学園パロ
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彼が屋上から立ち去った後、私は思わずその場にへたり込む。心臓がうるさいくらいに高鳴っている。さっき、あのまま距離が近付けば、確実に唇が触れていた──そう思うと、落ち着かずにはいられなかった。
あれは、本心なのだろうか……? それとも冗談のつもりだろうかと、疑惑の念が渦巻く。どっちにしろ、簡単に頷くわけにはいかない……きっともて遊ばれるだけだから。私はまだ、本心を 晒 すわけにはいかないと思いながら、開けっぱなしにしてきた保健室へと向かう。
その途中、ふと思い出すのは一月半ばの出来事──私は保健室で生徒に配る書類を作成していた。
その日は、あいにくの雨空。窓外の校庭に目を向けるも、外に出ている生徒は誰一人としていない。やたらと静かな一日だったなと思いながら、一息つこうと飲みかけの冷めたコーヒーに口を付けた。新しく入れ直そうかと、カップを机に置いた時、出入り口の扉が開く。
生徒が訪ねてくる時間にしては、やや遅い。誰が来たのだろうかと、やおら目を向けると、やってきたのは生徒ではなく教師──歴史担当のプロシュート先生。彼は私の同期でかつ、私の──
私は、さも興味なさそうに、声色低く声をかけた。
「先生……今日は ちゃんと どこか具合でも悪いんですか?」
「あ? どこも悪くねーよ?」
「じゃあ、職員室に戻ってください! ここは休憩場なんかじゃあありませんからね……?」
「んな、硬ぇこというなよ? 俺とオメーの仲だろ……?」
「いったい何の仲ですか?」
「相変わらず冷ぇなァ、俺ら同期だろ? つーか何で敬語なんだよ……?」
私の言葉をあっけらかんと無視して、彼は空いているベッドへと寝転ぶ。こんなふうに時折やってきては、下らない話の一つや二つを交わす。もちろん、タイミングをうまく計っているのだろうか……未だかつて生徒と遭遇したことはない。むしろ、こんなところに教師が入り浸っていると知れたら、問題になってしまうことだろう。
彼は学園内でもかなり人気の教師。女子生徒の中では、なにやらファンクラブまであるとのもっぱらの噂だ。そして、その噂に拍車をかけるように、毎年バレンタインデーには、山ほどチョコレートを貰っているようだ。そのチョコをどう 捌 いているのか……今まで持ち帰っているところを見たことがないから、皆目見当もつきはしないが。
そんな彼のことだ。私からのチョコなんて欲しくもなんともないことだろう。
だから、結局、毎年買ったチョコは、自分で食べるか同僚のホルマジオ先生にこっそりと渡しているのだ。
そんな彼の様子が、今日はどことなく不自然に感じる。なによりも無口なところが引っかかった。
「ところで……今日は、何しにきたんですか?」
これはいつも通りのお決まりの質問。でも今日は、本音と冗談の入り混じったことを問いかけてみた。
「まさか……私に会いにきてるとか?」
「……そうだな」
「そうだって……それじゃあまるで、私のことが好きみたいじゃあない……?」
いつもの軽いノリで口走ってしまった。でも、そんなもの……後で笑って誤魔化せばいいと、私の中でシナリオは出来上がっていた。それなのに──
「あぁ、そうだ。俺はおまえのことが好きだ」
「──えっ……?」
「それだけ伝えれば十分だよな? じゃあ、後はおまえの返事待ちってことで」
突然の出来事に頭がついていかない。もう一度説明して欲しい。そう思い、腕を掴もうとしたところで、バタバタと、誰かが入口扉を開けてやって来る。私は思わず出した手を引っ込めた。
「怪我しちまったんだが……あ? 何でオメーがここにいんだよ!?」
やって来たのは、彼のクラスメイトのギアッチョくんだ。見ると、膝を擦りむいたようで血が滲んでいる。
「じゃあ、そこに座って」
救急箱を取り出して、テキパキと手当てをするその傍らで、彼は一瞬こちらに目を向けたかと思うと、黙って横を通り過ぎて出ていった。
「なァ、先生よォ、アイツここで何してたんだ……?」
「ん? あ〜、ちょっと連絡事項をね……それよりアイツはないんじゃあないの? 担任の先生なんだから」
うまく誤魔化せたかは、正直自信がない。とにかくさっきの言葉がぐるぐると頭をよぎる。“好きだ”とか……そうはっきり言葉にされると、急に気恥ずかしさに襲われる。顔が赤くなっていないかが気にかかり、途端に顔を背けてしまう。
「先生……どうしたんすか?」
「ん、何……?」
「いや、さっき──」
有無を言わさぬ微笑みと共に生徒を返した後、私は机に伏した。
あれは先制攻撃か……? なんて可愛げのない解釈をしてしまう。いずれにしても反則だ。あれは、私の気持ちを知っててわざと──それから悶々とした日々を送っていた。
そんなことがあった後にさっきの出来事だ。頭の中がどうにもついていかない。
