相合傘
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昼過ぎのリストランテ Libeccio ──
そこは、ごくごく普通の食事処。しかし、いつからか……ブチャラティチームの拠点となっている場所だ。
今日、そこで食事をしているのは、チームリーダーのブチャラティ、そしてフーゴ、ナランチャの3人。
すると、さっきまで晴れていた空模様が、急に暗くなり始める。そして、ポツポツと窓ガラスに粒が当たり始めた。それに気付いたナランチャが呟く。
「あっ、雨だ……」
「降ってきたか……今朝の天気予報で、昼過ぎから雨だと言っていたからな」
「そう言えばよォ、キアラ、朝出る時に傘持ってたか?」
「僕は見てませんでしたが……そこに置いてあるのはキアラの傘じゃあないですか? 朝は晴れてたし、ここに忘れてますね……』
置き忘れの傘を見ながら、フーゴがため息混じりに呟く。外の 雨脚 は、徐々に強くなり始めていた。キアラなら雨が降ったとしても、何処で雨宿りしているはずだから心配ないだろう──と、言わんばかりに、フーゴは特に気に止めることはしなかった。
しかし、意外な一言を発した人物が──ブチャラティだ。
「じゃあ、俺が迎えに行こう」
「えっ、ブチャラティが……? そんなのわざわざ行かなくても、彼女ならどうにでもすると思いますけど……まぁ、一応心配なら僕が迎えに行きましょうか?」
「いや……この後外に出る用事があるんでな……そのついでだ。ちょっと、行ってくる」
「そう、ですか」
その頃、キアラは買い物を終えたところだった。店から出ると酷い土砂降りの雨。その様子を目の当たりにして、ため息をこぼす。
Libeccioを出た時には晴れていたから、邪魔になると思い、傘を置いてきてしまった事を少し後悔していた。
こんな事なら、ちゃんと天気予報を見ておくべきだった……そう思いはしたが、この降り方は一時的なものだろう──そう思ったキアラは、フーゴの予想通り店先で雨宿りをすることにした。
その矢先、不意に声をかけられる──
「ねえ、君……傘を忘れたの?」
「えっ?」
見上げた顔は見知らぬ男性──そう、よくあるナンパだ。
「君、かわいいねぇ〜。そうだ! 僕の傘に入れてあげるから、そこでドルチェでも食べない?」
「いいえ、遠慮しておくわ」
キアラが冷たくあしらうと、男性は『そう、じゃあまたね』と、ウィンクを1つ残して去って行った。
しばらくするとまた──
「あれっ、こんなところで何してるの? 待ち合わせ?」
「違います」
「じゃあ、立ち話もなんだし、そこのカフェにでも行かない? 君の食べたい物、何でもご馳走するよ、どうかな……?」
「いいえ、結構よ」
悪天候などなんなその……そんな事はお構いなしにナンパを仕掛けてくる。さすがはイタリアーノ…… 恐るべし……
しかし、こんなやり取りが更に2、3度続くと流石に嫌気が差してきた。
そしてまた──
「そこのお嬢さん、こんなところで雨宿りですか? 良かったら、俺の傘に──」
「さっきから、うるさいって言ってんでしょう⁉︎ もういい加減に──ッ⁉︎」
思わず怒声を上げてしまったが、顔を上げるとそこにいたのは、見知った顔。それを目の当たりにしたキアラが、眼を丸くする。
「ブ、ブチャラティ──ッ⁉︎」
「おいおい、どうした? そんなに声を荒げてよォ?」
「ご、ごめん……さっきからナンパがしつこくてさ……」
「おやおや、モテる女は言う事が違うな」
「違うってば! イタリアの男ってのは、見境いないでしょう?」
「で、俺の事もそう思ったってわけか……」
ブチャラティが傘を閉じて、キアラの横に並ぶ。チラッとその横顔を垣間見る。
鼻筋が通っていてまつ毛も長い。髪は雨降りにも関わらず、ラサラサとしている。思わずこのままずっと見惚れてしまいそうになりながらも、さっき思った疑問を投げかける。
「それより、どうしてブチャラティがここに?」
「あぁ、急な雨だったからな、傘を忘れて困ってると思って……だから、迎えに来たのだが──」
「別にブチャラティがわざわざ来なくても良かったのに……」
「ん? 俺が来る のは当たり前だろ? おかしな事を言うな、キアラは。じゃあ、帰るぞ」
