第13章 Blue
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
月明かりがキアラとプロシュート、2人の姿を照らし出す──
日暮れから徐々に初更 へと近づく。吹く風は冷たく少し肌寒くなる一方で、抱きしめられた箇所は、徐々に熱を持ち始める──
その時、プロシュートがキアラにスッ……と顔を近付ける。ほどなくして軽く唇が重なった。冷たく触れる感覚だけが残る── 不意打ちだった。
まただ……唇が離れる瞬間、甘い香りが鼻をかすめ、後には少しほろ苦いタバコの匂いが微かに残る──
このまま身を委ねてしまえば──と、流されそうになったキアラだったが、咄嗟 にプロシュートを突き放す。
「ちょっ……、やめてよ! 勘違いしないで? 私は自ら望んで暗殺チーム に戻ってきたわけじゃあない。任務はボスの命令。私の目的は以前変わらない──」
「チッ、なんだよ……さっきまでしおらしく俺の腕の中にいたってーのによォ……? これくらい、いいだろ? 挨拶代わりだ」
キアラが冷徹な視線を向けると、プロシュートは、バツが悪そうに頭を掻きながら、一歩背後へと足を戻す。
「︎……もう、あの時はあんなに紳士的だったのに……」
「ハンッ、知ったことかよ?」
「その言いぶり……相変わらずね」
「お前の方も、冷てぇところは相変わらずだなァ……」
そう言って、互いに目を合わせ笑い合う──その様子は、まるであの頃を思わせるように映る。
「そう言えば、お前……どこの アジトに向かおうとしてた?」
「………!」
「もしかして前の──」
キアラは黙ったままだ。そんな様子を横目に、プロシュートがため息混じりに話を進める。
「お前がいなくなった後、しばらくしてアジトを変えた──リゾットからは聞いてるんだろ? まぁ、同じ場所いると足がつきやすいから、長居しない方が身の為でもあるからなァ」
「そう……よね。じゃあ、あの部屋も──」
キアラの表情が、一瞬憂いを帯びて見える。そんな横顔を見据え、プロシュートがぽんっと頭を軽く撫でる。
「今日はもう遅い……行きたいなら明日連れてってやるぜ」
「連れてくって──ちょっと、子供扱いはやめてよね?」
「ハンっ、俺から見りゃあ、お前はまだまだMammona だろうがよォ?」
「またそうやって……ねぇ、プロシュート──」
「あ?」
「……ううん、何でもない」
「……? ほら、行くぞ」
***
表通りから少し裏の路地に入る。そこからしばらく進んだところで、プロシュートが足を止める。目の前には茶褐色のレンガ造りの建物。2階の窓には、ちょっとしたバルコニーもついている。
辿り着いた新しいアジトは、見た感じ普通の建物となんら変わりない。付近の壁に落書きなどはなく、以前の場所より治安は良さそうに感じる。しかし、外灯や人通りは少なく、どことなく閑散としている場所だった。
キアラがドアノブに手をかける──
「あれ? 鍵がかかってる……今日は誰もいないの? リゾットは?」
「出払ってんのかもなァ。今日俺は非番だったから、アジトには行ってねーし……はっきりとは分からねーが……」
「そう……」
するとキアラが、カバンから鍵を取り出す──それは、あの時リゾットに渡されたアジトの合鍵だ。
それを見たプロシュートが、怪訝そうな表情を浮かべる。
「おい、お前それ──」
「ん、これ? リゾットが一応渡しおくって──」
「マジかよ……」
「えっ、何?」
「お前、それの意味分かってんのか?」
「意味って……?」
キアラが首を傾げながら、鍵を開け中へと入る。
その後ろから続けて入ったプロシュートは、ドカリとリビングのソファーに腰掛けた。
「お前よォ、アジトはリゾットの家でもあるだぜ? その鍵を渡されるって事は、つまりあいつと同棲気分かよ?」
「アハハっ、何それ? そんなわけないじゃん! あっ、それともヤキモチ……だったりして?」
