでソファー座るプロシュートは、今日は非番だったのか……髪を緩めに1つに束ね、服装もTシャツにカーディガンを羽織るなど、いつもよりかなりラフな装いだ。
ジロジロと見ている私の視線に気付いたのか──プロシュートが問いかける。
「何だ……?」
「ん、別に? ただ見慣れない格好してるなァって、そう思っただけ」
そう言って顔を背けた私に、今度はペッシが話しかけてきた。
「今日は、あんたも参加するって聞いてよォ、一緒に飲めるなんて俺嬉しくて──」
『ねぇ、兄貴ィ?』と、いつもよりテンション高めに話すペッシに、プロシュートはただ、そっけなく返事を返す。それに対し、『兄貴も本当は嬉しいくせに──』と口走った様に聞こえたが……多分、自分に都合の良い空耳だろうと気には止めなかった。
そして、いつしか周囲がくだらない話で盛り上がっていく。街で見かけた女が元カノに似ていたとか、昨日のサッカーの試合がどうだったとか──本当に単なる日常の世間話だ。
それだけ聞いていれば、彼らがギャング組織の暗殺者だとは到底思えない程、それはありふれた日常でしかない──
しかし、普通であるが故に、彼らが生きる世界では、いつ失われるとも分からない非日常とも言える──
そんな事を思い起こしていると、ふいに隣からも笑い声が聞こえてきた。見ると、プロシュートがお腹を抱えて笑っている──
正直驚いた。一緒にいてもそんな表情を見る事は一度もなかった。しかも、よくよく見れば、さっきから手にしているのは、ワインなんかじゃあなくて瓶ビール。“メッシーナ”──聞けば、シチリア島で誕生したビールらしい。普段の様子がなんとなく見えてきた様な気がして、思わず頬が緩むのが分かった。
私がクスッと笑ったのを偶然見られてしまったのか──プロシュートがこっちに向き直り話しかけてきた。
「おい……オメー、さっき俺見て笑ったろ?」
「えっ? いや、プロシュートもそんな風に笑うんだなァって思ってさ。だって、普段そんな風に笑うとこ見た事なかったし──」
「──そりゃあ、俺だって楽しけりゃあ笑う……特にオメーが側にいる時はなァ……」
そう言って、こっちに向けられた笑顔があまりにも優しく映り、思わず心臓が高鳴る。でも、その事を悟られないように平然を装う。
「冗談でしょう?」
「……冗談じゃあねぇよ」
本当は聞こえていた……でも、それを紛らわすかのように、手持ちのお酒を一気に煽る。
普段飲まないお酒に、酔いが回るのも早いようで……徐々に顔が火照ってくるのがよく分かった。しかし、それは本当にお酒のせいだけなのだろうか……?
「ち、ちょっと、風に当たってくる──」
耐えきれず、私はバルコニーへと向かう。
外に出ると、夜風が冷たくて少し肌寒い。しかし、火照った体には、そんな秋の夜風が心地よく感じた。
そう言えば、今朝からリゾットの姿を見ていないなと、ふと気付く。任務が立て込み、単にすれ違っているだけなのか、はたまた──
不意に夜空を見上げれば、月が私を見下ろしている──
黄色い月の眩い光──それは、否が応でもプロシュートを連想させる。さっきの言葉は──いや、まさかありえない……でも──
ため息付いた矢先、名前を呼ばれ振り返る。そこにいたのは紛れもない渦中の人物──
再び目にした途端、心臓がまたドキリと高鳴る……静まれ──そう言い聞かせながら背を向けた。
「──何?」
「いや、オメーが急に席を立ったから──」
「一気に飲み過ぎちゃったから、酔いを早く覚まそうと思って……」
私がそう話すと『そうかよ……』と呟き、隣へと歩み寄る。
一方リビングでは──
「おい、アイツは?」
「リゾット!? オメーはよォ、アジト内に入ったらちゃんと姿現せよなァ……ったく、しよ〜がねーなァ」
「アイツなら、バルコニーにいるぜ? プロシュートもなァ。2人きりでイチャついてんじゃあねーのか? アイツら出来てんだろ?」
イルーゾォが面白おかしくはやし立てる。しかし、リゾットは顔色一つ変えず、バルコニーに目を向ける。
「まさかあの2人をくっつけるのに、アンタが一役買うとは思わなかったぜ」
「……おい、なんの話だ?」
「えっ、そうじゃあねーのかよ?」
「……まさかだろ?」
そう言って、リゾットが口の端を吊り上げる。
そんなやりとりがあったとは露知らず──バルコニーにいる私は、プロシュートに思わぬ事を持ちかけられていた。それは──
