「…………」



　キアラが立ち去った後、ブチャラティはただ虚ろに夜空を見上げていた。
さっきのキアラの表情が、頭から離れない……そして、何もできなかった自分自身に不甲斐なさを感じずにはいられなかった……

　キアラの過去を聞いても尚、彼女の全てとして受け入れる覚悟は出来ていた──はずなのに。しかし、彼女はそれを良しとは思わないだろう……きっとあの場で何を言ったとしても、多分結果は同じだった。

　彼女は、そんなにも自分の過去を──

　俺自身がそうだ。ろくな過去を待ち合わせちゃあいない。過去は消せない──けれど、その過去が無ければ、今の自分はここにはいない……だから、その過去も全部ひっくるめて、“彼女のことが好き” ──ただそれけなのに……なぜ、それだけじゃあダメなのか……一体、どうすれば良かったのか──と、ブチャラティが疑義（ぎぎ）の念を抱く。

　しかし、もうここに彼女はいない。そんな状況で、何を考えていても拉致があかない──そう思ったブチャラティは、しばらくして1階へと降りて行く。そこで、キアラを送り戻ってきたミスタと鉢合わせになった。

「ミスタ……外に出ていたのか？　キアラは……帰ったのか？」

　一応辺りを見回しながら、ブチャラティがため息混じりに問いかける。
　そんなブチャラティを尻目に、ミスタがソファーに腰掛ける。

「あぁ、キアラなら俺が送ったぜ……なぁ、ブチャラティ……こんな事はよォ、プライベートな事だから、あんまり突っ込んで聞きたくねぇんだがよォ……キアラと何があったんだ？」
「ミスタ！　それはブチャラティとキアラの問題だ。君がとやかく言う事じゃあないだろ？」
　
　躊躇（ためら）いながらミスタが問いかける。一方で、フーゴがすかさず忠告を促す──
　そんな2人のやり取りを傍に、ブチャラティもゆっくりとソファーに腰掛けた。

「キアラとの話は、お前達にも聞いてもらわなきゃあならないのだが……それは明日、全員揃った時にきちんと話す。だから今日は2人とも、もう上がっていいぞ──」

　ブチャラティの表情が哀愁を帯びて映る。
　それを目の当たりにしたミスタは、それ以上聞く事はなかった。
　彼をこんな表情にさせているのは、紛れもなくキアラだ。そのキアラもまた彼と同じ表情を浮かべていた事を思い出した。
　2人は、両想い……のはずなのに……何故だ？
　ミスタはどうしてもふに落ちなかった。

その頃、キアラは──