口角を上げて、キアラがニヒルな笑みを向ける。その傍らで、呆れたと言わんばかりに、プロシュートがため息を吐き捨てた。
「んで……今からどーする? 誰もいねー事だしよォ……?」
隣に座ったキアラとの距離を徐々に詰めながら、プロシュートが問いかける。しかしキアラは、冷徹な態度で応じる。
「何言ってんの? そんな事より、リゾットが私の事を、明日みんなに紹介するって言ってた……新しい仲間もいるんでしょ? この前一緒にいた……緑の髪の子?」
「あぁ、ペッシの事か──」
「あなたの事、すごく慕ってるって感じだったわね……わたしにもちゃんと紹介してよね?」
「あぁ……なぁ、しばらくはアジト に寝泊りするのか?」
「ん〜、任務の度合いにもよるけど……」
なぜそんな事を聞くのか?──と、言わんばかりにキアラがプロシュートに視線を向ける。それに対し、一瞬間を空けて話を続ける。
「……別に俺のところに来てもいいんだぜ? あん時みたいによォ……?」
「もう、冗談はよしてよ! プロシュートは、ほとんど家に帰らないでしょ?」
「まぁな……でも──」
「ん?」
「いや、なんでもねーよ……」
キアラを目の当たりにして、プロシュートは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「さてと、これから集めた情報を明日までに少しまとめとくかな……」
「じゃあ、リゾット が戻るまでここにいてやろうか?」
「いいよ。そんなこと言って、さっきみたいに何するか分からないし……」
「おい……さっきのは冗談だろ?」
「分かってるよ、大丈夫! だから、帰って? また明日……ね?」
キアラがふわりと微笑む。その表情が、プロシュートには何故かあまりにも眩しく映った。そして、『あぁ……』と、一言残し、スッと立ち上がる。
「キアラ……」
「何?」
「この任務が終わったら──いや……無理だけはすんなよ? またぶっ倒れるぞ?」
「分かってる……プロシュート──」
「あ?」
「……ありがとう」
振り向いたプロシュートは、フッと笑みを浮かべ、その言葉に応えるように片手をあげると背を向けて出て行った。
立ち去るプロシュートの背中を見つめ、キアラはふと思う。
今日、休みだったのにわざわざ来てくれたなんて……全く、本当に面倒みがいいところも変わらない──
さっき、言いそびれてしまった言葉──本当はあの時のことを謝りたかった。あの日、突然姿を消すことになってしまった事を──
プロシュートは今、どう思っているのだろうか……? もしかしたら今更かもしれない。でも──
そう思いながら、そっと指先で唇に触れる。
キス……されてしまった。
プロシュートは、まだ私の事を──? でも、私は──
優しくしないで欲しい……今はその優しさが痛く突き刺さるから。きっと私はまた、彼を傷付けてしまうだろう……あの時のように。だから──
ため息が溢れる。そして、頬杖をつきながら、ただ漠然とした空 を見つめた。
***
一方プロシュートは、残り一本となったタバコに火をつける。ふぅ〜と紫煙を撒き散らしながら、不意にさっきの事を思い浮かべた。
抑えきれず口付けてしまったが……アイツはどう思ったか……
俺の想いに気付きながら、あの日アイツは突然いなくなった。そして再び戻って来るなんざ──
ふと夜空を仰ぎ見る。
星が綺麗な夜だ……これまでアイツは誰とどこでこんな星空を眺めていたのだろうか……それは──
再びタバコを口にくわえながら、不意に思い出すのはさっき飲み込んだ言葉──
お前がいるなら、そこは俺の居場所になる。何があっても帰る場所に、と──
暗殺者が帰る場所を欲しがるなんざ、ちゃんちゃら可笑しいな……だが、俺達は生きなきゃあならねぇ。
捨て駒でしか他ならねぇ俺達の死は、決して美化されたりする事はない。死んじまったら、それでお終い……だから、俺や俺達は死ぬわけにはいかない……