「なぁ、キスしてもいいか?」
「……えっ!? ちょっとさっきからどうしたの? プロシュート……もしかして酔ってるんじゃ──」
「ハンッ、俺がたった2、3本のビールで酔うとでも思ってんのかよ?」
「それはそうだけど……でも──」
「俺はオメーとキスがしたい……単純にそう思っただけだ……行動に移さなかったのは、酔った勢いだと、そう思われたくなかったからだ」
そう言われて、心の中の“何か”が外れたような気がした。私はゆっくりとプロシュートに歩み寄る。
「私は多分酔ってるの……だから、これはお酒のせい──」
もう少しで唇が重なる──その時だ。バルコニーへの入り口が荒々しく開けられる。
声をかけてきたのは、リゾットだ。すぐさま視線をリゾットに向ける。
「──リゾット」
「中に入れ……」
酔いが一気に冷める気分だった。
リゾットの後に続き、中に入ろうと思ったが、やっぱり一瞬足を止めて振り返る。隣にいたプロシュートは軽く舌打ちをして、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そして、手すりにもたれかかりながら、夜空を仰ぎ見ている。
月明かりに照らされたプロシュートのブロンド髪が、やけに煌めいて見えた。
私は、ずっと孤独だった──
でも……そんな私は今、あなたの光に恋をしたのだろう。
その事に気付かされた、ある秋夜の出来事──
「オメー、今日何時上がりだ?」
出かけようとした矢先、ホルマジオに呼び止められる。振り向きながら彼を見ると、いつもの様に愛想の良い笑みを浮かべている。
「今日はターゲットの下調べだけだし、そんなにはかからないと思うけど……何?」
「じゃあ終わったらよォ、アジトに戻ってこいよ」
ホルマジオの問いかけに、私は少し首を傾げる──と言うのも、大抵任務が終わると報告はメールで済ませ、そのまま直帰することにしているからだ。もちろんその事は、チームメンバーも周知済み。今まで属していたどのチームにおいても、プライベートを共に過ごすことなどほとんどなかった。
「だから、何で?」
「俺ら、たまにアジトに集まって飲んでんだよ。オメーは、まだ参加したことなかったよなァ? だから、今日は来いよ」
「飲みか……私、あんまりお酒強くないんだよね……」
「なんだ、オメー下戸かよ? まぁ、別に無理に飲まなくてもいいから、たまにはよォ“集まり”って奴に付き合えよ、なァ?」
「ん〜……」
私は歯切れ悪く返事を濁す。確かにこのチームは今までよりはずっと居心地が良い。やっている事は非道なのに、なぜかチーム内はそんな行いを微塵も感じさせないくらい明るいのだ。彼らが行う任務は、ビジネス以外の何事でもない。ただのイカレタ殺人者集団とは訳が違う。
しかし、それとこれとは話は別──
そんな私の返事を待たずして、ホルマジオは話を続ける。
「あ、でもよく考えてみたら、みんなで集まって楽しく飲み会とかよォ……これじゃあ、まるで仲良しチームみてぇだな」
アヒャヒャと陽気に笑ってみせるホルマジオにつられて、私もつい笑みを溢してしまう。
「まぁそんなのも、たまにはいいじゃあねーかよ。それに──アイツがどうしてもお前を誘えって……んな事はよォ、テメーでやれってんだよ、全くしょうがねーなぁ〜」
「アイツ……?」
「いやいや、こっちの話……じゃあそーゆー事で」
『ちょっと──』と言う私の言葉を遮る様に、手を軽く振りながらホルマジオがその場を後にする。私も時間が差し迫っていたのもあり、そのまま任務へと向かった。
***
本心を言えば、悪い気はしなかった……むしろ参加してみたいとさえ思っていた。不思議と思い浮かんだのは、あの人の言葉だった。
『オメーは、いつになったら心を開くんだ?俺達はもう……仲間だろ?』
“仲間”──どうも引っかかる言葉だった。その時だけは、仲間だなんてそんな一括りに収まるのは、なんとなく嫌だ──そう思ってしまった。
普段、あの人は気の知れた仲間に対して、どんな顔を見せるのだろうか……すごく興味が湧いた。知りたい……もっと……もっと……
そして、任務を終えた私は、約束どおりアジトへと足を向かわせる。その足取りは、若干重い──私は柄にもなく緊張していた。いや、緊張する事自体が不自然な話。
