そして週末、キアラはジョルノと運河沿いのカフェへとやって来た。

「ここのドルチェ、すごく美味しいのよ！」
「キアラは、新しいお店とかに結構詳しいですね」
「まぁね〜。一応幹部だから色々情報も入るし」
「じゃあ、今度はブチャラティも誘ってあげてください」
「えっ、な、何でブチャラティを──！？」

　“ブチャラティ”と言うフレーズにキアラが過剰な反応を見せる。

「あの人、あー見えて結構嫉妬してますよ？」
「嫉妬って……どーゆー事……？」

　キアラが眉をひそめる。

「まぁそれはさておき、本題に入りますか……？」

　急にジョルノの目付きが鋭くなる。

「そうね……」

　キアラがそう呟いた瞬間──周りの景色が一変し、そこはすでにキアラのスタンド〈ジッター・バグ〉の異空間となっていた。

「こ、ここは──ッ！？」

　驚くジョルノをよそに、キアラは淡々とした口調で質問を繰り出す。

「単刀直入に聞くわ……ポルポを始末したのは、ジョルノ……あなたね？」
「──ッ！？」
「ポルポの死因は状況的に見て自殺……でも実際、ポルポは自殺するような奴かしら……？」

　キアラがゆっくり首を傾げる。

「私にはそうは思えない……あなたはブチャラティの紹介でパッショーネの一員となるべく、ポルポの入団試験を受け、そして合格した……ポルポが自殺したとされるのは、時間的にはあなたが入団試験を受けた後になるから、その場にいなかったのは証明できる……しかし、入団試験を受ける前から既にスタンド使いだったとしたら……状況はどうかしら？」

　キアラは少し間を空けて更に続ける。

「つまりジョルノ、あなたの〈ゴールド・エクスペリエンス〉が関わっていると、私は確信してる……」

　キアラが有無を言わさぬ態度で、ジョルノに視線を向ける。

「じゃあ、仮に……もしそうだとしたら、どうなるんです？　僕はこのままあなたに始末される……と言う事ですか……？」

　ジョルノがキアラを見据える。

「いや、そんな事はしないわ……ポルポの事は遅かれ早かれ始末するつもりだったから……そして、実際に奴を始末したのは、この私……」

　キアラが静かに答える。

「いや、そんなはずは──ッ」
「まぁ正確には、ちょっと違うけど……止めを刺したのは私よ……いずれにせよ目的だった、“ブチャラティを幹部にする事”ができたから、結果オーライなんだけどね……でも──」

　キアラは下に目線を落としながら、話を続ける。

「確かにポルポは殺されて当然のことをしていた幹部……でも、他人に左右されていい命なんて……あるのかしら……？」
「キアラ、言ってる事とやってる事が矛盾してますよ？」
「本当、そうよね……」
「……」

　そう言って憂いを帯びた表情を浮かべるキアラに、ジョルノはかける言葉が見つからなかった。

「そう言えばジョルノも私と話がしたいって言ってだけど……何が聞きたいの？」
「さすがキアラ……察しがいいですね」

　ジョルノがニコリと爽やかな笑みを浮かべる。

「僕はイタリアでは、“ジョルノ・ジョバァーナ”と呼ばれていますが、母親は日本人なので本名は日本語で“ 汐華初流乃（ しおばな はるの）”そう言います──」
「……ッ！」

　ジョルノの本名を聞いた瞬間、キアラの眉がピクリと動く。

「キアラ、あなたは初めて会った僕を“初流乃”……そう呼んだ……イタリアにいるあなたが何故この呼び名を知っているのです？」

　ジョルノが少し強い口調で問いかける。

「それは……私にも分からないの……」
「えっ……？」
「確かに“汐華初流乃”の名前を知っていたことは事実……でも、何故知っているのかは分からない……だから、私は早く記憶を取り戻さなきゃあならない──」

　キアラの声色が低くなる。

「キアラ、あなたは一体──？」
「だからジョルノ……今はボスを倒す事だけを優先に──」
「分かりました。この話は一旦保留ですね」
「そうね……あっ、さっきの……ポルポの話はくれぐれも内密に……ねっ？」

　キアラはニコリと微笑みながら、唇に人差し指を当てる。

「……分かりました」
「じゃあ、ドルチェ食べよっか！」

　キアラがそう言った瞬間、辺りは元に戻っていた。