そして今年も季節は巡り……2月を迎えてしまう。
あんな“おふれ”が出てしまっては、なおさら渡すことなんてできないだろう。でも、密かに用意してしまったチョコを思いながら、私は再び窓外に目を向ける。
その時までにどうするか──ついに腹を括るがきてしまったようだ。
あれは、本心なのだろうか……? それとも冗談のつもりだろうかと、疑惑の念が渦巻く。どっちにしろ、簡単に頷くわけにはいかない……きっともて遊ばれるだけだから。私はまだ、本心を
その途中、ふと思い出すのは一月半ばの出来事──私は保健室で生徒に配る書類を作成していた。
その日は、あいにくの雨空。窓外の校庭に目を向けるも、外に出ている生徒は誰一人としていない。やたらと静かな一日だったなと思いながら、一息つこうと飲みかけの冷めたコーヒーに口を付けた。新しく入れ直そうかと、カップを机に置いた時、出入り口の扉が開く。
生徒が訪ねてくる時間にしては、やや遅い。誰が来たのだろうかと、やおら目を向けると、やってきたのは生徒ではなく教師──歴史担当のプロシュート先生。彼は私の同期でかつ、私の──
私は、さも興味なさそうに、声色低く声をかけた。
「先生……今日は
「あ? どこも悪くねーよ?」
「じゃあ、職員室に戻ってください! ここは休憩場なんかじゃあありませんからね……?」
「んな、硬ぇこというなよ? 俺とオメーの仲だろ……?」
「いったい何の仲ですか?」
「相変わらず冷ぇなァ、俺ら同期だろ? つーか何で敬語なんだよ……?」
私の言葉をあっけらかんと無視して、彼は空いているベッドへと寝転ぶ。こんなふうに時折やってきては、下らない話の一つや二つを交わす。もちろん、タイミングをうまく計っているのだろうか……未だかつて生徒と遭遇したことはない。むしろ、こんなところに教師が入り浸っていると知れたら、問題になってしまうことだろう。
彼は学園内でもかなり人気の教師。女子生徒の中では、なにやらファンクラブまであるとのもっぱらの噂だ。そして、その噂に拍車をかけるように、毎年バレンタインデーには、山ほどチョコレートを貰っているようだ。そのチョコをどう
そんな彼のことだ。私からのチョコなんて欲しくもなんともないことだろう。
だから、結局、毎年買ったチョコは、自分で食べるか同僚のホルマジオ先生にこっそりと渡しているのだ。
そんな彼の様子が、今日はどことなく不自然に感じる。なによりも無口なところが引っかかった。
「ところで……今日は、何しにきたんですか?」
これはいつも通りのお決まりの質問。でも今日は、本音と冗談の入り混じったことを問いかけてみた。
「まさか……私に会いにきてるとか?」
「……そうだな」
「そうだって……それじゃあまるで、私のことが好きみたいじゃあない……?」
いつもの軽いノリで口走ってしまった。でも、そんなもの……後で笑って誤魔化せばいいと、私の中でシナリオは出来上がっていた。それなのに──
「あぁ、そうだ。俺はおまえのことが好きだ」
「──えっ……?」
「それだけ伝えれば十分だよな? じゃあ、後はおまえの返事待ちってことで」
突然の出来事に頭がついていかない。もう一度説明して欲しい。そう思い、腕を掴もうとしたところで、バタバタと、誰かが入口扉を開けてやって来る。私は思わず出した手を引っ込めた。
「怪我しちまったんだが……あ? 何でオメーがここにいんだよ!?」
やって来たのは、彼のクラスメイトのギアッチョくんだ。見ると、膝を擦りむいたようで血が滲んでいる。
「じゃあ、そこに座って」
救急箱を取り出して、テキパキと手当てをするその傍らで、彼は一瞬こちらに目を向けたかと思うと、黙って横を通り過ぎて出ていった。
「なァ、先生よォ、アイツここで何してたんだ……?」
「ん? あ〜、ちょっと連絡事項をね……それよりアイツはないんじゃあないの? 担任の先生なんだから」
うまく誤魔化せたかは、正直自信がない。とにかくさっきの言葉がぐるぐると頭をよぎる。“好きだ”とか……そうはっきり言葉にされると、急に気恥ずかしさに襲われる。顔が赤くなっていないかが気にかかり、途端に顔を背けてしまう。
「先生……どうしたんすか?」
「ん、何……?」
「いや、さっき──」
有無を言わさぬ微笑みと共に生徒を返した後、私は机に伏した。
あれは先制攻撃か……? なんて可愛げのない解釈をしてしまう。いずれにしても反則だ。あれは、私の気持ちを知っててわざと──それから悶々とした日々を送っていた。
そんなことがあった後にさっきの出来事だ。頭の中がどうにもついていかない。
そして今年も季節は巡り……2月を迎えてしまう。
あんな“おふれ”が出てしまっては、なおさら渡すことなんてできないだろう。でも、密かに用意してしまったチョコを思いながら、私は再び窓外に目を向ける。
その時までにどうするか──ついに腹を括るがきてしまったようだ。
つづく