今朝だってアジトにいたんだし、いつもと変わらない……そう、普通にしていればいいだけの話。平常心……平常心……
そう思いながら、アジトの近くまで来た時、背後から呼び止められる。
「──あれ? 今日はあんたも参加すんの?」
「えっ……う、うん。今朝、ホルマジオに誘われて──」
「ホルマジオ……? なんだよ、アイツ自分で誘ってねーのかよ!?」
「案外女々しいんじゃあないのか? とりあえず一緒に行こうか」
偶然出会したのは、メローネとギアッチョ。促されるまま、一緒にアジトへと向かった。しかし、入り口まで来たところで、私は一瞬足を止めてしまう。それをメローネが不思議そうに見ている。
「どうしたの? 早く中に入りなよ」
「──う、うん」
若干背中を押されるようにして、そのままリビング中へといざなわれる。
そこには既にホルマジオ、イルーゾォ、ペッシ……そして、プロシュートの姿があった。
「あれ? お前ら待ち合わせてきたのかよ?」
「いや、偶然近くで会ったから──」
「はい、これ」
「おぉ〜、王様のワインじゃん!」
「一応、初めての参加だし……」
ホルマジオに手渡したのは、アジトに向かう途中、酒屋に立ち寄り購入したワイン。
あまりお酒には詳しい方じゃないが、イタリア北部ピエモンテ州の有名な高級赤ワイン“バローロ”──その名は聞いたことがあった。とりあえず、有名な物なら間違いないだろうと手土産に選んだのだ。
そうこうしていると、不意に名前を呼ばれる。
「突っ立ってねーで、座れよ……」
そう言ってきたのはプロシュートだ。
こっちに来いと言わんばかりに、自分の隣を軽く叩きながら指し示してきた。
それを断わる理由は特に見当たらないのだが、私は少し遠慮しがちに距離をとりながら彼の隣に座った。大股びらきでソファー座るプロシュートは、今日は非番だったのか……髪を緩めに1つに束ね、服装もTシャツにカーディガンを羽織るなど、いつもよりかなりラフな装いだ。
ジロジロと見ている私の視線に気付いたのか──プロシュートが問いかける。
「何だ……?」
「ん、別に? ただ見慣れない格好してるなァって、そう思っただけ」
そう言って顔を背けた私に、今度はペッシが話しかけてきた。
「今日は、あんたも参加するって聞いてよォ、一緒に飲めるなんて俺嬉しくて──」
『ねぇ、兄貴ィ?』と、いつもよりテンション高めに話すペッシに、プロシュートはただ、そっけなく返事を返す。それに対し、『兄貴も本当は嬉しいくせに──』と口走った様に聞こえたが……多分、自分に都合の良い空耳だろうと気には止めなかった。
そして、いつしか周囲がくだらない話で盛り上がっていく。街で見かけた女が元カノに似ていたとか、昨日のサッカーの試合がどうだったとか──本当に単なる日常の世間話だ。
それだけ聞いていれば、彼らがギャング組織の暗殺者だとは到底思えない程、それはありふれた日常でしかない──
しかし、普通であるが故に、彼らが生きる世界では、いつ失われるとも分からない非日常とも言える──
そんな事を思い起こしていると、ふいに隣からも笑い声が聞こえてきた。見ると、プロシュートがお腹を抱えて笑っている──
正直驚いた。一緒にいてもそんな表情を見る事は一度もなかった。しかも、よくよく見れば、さっきから手にしているのは、ワインなんかじゃあなくて瓶ビール。“メッシーナ”──聞けば、シチリア島で誕生したビールらしい。普段の様子がなんとなく見えてきた様な気がして、思わず頬が緩むのが分かった。
私がクスッと笑ったのを偶然見られてしまったのか──プロシュートがこっちに向き直り話しかけてきた。
「おい……オメー、さっき俺見て笑ったろ?」
「えっ? いや、プロシュートもそんな風に笑うんだなァって思ってさ。だって、普段そんな風に笑うとこ見た事なかったし──」
「──そりゃあ、俺だって楽しけりゃあ笑う……特にオメーが側にいる時はなァ……」
そう言って、こっちに向けられた笑顔があまりにも優しく映り、思わず心臓が高鳴る。でも、その事を悟られないように平然を装う。
「冗談でしょう?」
「……冗談じゃあねぇよ」
本当は聞こえていた……でも、それを紛らわすかのように、手持ちのお酒を一気に煽る。
普段飲まないお酒に、酔いが回るのも早いようで……徐々に顔が火照ってくるのがよく分かった。しかし、それは本当にお酒のせいだけなのだろうか……?
