「はぁ……」


　キアラは遠くを見つめてため息をついた。

(おかしい……あの雨の日以来、何かにつけて考えてしまうのはブチャラティの事──
でも、想えば想うほど、胸が苦しくなる様な……ため息ばかりが口から溢れてしまう……)

　そして、キアラはまた深くため息をつく。

(それに拍車をかけたのは、多分アバッキオのあの一言だ。

『お前は十分ブチャラティの特別だと思うけどよ』

　あんなこと言うから余計に──
　でも、今はそれより確かめなきゃあならない事がある──)

　そんなキアラを遠くから見つめているのは──

「まただ…」
「どうしたんです、ナランチャ？」
「あっ、ジョルノ！　いやさぁ、最近キアラの様子がなんだか変なんだよォ……」
「変って……どのようにです？」

　ジョルノが首を傾げる。

「なんかよォ〜元気ないって言うか……ため息ばっかりついてるし、食欲もなさそうだしよォ〜病気とかじゃあないかって心配でさぁ」
「そうですね、確かにそう言われると……どことなく元気がありませんね」

　ナランチャとジョルノは再び、ぼんやりと窓の外を眺めるキアラに目を向ける。
その時、キアラの元にブチャラティがやって来た。
　

「キアラ、ちょっといいか？」
「ブ、ブチャラティ！？　な、何ッ！？」
「いや、この書類でちょっと確認したいところがあるのだが──」

　そう言ってブチャラティは、キアラの隣で書類を見せる。
　肩が触れそうな距離間に、キアラは思わず距離をとってしまう。

「あ〜、そ、それなら私より……そう、フーゴ！　フーゴに聞いて！」
「そ、そうか……」
「あっ、あ〜そう言えば、私、片付けの途中だった！」

　そう言って、キアラはそそくさと行ってしまう。それを目の当たりにしたブチャラティは怪訝そうな表情を浮かべる。
　そんな様子を見ながら、ジョルノが話し出す。

「ナランチャ、キアラの症状の原因なら、僕に一つだけ心当たりがあります」
「なんだよ、ジョルノ？」
「もしそうだとしたら、これは市販薬じゃあ治らない……」
「えっ！？　それって、キアラが相当ヤバいってことじゃあないのかよ！？」

　ナランチャが掴みかかる様な勢いで、ジョルノに問いかける。

「ナランチャ、落ち着いて下さい！　別に死にはしませんよ。ただ、この症状を治せるとしたら──」

　そう言いながら、ジョルノはブチャラティに目を向ける。

「どーゆー事だよォ？　俺にも分かるように説明してくれよォ」
「そうですね……まぁ、ナランチャがもう少し大人になったら分かりますよ」
「大人になったらって……おい、ちょっと待て！　ジョルノ、お前年いくつだ？」
「15ですけど──」
「俺より2コも下じゃんかよ！？　なのに、大人になったらってどーゆーことだよ！？　バカにしてんのかァ！？」

　ナランチャがジョルノに食ってかかる。
　そこにフーゴがやって来た。

「おい、ナランチャ！　何騒いでるんです？」
「フーゴ〜聞いてくれよ、ジョルノがよォ──」
「そんな事より、今日の課題(小3算数ドリル)は、やったんですか？」
「あっ、忘れてた……」
「忘れた……だと……？」

　フーゴの顔色がみるみる変わっていく。
　それに気付いたジョルノは、巻き込まれないように一歩身を引く。

「このチンピラが……オレを舐めてんのか、コラァ！？　今日は忙しいから、昨日あれだけ課題は終わらせとけって言ってただろォが、ここのド低脳がァ──ッ！」
「何だと……ド低脳って言ったな〜人を見下す言い方はよくないぜ、フーゴ〜」
「じゃあ、僕は学校に行ってきます！」

　2人が言い争っているのを後目に、ジョルノはその場を後にする。
　その時、キアラがジョルノを呼び止める。

「あっ、ジョルノ、今ちょっといい？」
「何です、キアラ……？」
「あのさ、今週末なんだけど……私と一緒に出かけない？」

　そう言ってキアラがニコリと微笑む。

「それは──デートの誘いですか？」

　ジョルノがブチャラティに視線を送りつつ問いかけるが、反応はいまいち……どうやら聞こえていないようだ。

「そうそう、デートの誘いだよー……な〜んてね」

　キアラが意地悪そうに答える話し声はブチャラティにも聞こえたようで、思わずジョルノと視線がぶつかる。それをさっとそらしながら、ジョルノが答える。

「分かりました、空けときます。丁度僕もあなたと話がしたいたと思っていました」
「じゃあ、場所はこっちで決めるから、また後で連絡するね。じゃあ、行ってらっしゃい」

　キアラは手を振ってジョルノを見送った。