そう言って、ブチャラティがキアラの手をとる。
その時、キアラはある事に気が付いた。それは、ブチャラティが傘を1本しか持っていないという事──
「ところでブチャラティ……私の傘は?」
「ん? 傘は2本もいらないだろ? こうして入りゃあいいだけの事だ」
そう言うと、ブチャラティはキアラの肩をグイッと引き寄せる。急に近くなった距離に、キアラは思わず動揺してしまう。
「えっ、ち、ちょっと、近くない⁉︎」
「何を言っているんだ? 近付かなきゃあよォ、肩が濡れるだろ? それに──」
ブチャラティは、言うよりも先に距離を詰めると、おもむろにキアラに口付ける。
ちゅっ……というリップ音を残す程度の軽いキス──
「距離が近けりゃこうしてキスもできる……だろ? ほら、もっとこっちへおいで…… gattina mia ──」
「ち、ちょっと、ふざけないでよ! しかもこんな目立つ所でするなんて、恥ずかしいじゃん……」
人前での出来事に、キアラは 咄嗟 にブチャラティを突き放す。そしておもわず、ブチャラティから顔を背ける。無論、赤面しているのは言うまでもない。
そんなキアラの衝動的な行動に、急にブチャラティの声色が低くくなる。
「気を悪くしたのなら、すまなかったな……俺はただ、キアラに触れたかったから、そうしただけなのだが……」
「…………」
キアラは内心戸惑っていた。
そうじゃない……キスをされて本当に嬉しかった。でも、今はまだ、只々恥ずかしいだけ──そのことを言葉足らずにも説明すべく、キアラが口を開く。
「嫌じゃない! 嫌なわけないじゃん……やっとこうして付き合えたんだから……」
「そうだな……今、こうして俺の隣にいるのは彼女……キアラは、俺の彼女……だろ?」
「そ、そうだけど……でもまだ実感がないっていうか……」
「まぁ、ゆっくり慣れたらいい──」
ブチャラティはそう囁くと、再びキアラの肩を抱き寄せながら、1つの傘に2人で入る──
そして、ネアポリスの街並みをいつものリストランテ Libeccioへと向かった。
ブチャラティの肩が濡れている。それは彼の優しさ。キアラが濡れないように気を配ってくれているのだ。
そんな彼を横目に、キアラ自身も少し彼の方へと寄り添い思う事は──
この恋は、まだみんなには内緒にしておきたい。
もう少しだけ、私とブチャラティ── 2人だけの秘密にしていたいから。
そんな雨降りの相合傘──君の隣はいつも私。
そこは、ごくごく普通の食事処。しかし、いつからか……ブチャラティチームの拠点となっている場所だ。
今日、そこで食事をしているのは、チームリーダーのブチャラティ、そしてフーゴ、ナランチャの3人。
すると、さっきまで晴れていた空模様が、急に暗くなり始める。そして、ポツポツと窓ガラスに粒が当たり始めた。それに気付いたナランチャが呟く。
「あっ、雨だ……」
「降ってきたか……今朝の天気予報で、昼過ぎから雨だと言っていたからな」
「そう言えばよォ、キアラ、朝出る時に傘持ってたか?」
「僕は見てませんでしたが……そこに置いてあるのはキアラの傘じゃあないですか? 朝は晴れてたし、ここに忘れてますね……』
置き忘れの傘を見ながら、フーゴがため息混じりに呟く。外の
しかし、意外な一言を発した人物が──ブチャラティだ。
「じゃあ、俺が迎えに行こう」
「えっ、ブチャラティが……? そんなのわざわざ行かなくても、彼女ならどうにでもすると思いますけど……まぁ、一応心配なら僕が迎えに行きましょうか?」
「いや……この後外に出る用事があるんでな……そのついでだ。ちょっと、行ってくる」
「そう、ですか」
その頃、キアラは買い物を終えたところだった。店から出ると酷い土砂降りの雨。その様子を目の当たりにして、ため息をこぼす。
Libeccioを出た時には晴れていたから、邪魔になると思い、傘を置いてきてしまった事を少し後悔していた。
こんな事なら、ちゃんと天気予報を見ておくべきだった……そう思いはしたが、この降り方は一時的なものだろう──そう思ったキアラは、フーゴの予想通り店先で雨宿りをすることにした。
その矢先、不意に声をかけられる──
「ねえ、君……傘を忘れたの?」
「えっ?」
見上げた顔は見知らぬ男性──そう、よくあるナンパだ。
