そして──

「……ティ……ブチャラティ？」
「……」
「おい、ブチャラティ！　聞いてんのかよォ⁉︎」
「ん……っ……ミスタ……？」

　気付くと、ブチャラティはさっき入ろうとした部屋の入り口に立っていた。

「俺は、一体ここで何を──？」
「さっきから、何ボーっとしてんだよォ？」

　ミスタが不思議そうに問いかける。

「そうだ、女！　さっきの女はどうしたッ！？」
「女……？　一体何の話だ？」

　ブチャラティが慌ててミスタに詰め寄るも、ミスタは眉をひそめ首を傾げる。
　
「さっき女が尋ねて来たって言ったのは、お前だろ、ミスタッ！？」
「俺が……？　いや、客なんて来てねぇぜ？」
「何ッ、来ていないだと──ッ！？」
「おいおい、どーしたってんだよォ、ブチャラティ？　さっきから何か変だぜ？」
「とにかくそいつはどこだッ！？」
「そう言われてもよォ……」

　ミスタが困惑している中、フーゴがブチャラティに話しかける。

「どうかしましたか？」
「フーゴ 、お前もさっき女が尋ねて来たのを覚えていないのかッ！？」
「さっき……？　特に誰も尋ねて来ていませんが──」
「クソッ、一体どうなってやがる──ッ！？」
「ブチャラティ……？」

　フーゴがいつもと様子の異なるブチャラティを心配そうに伺う。

「い、いや、何でもない……」

　ブチャラティはとっさに平然を装う。

(俺はあの瞬間に、幻でも見てたってのか──ッ！？)

　ブチャラティはどこか夢み心地な気分で唇に触れる。

(いや……感覚がまだ残っていやがる……あれは、確かな事実……だとすれば、またいずれ──)

　ブチャラティは、一呼吸置きつつ窓の外に目を向けた。