3月14日の夜、キアラはある夢を見た──
　目の前には運河が広がり、その向こうに見えるのは、たった一つ……教会のみがある島──
大鐘楼がそびえ立つその外観から、それがサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会だと分かる。
そして、瞬きをした次の瞬間……また場面が変わる──

(ここは教会の中……？いや、違う！　ここは隠し通路の地下……納骨堂だ！)

　ふと周りを見渡す。
　するとそこに見えるは柱に隠れている人影──

(あれは……ブチャラティ……？)

　ブチャラティはキアラに気付く事もなく、何かを伺っている様に見える。
　その時、キアラの心臓がドキンッと強く跳ね上がる。
　キアラは思わず胸元を掴む。

(何だろう……この嫌な感じは……胸騒ぎがする──……ッ！？)

　キアラが急に目を見張る。

(私……この先を知っている──ッ！？)

　そう思ったキアラがブチャラティに向かって叫ぶ。

「ブチャラティ──ッ！　そっちに出て行ってはダメッ！　行かないで！　だって……だって、そっちに出ていけばあなたは──」

　叫んだはずなのに、声が出ていない。
　キアラの顔に焦りの色が浮かぶ。

「何でッ！？　どうして声が──ッ！？　このままじゃ、ブチャラティが──」

　その時頭に声が流れ込んでくる。
“お前はこの結末から、絶対に逃れる事は出来ない……
　そして、お前の一番大切な物も決して戻らない……決してな……”

「誰ッ！？　私に話しかけているのは、一体誰なの──！？」

　そこでバッ……と、飛び起きる。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

　全身に汗をかいているのが分かった。
　キアラは枕元の生温い水を一気に身体に流し込む。そして何度か深呼吸を繰り返した。

(今のは夢……！？　でも、さっきの光景を私は知っている……あの後、ブチャラティは──)

　そう思った時──

　──ッ！

　ズキッと頭が痛む。こめかみを押さえながら、キアラがゆっくり立ち上がる。
　頭痛はすぐに治まりはしたが、なんだか身体が鉛の様に重い……
　とりあえずキアラはシャワールームに向かい、汗ばんだ身体を洗い流した。
　そして、鏡に映る自分を横目にふと思う。

(あの“D”とかいう男……
まさか私にスタンド攻撃を仕掛けたのか……！？だとしたら──
とりあえず、昨日の一件については、ブチャラティには話してこう)

　シャワーを浴び終え、アジトへと向かう準備をし始めたキアラは、それと同時に昨日の出来事を思い出す。

(ブチャラティは、私の事をもっと知りたいって言ってくれたけど……それってつまり…少しは自惚（うぬぼれ）てもいいのかな……？
　でも、私の過去を……暗殺者（ヒットマン）チームとの関わりを話したら……
　それでもブチャラティは今と変わらわずにいてくれるだろうか……？　
　もし拒絶されてしまったら……もう、あの場所（ブチャラティチーム）には戻れないと思うと少し怖い……)

　そして自らしてしまった行動についても思い起こされる。

(ブチャラティ、驚いてたな……そりゃそうだよね……正直、顔を合わせたくはないが……子供じゃあるまいし、そんな事で一々うろたえるわけにはいない……ここはいつも通り平常心で──)

そして支度を終えたキアラは、足早にアジトへと向かった。