アイツに出会ってそう思わされた。だから、この任務が終わるまでに、俺はアイツを──これで最後──
再び紫煙を吐き出すと、タバコの空箱をグシャリと握りつぶした。
あの日──
俺達は出会い……そして別れた──
日暮れから徐々に
その時、プロシュートがキアラにスッ……と顔を近付ける。ほどなくして軽く唇が重なった。冷たく触れる感覚だけが残る── 不意打ちだった。
まただ……唇が離れる瞬間、甘い香りが鼻をかすめ、後には少しほろ苦いタバコの匂いが微かに残る──
このまま身を委ねてしまえば──と、流されそうになったキアラだったが、
「ちょっ……、やめてよ! 勘違いしないで? 私は自ら望んで
「チッ、なんだよ……さっきまでしおらしく俺の腕の中にいたってーのによォ……? これくらい、いいだろ? 挨拶代わりだ」
キアラが冷徹な視線を向けると、プロシュートは、バツが悪そうに頭を掻きながら、一歩背後へと足を戻す。
「︎……もう、あの時はあんなに紳士的だったのに……」
「ハンッ、知ったことかよ?」
「その言いぶり……相変わらずね」
「お前の方も、冷てぇところは相変わらずだなァ……」
そう言って、互いに目を合わせ笑い合う──その様子は、まるであの頃を思わせるように映る。
「そう言えば、お前……
「………!」
「もしかして前の──」
キアラは黙ったままだ。そんな様子を横目に、プロシュートがため息混じりに話を進める。
「お前がいなくなった後、しばらくしてアジトを変えた──リゾットからは聞いてるんだろ? まぁ、同じ場所いると足がつきやすいから、長居しない方が身の為でもあるからなァ」
「そう……よね。じゃあ、あの部屋も──」
キアラの表情が、一瞬憂いを帯びて見える。そんな横顔を見据え、プロシュートがぽんっと頭を軽く撫でる。
「今日はもう遅い……行きたいなら明日連れてってやるぜ」
「連れてくって──ちょっと、子供扱いはやめてよね?」
「ハンっ、俺から見りゃあ、お前はまだまだ
「またそうやって……ねぇ、プロシュート──」
「あ?」
「……ううん、何でもない」
「……? ほら、行くぞ」
***
表通りから少し裏の路地に入る。そこからしばらく進んだところで、プロシュートが足を止める。目の前には茶褐色のレンガ造りの建物。2階の窓には、ちょっとしたバルコニーもついている。
辿り着いた新しいアジトは、見た感じ普通の建物となんら変わりない。付近の壁に落書きなどはなく、以前の場所より治安は良さそうに感じる。しかし、外灯や人通りは少なく、どことなく閑散としている場所だった。
キアラがドアノブに手をかける──
「あれ? 鍵がかかってる……今日は誰もいないの? リゾットは?」
「出払ってんのかもなァ。今日俺は非番だったから、アジトには行ってねーし……はっきりとは分からねーが……」
「そう……」
するとキアラが、カバンから鍵を取り出す──それは、あの時リゾットに渡されたアジトの合鍵だ。
それを見たプロシュートが、怪訝そうな表情を浮かべる。
「おい、お前それ──」
「ん、これ? リゾットが一応渡しおくって──」
「マジかよ……」
「えっ、何?」
「お前、それの意味分かってんのか?」
「意味って……?」
キアラが首を傾げながら、鍵を開け中へと入る。
その後ろから続けて入ったプロシュートは、ドカリとリビングのソファーに腰掛けた。
「お前よォ、アジトはリゾットの家でもあるだぜ? その鍵を渡されるって事は、つまりあいつと同棲気分かよ?」
「アハハっ、何それ? そんなわけないじゃん! あっ、それともヤキモチ……だったりして?」
口角を上げて、キアラがニヒルな笑みを向ける。その傍らで、呆れたと言わんばかりに、プロシュートがため息を吐き捨てた。
「んで……今からどーする? 誰もいねー事だしよォ……?」