「君、かわいいねぇ〜。そうだ! 僕の傘に入れてあげるから、そこでドルチェでも食べない?」
「いいえ、遠慮しておくわ」
キアラが冷たくあしらうと、男性は『そう、じゃあまたね』と、ウィンクを1つ残して去って行った。
しばらくするとまた──
「あれっ、こんなところで何してるの? 待ち合わせ?」
「違います」
「じゃあ、立ち話もなんだし、そこのカフェにでも行かない? 君の食べたい物、何でもご馳走するよ、どうかな……?」
「いいえ、結構よ」
悪天候などなんなその……そんな事はお構いなしにナンパを仕掛けてくる。さすがはイタリアーノ…… 恐るべし……
しかし、こんなやり取りが更に2、3度続くと流石に嫌気が差してきた。
そしてまた──
「そこのお嬢さん、こんなところで雨宿りですか? 良かったら、俺の傘に──」
「さっきから、うるさいって言ってんでしょう⁉︎ もういい加減に──ッ⁉︎」
思わず怒声を上げてしまったが、顔を上げるとそこにいたのは、見知った顔。それを目の当たりにしたキアラが、眼を丸くする。
「ブ、ブチャラティ──ッ⁉︎」
「おいおい、どうした? そんなに声を荒げてよォ?」
「ご、ごめん……さっきからナンパがしつこくてさ……」
「おやおや、モテる女は言う事が違うな」
「違うってば! イタリアの男ってのは、見境いないでしょう?」
「で、俺の事もそう思ったってわけか……」
ブチャラティが傘を閉じて、キアラの横に並ぶ。チラッとその横顔を垣間見る。
鼻筋が通っていてまつ毛も長い。髪は雨降りにも関わらず、ラサラサとしている。思わずこのままずっと見惚れてしまいそうになりながらも、さっき思った疑問を投げかける。
「それより、どうしてブチャラティがここに?」
「あぁ、急な雨だったからな、傘を忘れて困ってると思って……だから、迎えに来たのだが──」
「別にブチャラティがわざわざ来なくても良かったのに……」
「ん?
そう言って、ブチャラティがキアラの手をとる。
その時、キアラはある事に気が付いた。それは、ブチャラティが傘を1本しか持っていないという事──
「ところでブチャラティ……私の傘は?」
「ん? 傘は2本もいらないだろ? こうして入りゃあいいだけの事だ」
そう言うと、ブチャラティはキアラの肩をグイッと引き寄せる。急に近くなった距離に、キアラは思わず動揺してしまう。
「えっ、ち、ちょっと、近くない⁉︎」
「何を言っているんだ? 近付かなきゃあよォ、肩が濡れるだろ? それに──」
ブチャラティは、言うよりも先に距離を詰めると、おもむろにキアラに口付ける。
ちゅっ……というリップ音を残す程度の軽いキス──
「距離が近けりゃこうしてキスもできる……だろ? ほら、もっとこっちへおいで……
「ち、ちょっと、ふざけないでよ! しかもこんな目立つ所でするなんて、恥ずかしいじゃん……」
人前での出来事に、キアラは
そんなキアラの衝動的な行動に、急にブチャラティの声色が低くくなる。
「気を悪くしたのなら、すまなかったな……俺はただ、キアラに触れたかったから、そうしただけなのだが……」
「…………」
キアラは内心戸惑っていた。
そうじゃない……キスをされて本当に嬉しかった。でも、今はまだ、只々恥ずかしいだけ──そのことを言葉足らずにも説明すべく、キアラが口を開く。
「嫌じゃない! 嫌なわけないじゃん……やっとこうして付き合えたんだから……」
「そうだな……今、こうして俺の隣にいるのは彼女……キアラは、俺の彼女……だろ?」
「そ、そうだけど……でもまだ実感がないっていうか……」
「まぁ、ゆっくり慣れたらいい──」
ブチャラティはそう囁くと、再びキアラの肩を抱き寄せながら、1つの傘に2人で入る──
そして、ネアポリスの街並みをいつものリストランテ Libeccioへと向かった。
ブチャラティの肩が濡れている。それは彼の優しさ。キアラが濡れないように気を配ってくれているのだ。
そんな彼を横目に、キアラ自身も少し彼の方へと寄り添い思う事は──
この恋は、まだみんなには内緒にしておきたい。
もう少しだけ、私とブチャラティ── 2人だけの秘密にしていたいから。
そんな雨降りの相合傘──君の隣はいつも私。
the END