その日ミスタは、珍しく1人で近くのカフェに来ていた。何をするでもなく、ただ街を流れる運河を見ながら、口からついて出るのはため息ばかりだ。



「はぁ〜……」

　そんなミスタの傍らで、〈ピストルズ〉達が話し始める。

「ミスタ〜マタため息カヨ〜」
「アジトに居ルト息ガ詰マルカラッテ、外ニ出タノニヨォ〜ココデモため息ツイテルナラ変ワラネェジャアネェカヨォ」
「ソンナ事ヨリ腹減ッタゼ〜早く美味イモン食ワセロヨ〜」
「分かったよ、今注文するから、ちょっと静かにしてくれよ……」

　〈ピストルズ〉とのやり取りは、いつもの光景のはずだが……今日はやけに煩わしく感じる。
　ミスタはそう思いながら、うんざりとした表情を浮かべる。

「ミスタ〜」
「あぁ、何だ、No.5？」
「ソンナため息バッカツイテルト、幸せガ逃ゲチャウミタイダゼ？」
「俺だってよォ、こう言う辛気臭ぇのは苦手なんだよ…でもよォ…」

　そう言いながらミスタが頭を抱える。

「トリッシュの事ダロォ〜？」
「……」
「早く謝ッチマエヨォ〜アリャ〜ドウ考エテもミスタが悪リィンダカラヨォ〜」
「分かってるっつーの！　俺だってよォ〜何度も謝ろうと思ってんだけどよォ、避けられてんだよォ〜無視されてんの！　これにはさすがの俺も凹むわ……」

　その時、電話の呼び出し音が鳴る──ブチャラティからだ。
　カップの紅茶をグイッと一気飲みし、ミスタは仕方なくアジトへと戻った。
　ミスタが戻った時には、入れ違ったかの如く皆が出払っており、部屋に居たのはブチャラティとトリッシュだけだった。

「ミスタ、どこに行ってたんだ？」
「あ、あぁ〜ちょっと、散歩によォ……」
「そうか……それはそうと、今日のトリッシュの護衛は……ミスタ、お前任せる」
「えっ、俺かよッ！？　このタイミングで……」

　ミスタはバツが悪そうに小声で呟く。

「ん、なんか言ったか？」
「い、いや〜何も……？」

　ミスタはトリッシュに目を向けるが、自分とは反対側を向いているので、表情が読み取れない──どうせ、嫌な顔をしてるんだろうとミスタは思う。

「今日は、ブチャラティじゃないの？」
「あぁ、ちょっと別件があってな──」
「そう……」

　トリッシュはそう呟き、ミスタの方には見向きもしない。
　否が応でも険悪ムードの2人に、流石のブチャラティも勘付く。

「ミスタ、ちょっといいか？」
「あぁ……」
「お前ら最近どうも様子がおかしい気がするんだか……何かあったのか？」
「いや、ちょっと……まぁ、今日中には何とかするからよォ……」
「……？　よく分からんが、頼んだぞ」

　そう言い残して、ブチャラティも出かけて行った。