隣に座ったキアラとの距離を徐々に詰めながら、プロシュートが問いかける。しかしキアラは、冷徹な態度で応じる。
「何言ってんの? そんな事より、リゾットが私の事を、明日みんなに紹介するって言ってた……新しい仲間もいるんでしょ? この前一緒にいた……緑の髪の子?」
「あぁ、ペッシの事か──」
「あなたの事、すごく慕ってるって感じだったわね……わたしにもちゃんと紹介してよね?」
「あぁ……なぁ、しばらくは
「ん〜、任務の度合いにもよるけど……」
なぜそんな事を聞くのか?──と、言わんばかりにキアラがプロシュートに視線を向ける。それに対し、一瞬間を空けて話を続ける。
「……別に俺のところに来てもいいんだぜ? あん時みたいによォ……?」
「もう、冗談はよしてよ! プロシュートは、ほとんど家に帰らないでしょ?」
「まぁな……でも──」
「ん?」
「いや、なんでもねーよ……」
キアラを目の当たりにして、プロシュートは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「さてと、これから集めた情報を明日までに少しまとめとくかな……」
「じゃあ、
「いいよ。そんなこと言って、さっきみたいに何するか分からないし……」
「おい……さっきのは冗談だろ?」
「分かってるよ、大丈夫! だから、帰って? また明日……ね?」
キアラがふわりと微笑む。その表情が、プロシュートには何故かあまりにも眩しく映った。そして、『あぁ……』と、一言残し、スッと立ち上がる。
「キアラ……」
「何?」
「この任務が終わったら──いや……無理だけはすんなよ? またぶっ倒れるぞ?」
「分かってる……プロシュート──」
「あ?」
「……ありがとう」
振り向いたプロシュートは、フッと笑みを浮かべ、その言葉に応えるように片手をあげると背を向けて出て行った。
立ち去るプロシュートの背中を見つめ、キアラはふと思う。
今日、休みだったのにわざわざ来てくれたなんて……全く、本当に面倒みがいいところも変わらない──
さっき、言いそびれてしまった言葉──本当はあの時のことを謝りたかった。あの日、突然姿を消すことになってしまった事を──
プロシュートは今、どう思っているのだろうか……? もしかしたら今更かもしれない。でも──
そう思いながら、そっと指先で唇に触れる。
キス……されてしまった。
プロシュートは、まだ私の事を──? でも、私は──
優しくしないで欲しい……今はその優しさが痛く突き刺さるから。きっと私はまた、彼を傷付けてしまうだろう……あの時のように。だから──
ため息が溢れる。そして、頬杖をつきながら、ただ漠然とした
***
一方プロシュートは、残り一本となったタバコに火をつける。ふぅ〜と紫煙を撒き散らしながら、不意にさっきの事を思い浮かべた。
抑えきれず口付けてしまったが……アイツはどう思ったか……
俺の想いに気付きながら、あの日アイツは突然いなくなった。そして再び戻って来るなんざ──
ふと夜空を仰ぎ見る。
星が綺麗な夜だ……これまでアイツは誰とどこでこんな星空を眺めていたのだろうか……それは──
再びタバコを口にくわえながら、不意に思い出すのはさっき飲み込んだ言葉──
お前がいるなら、そこは俺の居場所になる。何があっても帰る場所に、と──
暗殺者が帰る場所を欲しがるなんざ、ちゃんちゃら可笑しいな……だが、俺達は生きなきゃあならねぇ。
捨て駒でしか他ならねぇ俺達の死は、決して美化されたりする事はない。死んじまったら、それでお終い……だから、俺や俺達は死ぬわけにはいかない……
アイツに出会ってそう思わされた。だから、この任務が終わるまでに、俺はアイツを──これで最後──
再び紫煙を吐き出すと、タバコの空箱をグシャリと握りつぶした。
あの日──
俺達は出会い……そして別れた──
←To Be Continued…|/