「ち、ちょっと、風に当たってくる──」
耐えきれず、私はバルコニーへと向かう。
外に出ると、夜風が冷たくて少し肌寒い。しかし、火照った体には、そんな秋の夜風が心地よく感じた。
そう言えば、今朝からリゾットの姿を見ていないなと、ふと気付く。任務が立て込み、単にすれ違っているだけなのか、はたまた──
不意に夜空を見上げれば、月が私を見下ろしている──
黄色い月の眩い光──それは、否が応でもプロシュートを連想させる。さっきの言葉は──いや、まさかありえない……でも──
ため息付いた矢先、名前を呼ばれ振り返る。そこにいたのは紛れもない渦中の人物──
再び目にした途端、心臓がまたドキリと高鳴る……静まれ──そう言い聞かせながら背を向けた。
「──何?」
「いや、オメーが急に席を立ったから──」
「一気に飲み過ぎちゃったから、酔いを早く覚まそうと思って……」
私がそう話すと『そうかよ……』と呟き、隣へと歩み寄る。
一方リビングでは──
「おい、アイツは?」
「リゾット!? オメーはよォ、アジト内に入ったらちゃんと姿現せよなァ……ったく、しよ〜がねーなァ」
「アイツなら、バルコニーにいるぜ? プロシュートもなァ。2人きりでイチャついてんじゃあねーのか? アイツら出来てんだろ?」
イルーゾォが面白おかしくはやし立てる。しかし、リゾットは顔色一つ変えず、バルコニーに目を向ける。
「まさかあの2人をくっつけるのに、アンタが一役買うとは思わなかったぜ」
「……おい、なんの話だ?」
「えっ、そうじゃあねーのかよ?」
「……まさかだろ?」
そう言って、リゾットが口の端を吊り上げる。
そんなやりとりがあったとは露知らず──バルコニーにいる私は、プロシュートに思わぬ事を持ちかけられていた。それは──
「なぁ、キスしてもいいか?」
「……えっ!? ちょっとさっきからどうしたの? プロシュート……もしかして酔ってるんじゃ──」
「ハンッ、俺がたった2、3本のビールで酔うとでも思ってんのかよ?」
「それはそうだけど……でも──」
「俺はオメーとキスがしたい……単純にそう思っただけだ……行動に移さなかったのは、酔った勢いだと、そう思われたくなかったからだ」
そう言われて、心の中の“何か”が外れたような気がした。私はゆっくりとプロシュートに歩み寄る。
「私は多分酔ってるの……だから、これはお酒のせい──」
もう少しで唇が重なる──その時だ。バルコニーへの入り口が荒々しく開けられる。
声をかけてきたのは、リゾットだ。すぐさま視線をリゾットに向ける。
「──リゾット」
「中に入れ……」
酔いが一気に冷める気分だった。
リゾットの後に続き、中に入ろうと思ったが、やっぱり一瞬足を止めて振り返る。隣にいたプロシュートは軽く舌打ちをして、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そして、手すりにもたれかかりながら、夜空を仰ぎ見ている。
月明かりに照らされたプロシュートのブロンド髪が、やけに煌めいて見えた。
私は、ずっと孤独だった──
でも……そんな私は今、あなたの光に恋をしたのだろう。
その事に気付かされた、ある秋夜の出来事──
the END