長く短い祭
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夕闇時――。
俺はバルコニーで紫煙を吹かす。頬に当たる夜風が少しばかり肌寒く、秋の訪れがすぐそこまできていることを実感させられる。
もう一本吸おうかと胸ポケットに手を伸ばしたところで、後方から声がかかる。俺は、声の方へとやおら振り返る。視線の先には――。
「あ、やっぱりここにいた」
「――なんだよ?」
「ねぇ、今から花火しない……?」
アイツは、ガキのように目を輝かせながら、目の前に花火を差し出す。
突拍子もない誘いに、俺は一瞬眉をひそめたが、他でもないアイツの誘いだ。それに、二人きりというシチュエーション――悪い気はしないなと、珍しく二つ返事で答える。
「いいぜ……まだ残ってたのか?」
「そうそう。この前みんなとした時の残りを見つけてさ、このままだと湿気っちゃうし――」
そんな話をしながら、俺とアイツは手持ち花火を持って表へ出た。
「火、つけてよ」
渡された花火を片手に、ライターの火に花火の先端を近づける。パッと火がついたところで手をどけると、パァ……と、あたりが明るくなった。
「きれいだね……」
花火の炎でぼんやりと見え隠れするアイツの横顔を垣間見る。
惚れてる女のしぐさは、どれをとってもかわいく見えちまうなんざ、それはまさしく見惚れちまっている証拠。口にはせずとも、側から見ればバレバレなくらいに頬が緩んでいそうだなと、われながら笑いが込み上げてきた。
「ねぇ、これしようよ!」
もち出したのは線香花火。どっちが長く続くか競争しようとか、ありきたりな展開で花火勝負が始まった。
線香花火は、はかない人の一生みたいだ。パチパチと、初めはゆっくり火花がはじけ飛び、次第にそれは激しさを増して、その後は風に 煽 られて、途端に赤き火玉は、ジュッと音を立て地面に落ちて消えてしまうように、その一生を終えるのだ。
先に落ちたのはアイツの方だった。
「あ〜あ、落ちちゃった……」
「俺の勝ちってこったなァ」
やり終えた花火を片付けながら、不意に動きを止めたアイツが、ポツリポツリと話し始める。
「――花火ってさ、すぐに終わっちゃうじゃん? でも、終わりがあるから美しい……それって、人の世も同じなんじゃあないのかなって、そう思うんだよね……だって、そうでしょう? 人は必ず、誰しもいずれは死んでしまうから……」
言った側から、アイツの声色が低くなる。
「そうだな……でもまぁ、ろくな死に方はしねーだろォよ、俺もオメーも……」
自然と互いの視線が交わるのを合図に、アイツの後頭部を掴んで口付ける。それは角度をつけながら、次第に深くなっていく。舌先が糸を引き合って、いったん離れても、またすぐに唇が引き合ってしまうほどに……。
「ん……プロシュート……?」
「あいにく俺らはまだ生きてる。だからその時がくるまでは、俺もオメーもそう簡単には死なねーようにしねーとなァ……そして、くたばるその日まで、美しく生きていようじゃあねーか……俺たちらしくな……」
アイツは「そうだね」と、言いながら明るく笑ってみせる。でも、内心は、そんな明るい未来が訪れないことを、きっとどこかで覚悟していることだろう。それでもなお、俺たちは足掻いていたいんだ。
この花火のように一花咲かせるまでは、まだこいつのと恋も、終わらせる訳にはいかない――はかなく散りゆく時が訪れるまで。
俺はバルコニーで紫煙を吹かす。頬に当たる夜風が少しばかり肌寒く、秋の訪れがすぐそこまできていることを実感させられる。
もう一本吸おうかと胸ポケットに手を伸ばしたところで、後方から声がかかる。俺は、声の方へとやおら振り返る。視線の先には――。
「あ、やっぱりここにいた」
「――なんだよ?」
「ねぇ、今から花火しない……?」
アイツは、ガキのように目を輝かせながら、目の前に花火を差し出す。
突拍子もない誘いに、俺は一瞬眉をひそめたが、他でもないアイツの誘いだ。それに、二人きりというシチュエーション――悪い気はしないなと、珍しく二つ返事で答える。
「いいぜ……まだ残ってたのか?」
「そうそう。この前みんなとした時の残りを見つけてさ、このままだと湿気っちゃうし――」
そんな話をしながら、俺とアイツは手持ち花火を持って表へ出た。
「火、つけてよ」
渡された花火を片手に、ライターの火に花火の先端を近づける。パッと火がついたところで手をどけると、パァ……と、あたりが明るくなった。
「きれいだね……」
花火の炎でぼんやりと見え隠れするアイツの横顔を垣間見る。
惚れてる女のしぐさは、どれをとってもかわいく見えちまうなんざ、それはまさしく見惚れちまっている証拠。口にはせずとも、側から見ればバレバレなくらいに頬が緩んでいそうだなと、われながら笑いが込み上げてきた。
「ねぇ、これしようよ!」
もち出したのは線香花火。どっちが長く続くか競争しようとか、ありきたりな展開で花火勝負が始まった。
線香花火は、はかない人の一生みたいだ。パチパチと、初めはゆっくり火花がはじけ飛び、次第にそれは激しさを増して、その後は風に
先に落ちたのはアイツの方だった。
「あ〜あ、落ちちゃった……」
「俺の勝ちってこったなァ」
やり終えた花火を片付けながら、不意に動きを止めたアイツが、ポツリポツリと話し始める。
「――花火ってさ、すぐに終わっちゃうじゃん? でも、終わりがあるから美しい……それって、人の世も同じなんじゃあないのかなって、そう思うんだよね……だって、そうでしょう? 人は必ず、誰しもいずれは死んでしまうから……」
言った側から、アイツの声色が低くなる。
「そうだな……でもまぁ、ろくな死に方はしねーだろォよ、俺もオメーも……」
自然と互いの視線が交わるのを合図に、アイツの後頭部を掴んで口付ける。それは角度をつけながら、次第に深くなっていく。舌先が糸を引き合って、いったん離れても、またすぐに唇が引き合ってしまうほどに……。
「ん……プロシュート……?」
「あいにく俺らはまだ生きてる。だからその時がくるまでは、俺もオメーもそう簡単には死なねーようにしねーとなァ……そして、くたばるその日まで、美しく生きていようじゃあねーか……俺たちらしくな……」
アイツは「そうだね」と、言いながら明るく笑ってみせる。でも、内心は、そんな明るい未来が訪れないことを、きっとどこかで覚悟していることだろう。それでもなお、俺たちは足掻いていたいんだ。
この花火のように一花咲かせるまでは、まだこいつのと恋も、終わらせる訳にはいかない――はかなく散りゆく時が訪れるまで。
the END